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The Voice  作者: 幸-sachi-
The Voice vol.2
34/59

Episode 1 ー秘密ー

男は震える手で今は亡き恋人が綴った鮮明な赤色をした日記帳に手を伸ばした。

男は泣きながら恋人の名を呼んだ。だが、その声は涙で上手く言葉になっていない。

震える手で表紙を捲った。

最初の日記は3月28日の日付だった。



2015年4月21日(火) 


高校生活にも慣れ始めたこの日の昼休み、まだ着慣れない柴咲西高校(しばさきにしこうこう)の紺色のブレザーとグレーのスカートを身にまとった咲坂結衣(さきさかゆい)は自分で作ったお弁当を持って隣のクラスにいる(りん)の元へ向かった。

「凛ちゃ〜ん。屋上行こう。」

「うん。」と凛は結衣の顔を見て笑顔で答えた。結衣と凛は昼休みは必ず屋上へと向かいお弁当を食べるのが日課になっていた。屋上に行けば龍司(りゅうじ)に会える。それが結衣の本当の目的でそれを知ってか凛も付き合ってくれている。

「今日学校終ったら結衣はバイト?」

凛が廊下を歩きながら問いかけて来た。

「そうだよ。凛は?今日も雪乃(ゆきの)さんのお見舞い?」

「ううん。今日は師匠には大事な用があるから行かないの。」

雪乃は去年の事故から一度も学校に通う事が出来ていなかったのだが今年の春に無事高校を卒業する事が出来た。卒業式に行く事が出来ない雪乃は病室で一人だけの卒業式を行った。結衣も凛も雪乃一人だけの卒業式に参列した。橘拓也(たちばなたくや)姫川真希(ひめかわまき)神崎(かんざき)龍司、結城春人(ゆうきはると)のThe Voiceのメンバーはもちろん佐倉(さくら)みなみ、太田進(おおたすすむ)五十嵐智美(いがらしさとみ)相川念(あいかわねん)の姿もそこにはあった。

高校卒業後の雪乃の進路は全く決まっておらず、今は入院しながらリハビリを続けている。

「そーなんだ。じゃあ、学校帰り店寄って帰る?」

「うん。そのつもりだったの。」

結衣には両親がおらず祖父の新治郎(しんじろう)と一緒に暮らしている。その祖父咲坂新治郎が経営している喫茶店『ルナ』で結衣はバイトをしている。

「雪乃さんは……座れるようになった?」

長谷川(はせがわ)雪乃の今の夢は座るという事だ。事故に遭う前の雪乃の夢はピアノの先生になる事だった。雪乃の才能は素晴らしくてピアノの先生どころかプロのピアニストになれる程だった。いや、プロのピアニストどころか世界に出れる程の天才だった。その天才ピアニストの今の夢が、ただ座るという普通の人には当たり前に出来る事を夢みていると思うと結衣の心は張り裂けそうになった。

今の雪乃は当たり前の事が出来ない。座る事も立つ事も食事もトイレも一人では出来ない。だから雪乃は当たり前に出来ていた事を一つ一つ取り戻す事が夢だと語った。

そして、いつかまたピアノが弾ける様になったらピアノの演奏会を開く。それが雪乃の最大の夢となっている。

凛は暗い表情になって結衣の質問に答えた。

「…ううん。まだ…まだ長く座ってられないんだって…」

「…そっか。」

結衣も凛と同じように暗い表情になった時「あー!やっぱりー!」と大きく元気な声がすぐ近くから聞こえて結衣と凛は2人揃って目をまん丸くしてその声を出した女子生徒の方を見つめた。

「ツインテールのその髪型やっぱりあの時の!何度か廊下歩いているの見かけたんだけど似てるなぁって思ってたの。久しぶりね。」

久しぶりね。と言われても結衣にはさっぱりこの子が誰なのか検討もつかなかった。結衣と凛が2人して顔を傾げて女子生徒を見つめているとその女子生徒は、覚えてないかぁ。と呟いた後いきなり大きな声を出して、「私はいい子ぉ〜?それとも悪い子ぉ〜?」と叫んだ。近くにいた生徒達は驚いた顔をしてこちらを見ている。凛はその生徒がおかしな人だと思ったらしく一歩後ずさったが結衣はその言葉を聞いて彼女の事を思い出した。

「いい子ぉ!」

と結衣は腕を上げて答えた。凛は結衣までおかしくなったと思ったらしく目を大きく開けてもう一歩後ずさった。

「そう。私はいい子。和装(わそう)のリーダー飯塚紀子(いいづかきこ)でぇ〜す。」

結衣はその自己紹介が嬉しくて飯塚に抱きついた。

「久しぶりー。」

「まさか同じ高校だなんて思わなかったよ。」

「だね〜。他のメンバーわぁ?」

「他の子達はみんな東京に住んでるから。柴咲西高校に通ってるのは私だけなの。」

「そうなんだぁ。あ、自己紹介してなかったよね。2組の咲坂結衣です。こっちの三つ編みの彼女は1組の白石(しらいし)凛。」

「白石さん色が白くてまるで日本人形さんみたいに可愛いぃ〜。白石さんも去年あの場所にいたの?」

少し距離を置いている凛が「あの場所?」と結衣に聞いた。結衣は「去年の柴咲音楽祭の事。」と凛に告げて「凛はあの場所にいなかったから和装の事も飯塚さんの事も知らないの。」と飯塚に告げた後また凛に話した。

「飯塚さんはね。和装っていう名前の4人組三味線バンド?を組んでるの。柴咲音楽祭では2位だったんだよ。」

警戒して少し距離を置いていた凛が、

「へぇ〜。あのひなさんのバンドの次って事は凄いんだね。」

と言いながら結衣の横に並んだ。

「今ほもう一人メンバーが増えて5人体制になったの。」

「もう一人ってボーカリストでも入ったの?」

「ううん。尺八を吹いてる子。去年よりパワーアップしたから今年こそ絶対優勝するよ!」

飯塚がそう言うと結衣は、

「今年は龍ちゃん達が参加するから厳しいかもよぉー!」

と少しむきになって飯塚に伝えると飯塚は、龍ちゃん達?と首を傾げた。

「お昼まだだよね?屋上行かない?龍ちゃん達しょーかいするよ。」

お弁当箱を教室まで取りに行っている飯塚を待って結衣達3人は屋上へと向かった。



佐倉みなみは3年生となって初めて同じクラスになった真希に今日は屋上でお昼ご飯を食べようと誘った。みなみが屋上で昼ご飯を食べようと誘うのは今回が初めてで真希は何か聞き間違ったと思ったのだろう片耳が出るようにボブヘアの髪を耳にかけ、屋上?と言って目を細めた。みなみは眉間にシワを寄せ始めた真希の手と真希のお弁当を持って強引に教室から連れ出した。

「わかった。屋上に行くから手を離してよ。」

みなみが真希の手を離しお弁当を返すと真希は、

「屋上でお昼食べる人なんてこの学校にいないよ。そもそも屋上に出る生徒すらいない。」

と言ったのでポニーテールの髪先を触りながらみなみは言った。

「去年まで真希は屋上によく出てた。」

「それは家に帰りたくなかったからだし。それに屋上でお昼を食べた事なんて一度もない。」

栄真女学院(えいしんじょがくいん)では屋上へ誰でも出られるのに屋上を利用する生徒はほぼいない。去年、放課後にバイオリンを弾いていた真希が唯一この学校で屋上を利用していた生徒だと言っても過言ではないが3年生に上がった今その真希も屋上には出ていない。バイオリンやギターの練習は家に帰ってしているからだ。

屋上へ向かう事が億劫な様子の真希だが、みなみに再度持たれた腕を払う事もなく付いて来てくれた。途中、みなみは丸岡楓(まるおかかえで)のいる教室を覗いて楓も誘った。みなみの行動に不審を覚えた真希は、

「みなみ?どういうつもり?」

と尋ねてきたが、みなみは「いいから。いいから。」とだけ伝え真希の腕を離して一人屋上に上がる階段を上ったが途中で息切れしてしまいしんどくなって立ち止まった。最近息切れやむくみ動悸や疲れやすさが出ている。階段を上がる事くらいで息切れしてしまう自分が情けなかった。

みなみは階段の途中でしんどさのあまり休んでいるのを悟られない様に真希達が来るのを待っているのだと言わんばかりに振り向いてなんとか元気な声を出して「早く早く」と言った。

真希は楓と顔を見合わせてからロングスカートの裾を持ち上げて階段を上り始めた。



神崎龍司は昼休み学校の屋上にいた。

「ここから見る景色はやっぱ絶景だな〜。」

龍司は景色を見渡しながら言った。龍司の横に立つ太田が「ぼ、僕はドキドキしてるよ。」と言うと相川は「フトダは高い所が苦手だったのか?」と聞いた。拓也はすかさず「そういう意味のドキドキじゃないと思うけどな。」と呟いた。

「じゃ、そろそろ飯でも食うかぁ〜。」

龍司はコンビニ弁当を広げ相川に言った。

「お前随分と痩せたよな?ダイエット続けてもう1年くらい経ったよな?」

「ああ。去年の5月に智美と出会ってダイエット始めたからもう1年経つな。おかげで30キロ近く痩せたよ。智美も凄い凄いって喜んでくれた。」

相川はこの1年近くで見違える程に痩せ、今ではもう太っていたという面影は全くなく細身でありながら筋肉がついて引き締まっている。坊主だった髪型も伸ばし毛先で遊んでいる。

「念がダイエット始めたきっかけって五十嵐先輩が太ってる人があまりタイプじゃないってわかったからだったよな?」

拓也の質問に相川は少し誇らしげに答えた。

「その通りだ。智美は太ってる俺はタイプじゃなかったらしい。けど、どんどん痩せていく俺を見て感動したらしいぜ。」

相川は五十嵐の為にダイエットをした。

五十嵐は相川が自分に思いを寄せている事に薄々気が付いていて自分が放った言葉に相川が傷つき自分の理想の男になる為にダイエットをして頑張っている姿に少しずつ心を動かされたらしい。そしていつしか五十嵐は相川を気にしている自分に気が付いた。

いつか相川がダイエットに成功し想いを告げて来る日が来るのなら、その時は喜んで恋人になる事を選択しようと五十嵐は心に決めていた、らしい。

栄真女学院の卒業式の日、相川は五十嵐を呼び出し想いを告げ2人は恋人同士となった。

2人が付き合ったという情報は相川の口から聞く前に龍司達は真希やみなみから聞いていた。だから龍司も拓也も相川に「恋人が出来た。誰だと思う?」とクイズを出された時も、「智美がさ〜」と五十嵐の事を呼び捨てで呼び始めた時も何となく無視をした。今でも龍司と拓也は相川と五十嵐が付き合っているという事に気が付いていないと相川は思っているらしく言葉のあちこちに智美がどうのとか彼女がさぁだとかを付けてくる。

「智美も今頃大学で飯食ってかなぁ〜。電話しよっかなぁ〜。」

五十嵐は今東京に住み、東京の音大に通っている。その大学は本当なら雪乃も通う予定だった大学だ。

相川はスマホを取り出し、五十嵐に電話を掛け始めた。

「相川君は五十嵐先輩と週一のペースで会ってるんだよね?なら電話をしなくても…」

「フトダ。ほっとけ。ほっとけ。てか、さっさとフトダも飯食えよ。俺もう食い終わるぞ。」

「あ、そうだね。でも相川君あんなに痩せたのにまだダイエットしてるんだね。今日もお弁当持って来てないし…」

「それもほっとけ。ほっとけ。腹が減ったら何か食うだろう。」

龍司が昼食を一人食べ終わり立ち上がると屋上のドアが開いた。


    *


屋上のドアを開けた瞬間、結衣は大きな声で言った。

「やっほー。美少女3人が来てあげたぞぉ〜。」

結衣は屋上を見回したが、いつも龍司達が昼食をとっている場所に彼らの姿はなかった。

「あれぇ〜?龍ちゃん達いないじゃん!」



ドアが開き笑顔のみなみが屋上に現れた。橘拓也は1週間振りに会う恋人の笑顔を見て自分も笑顔になった。

「みんな無事に入れたんだね。」

龍司が自信満々に「もちろんだ。」と答えるとみなみは不安そうな表情を浮かべて「本当に大丈夫?誰にも見られてない?」と拓也に聞いたがその質問にも龍司が答えた。

「大丈夫だ。そんなヘマはしねーよ。それより真希達は?ちゃんと連れて来てくれたのか?」

龍司の質問にみなみが「もちろん。」と答えた時、みなみの後ろに真希と楓が現れて2人とも龍司達が栄女の屋上にいる事に驚いていた。

「あ、あんた達…どうしてここにいるのよ!?」

「真希。愚問だな。お前は地球がどうして回っているのか知ってるか?」

「はぁ?」

「じっとしていられねーからだよ。」

「ハァ?じっとしていられないから女子校に潜入してきたってわけ!」

電話で話しているはずの相川が、

「それは違うぜ姫川。潜入じゃなくて侵入だ。これは第二次楽園侵入大作戦だ。ま、橘やリュージはもう4度目になるがな。」

と言うと真希は鬼の形相をしながら相川を睨みつけ、バカがぁ!と力を込めて言った。相川は真希から殺気を感じたらしく電話越しに、姫川が恐ぇんだよぉ。と五十嵐に話しながらしゃがみ込み小さくなった。続いて真希は鬼の形相のまま龍司を睨んだ。龍司は真希に睨めれた目をそらしながら、どうしてもここにフトダを連れて来てやりたかったんだよ。と弱々しく言った。

「太田君のせいにする気?拓也と龍司と相川がここに来るのはまだわかる。前科があるからね。だけど、太田君まで連れて来て太田君のせいにするなんて最低っ!」

「フトダはどうしてもここに来たかったらしい。最初は俺とフトダだけで来る予定だったけど、2人が行くなら俺も行くってタクと念が言い出して…」

「じゃあさ…どうしてあんた達と学校が違う柴咲高校(しばさきこうこう)の春人さんまでここにいらっしゃるのよっ!」

真希は黙々と昼食をとっている春人を指差しながら叫んだ。

「春人。あんたここ女子校よ!他校よ!わかってるよね?どうしてあんた他校の屋上で落ち着いて昼食とってるのよっ!あなたはこのバカ共と違って常識がある人よね?どうしてこのバカ達を止めずにこのバカ達と一緒にここにいるのよっ!」

「ここ景色がいいし昼食とるのに最高だね。」

春人のその言葉に真希は言葉を失い大きくため息を吐いた。

「真希。俺がハルを強引に誘ったんだ。そんなにハルを責めるな。」

「だろうね。龍司が強引に春人を誘った事なんて百も承知よっ!」

真希は、みなみ?と言って後ろを振り向きみなみを睨んだ。

「みなみはこいつらが来るの知ってたから私と楓を屋上に誘ったわけ?」

「うん。拓也君に頼まれちゃって。」

「頼まれちゃって。じゃないわよっ!バレたらどうすんの!?」

「バレねぇって。俺達はそんなヘマはしねぇ。」

龍司がそう言った瞬間、真希は「うっさい!」と叫び龍司のあご目掛けて鋭いパンチを放った。龍司が真後ろに倒れ込む姿が拓也にはスローモーションに映った。拓也は急いで真後ろに倒れ込む龍司の体を懸命に支えた。



怒り狂う真希をみなみと楓がなんとか落ち着かせ結城春人達8人は円を囲むように座った。

龍司に今日栄真女学院に侵入する事に誘われた時、春人は他校に、しかも女子校に侵入する事に戸惑い悩んだが結果として今ここにいる。相川が言う第二次楽園侵入大作戦に春人が参加した理由はただ単純に楽しそうだなと思ったからだ。

この中で春人一人だけが通う柴咲高校の生徒は皆真面目で他校に侵入しようと考える者など一人もいない。学校設立以来、柴咲高校の生徒が他校に無断で侵入したのは自分が初めてなのではないかと春人は思っている。

(俺も柴高じゃなくてタク達と同じ西高に通えばよかったなぁ)

高校3年になって拓也達柴咲西高校の4人は皆同じクラスとなり、担任は太田が恋焦がれている倉本奈々(くらもとなな)という国民的ロックバンド、エルヴァンが好きな20代の教師だと春人は聞いている。拓也達から話を聞く限りその倉本という教師は髪型や服装だけではなく化粧の仕方までころころと変え最新の音楽にも詳しいらしい。間違いなく柴咲高校には倉本のようにファッションを意識する教師など存在しない。

(ファッションや音楽に詳しい教師がこの世に存在するなんて俺は今まで出会った事がないなぁ…)

「で?ここに来た本当の理由はなんなの?」

真希が龍司を睨みながら聞いたが先ほどのような鬼の形相ではなくなっている。

「だからぁ、フトダがここに来てみたいって言ったんだよ。」

真希はまた龍司を殴ろうとしたのを春人が急いで止めた。

「それ本当らしいんだ。」

「そうなの?太田君。どうして栄女に?」

「えっと…ぼ、僕、栄女の礼拝堂をちゃんと見たくて…」

「礼拝堂を…」

太田は、うん。と答えて立ち上がり礼拝堂の方を見つめスマホを取り出した。春人も立ち上がり太田の横に寄った。太田は礼拝堂をスマホで撮影しているのだと思ったが違った。太田は何故か動画サイトに投稿されているQueenの動画と礼拝堂を見比べている。

「Queen?」

春人が聞くと太田は、うん。と答えた。龍司も太田の横に寄って来て、

「Queenの動画とその礼拝堂何か関係があるとでも言うのかよ?」

と聞いた。すると太田は、やっぱりな。と言った。拓也も立ち上がり何がやっぱりなのかを太田に聞いた。

「僕、この1年くらいずっと気になってたんだ。Queenの動画に映ってるこの景色に…ほら、十字架がここに映ってるの見える?」

そう言って太田はQueenの動画を一時停止して春人達に見せた。

「ああ。そう言えば去年十字架が見えるとかお前言ってたよな。それずっと気になってたのか?」

太田は龍司の質問に「うん。」と答えた。春人は自分のスマホを取り出してQueenの動画を確認した。ギターを弾く男か女かわからない人物の後ろにある窓から少し景色が見える。その景色をよく見ると確かに太田が言うような十字架が見える。

「つまり太田君はこの映像に映っている十字架が栄女の十字架じゃないかと思って確認したかったと?」

春人の質問に太田は大きく頷いた。まだ電話で五十嵐と話している相川以外の全員が自分のスマホを取り出して映像と礼拝堂の十字架を見比べているが動画の中に映る十字架は距離があり過ぎて詳しくはわからなかった。

「全くわかんねーな。似てると言われれば似てるけどわかんねー。フトダの勘違いじゃね?」

龍司がそう言った時、みなみが、あれ?と言った。全員がみなみの顔を見るとみなみは驚きながら言った。

「この映像…私の家から見える礼拝堂の十字架の感じとよく似てる。」

「え?」

「私の家からだと十字架の頭くらいしか見えないんだけど、もしかしたら真希の家からならこんな感じで見えるんじゃない?」

「えっ?あ、そ、そうね。気にした事ないけど見えるかもね。」

「やっぱり!Queenはこの街に住んでるんだよっ!」

太田が嬉しそうに叫んだが、龍司は、まっさかー。と言ってその話題にもう飽きた様子で元いた場所に戻って座った。それを見て真希も元いた場所に座り、残された春人達も同じ様に元の場所に戻りまた円を囲む様に座ったが興奮冷め止まぬ太田一人だけは「もうすぐ登録者数50万人越えのQueenがこの街に…」と呟きながらまだフェンス越しに礼拝堂を見つめていた。

「で、あんた達いつまでここにいる気?用が済んだのならさっさと出てって。」

「冷たい事言うなよ。まだ昼休み終わるまで時間あんだろう?」

「このバカがぁ!あんた達昼休みギリギリまでここにいる気?自分達の学校に戻る時間計算しなさいよ!」

「いや、もう今日はこのまま雪乃のお見舞いに行こうかって話してたんだよな?」

龍司が急に春人の顔を見たので春人は頷いた。真希は目を細めて春人を見ていた。

「結局春人は来年大学はどうするの?」

とそれまで大人しかった楓が急に話題を変えて質問をしてきた。

「俺はヒメと同じ音大を受けようと思ってる。」

「そうだったんだ。」

電話をしている相川が「そうなりゃ姫川と田丸(たまる)は智美の後輩だな。」と言ってまたすぐ電話で五十嵐と話し始めた。未だに相川は春人の事を去年まで一人でライブ活動をしていた田丸という名で呼ぶ。

「楓は予定通り保育士を目指して?」

「うん。神奈川の大学を受けるよ。」

大学受験をする予定なのはこの中では春人と真希と楓とみなみと太田の5人で太田は芸大、みなみは近くの大学を受けようとしている。拓也と龍司と相川の3人はまだ未定らしい。

「俺達も3流でも4流でもいいから大学いくかぁ?」

「そうだなぁ〜。出来るだけバイトしてお金を稼いどくかなぁ。」

龍司と拓也の会話にまた相川が急に「俺も付き合ってやってもいいぞ。」と一言だけ言ってまた五十嵐と話し出した。

「拓也君達が大学受けるとこ私も受験しよっかな?」

と突然みなみが言い出した。

「みなみ!この2人が行く大学なんて3流4流じゃないわよ。きっと思ってる程底辺の大学よ!そんな場所にみなみを行かせるわけにはいかないよ。」

「真希…言い過ぎだろう…」と拓也は心の声が出ていた。

「私とりあえず大学に行くだけだし底辺の大学でもいいの。」

「それにタクと一緒にいれるもんな。」と龍司が付け足すとみなみだけじゃなく拓也までも顔を真っ赤にして照れていた。2人を救ったのは景色を見終えた太田の一言だった。

「ところでみんなはThe Voiceっていうバンド名も決まったのにどうして楽器の演奏なしの路上ライブばかりでライブハウスでライブをしないの?」

雪乃が事故にあってから路上でもライブハウスでも演奏をしなくなっていた。毎年3月にライブハウス『エンジェル』で行われているイベントにもオーナー直々に参加しないかと誘われたがその誘いも春人達は断った。オーナーの小野(おの)は電話で真希に「去年の柴咲音楽祭に参加出来なかったのだから今回のイベントこそ参加するべきだ。スカウト達も見に来る大きなイベントなのだからチャンスだよ」と言ってくれたらしいが4人で相談した結果そのイベントに参加する事は見送った。毎年そのイベントを楽しみに見に行っていた春人もそのイベントに足を運ぶ事すらしなかった。そして、やっと路上ライブを再開したのはこの4月に入ってからだ。去年のように平日毎日路上ライブは行っておらず週に1、2回行っている程度だ。路上ライブでは楽器を使わずにアカペラで歌っているだけなので本当の意味でライブ活動をしているとは言えないのかもしれない。

去年それなりに人が集まり出していた路上ライブも何の前触れもなく突然辞めてしまったせいで以前のように人は集まってくれなくなっていた。活動休止して月日が経ちすぎたせいなのだろうと春人は思っている。しかし、中には活動を復活を待っていてくれた人達もいた事が春人には何よりも嬉しかった。

太田の言葉に春人達The Voiceのメンバーは誰も答えなかったので電話で話す相川の声だけが屋上に響いた。沈黙が続く中、楓が太田の言葉を繋いだ。

「路上ライブだけなんてもったいないよ。また楽器を使ったライブ復活してほしいな。」

沈黙が続かないようにみなみが続けた。

「だね。私も活動再開してほしいなって思ってた。太田君が撮った動画も沢山あるのにまだ動画サイトにチャンネルすら作ってないし…拓也君にこれからの活動をどうしていくのか聞いても何も答えてくれないし…」

みなみが話すのをやめてまた沈黙が続きそうになった時、太田と相川と楓以外のスマホが一斉に鳴った。



「雪乃からだ。」

スマホの液晶を見ながら姫川真希は呟いた。雪乃は自分で文字を打てない。母親に声で伝えて文字を打ってもらったのだろう。

-今日はもうリハビリで疲れちゃったから、今日もまたみんなでお見舞いに来る予定にしてたらゴメン。出来れば今日は真希ちゃん一人だけにしてほしい-

雪乃のメッセージを読んで真希は首を傾げたが龍司は、

「疲れたんならしょうがねーな。また明日顔を出すか。真希も今日はお見舞いやめとけよ。」

と単純に答えを出した。

「この文章ちょっとおかしくない?」

真希が聞くと春人とみなみは同時に、確かに。と答えたが拓也も龍司も首を傾げている。

「本当に疲れて断るんなら私一人だけオッケーにするかな?」

「まるで真希ちゃん一人を呼んでるみたいね。」と言ったみなみの言葉に拓也は、そう言われれば真希一人だけ来てくれって言ってる気がする。と言った。考えすぎじゃねーか。と龍司は言うが真希は昼休みが終われば一人でお見舞いに行く事を告げた。すると丁度昼休みが終るチャイムが響き渡った。

「あんた達は?これからどうすんの?授業今から戻っても間に合わないよ。」

「もう学校に戻る気はねぇって。雪乃のお見舞いも今日はなしだし…ルナにでも向かうか。」

龍司の言葉に男メンバーは賛成をした。

「今日みなみはルナのバイトだよね?」

真希が聞くと、うん。と答えたので真希もお見舞いが終ったらルナに顔を出す事を告げた。



いつもならお見舞いにみんなが来てくれる時間となった。

みんなというのは、拓也、龍司、真希、春人のThe Voiceのメンバーと弟子の凛とバイトがない日であればみなみと結衣が来てくれる。

みんなが病室にやって来てくれるこの時間が長谷川雪乃にとって楽しい時間だった。

しかし、今日はリハビリで疲れたという嘘の理由を伝えて真希だけが来てくれるように仕向けた。

(きっと真希ちゃんならあの文章に気が付いて一人でお見舞いに来てくれるはず)

雪乃は確信を持ってそう思っていた。

コンコンと病室のドアがノックされた。そのクセのあるノックの音で真希が来たのだと雪乃にはわかる。はぁい。と雪乃が返事をすると予想した通り真希一人だけが病室にやって来てくれた。真希の姿を見て雪乃は嬉しくなってつい笑顔が溢れた。雪乃のその笑顔を見て真希もまた笑顔になってくれるのがたまらなく嬉しかった。去年、真希には八つ当たりをして酷い言葉を沢山投げかけ一方的に理不尽な事を言って傷つけてしまった。だけど、こうやって友達でいてくれる事が何よりも雪乃は嬉しかった。真希は雪乃のベッドの椅子に座って、

「私に何か伝えたい事でもあるの?」

と聞いて来た。雪乃は上手く動かない手を振りながら言った。

「気付いてくれてありがと。でも、伝えたい事じゃなくて聞きたい事あるの。」

「他の人に聞かれたらマズい事なわけ?」

「うん。そうだよ。」

雪乃の言葉に真希は急に不安そうな表情を浮かべた。

「あのね。真希ちゃん。今月に入って路上ライブ再開したんでしょ?」

「えっ?あ、うん。」

「そしたらさ。もうすぐしたらライブハウスでの活動も再開するんだよね?」

「……わからない。」

「どうして?」

「……」

「真希ちゃん教えてくれないの?前に言ったよね?私は5人目のメンバーなんでしょ?なら理由教えてくれたっていいんじゃない?」

「…うん。そうだね……実はさ、今年の2月に私達4人で音楽スタジオで本番さながらに一度演奏をしたの。だけど、何か違うんだよね。」

「違うって何が?」

「今までと違うの……雪乃がいた時のような演奏が全然出来なかったの…それは私だけが気付いた事じゃなくて拓也も龍司も春人も気付いてた…だから、しばらく楽器を使っての練習すらしてないの。」

「だからかぁ〜。やっぱ凛ちゃんは凄いなぁ〜。」

真希は雪乃が急にバンドに関係ない凛の名前を出したので驚いた表情を見せた。

「凛?」

「そう。凛ちゃん。この前みんなの路上ライブやっている姿を見たんだって。」

「…そう。知らなかった。」

「うん。挨拶しようかって迷ったみたいだけど、凛ちゃんは4人の気持ちが伝わってきて上手くごまかせる気がしなかったから挨拶するのをやめたみたい。」

凛は特殊な耳を持っている。生で聴く音から演奏してる人や歌っている人の感情が入ってくるのだ。それはCD等からでは伝わらないらしく、あくまで生の演奏ではないと感情は入って来ないらしい。

「凛は私達の演奏からどんな思いを感じ取ったって言ってた?」

「4人が4人とも、不安や焦りで一杯だったって。」

「……さすがね。」

「去年…プロになるつもりでいたもんね…それが私の事故のせいで…柴咲音楽祭どころか練習までしなくなったもんね。ブランクが空いたせいで今まで通りの演奏出来なくなっちゃったんだね…それで不安や焦りが出て…」

「違う。プロになれなかったからとかブランク空いたからとかじゃないの。私達それで不安や焦りを感じたわけじゃないの。雪乃のピアノがあってこその私達だったんだって、私達のバンドは雪乃がいてはじめて成立するバンドだったんだって、私達それに気が付いたの。」

「それは…違うよ。私がいなくてもちゃんと真希ちゃん達は自分達の色を持ってたよ。私がいなくたって大丈夫だよ。」

「…大丈夫じゃないよ。」

「だいじょーぶ。真希ちゃん達は私がいなくても大丈夫だってきっと気付くよ。ううん。気付いてくれなきゃ私が困る。だって…私がいないから以前のような演奏が出来ないだなんて私のせいになっちゃうもん。」

「あっ…」

「ね?真希ちゃん達は大丈夫。私のせいになるような事は絶対しない。だから意地でも私がいた時よりも良い演奏を必ずしてくれる。と、私は信じてるよ。」

「…そうだね。私…遠回しに雪乃のせいにしてたのかも…雪乃本人にそんな事言わせるなんて私ダメだね…でも気付かせてくれてありがとう。」

「じゃ、本題に入るね。」

「え?これが雪乃が聞きたかった事じゃないの?」

「うん。違うよ。聞きたいことはそーだなー。まず、今年の目標は?」

「今年の目標!?うーん。そうだなぁ。去年は沢山泣いたから今年は泣かない。ついでにプロになる。」

「プロになる事がついでぇ〜。」と言って雪乃が笑ったのを見て真希もそれにつられて笑った。

「じゃ、次に聞きたい事は真希ちゃんはライブでバイオリンやサックスは使わないの?」

「うん。ギターだけでいこうと思ってるよ。」

「そう。なら考えを変えてバイオリンとサックスも演奏するべきだよ。きっとバンドにとって大きな武器になるから。」

真希が何か答える前に雪乃は次の質問に入った。

「じゃ、次ね。真希ちゃんは一体いつになったら自分の正体を明かすの?」

真希は「えっ?」と言って顔を引きつらせた。



白石凛と結衣は先ほど意気投合した飯塚を連れて喫茶ルナにやって来た。飯塚は店に入るなり「レトロでいい雰囲気ぃ〜。」と店の外見を見上げながら言ったのと同じ言葉を店内に入った時も口にしていた。

「おぉ〜!結衣!おっせーな。バイト早く入れよっ!」

龍司の声がして凛達三人はこの店で唯一窓のある席を見るとそこには龍司の他に拓也と春人と相川と太田の姿があった。

「ちょっと!龍ちゃん達どうしてもうここにいるのよっ!今日皆して学校来てなかったでしょ!」

「あぁん!?失礼な奴だな。学校にはちゃんと行ってたつーのっ!」

「嘘っ!今日の昼休み屋上いなかったもんっ!」

「ああ。昼は栄女で食ってたからな。」

「な、なんで栄女でお昼食べてんのよ…」

太田がQueenの動画に映っている十字架が栄真女学院にある礼拝堂の十字架と同じじゃないかと思い栄真女学院に4人で侵入していた事を春人が説明してくれた。

「どうして…柴校の春人くんまで一緒にいるの…」

「ま、ノリだ。ノリ。」

「ねぇ。ねぇ。この金髪の恐そうな人がお昼に結衣ちゃんが言ってた龍ちゃん?」

飯塚がこっそりと凛に聞いてきたので凛は、そうだよ。と答えた。

「私、あの赤髪の人と眼鏡の人もどっかで見た事あるかも。」

その言葉を聞いた結衣は「去年の柴咲音楽祭でチラッと会ってたよ。」と伝えて飯塚に伝えてから飯塚の紹介を拓也達にした。

「彼女、飯塚紀子さん。龍ちゃんと拓也くんと春人くんは去年の柴咲音楽祭に来てたから知ってるよね?」

今結衣に名前を呼ばれた拓也達3人ははじっと飯塚の事を見つめていたが3人ともが首を捻っていた。

「じゃ、紀子ちゃん。いつもの紹介をお願いしまぁす。」

結衣が片腕を飯塚に向けて礼をしながらそう言うと飯塚は昼休みの時のように「私はいい子ぉ〜?それとも悪い子ぉ〜?」と叫んだ。

「いい子ぉ!」と元気一杯に片腕を上げて答えたのは結衣だったが、少し遅れて拓也と春人が小さな声で「いい子ぉ」と言って腕を上げていた。その様子を見た龍司は、お前ら何してんだ?と言っていたが飯塚が、「そう。私はいい子。和装のリーダー飯塚紀子でぇ〜す。」と言ったのを聞いて龍司は「あっ!思い出した!」と叫んだ。柴咲音楽祭に来ていなかった相川と太田と店内でパイプを銜えてこちらを呆れた顔で見ていた新治郎は今何が起きているのかといった感じで呆然としていた。


凛と飯塚が奥のカウンター席に座ってカフェ・オレを飲んでいるとみなみがバイトの為にルナにやって来て笑顔で、いらっしゃいませー。と言いながら更衣室に入って行った。新治郎が結衣に「みなみちゃんも来た事だし俺は帰るわ。あとはお前達に任せた。」と伝えて帰って行くと飯塚は「結衣ちゃんはおじいちゃんにお店任されてるんだねぇ。凄いねぇ〜。」と関心していた。

その後、しばらくすると雪乃の病室に行っていた真希がやって来て拓也達は凛達が今座っているカウンター席の後ろにある6人掛けの丸テーブルの方へと移動して来た。結衣が「真希さん。真希さ〜ん。」と言って飯塚の事を覚えているかどうかをまた真希にも聞いていたが、真希も飯塚の顔を見ても覚えていなかったらしく首を捻っていた。

飯塚は結衣に言われる前に自分から「私はいい子ぉ〜?それとも悪い子ぉ〜?」と叫んだので真希は目をまん丸くして飯塚を見ていた。

「いい子ぉ!」と今回片腕を上げて答えたのは結衣だけではなかった。ここにいる拓也も龍司も春人も相川も太田もそして凛も片腕を上げて叫んでいた。その時丁度更衣室から出て来たみなみと真希の2人だけが一斉に叫ぶ凛達を見て驚いていた。

「そう。私はいい子。和装のリーダー飯塚紀子でぇ〜す。」

その言葉を聞いて真希は、あっ。と声を漏らした。みなみも、あ〜去年の。と言っていた。

「和装のメンバーはみんな東京の人らしいんだけど紀子ちゃんだけはこの街出身だったんだって。だから去年の柴咲音楽祭が行われる事も知っててメンバーに伝えて参加したんだって。」

結衣はさっき飯塚から聞いて知った事を真希達に伝えていた。

「飯塚さん。あなた達って誰かに三味線を習っててバンドを組んだの?」

「あ、はい。そうです。東京のお師匠様に三味線習ってて同じ教室のメンバーを誘ったんです。バンド活動とかそういうのはまだやってませんけど、今年から始めようかなってみんなで言ってて。あ、今年からもう一人尺八吹いてる子がメンバーに入ったんですよ。その子は東京じゃなくてこの近くに住んでて…ってそれはまあいっか、とにかく今年こそ絶対優勝してプロになりたいんです。でもそれを言ったら結衣ちゃんが今年は先輩方が出場するだろうから厳しいかもって言うんです。」

「今度、龍ちゃん達が路上ライブやってる時一緒に見に行く?」

「へぇー。路上ライブやってるんですねっ。是非行ってみたいなぁ〜。」

「凛ももちろん行くよね?」

凛が、うん。と結衣に答えた後、何故か真希はじっと凛の顔を見つめていた。



『凛ちゃんを後継者にどうだろうね?』

先ほど病室で雪乃が言ってきた言葉を姫川真希は思い出していた。

『凛なら私の代わりに…いや、私以上になってくれると思う。もし、もしも私がいなくて何かが違うって感じたままなら凛を…凛を誘ってあげてほしい。ううん。そうじゃなくたって凛を誘ってあげてほしいんだ。きっと凛ちゃんも真希ちゃん達と一緒にバンドをしたいって思っているはず。だってほら?去年凛ちゃんが作った詞に曲を付けて歌ってくれたでしょ?あの曲すっごく感動してたんだから。

それに…凛ちゃんは色々と家庭環境が悪くて大変そうだから助けてあげてほしいんだ。凛には仲間が必要なんだと思う。』

雪乃はたくさん質問をした後、最後に真希にそう告げた。凛が家庭環境が悪くて大変そうなのは真希にも少し思い当たる節はあった。


真希がじっと凛を見つめている姿に気が付いた凛は不思議そうな顔をしながら真希を見つめ返してくる。真希は急いで凛から目をそらして拓也達に言った。

「今週の日曜からブラーでの練習を再開しようと思うんだけどトオルさんどうだろうね?またお店使わせてくれるかな?」

「それなら問題ないと思う。一応連絡入れておこうか?」

拓也の問いに春人が、そうしといてもらおう。と答えた。

「ブラーでの練習を再開か。てか、今年の2月に練習したけどその時、別にスタジオ借りて練習しなくても最初っからトオルさんに頼めば良かったんだよなぁ〜。」

龍司がごもっともな答えを出したが真希はブラーで練習を始めればまたブラーでライブ活動を勧められて、勧められた通り自分達がライブ活動をしていく事を恐れていた。

(雪乃がいて当たり前になっていた私達のバンドから雪乃が抜けて普通に演奏出来るわけがない)

真希はそう恐れていた。だからあえてスタジオを借りてそこで練習をした。

(ただ練習するだけじゃなくて確かめなきゃ。雪乃がいなくなって本当に私達の演奏が違うものになってしまったのかを…)

「真希さん?今日師匠とはお話されたんですよね?」

真希達の会話が終わるのを待って凛が聞いて来た。真希は「え?あ、うん。」と曖昧な返事をした。

「雪乃は真希一人にどんな用があったんだ?」

拓也の質問に真希は「それを言ったら雪乃に私だけが呼ばれた意味がないでしょ。」と答えた。

凛は真希に聞きたい事がある様子で真希がさっき凛を見つめていたように今度は凛がじっと真希の顔を見つめてきた。凛が聞きたがっている事が何なのかを真希はわかっている。だけど真希はその話題を出す事はしなかった。

「凛も今週のブラーの練習に付き合ってくれないかな?」

「えっ!?私が?ですか?」

真希の質問に凛は驚いていた。

「そう。凛の耳で聴いてほしいの。」

言葉の意味を悟った凛は深く頷いた。

「…はい。わかりました。」

「それから太田君。そろそろ動画サイトにチャンネル作ろうと思うんだけど今まで撮影した動画を送ってもらえないかな?」

「え?あ、いいよ。でも姫川さん動画編集とか出来るの?もし良かったら僕がやるけど?」

「大丈夫。時間は掛かるだろうけど出来ない事はないから。」

「そう…わかった。」

太田も凛同様にさっきから真希に何かを聞きたそうにじっと真希を見つめている事には気が付いていたが真希はあえて太田とは目を合わさない様にしていた。

「みんなもそろそろ動画サイト開設に向けて動き出しても大丈夫だよね?」

「動画の事はフトダに頼んだ方が良いんじゃないのか?」

「大丈夫。こういう事は自分達でやらなきゃ。あ、でも太田君には引き続き撮影をお願いしたいけど。いいかな?」

「うん。いつでも撮影しに行くよ。」

そう言った太田はやはりじっと真希を見つめ何かを聞きたそうにしていた。


     *


みんなが帰った後も佐倉みなみのバイトが終るまで拓也は一人ルナに残ってくれていた。

帰宅中、みなみの自転車を押しながら拓也が言った。

「みなみ?仕事中ずっと手を摩ってたけどどうしたの?」

「え?私、手を擦ってたの?自分でも気が付かなかったよ。」

みなみは最近手や足のむくみがひどい。きっと病気のせいなのだと思う。むくみを取ろうと最近は家で手を擦っているのがバイト中でも無意識に出てしまっていたようだ。

(拓也君の前では気を付けないと…)

「最近調子は?」

「すこぶる良好!」とみなみは腕を上げて答えた。

「飯塚さんの自己紹介の時に答える時みたいだ。」

「いい子ぉ〜ってやつ!?ホントだねっ。」

みなみは笑顔一杯にして笑ったが、拓也の笑顔は硬かった。

「いつか嘘はバレるんだからな。」

真剣な顔で見つめて来る拓也にみなみはまた精一杯の笑顔で答えた。

「嘘なんてないもぉ〜ん。」

おどけて言うみなみの言葉に安心してかこの時の拓也の笑顔には硬さはなかった。

(ごめんね拓也君。ただ私はむくみが出始めた事には気付いてほしくないの。だから…どうせバレる事だろうけど、少しの間だけでも秘密にさせて…)


10


2015年4月26日(日) 


23時。橘拓也はブラーでのバイトの後、2階にある更衣室で相川と共に着替えていた。

「橘?俺さ、お前らに秘密にしていた事があるんだよ。」

「な、なんだよ?と、唐突に。」

「実は俺さ…智美と……」

「付き合ってるんだろ。」

「なっ!?なんでお前知ってんだよっ!俺まだ誰にも言ってねーんだけど…」

(誰にも言ってないだ?今まで散々恋人出来たアピールしてたくせに…)

「念…お前は言ってないつもりでもこっちはみんな気付いてて気付いてないフリをしてただけだ。」

「みんなって?ま、まさかリュージ達も気付いてるのかっ!?」

「ああ。みんな知ってる。五十嵐先輩からみなみや真希に伝わって俺達に伝わって来たからな。」

「なぁにぃ〜!智美の奴…浮かれやがって。」

そう言う相川の表情は嬉しそうだ。

「で、今日も五十嵐先輩とは会ってたのか?」

「ああ。バイトに入るまでデートだった。橘は?」

「俺も。」

「そっか。みなみの体調はどうなんだよ?」

相川は真剣な眼差しで聞いて来た。拓也は浮かない表情を浮かべた。

「本人は絶好調って言ってるけど、どうかな…」

「どうかなって?」

「時々だけどしんどそうにしてる。そのしんどそうな顔を見せない様にしているのもわかる…」

「そっか…みなみの奴、橘の前では体調悪くても正直に言いそうにないもんな。」

「ああ…。」

「ま、あんま敏感になりすぎるのも良くねぇし考え過ぎるなよ。じゃ、俺帰るわ。」

「あ、ああ。おつかれ。」

相川が帰った後、しばらく拓也は椅子に座りみなみの事を考えていた。

(念が言うようにみなみは俺には体調が悪くても隠すところがある。もっと正直に言ってくれたらいいのになぁ…)

次に拓也は今日の練習に真希がどうして凛を誘ったのかを少し考えたが、それはこの後すぐにわかる事かと結論づけて立ち上がった。

拓也が1階に降りると丁度春人が店に入ろうとしていた。春人と共に店内に入ると間宮の他に凛と真希の姿もあったが龍司の姿はまだない。

「結衣ちゃんの同級生の白石凛です。前に何度かここに入った事あるんです。」

凛が間宮に自己紹介をしている会話が聞こえてきた。

「凛は雪乃の弟子なのよ。」

「雪乃の?それなら何か弾いてもらいたいなぁ。」

間宮のその言葉に拓也が、それいいですね。と賛同した。間宮と真希と凛は拓也と春人が店に入っていた事にそこで気が付いた。

「実は私が凛を誘ったのも何か演奏をしてもらいたいなっていう気持ちがあったのよ。」

真希はそう言って凛の腕を掴みステージに上がった。そして、茶色いアップライトピアノの前に向かうと凛は静かにピアノ椅子に座った。真希はステージを降り観客席に座った。入口付近で立っていた拓也と春人も真希が座る席へと移動した。移動している途中で春人は拓也の耳元で囁いた。

「タク。あの子のピアノよく聴いといて。」

「え?」

「天才長谷川雪乃よりも天才と言われていた子だから。」

「雪乃の弟子なのに!?」

「そう。ピアノコンクールで雪乃は凛に勝った事がない。」

「え!?どうしてそれをハルが知ってるんだ?」

「楓に聞いたからね。ま、凛が小学生の時の話で中学生になってからはコンクールに出場していないみたいだから今雪乃以上のレベルには達しているとは考えられな……」

凛がピアノを弾き出して春人は途中で言葉を失い立ち止まった。

拓也も真希がいる席にまで辿り着く前に足が止まりその場で立ち尽くし凛の演奏を聴いた。

(なんだ!?なんだこの早さ!?)

目を見開いたまま凛を見つめる春人が呟いた。

「この曲は…マゼッパ……こんな悪魔のように難しい曲を選ぶとは…だけど、型にはまらない感じは師匠譲り、か…」

凛の演奏が終って拓也と春人は拍手をしながらステージに近づいた。真希も立ち上がり拍手を始めた時、いつから店に入っていたのかわからない龍司の「ブラボー!」という声が店の入口付近から聞こえてきて拓也達は振り返ると間宮も拍手をしている姿が見えた。

凛はピアノ椅子に座ったまま俯き「私は師匠の代わりにはなれません。」と言った。拓也は凛が何を言っているのかわからなくて真希を見つめた。

「雪乃の代わりなんていないのはわかってるし、凛に雪乃の代わりになってほしいとも思ってないよ。私は単純に凛がどれほどのピアニストなのかを知りたかっただけ。まあ、実は雪乃に凛を後継者にどうだろうねとは言われたんだけどね。」

「あっ!だから今日、凛をここへ?」と拓也が真希に聞くと春人は「雪乃の代わりのピアニストを凛に頼むつもりならヒメからまず俺達に相談があるはずだ。ヒメがそれをしなかったって事は他に凛を呼んだ理由があるんだろう?」と拓也に伝えた。

「私が今日凛を呼んだのは私達の演奏を聴いてほしかったから。凛はこの前路上ライブを見てくれてたんでしょ?雪乃から聞いた。その時、私達は不安や焦りで一杯だったって感じたんでしょ?」

凛は答えにくそうに、はい。と答えた。

「それなら楽器を演奏している時の私達の感情も教えてほしいなって思ったの。」

「そうだったんですね。私はてっきり師匠の代わりにピアニストに誘われるんじゃないかなって思ってしまってて。でもそういう事なら付き合います。」

「ありがと。」

いつの間にか拓也の横に来ていた龍司が拓也に囁いた。

「あいつ…あれだけの才能を持ってながらどうしてコンクール出てねーんだよ?」

「それを俺に聞かれても…」

「確かに変だね。雪乃からピアノを教わっている以外どこかで演奏している風でもないし。」

春人が呟いた時、ステージに上がった真希が「あんた達何話してんの?凛に演奏聴いてもらうよ。」と拓也達にもステージに上がるよう指示した。さっきまで真希が座っていた席に凛が座り、その横に間宮が腰をおろす。間宮は真剣な表情を浮かべて拓也達を見つめたので拓也は一気に緊張しだした。まるで本番のステージに立つつもりで拓也は雪乃から教えてもらった魔法の言葉を呟いた。

「俺には出来る。俺には出来る。」


■■■■■


憂鬱


拓 ホーミー

くだらないけど まだここにいたい

なにかを期待するわけでもないけど ただここにいたい

くだらない日々 だけどそれも悪くない


ここにいたところでなにも変わらないだろうけど

ここにいる方がまし


☆変わらない日々 くだらない日々

特別な事なんて何も起こりはしない

けど それでも悪くはないさ


※寂しかろうが辛かろうがここにいる

誰かが僕の壁を壊そうとする

ダメだ やめろ 舌打ちした後唾を吐く チッ


つまらないけど まだここにいたい

忘れたい さようなら もうここから出たくはない

つまらない日々 だけどそれも悪くはないさ


ここにいればなにもかも忘れられる

忘れられないよりかはマシ 


☆ repeat

※ repeat


ああ もう、つまらないけどこれでいい

夜の闇だけがただ欲しい


※ repeat


■■■■■


今回歌った曲は『憂鬱』というタイトルの少し影のあるジャズテイストな曲調で春人が作曲を担当し真希が作詞をした。拓也が地声と女性の歌声を同時に出して歌うというモンゴルの伝統的な歌唱法ホーミーを思わせる特殊な歌い方での曲だった。拓也達が演奏を終えると凛と間宮の2人が客席から拍手を送ってくれた。

「どうだった?」

真希の質問に少し間を開けて凛が答えた。

「なんか…今までの曲調とは違ってカッコいいです。橘さんが以前よりも男性と女性の声をはっきりと同時に出して歌っているのが、もうホント不思議な感覚になります。」

歌い終わった拓也はぜぇぜぇと呼吸をしながら、ありがとう。と感謝の言葉を述べていた。

「ちょっと凛。私は別に曲の感想を聞いたわけじゃないの。」

「真希がフォークギターってのがまた格好良さを醸し出してんだろ?」

「龍司も話を広げなくてもいいから。で、凛。どう感じたの?」

「そうですね…うん。路上ライブで感じたような不安や焦りで一杯だって感じはなかったです。特に真希さんの演奏は自信に満ち溢れていて、それが橘さん達にも伝わった感じはしました。でも…」

「でも?」

「この曲にピアノが入ればいいのになって、みんなから感じました。」

真希達4人は黙り込んだ。凛が言う様に全員が演奏をしながらそう思っていた事は明らかだった。随分と沈黙が続いた後、真希は「…そう。」と答えた。


11


練習が終るまで白石凛はThe Voiceの練習を見ていた。凛が曲を聴いてどう思ったのかを伝えた後、真希は凛にもう遅いから帰る様に伝えたが凛はまだ練習を見ていたいと答えた。練習を見ていたいと言った言葉に嘘はないがその他に凛は家に帰りたくない理由があった。

(あんな人がいる場所に帰りたくないな…)

そう思うのは何度目だろうか。いや、きっと凛は毎日そう思っている。

拓也達が練習を終えたのは深夜の1時をまわった頃だった。

「去年再婚されたのよね?」

練習後、唐突に真希が凛に聞いて来た。

「え!?あ、母ですか?そうです。」

「家はどっちの方角?」

「途中までは真希さんの家の方になります。」

「そっか。じゃ一緒にちょっと歩いて帰ろっか。」

真希がそう言ったので、帰りの方角が同じ拓也と春人が送って行くよ。と言ったが真希はそれを断っていた。

帰宅途中に真希はコンビニに入ろうと言って凛にジュースを買ってくれた。ジュースを飲みながら歩いていると真希は「お母さんが再婚された方…白石さんってどんな人?」と俯きながら聞いて来た。

「…どうしてそんな事聞くんですか?師匠から何か聞いたんですか?」

「ちょっとだけでね。でも実は私前から気になってたのよ。その白石さんって人の事。」

「あんな奴…」

凛は激しい口調でそう言った。

「少しでいい。その人の事教えてくれない?」

「どうして…真希さんはあいつの事を気になっていたんですか?」

「私の母親の旧姓が白石なの。お母さんには弟がいてね。その人が…いや、そいつが去年結婚したらしいって噂を聞いてさ。その時期が凛の名字が変わった頃と同じ時期だったから嫌な予感がして…」

「その人、真希さんの叔父さんなんですよね?どうして結婚された事も噂で聞く程度だったんですか?」

「そいつ。私がギターを始めるきっかけの人だったんだけど…簡単に言えばあいつロリコンだったのよ。私があいつからギターを教えてもらってる時、危険な目に遭いかけたんだ。だからうちの親も縁を切ったの。」

その言葉を聞いた凛は急に寒気がして体が震え始めた。その場に立ち止まり自分の体を両手で抱きかかえる様にして摩った。そして、凛は震える声で聞いた。

「そ、その人の…な、名前は?」

「白石辰巳(たつみ)。」

凛は崩れ落ちる様にその場にしゃがみ込んだ。何かを悟った真希は優しく凛の背中を擦った。

「凛?あなたが苦しんで誰にも言えずにいる事、全部私に話してくれない?」


     *


間宮トオルは真希と凛が帰った後しばらくしてから拓也達と共にブラーを出た。ブラーを出ると龍司はバイクにまたがり間宮に言った。

「結局今日は最後までトオルさん付き合ってくれたけど俺てっきり黒崎(くろさき)さんでも来るのかと思ってたよ。」

沙耶(さや)は暫くここに来るのは無理かもな。」

「ああ、確か黒崎さんの事務所にひなさん達入ったんですよね?」

拓也が間宮に聞くと「そうだ。」と間宮は答えた。

「トオルさんはLOVELESSのプロデューサーになるんですか?」

「なんだよ春人。お前、沙耶からそんな事も聞いたのか?」

「いえ。でもひな達や黒崎さんがトオルさんをプロデューサーに迎えたいと思っているのは大体知っていたんで。」

「沙耶から正式に頼まれたよ。でも、俺はプロデューサーに戻る気はないって断った。」

「え、そうなんですか!?」

「なぁにタクは嬉しそうに言ってんだよ。」

「うっさいなぁ。」

「そうだ。お前らにびっくりする事教えてやるよ。LOVELESSのプロデューサーは沙耶がするらしい。ド素人のあいつにプロデューサー業が勤まるのかなぁ。」

間宮は大笑いしながら言ったが内心は黒崎の事を応援していた。

龍司がヘルメットを被る前に間宮は「バイクで事故んなよ。」と告げた。龍司はエンジンをかけ「大丈夫っスよ。」と答えた後に「トオルさん顔、怖いっすよ。」と付け加えた。

「バイク乗る時は事故れば死ぬと思って乗れよ。」

「そんな大げさなぁ。トオルさんバイク乗った事ないんスかぁ?そんな事いちいち考えてバイク乗る奴いないっスよ。」

龍司はヘルメットを被り走り出した。あっという間に遠くに走り去って行く龍司のバイクを見送っていると間宮は突然目眩に襲われ体がふらつき始めた。危うく倒れそうになった体を支えてくれたのは拓也だった。

「大丈夫ですか?トオルさん少し疲れてるんじゃ。」

間宮は片手で頭を抑えながら答えた。

「あ、ああ。そうだな…少し働き過ぎているのかもな…」

「ハルの病院に行きますか?ハル今からでも診察してもらえるよな?」

「ああ。もちろん。一度検査してもらいますか?」

「大丈夫。大丈夫。少し目眩がしただけだ。そうだ。2人とも送って行くよ。」

拓也も春人もあまりにも不安そうな表情を浮かべて間宮の車に乗り込んで来るので間宮は車内でずっと他愛もない話を続けて大丈夫だとアピールをした。

2人を無事自宅に送り届けた後、信号待ちをしている間、間宮はハンドルに頭を付けて先ほどの凛の演奏を思い出していた。

(また凄いのが現れたなぁ…ピアニスト、か…)

間宮は高校2年の冬を思い出した。ピアノを担当していた黒崎が急にバンドを脱退すると言い出した。当時付き合っていたベースの吉田聡(よしださとし)と別れた事がバンドを脱退する原因だった。ボーカルの相沢裕紀(あいざわゆうき)もドラムの奥田海(おくだかい)ももちろん間宮も黒崎が脱退しないように引き止めたが黒崎の考えは揺るがずバンドを去って行った。

詳しい原因を探ると吉田は黒崎の他にもう一人恋人を作り二股をかけていた事がわかった。それに気付いた黒崎は吉田を追い詰め、浮気相手を呼び出し3人で話し合いをしたらしい。吉田は高校3年生にして人生最大の修羅場を経験していた。

(沙耶が高校3年の時にバンドを抜けて…それから…あいつがまたバンドに戻って来たのはいつの頃だったかな…?)

ひかりが亡くなった日に近づく程、ひかり以外の間宮の記憶は曖昧になっている。

間宮がふと顔を上げると信号機が今まさに黄色から赤色に変わったところだった。

(しまった…何度青信号を見逃してしまっていたのだろう?)



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今、想う


1月1日



彼らからピアニストが消えた。

バンド解散という最悪の状況だけは避けられたけど……彼らはピアニストを失ってから路上で歌う事もライブハウスでの演奏もやめた。

路上ライブに毎回足を運んでくれていた人達は彼らが突如現れなくなってどう思っているのだろうか?

ライブ活動は再開されるのだろうか?

このまま自然消滅してしまうのだろうか?


また彼らの演奏を聴きたい。


彼らは…これからどうなっていくのだろう?

彼女は…どうなっていくのだろう?

そして…私は?

先が見えない事が改めて恐ろしいと感じた。



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