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The Voice  作者: 幸-sachi-
The Voice vol.2
39/59

Episode 5 ―花火 Part II―

男は彼女が書いた4月27日の日記に目を通した。

(俺が最初の一歩を踏み出した日…)

「あの日、あの場所、あのタイミングに…君はいてくれていたんだね…」

男は自分でも知らなかった過去を彼女の日記によって知っていった。



2015年7月20日(月)


凛が新たに加わったThe Voiceは期末試験期間が始まった為、路上ライブもライブハウスでのライブも行っていない。しかし、拓也と龍司は二人だけでテスト期間中でも路上ライブを行ってくれていた。そんなわけで期末試験が終わった今日、学校の授業が終ればやっと新生The Voiceのライブが7時から行われる。

結城春人は初めての場所で行う今日のライブが楽しみで仕方なかった。

ライブの場所は去年龍司のミスでエンジェルとライブ日が被ってしまい拓也と真希の二人がアコースティックライブを行った喫茶『暁』だ。

先月、雪乃のグループホームに行った次の日に龍司が暁の女性マスターである内田(うちだ)からライブをしてほしいと連絡を受けたらしい。本当は以前から龍司は暁でのライブを頼まれていたらしがバンド活動を休止している事もあって断り続けていたらしい。

ライブ前にブラーで集まって練習をしてからライブに望む事となり、授業が終ると春人は家には帰る事なくそのままブラーに直行した。拓也と龍司と凛の3人は学校を出て龍司のバイト先である矢野楽器店に寄り荷台を借りてから真希の祖母の家に向かいDJセットとシンセサイザーを荷台に乗せてブラーまで運んで来た。もちろん3人もまた着替える時間はなかった。そして、真希も家には寄らずにブラーに来たらしくメンバー全員が制服姿のままだった。

「真希さんのロングスカートいいなぁ。私も真似しちゃおうかな。」

「凛。やめとけやめとけ。今の時期なんて熱くてしょうがねーよ。」

龍司がそう言うと真希は「お前が言うな!」と叫んで龍司を殴り飛ばした。その勢いのまま真希は凛に、「凛。真希さんじゃなくて真希で良い。」と言ったので凛はその勢いに負けて「は、はい。き、気をつけます。」と言った。真希は龍司に対する怒りが収まらないまま「敬語!」と凛が敬語になっている事を指摘した。

「ところで凛?」

春人が声を掛けると凛は「なんですか?」と言った後、しまったと思ったのだろう真希をチラっと見てから、「な、なあに?」と言い直した。

「白石の家を出てからお母さんとは会ってるのか?」

「う、うん。何度か真希さ…ま、真希と真希のお父さんと一緒にあいつの家に行った。だけど…」

そこで凛は俯いて話を続けた。

「お母さんは私と…いや、誰とも話をしてくれなかった。あいつが話し掛けたら笑顔で話すのに…」

「私の父が命令した通り白石のバカは凛のお母さんを精神科にもちゃんと連れて行っているみたい。」

「結城総合病院の精神科?」

「そう言ってた。」

「なら安心だ。じきに凛のお母さんも元に戻ってくれるよ。うちの精神科は優秀だって聞くしね。」

「ありがとうございます。」

凛は元気なく俯きながら春人に感謝の気持ちを伝えたというのに真希は凛に、

「ありがとうございますだぁ?ありがとうでいいんじゃないのぉ?」

と鋭い目つきで凛の顔を下から睨む様に覗き込んでいた。

「しかし、白石はヒメと凛が知り合いだって知ってさぞ驚いたんだろうな。」

「ええ。お父さんが白石のバカを呼び出した時、何度も私と凛の関係を聞いてたらしいから。」

「だろうね。」

春人達の会話が終わると、それを待っていた龍司が、

「じゃ、暁に行く前に一度円陣組んどくかっ!」

と言ったので春人と拓也は、そうだな。と答えて凛を加えての初めて円陣を組んだ。真希だけは「どうせライブ前にももう一度円陣組むくせに。」と文句を言いながら円陣に加わり「さあ、凛も円陣組んで。」と凛を自分の横に来るように呼んだ。凛が戸惑いながらも円陣に加わると龍司が話し出す前に真希が拓也に聞いた。

「あんた今日のライブいろいろ声変えて歌う事になってるけど本当に大丈夫なの?去年みたいに喉ガラガラになるんじゃない?」

「かな?でも自己流だけどボイストレーニングもしてきたし去年みたいにはならない自信はある。それに思いっきり歌いたい気分だし。」

「そう。あんまり拓也の言葉は当てになんないけど私も今日は思いっきり演奏したい気分。」

拓也と真希の会話が終ると春人達は龍司の顔を見た。するとその様子に凛も気が付いてみんなと同じ様に龍司の顔を見た。全員が龍司の顔を見ると龍司は深く頷いて話し出した。

「今日からは新生The Voiceとなる。路上ライブもまだ5人ではやってねーけど明日から始められる。いいかお前ら?」

春人達全員が頷くのを確認して龍司は、よし。と言って頷いた。

「楽しもう。」

「おー!」と春人達が返事をする中、凛だけが「はい。」と答えたので龍司は凛に「そこはおーだろうっ!これから気ぃつけろ!」と言った。凛は「これからそう言います。」とまた敬語を使ったので今度は真希が「これからはそう言いますぅ?」と言って凛を睨んだ。

凛が敬語をやめるのには時間が掛かりそうだし先輩達に囲まれて凛も大変だなと春人は思った。



2015年7月24日(金)


■■■■■


タンタラランタンタラランタンタラタンタラタンタララン


気付いたら虹が掛かってた

ここは雨なんて降っていないのに

電線さえなかったら最高の景色

だけどキレイだな

ホントキレイだな


☆明日良い日になりそうな

そんな予感がしてるんだ

ずっと続けばいいのにな

この気持ち ずっと続けばいいのにな


虹が出たんだ 明日はきっと今日とは違うよ

タンタラランタンタラランタンタラタンタラタンタララン

どこか遠くで雨が降ったんだね

遠いはずなのにすぐそこに見えるの

だけど夕暮れ もうすぐ見えなくなるね

キミは気付いているのかな?

キミにも見えているのかな?


☆repeat

虹を見たんだ 明日願いが叶うかな?

タンタラランタンタラランタンタラタンタラタンタララン

凛&真

☆repeat

虹を見たんだ あの日の涙もこんな綺麗に虹になれば良かったのにな


■■■■■


佐倉みなみが自分のスマホで録画した今週の月曜日の拓也達のライブの模様を雪乃に見せた。

「場所は龍司君が子供の頃から通ってる喫茶店の暁ってお店。」

「あ、私は行った事がないけどそのお店の名前は知ってるよ。確か私が事故に遭った日に拓也君と真希ちゃんの二人がライブしたお店だよね。」

(そう、ライブ日が被ってしまって拓也君と真希が二人でアコースティックライブをやったお店。

雪乃と春人君と龍司君の3人はエンジェルでライブを1時間行って…残りの1時間を5人で演奏した。そして…その日の帰りに雪乃は事故に遭った…)

「こんなに綺麗でオシャレなお店だったんだねぇ。」

「改装したらしいから。」

「そっか。この一曲目の曲は真希ちゃんと凛ちゃんだけで歌う曲なんだね。」

「うん。凛が作った曲だって。」

「やっぱりぃ。そうだと思った。タンタランって言うところが凛ちゃんぽいもん。」

「そうなんだぁ。でもごめんね。この一曲だけしか録画してなかったんだ。」

「この曲が聴けただけで充分だよ。弟子が羽ばたいて行く姿が見れて安心したよ。凛ちゃんが入ってバンドの雰囲気も良い感じに変わったみたいだし、それに何よりみんな制服姿でカッコいいね。」

「うん。私も制服姿で歌う姿いいなって思ったよ。今は路上ライブでもみんな制服姿なんだよ。」

「へぇ〜。私もまた制服着たくなっちゃった。あ、今トオルさんが客席にいた!」

「うん。よく気が付いたね。他の店のライブにトオルさんが来てくれたの初めてみたいで拓也君はすっごく喜んでたよ。」

「ライブ全体はどんな感じだったの?」

「みんな楽しそうだったし、思いっきりやってた感じが伝わって来たよ。拓也君なんか全力で色々声を変えたりしちゃってたからライブ終ってから喉がガラガラになっちゃった。ライブ前に拓也君、真希に自己流だけどボイストレーニングもしてきたし去年みたいにはならない自信はあるって言ってたみたいだけど、結局去年みたいにガラガラの声になっちゃったから真希から大目玉を食らってたよ。」

「また?去年と同じ感じ?」

「うん。今週の路上ライブは拓也君なしで4人でやってたよ。せっかく5人で路上ライブが出来るって言ってたのに…」

「そう。拓也君の喉の調子はもう大丈夫なの?」

「今週はずっと私と一緒に路上ライブ見てたし無理してないから大丈夫だとは思う。やっと来週からは5人で路上ライブ出来るみたい。あ、そうだ。凛ちゃんの歌声とっても可愛くて私好きだなぁ。」

「凛ちゃんの歌声可愛いよね。私も好きだよ。で、みなみちゃんは平日のこんなお昼間っからどうしてここに?」

みなみは今朝起きると体がしんどくて学校を休んだ。しばらく眠ると体は楽になっていたが学校に行く気分にはなれなくて一人で雪乃に会いに来ていた。雪乃の問いに答える前に雪乃は、「ま、理由はどうであれいいんだけどね。来てくれて嬉しいし。こうやってライブの様子も見れたし。みなみちゃんありがとね。」

「こちらこそありがとう。」

みなみが礼を述べると雪乃はみなみが何にお礼を言ったのかわからなかった様子で首を捻っていた。その様子を見てみなみは、理由を聞かずにいてくれた事に対するお礼の言葉だよ。と告げ俯いた。

雪乃はみなみが顔を上げ話し出すまで黙っていた。

「あのね。雪乃。」

「…うん?」

「私、今年に入ってから体調が優れないんだ。」

「うん。今もしんどそうだよ。」

「そっか。見た目でわかっちゃうか。」

「ううん。見た目じゃない。声がしんどそう。」

「…そっか。声、さすがだね。」

「うん。」

「拓也君も知ってるんだけど、私入院を勧められたんだ。」

「春人君のお父さんに?」

「うん。でも私、高校は卒業したくて。大学にも行きたくて。それで何とか頼み込んで了解をもらえたの。だけど、やっぱりしんどくてバイトの数は減らした。凛ちゃんがバイト入ってくれたから助かったよ。」

「そう。」

「うん。でも、もし何かあったら入院だと思う。」

「私は半年入院したよ。みなみちゃんはどのくらいになりそうなの?」

「…わかんない。死ぬまで、かも…」

「…そんな。」

「私は出来る事ならもっともっと生きたい。」

「うん。」

「だから、こう言っていいのかわかんないけど、雪乃は障害があっても生きてほしい。上手くいかなくて辛い事も今まで以上にあると思うけど、大変だろうけどそれでも生きてほしい。自ら命を絶つ事だけはしないでほしい。」

「…実はさ。私この前自殺しようと思ったんだ。でもその時凛が現れて助けてもらった…私は…うん。死のうなんてもう考えないようにする。私はもう大丈夫だよ。」

「良かった。でもね。大丈夫って思ってても人はすぐにダメになったりすると思うの。どんなに強い人でも…ううん。強いとか弱いとか関係なく人は簡単に大丈夫じゃなくなる。だから…雪乃がもし大丈夫じゃなくなったらさ。私みたいに生きたくても長く生きられない人がいた事をまず考えてほしい。」

「……どうして?どうして今の言葉過去形だったの?」

「私が入院したらもう雪乃には会えないかもしれないから。だから、伝えておきたかった。私が長く生きられなかったらさ…私の分まで雪乃は生きて。」

「……そんな事言わないで。」

「ごめん。伝えられる時に伝えたかったんだ。だから今日一人で来れる時にここに来たかったの。」

「…そんな…そんな事言わないでよ…」

「ごめんね。それとさ、もう一つ雪乃に頼みがあるの。」

「頼み?」

「そう――。」



2015年7月26日(日)


今週末から夏休みに入った。姫川真希は春人と凛と共に雪乃のグループホーム<海が見える場所>に訪れ、雪乃を連れて広場に出て4人揃って何をするでもなくただ海を眺めていた。この場にいない龍司は楽器店でのバイトが入っていて結衣も同じく喫茶ルナでのバイトが入っている為、今日ここへ来る事が出来なかった。拓也は今日バイトに入るまでの時間ぎりぎりまでここへみなみと一緒に来るとガラガラの声で言っていたが真希はそんな声で来られても困ると言いバイトまでの時間は地元でみなみと一緒にいるようにと指示した。

拓也がガラガラの声でここへ来ても特に問題はない。だが、みなみがここまで来る事がとてもしんどそうだったので真希は拓也にそう言った。

「みなみちゃん一昨日ここに来てくれたのみんなは聞いた?」

「うん。みんな知ってるよ。聞いたのは昨日だけどね。龍司なんてどうして誘ってくれなかったんだ。誘ってくれてたら学校なんてサボって一緒に行ったのによって言ってた。」

「全く不器用だなぁ。みなみちゃんが心配だから一緒について行きたかったってどうして言えないかなぁ。ま、龍司君らしいけど。」

真希は海を見ながら雪乃に聞いた。

「ねえ?雪乃はみなみが死んだ時の頼み事された?」

「うん。されたよ。真希ちゃんにもしてるんだよね?」

「うん。」

「みなみちゃん言ってた。散々私が死んだ時の事を真希ちゃんに頼んじゃったから…これ以上真希に辛い思いをさせたくないって。だから私には違う事を頼まれたよ。」

真希は雪乃の顔を完全には見ずに顔だけを雪乃の方に向けて「そう。」と答えた。すると真希と雪乃の顔を交互に見ながら驚いた表情を浮かべて春人が聞いた。

「死んだ時の頼み事って?俺は頼まれてないけど?」

「内緒。」

「ナイショ。」

真希と雪乃が睨みながら同時にそう言ったので春人は少し挙動不振な仕草をしながら、

「…そ、そうか。でも死んだ時の頼み事をしてるだなんてタクが知ったらショックを受けるだろうな。」

と言った。その言葉を聞いて真希は囁いた。

「まだ先の事だろうけど…その先の事をみなみはいつも考えてるの…みなみは…今から死ぬ覚悟…してるんだよ。」

「私、笑顔でみなみさんから聞いたから実感なかったんですけど本当に重い病気なんですね…一体どんな病気なんですか?」

凛の質問に春人が答えた。

「心臓の病気だよ。病名は拘束型心筋症。」

「拘束型…心筋症?」

「難病らしいの。以前からみなみは自分が死んだ後の事ばかり考えてる。そして、今年に入ってすぐに疲れたりむくみが出て来たりで以前よりも自分が死んだ後の事ばかり考えてるの。」

「そう…なんですか…」

真希は体をくるりと回転させて凛の方を見た。その目つきは鋭く険しい。

「凛。あんたわかってるよね?」

「え?あ、はい。橘さんには絶対今の事は言いません。」

「違うわよっ!こんな話の途中に悪いんだけどさ。凛。あんた敬語になってるよっ!」

「えっ!?あ、えっ?」

「俺も思ってた。」

「で、でも…今は真面目な話をしてたし…」

「それでも敬語を辞めるの。わかった?」

「え、で、でも…」

「あっぶないあぶない。私らまで暗くなるとこだった。私達まで一緒に暗くなったらダメでしょ。私達だけでも明るく過ごしてみなみに元気を与えてあげないと。そうでしょ凛?」

「えっ。あ、はい。そうですね。」

「あぁんっ?」

「あっ。そ、そうだね。そうだよね。」

「うん。私達が暗くなっちゃダメ。気を付けないと。」

真希は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


     *


橘拓也はみなみと共にルナでゆっくりしていた。ルナのバイトには今結衣が入っていて時々結衣を交えて3人で会話をしたりしていたが拓也の声がまだガラガラ声だった為、通訳はみなみが行ってくれていた。

「なかなか喉治らないねぇ。病院にはちゃんと行った?」

みなみの質問に拓也は首を振って答えた。

「ちゃんと病院行かなきゃ。治るものも治らないよ。昨日のバイトにも支障が出たんでしょう?」

拓也はこくりと頷いた。みなみは、もう。と言っていつも結衣がするように両頬を膨らませた。

「先週張り切り過ぎて声をコロコロ変え過ぎちゃったもんねぇ。気を付けないと!真希からも散々言われたでしょう?」

拓也はうんうんと何度も頷いた。

「ちゃんとしたボイストレーニング行った方が良いのかもねぇ。」

「ぞどごどでぎのうドオルざんがらはだしがあっだんだ。」

「トオルさんから?どんな話があったの?」

「ちょっ、ちょっと今拓也くん何て言ったの?」と結衣が話に入って来た。

「その事で昨日トオルさんから話があったんだって。で、どんな話があったのって聞いたの。」とみなみは今の会話の内容を結衣に話した。

「いいボイズドレーダーがいどぅがだじょうがいずづっで。いぢおうれんらぐをどっでみるがらっで。で、ぎょうのバイドでオッゲーだっだがいうっで。」

「良いボイストレーナーがいるから紹介するって。一応連絡取ってみるからって。で、今日のバイトでオッケーだったか言うって。ってトオルさんに言われたみたい。」とみなみは結衣に拓也の言葉を訳した。

「ふーん。トオルさんが言うボイストレーナーなら期待大だね。その人オッケーだったらいいね。」

結衣はそう言ってお店にやって来たお客の接客に向かった。

「そのボイストレーナーってどんな人?」

拓也は知らないと答える代わりに首を捻った。みなみはコーヒーをひと口飲んで、

「ま、今晩にはわかるからいっか。そうだ。花火大会来週だね。楽しみだよ。」

と言った。拓也は心の中で、そっか、来週はもう花火大会か。と思いながらみなみの顔を見た。

今日のみなみは体調が良いようでしんどそうな顔一つしていない。しかしそれは拓也がいる前ではしんどい顔を見せないように頑張っているのかもしれない。そう思うと拓也は胸が苦しくなった。

みなみは週3回入っていたルナのバイトを週に一度しか入らなくなった。そして今、2週間に一度にしようかと悩んでいる。そんなにバイトするとしんどいのかと拓也が心配するとみなみはバイトしようと思えば出来るけどと強がってはいたがルナまでの移動も含めルナでのバイトがしんどくなってきているのは確かなようだ。

拓也はじっとみなみを見つめた。みなみはその視線に気付いて拓也の方を見てにこりと微笑んだ。

(この笑顔…無理してるんだろうな…)

じっとみなみの顔を見つめている事を不思議に思ったのか「どうしたの拓也君?」とみなみは首を捻りながら聞いてきたが、すぐにみなみは何かを悟ったらしく拓也が話し出す前に都市伝説を語り始めた。

いつもみなみは話を逸らす時は決まって都市伝説の話を始める。今みなみは何とかカードが未来を予言しているだとか、それは予言ではなく計画なのだという都市伝説の話をしているが拓也にはその話の内容が全く頭に入って来なかった。そんな拓也の様子に気付いているのか気付いていないのかみなみは楽しそうに笑顔で話をしている。

(俺が…みなみに無理をさせているんだろうか…)


     *


拓也はみなみと共にバスに乗って家まで送ってからまたバスに乗りブラーへと向かった。

みなみは送らなくてもいいと言っていたのだが拓也自身がみなみを家に送らないと気が済まなかったからそうしただけだったが、みなみは家に着くと何度もありがとうと繰り返し言っていた。

拓也がブラーのバイトに入ると客として奥田の姿があった。月に一度教えに来るという約束だったが1ヶ月も立たないうちにまた奥田がブラーにやって来た事に拓也は驚いていた。拓也がガラガラの声でどうにか今日龍司にドラムを教えに来てくれたのかと奥田に尋ねると奥田は、来れる時に来てやりたいんだ。と言った。その言葉を聞いて拓也は龍司が第一線で活躍する現役のプロから才能のあるドラマーだと認められているのだと思い嬉しくなった。だが、奥田のドラムの演奏を聴かせてもらう限りやはりプロの腕は凄くて格が違うと感じた。拓也でもそう感じたのだから龍司自身もその事に気が付いている様子で前回の練習の後半では奥田の事をおっさんと呼びはしていたが奥田が言う言葉一つ一つをちゃんと聞いて指示に従っていた。

(今日のバンド練習は龍司が奥田さんからドラムを教わって真希がトオルさんからギターを教わって、その間は俺とハルと凛の3人は個人練習になるな。それから全体練習の流れか。ま、俺はその全体練習にはこの声だから参加させてもらえないけど…)

バイトが終わり着替えを済ませ下に降りると真希と春人と凛は既にブラーに訪れていた。龍司も拓也がブラーに入るとすぐに店に入って来て奥田がいる事に気が付くと「お師匠さん1ヶ月も経たないうちに来てくれたのか〜。」と嬉しそうに言っていた。

真希と龍司がそれぞれ個人練習をする間、春人がカウンター席に座りパソコンで動画サイトに投稿する動画の編集作業を始めたので拓也は春人の横に座りその様子を見ていた。数時間後、間宮がステージの上から拓也を呼んだのでステージの方へ向かうと間宮は、

「仕事中に言うの忘れていたんだが今日ボイストレーナーからオッケーをもらえたよ。夏休みに2週間ぐらいそいつの元へ行ってみるか?」

と聞いて来た。拓也はガラガラの声を出す事を控えて、うんうんと顔を2度縦に振った。

「あ、場所なんだがそいつが住んでる場所大阪なんだわ。泊まり込みになるんだが、それでも大丈夫か?」

(大阪?ま、まさか…)

「あ、すまねぇ。場所言ってなかったもんな。急に夏休み大阪に2週間泊まり込みって言われても驚くわなぁ。」

拓也は顔を何度も横に振った。

「大阪って。もしかしてトオルさん。そのボイストレーナーって…」

真希が拓也が聞きたかった言葉を言い終る前に間宮は言った。

栗山(くりやま)ひなの父親。相沢裕紀(ゆうき)。」

拓也は心の中で、やっぱりー!!と叫んでいた。そして、拓也はステージに上がり間宮の手を握って、もちろん大阪に行って相沢裕紀からボイストレーニングを受けたいという代わりに何度も間宮の腕を上下に降った。

「あ、ああ…相沢からボイストレーニングを受けたいんだな?」

拓也は目を輝かせながら顔を何度も何度も上下に降った。

「そ、そうか。なら良かった。あいつは8月後半がいいらしいが拓也は大丈夫か?」

拓也はまた何度も頷いた。

「そうか。なら、日にちを決めて相沢に連絡をしよう。2週間ぐらいは大阪に行けるか?」

間宮がそう言った瞬間、拓也の頭にはみなみの姿がよぎり最近のみなみの様子を見る限り2週間も大阪に行っても大丈夫なのかという心配が頭の中をよぎった。すると拓也の心の中を真希が悟り、

「拓也がいない間、みなみの事は私に任せて。だからあんたはひなのお父さんにちゃんとボイストレーニングしてもらいなさい。毎回そんなガラガラ声になられちゃ私達もみなみも困るしね。」

と言ってくれた。拓也は真希の言葉に安心して頷き大阪に住む元サザンクロスのボーカリスト相沢裕紀にボイストレーニングを行ってもらう日にちを8月16日から30日までの2週間と決め、間宮が相沢に連絡をとってくれた。拓也も電話越しに相沢と話をしたかったが、こんな声ではちゃんと会話が成り立たない為、話をする事が出来なかった事が残念だった。

日にちを決める際、拓也はみなみにLINEで連絡を取り、その間、真希と龍司は間宮と奥田からそれぞれギターとドラムを教わり、春人は動画編集を凛は曲の制作を再開させた。

みなみから、大阪に行く事を賛成するLINEが届くと拓也は動画編集を行う春人の横にまた座った。

「龍司は奥田さんから。真希はトオルさんから。で、タクは相沢裕紀から教わるのか。ひな達LOVELESSより俺達の方がサザンクロスの後継者に近くなってきたな。」

「ずばだい。おでだぢだげ…」

「え?」と春人が聞き返すと後ろの客席に座っていた凛が、

「すまない。俺達だけって謝ってます…あっ。謝ってる。」

と拓也の言った言葉を通訳してくれた。

「ありがとう凛。この距離でこの声をちゃんと聞こえてたなんてさすがだよ。」

凛は喜ぶでもなくペンを走らせた。その様子を見て拓也は凛からペンと紙をもらい、

トオルさんか黒崎さんが頼んでくれたら吉田さんもベース教えに来てくれたりして?

と拓也はメモ用紙に書いて春人に見せると、

「そうなれば俺達はサザンクロスの後継者確定だね。いや、秘蔵っ子になるのかな?だけど、吉田(さとし)はあのエヴァのプロデューサーだから忙しいし無理だろうな。」

と言った。拓也はまたペンを動かして、

だよなぁ。でも、俺達3人だけが教わるのハルにも凛にも悪いなぁ。トオルさん誰かベースを教える人知らないのかなぁ?と書いた。春人はメモ用紙を手に取って、

「俺は別にいいよ。」

と言ってから凛の方を向いて「DJやってる人がいたら凛に教えてあげてほしいけどな。」と言った。拓也も春人と同じ様に凛の方を見た。凛は真剣な眼差しをテーブルの上に置かれたノートに向け鍵盤もないのにテーブルの上で指を動かして作曲をしていた。

「ピアニストなら黒崎さんがいるけど凛はもう雪乃以外からピアノを教わる気はないだろうしね。」

春人が小声で言った言葉に拓也は深く頷くと凛にもやはり春人の声が聞こえていたらしく、

「その通りです。」

と凛はまるで独り言を言うようにこちらを見ず言っていた。

で、動画の編集作業には慣れたのか?

春人は拓也が書いた文字を読み動画の編集作業を進めながら答えた。

「ああ。それに関しては俺にはQueenという素晴らしい師匠がいるからね。今は去年撮りためた動画を一つずつ編集してる。真希の提案でメインチャンネルとサブチャンネルを持つ事に決めてね。メインチャンネルでは主にライブ配信やこれから撮る動画を配信しようと思ってる。サブチャンでは今まで撮った動画を配信しようと思ってる。過去の動画が多いから時間は掛かってるけど今始めようと思うならすぐにでも動画配信は始められるよ。」

そっか。なら、今日のうちにいつ動画を配信するか決めようか?と書いた紙を拓也は春人に差し出した。春人はその文字を読み頷いた。

「そうだな。そうしよう。」

全体練習を終えたのは深夜3時をまわった頃だった。拓也以外の全員が練習で疲れ果てているはずだが真希達は動画配信をいつにするかを話し合い始めた。動画配信については真希が一番詳しい為、拓也達は真希の指示に従う事を決めた。

「じゃあ、動画配信は8月に入ったらって事でいい?」

真希の問いに全員が頷いた。

「じゃあ、それで。今日は遅くなったし、そろそろみんな帰ろっか。」

全員がぐったりとしてブラーを出た時、龍司が拓也に声を掛けてきた。

「来週は花火大会だよな?タクはバイト休ませてもらったのか?」

拓也は深く頷いた。

「そうか。真希も今年は花火見れるんだよな?」

真希も相当疲れた顔をしているがにこりと笑ってから答えた。

「そうね。」

「雪乃はどうするんだろうな?」

「師匠には声を掛けたけど帰りがしんどいからやめとくって。」

「そっか。今年は雪乃が来れないのか。」

「うん。だけど、師匠は私の分までみんなが見といてって言ってました。あ、言ってた。」

「去年同様、ルナから見るのか?」

と拓也が聞きたかった質問を春人がした。

「ああ。それでいいだろう。真希も凛もルナで良いよな?」

「ええ。でも、拓也とみなみはどうするの?別に私達とは違う場所から花火を見てもいいんだよ。」

真希の言葉に拓也は首を横に振った。

「そう。ま、大勢で見た方が楽しいもんね。雪乃も来ればいいのに。もし移動が大変なんだったら私の父に車出してもらうからもう一度私から雪乃を誘ってみるよ。」

「はい。よろしくお願いします。あ、うん。そうしてあげてほしい。師匠もここまでの移動が大変だから花火大会来たくても来れないんだと思います。あ、思うの。」

(しかし…凛はなかなかタメ口に慣れないなぁ)

拓也がそう思っていると龍司は拓也が今思った事を声に出して凛に言っていた。

凛は、すみません。と言いかけて、ごめんね。と言い直していた。



2015年8月2日(日)


花火大会当日。みなみと凛、そして、今日はルナでバイトの結衣までも浴衣を着ていた。龍司は「なんでバイト中に浴衣来てんだよ。動きにくいだろ!」と言って結衣の頬が膨らむような言葉を放った。結衣は龍司を無視して拓也に、もう喉は治ったの?と聞いた。結局拓也のガラガラ声は長引き昨日まで喉の調子が悪くて未だに5人での路上ライブは行っていない。

「今日朝起きたら声が戻ってたよ。」と拓也は昨日までガラガラの声だったのが嘘だったかのように普段通りの声を出した事に結城春人は驚いた。

そして、午後6時頃に真希の母礼子が運転する車が到着して浴衣を着た雪乃が到着した。雪乃は車を出してもらえるなら花火見たいなと言ったらしくて今回礼子が車を出して真希と共に雪乃を迎えに行ってくれていた。雪乃は車のドアを開けたまま楽しそうに、みんな元気ぃ〜?と言った。助手席から真希が出て来てその姿を見た春人は驚いた。真希も浴衣を着ていたからだ。やっと声が元に戻った拓也も「い、意外だな…真希が浴衣姿だなんて…」と驚いていたし、龍司も「俺も真希の浴衣姿は初めて見た。」と言っていた。春人は真希は女の子らしい服装はしないタイプだと思っていたのでこの真希の浴衣姿は本当に驚いた。拓也と龍司の声が耳に届いていた真希は鋭く2人を睨みながら、「あんた達3人あとでシバくからね。」と言ったので春人は声に出さずに驚いただけの自分も数に入っている事に驚いた。

「てか、あんた達3人雪乃が車椅子に乗るんだけど手伝う気ないわけ?」

その言葉を聞いてから春人達3人はやっと動き出して雪乃が車から車椅子に移乗する手伝いを始めた。そして、去年と同じ様に外に椅子を並べた。

「あ、さっき車の中でThe Voiceの配信動画見たよ。春人君があの動画の編集したんだってね。すっごく格好良かったよ。」

遂に昨日春人達は動画サイトにチャンネルを開設した。そして、バンドメンバー5人の名前と担当楽器を紹介する短い動画を一つ配信した。ちゃんと顔が映った自己紹介動画ではないが春人は我ながらなかなか格好良い動画を作れたと自負している。

「これからの配信がとっても楽しみだよ。」

「雪乃は動画見れるのか?」

「大丈夫だよ。職員さんに見せてもらえるから。」

「そっか。俺達が今どんな状況なのかすぐ雪乃に見てもらえるなら配信する意味があるよ。」

「春人君。私だけの為じゃなくって世界中の人達の為に動画を配信してよね。」

「あ、ああ。そうだね。わかったよ。」

花火が打上ると去年この場にいなかった真希と凛はここからこんなに綺麗に花火が見れる事に驚いていた。

「綺麗。来年もこうやってみんなで花火見れたら良いね。」

春人の横に座るみなみが拓也だけに言うのではなくみんなにそう言った。春人達全員がみなみが花火を見上げ輝く姿を見つめた。

「また来年も再来年も5年後も10年後もみんなで見よう。」

龍司がそう言った。

「ああ。そうしよう。」

春人はそう答えた。

「みんな集まれるかな?」

雪乃がそう聞くと凛が、「集まれますよ。」と答えた。

「うん。例えバラバラになっても集まれるよね?あ、龍ちゃん達がバラバラになったら困るけど、結衣がどっか遠くに行ったとしても毎年花火大会には戻って来る。」

「約束するよ。俺達は…いや、例え俺だけになっても、例え遠くに住む様になっても毎年この花火大会には帰って来る。だからみなみ。毎年この花火を一緒に見よう。」

拓也が言った言葉にみなみは震える声で「ありがとう」と答えた。

気が付けば車椅子に座る雪乃以外は全員が椅子から立ち上がって打上る花火を見上げていた。

間を空けて打上っていた花火が連続で上がり始める。その様子を見ながら春人は今年の花火大会ももう終るのだと悟った。連続で花火が上がる中、春人はみなみが静かに涙を流して花火を見ていた事に気が付いた。やがて花火が上がる音が消え、光が消え、暗闇と静寂が訪れた。しばらく誰も何も話さなかった。誰も話し出さなかったのは花火が終った事に全員が浸っていたわけではなく、みなみが泣いていた事に全員が気が付いていたからだとわかった。

みなみは自分が死ぬ事を前提に考えている。来年には生きていないかもしれない。再来年には。5年後には。10年後には。と自分がいない事ばかり考えている。以前からそうだったのかもしれないが最近は特にその考え方になっている。と春人は思う。

もっと前向きに物事を考えてほしい――昨日みなみの話しになった時、拓也がメモ用紙にそう書いた。春人も拓也同様みなみには前向きになってほしいと思った。

静かになった暗闇の中、拓也が囁いた。

「また見ような。」


     *


花火を見終わりルナで神崎龍司はコーヒーを頼むとみなみがコーヒーを飲まないと言ったので拓也も真希も春人も凛もコーヒーを頼むのをやめた。

(ったく。タクは別としてみなみに合わせて全員が飲まなかったら余計にみなみが気を使うだろーがっ!)

そう思って龍司は一人コーヒーを頼んでいた。しばらくして雪乃を迎えに真希の父浩一が店に入って来た。久しぶりに会う真希の父親の姿を見て龍司は相変わらず畏怖の念を抱いて佇まいを制した。龍司が畏怖の念を抱くのは真希の父親ぐらいだ。浩一は雪乃と真希に、帰るぞ。と声を掛けた後、春人に話し掛けその後に龍司に、真希が世話になっているな。と声を掛けて来た。龍司は、いえ。と答え軽く会釈した。雪乃が店を出て車に乗るのを手伝っていると雪乃は「あ、そうだ。忘れるとこだった。」と言って鞄から紙を取り出すように真希に頼んだ。龍司がその紙に何が書かれているのか気になっていると真希は「これは?」と雪乃に質問をしていた。

「私、事故に遭う前にバンド用に曲を作ってたの。この楽譜ずっと渡すの忘れてて。これでやっと私もみんなのバンドに入れたよね。」

「雪乃…私が言った言葉を覚えててくれてたのね。」

――雪乃が私達の為に曲を作って来てくれる時がきたら、その時が私達のバンドに正式に加わってくれる日だって事でいいんじゃない?

龍司も去年の夏に真希がそう言っていた事を覚えていた。

「雪乃。ありがとう。でも、これ…この歌詞は…英語?」

「ううん。日本語だよ。じゃ、その曲を歌ってくれる日を楽しみに待ってるよ。あ、2曲あるからね。」

真希が車に乗り込もうとしたのを龍司は止めて雪乃が作ったという曲を見せてもらった。

「な、なんだよこれ…」

側にいた拓也と春人もその歌詞を見て驚いていた。

「驚いた?その歌詞は言葉にはなってないから拓也君覚えるの大変だろうけど頑張ってね。」

「は、はあ…」

「じゃ、みんな。その曲を披露する時はぜっーたい私を呼んでよね。ぜーったい聴きに行くから。じゃあ、今日はありがとう。真希ちゃんドア閉めて。」

雪乃はそう言って真希と共にグループホームへと帰って行った。

ルナに残った龍司と拓也と春人と凛とみなみと結衣の6人は雪乃が作った曲の楽譜をただじっと見つめていた。

「これ歌詞に意味はあるのかな?」

みなみが凛に聞くと全員が凛の方を向いた。

「た、多分…意味はないと思います。」

凛がそう答えると龍司達はまた全員で雪乃が作った曲の楽譜をじっと見つめていた。


     *


姫川真希は助手席に座り後ろ座席に座る雪乃の方を向いた。

「大丈夫?疲れたよね?」

「久しぶりの外出でちょっと疲れたけど大丈夫だよ。花火綺麗だったし、すっごく楽しかった。また来年もみんなで見たいねぇ。」

「…うん。絶対見よう。」

その後、雪乃はすぐに眠りに落ちた。そして、30分程車を走らせた後「さっきの曲だが。」と静かに運転だけしていた浩一が唐突に話し出した。

「今年の柴咲交響楽団のクリスマス・イヴコンサートであの2曲を披露してみないか?」

「え?」

「さっき楽譜を少し見させてもらった。少し見た感じだがバンドだけで演奏するにはスケールが大きすぎる曲だと感じたが、どうだろう?」

「そんな。毎年恒例になったクリスマス・イヴコンサートに私達が出演するなんて…」

「うん。それがいい。そうしよう。」と言う雪乃の声が聞こえて真希は勢いよく後ろを振り向いた。

「雪乃…あんた起きてたの?」

「うん。今の声で。」

「そ、そう…」

「去年私参加出来なかったしさ。今年、作詞作曲っていう形で参加したいなぁ。」

「雪乃…」

「ねぇ〜。いいでしょうリーダー。」

「でも、そんな急に今年のクリスマス・イヴコンサートに出演する事なんて無理でしょ?」

「真希ちゃんのお父さんが誘ってるって事は急に参加出来るって事だよ。そうですよねぇ?」

「ああ。大丈夫だ。」

「……わ、わかった。後でみんなに伝えて相談する。」

「今連絡して決めてよぉ〜。」

「…わかったわよ。」

「さっすがリーダー。」

「お父さん。日にちは?」

「12月24日木曜日だ。」

「今年もイヴ当日か。わかったわ。」

グループLINEで相談した結果。全員がやる気になってすぐにクリスマスイヴコンサートに参加する事が決まった。

「で、あの曲のタイトルはなかったけど?」

「うん。歌詞には意味はないしね。あ、みんなでタイトル決めてほしいな。」

「……そう。」


      *


「もう一年が経つのか。時の流れは早いねぇ。」

間宮トオルは夜空に上がる花火を見ながら一服した後、店に戻った。店内には客が一人だけいて店を開けたばかりだというのにもう酔いつぶれている。その酔いつぶれてカウンター席で眠っている女性の肩を揺らし間宮は「沙耶。起きろ」と声を掛けた。黒崎は寝ぼけ眼のまま言った。

「ねぇ〜。今日は日曜日なのにライブないのぉ?」

「ああ。バイトが二人とも花火大会に行きたいって言ってな。お前はこんな所に来てて大丈夫なのか?LOVELESSはちゃんとデビュー出来るんだろうな?」

「だいじょ〜ぶ。私がプロデューサーになんのよ。だいじょぉ〜ぶに決まってんでしょ!」

「ド素人の沙耶がプロデューサーになるから余計に心配なんだよ。」

「失礼ね。なら、あんたがプロデューサーになってくれたら私はこんなに酔いつぶれないで済んだのよ!右も左もわからないまま私がプロデューサーになるなんてうちの事務所は事務所を潰す気?そうはさせないかんね〜。」

「……」

「トオル?橘君達のバンドは今どんな感じ?」

「やっと動き出した。時間は掛かったがな。そうだ。動画サイトにチャンネルを開設したみたいだ。良かったら見てやってくれ。よくわからないがメインチャンネルとサブチャンネルの2つがあって両方ともチャンネル登録してくれって頼まれたよ。」

「何?チャンネルって2つも必要なわけ?私動画サイトの事なんてぜっんぜんわかんないんだけど?」

「動画サイトに関して俺が知っていると思うか?」

「だよねぇ〜。」

「お前はLOVELESSのプロデューサーなんだからこういう事も知っておいた方がいいんじゃないか?こいつらの動画を見て少しは勉強しとけよ。」

間宮はそう言ってスマホを取り出し黒崎に見せた。黒崎はとろんとした目で動画を見ていたが「ダメ。酔ってない時見るわ。」と言って自分のスマホを取り出し早速チャンネル登録をしていた。

「はっ!そーだ!2週間後に私ひな達を連れてエヴァの事務所に乗り込むの。」

「レディオか…って乗り込むって勇ましいな…」

「あんたがオーディションで選んだエヴァのメンバーは今や国民的人気バンドに成長した。そいつらのレコーディング風景を見学に行くの。ま、ちょーっとだけちょっかい出しちゃおうとは思ってる。」

「ちょっかい?やめとけ。どうせ相手にされないさ。しかし、吉田に頼んだのか?」

「そうよ!あいつが今じゃあんたの代わりにプロデューサーだしね。あのにっくきプロデューサーもどき吉田聡をチャンスがあれば生き埋めにしてやろーって魂胆よ。」

「……生き埋め…ちょっとどころのちょっかいじゃないな……」

「で、どうして今日はトオルだけなのよぉ?」

「は?さっきも言っただろう?」

「聞いてないから聞いてんのよっ!答えなさいよっ!」

「だからバイトが二人とも花火大会に行きたがったから休みにした。」

「二人とも彼女がいたわけぇ?あのデブっちょ坊主にも彼女がいるのかぁ〜。」

「ああ。念はもうデブっちょじゃないがな。あいつは初めての彼女との花火大会だから絶対に休みたいと言い出してな。今頃彼女と2人きりの時間を過ごしてる。拓也は去年も花火大会の日は休みをとってたし。」

「青春だねぇ〜。」

「そうだな。で、一人じゃ大変だから店はあけるがライブは断った。」

「一人でも店回せるくせに。」

「ま、そうだが。」

「そっか。花火大会、か……毎年花火見る約束だもんね。」

「…ああ。」

「あれからもずっとトオルは変わらないままなのよね?」

「…変わったさ。」

「ひかりを想う気持ちの話よ。」

「…そうだな。」

「無理にとは言わない。でも、もう何年になる?そろそろ変わらなきゃ、だね。」

「…ああ、わかってる。」

(…それはわかってるんだ)


高校最後の夏。間宮は昨年同様ひかりと共に花火を見た。

「来年もその先もずっとずっとこの花火を見続けられたらいいなぁ。」

花火の光に照らされながらそう言ったひかりの横顔を見つめながら間宮はその前年にも感じた様にひかりの事を美しいと思った。

「約束する。来年も再来年も5年後も10年後も一緒に見よう。」

間宮はそう約束した。しかし、その約束を守る事は出来なかった。

(死んでから約束を守ってどうすんだよ…)


「なにそれ?プロポーズぅ?」

「バカっ。俺達まだ高校生だぞっ。」

「でも結婚は出来るし。」

「そのうちな。」

「そのうちっていつぅ?」

「俺がプロのミュージシャンになってひかりの夢が叶った時。」

「まだまだ先は長そうですなぁ。」

「ひかりの夢は近いうちに叶うさ。才能がある。」

「トオルだって。」

「俺は…そうだな。しばらく待たせるかもしれないな。」

「仕方ない。待っててあげますか。」



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今、想う


8月2日


5月31日に日記を書いてから2ヶ月間も日記を書くのをやめていた。

日記を書かなかった理由は毎日の生活で疲れてしまって日記を書くという事が億劫になってしまっていたからだ。今年に入ってから凄く疲れやすくなってしまったけれど日記だけは書かなきゃと思った。私の声を残さなきゃ。そう思った。

そう思えたのは花火を見たからかな?

今年の花火も本当に綺麗だった。

去年も同じ場所で同じ花火を見たはずなのに今年の花火は私の目にはとても綺麗に映った。

また来年も彼と、そしてみんなと一緒に花火が見たいと思いました。



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