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たとえ君が学園一の美少女だろうと、俺は君を好きにはならない  作者: 速水 雄二
第2章 東雲零斗は振り向かない。
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東雲零斗と霧ノ宮麗香 接触編①

「はぁ…………」

「ん……?どうした、零斗。朝からそんな大きなため息をついて?」

「お前は、よくもまぁ、ぬけぬけとそんなことを言えるな。あの後、どれだけ苦労したと思っていやがる……」

「いや、誠に申し訳ない」


 幸仁は、顔の前で手を合わせると軽く頭を下げた。

 しかし、その声色から感じられる反省の色は皆無である。

 というか、幸仁の声が少し枯れているのが気になる。

 さてはこいつ、昨日渡した雑誌を寮で読みながら発狂してたな……。


「一応言っとくが、この貸しはでかいぞ……」


 交換条件のことを忘れたとは言わせないよう、俺は幸仁に釘を刺す。


「……ギクっ」


 4月9日金曜日。HR(ホームルーム)が始まるまでのわずかな時間、俺は幸仁と机をまたぐようにしてだべっていた。

 まぁこれがいつもの日課で、ここに時折、霧ノ宮が入ったりする。

 ちなみに、今日から俺たちの学校では通常授業が始まるのだが、それ以外にも控えているイベントが存在している。


 ガラガラ、とドアが開き担任の教諭である日比谷嘉文(ひびや よしふみ)が教室に入ってきた。

 ーーーーそこまでは、いつも通りだ。ただ、ここからが違う。


「おいっ……!嘉文の後ろ、ちょっと見てみろよ?……あの子、もしかして夜乃美園じゃね?」

「いやそんなわけ……って、えっ。マジかよ!?」


 ほら、モブたちが騒ぎ始めただろ……?

 いや、それにしてもここまでテンプレ通りの反応をされると、かえってこっちの手抜きを疑われるからやめてもらいたいが。

 そう、この秀恵学園2年A組に一人、女子生徒が割り当てられることになったのだ。


「……あはは。えーと、椎菜夜宵です。一応、今日からこのクラスでお世話になります。残り2年間ですが、よろしくお願いします、」

「…………」


 刹那、教室の空気がほんのわずか凍りつき。

 そして、


『うおぉぉぉ〜〜〜〜〜!!』


 漢達の咆哮がこの第2校舎全体に響き渡った。


「全くもって、煩わしい」


 忘れている人のために、もう一度言おう。

           彼女、椎菜夜宵は国民的アイドルである。


◆   ◇   ◆


「いやー、生みそのん。すげぇー可愛いな〜〜」

「はいはい、そうですね……」


 昼休み。

 俺と幸仁は(学年は異なるが)いつもと同じように学食の、カレーライス、360円を食していた。


 必要のない情報かもしれないが、生みそのんとは、生で見るみそのんのことである。

 幸仁曰く、彼女の武道館でのファーストライブで『今日も生みそのんに会いに来てくれてありがとう』と言ったことがきっかけらしい。


「……お前、まだみそのんの可愛さがまだ分かってないな?彼女は、歌、容姿そして、性格。あらゆる点において他のアイドルを凌駕しているんだぞ?それが如何程(いかほど)のものか零斗はもっと知るべきだ」

「……ははは。昨日、十分に堪能したよ」

「それは昨日聞いた……、ただそれだけの事で生みそのんを知った気になるのは少し世間を知らなすぎだ」


 幸仁が俺に、呆れたような目を向ける。

 いや、俺はお前と別れた後また、彼女と会ってかなりディープな話をしたと思うのだが。

 まぁこれを言ったところで、誰も得しないだろう。

 いや、マジで。



「そういえば、幸仁お前。HRの時に、椎菜を見たにも関わらず全く声をあげてなかったな。俺はてっきりお前が1番騒ぎ立てるかと思っていたぞ……」

「そうだ、確かに俺は叫ばなかった」

「……」

「あの時は、……な」


 あの時は、という言い方から推察するに椎菜を見た後に別の場所へ移動して、叫んでいたのだろうか。


「いいや違うぞ、零斗。そうじゃない」


 幸仁が俺の心を覗き見たかのような口調で小馬鹿にする。

 だが、俺はもう心が読まれていることに驚く気はない。


「じゃあなんだってんだよ……」

「実は俺は、昨晩。…………今日の分も寮で発狂してたんだ」

「……っげ」

「さらに、何百回もイメトレして、彼女がクラスに現れてもそこらのモブのように発狂しないよう、訓練をしたんだぜっ……!」


 さすが、想像の遥か上をゆく男。全くの予想外な回答だった。

 

 って、昨日やけに外から誰かの叫喚が聞こえてくると思ったら、お前の声だったのかよ。


「『モブらない、それ即ち主人公』だ!!」

「いや、意味わからん。というか、そんな血生臭い努力をしてまで、主人公を目指すあたりが実に、モブらしぃぞ……」


 てか、『モブらない』ってなんだ。少し前で言うところの『タピる』みたいなものか……?


「ねぇ、ちょっと。話してばっか、いるんだったらその席あけてくれない?」


 俺の背後からそんな声が聞こえた。

 きっと、話してばっかで食べてないというのは俺たちのことだろう。


「……すまん、今から食べ始めようとしていたんだ」


 とりあえず、俺の特技の一つである、便宜上の謝罪をしながら、振り返る。

 するとそこには、見知った二人の女子生徒が肩を並べるようにして、俺たちの方を向いていた。


「……何をやってんだ、霧ノ宮」

「え、何って、あんたをちょっとからかっただけじゃん……」

「……ったくはた迷惑な」


 謝り損をしてしまったじゃないか。

 まぁもともと、誠意を込めて謝っていたわけじゃないのだが。

 そしてもう一人、


「な、ななぁな、生みそのん!?」


 幸仁が、素っ頓狂な声をあげる。

 確かに、自分の今まで応援して来たアイドルが目の前に現れたら、誰だってこんな風になるだろう。

 まぁ、後でそのことを死ぬほど後悔することになるんだが。


「どうも、生みそのんです……あはは」

「喋った!??」


 引き気味な笑みを浮かべる椎菜に対しての幸仁のリアクションがすごい。

 というか幸仁、昨日の夜に何百回も繰り返したという、あのイメトレはどうした?

 お前今、完全にモブってるぞ。


「……で、どうして椎菜がここにいるんだ?」


 俺は隣の席に座った、霧ノ宮に尋ねる。


「まぁ、特に理由はないけど、教室でみんなに絡まれているのが窮屈そうだったから?とりあえず、連れて来たって感じ」

「…………、なんかお前って、変なところで気が利くよな」

「……なんかその言い方うざい」

「さいですか」


 俺は、霧ノ宮に向いていた視線を外し、椎菜と幸仁に向ける。

 するとそこでは、仲良く二人が会話をしているではないか。

 さすが幸仁。もう、すでにその口調から、緊張感など窺えない。というか、今の彼は完全に爽やかイケメンのそれである。


「…………ん?」


 そんな光景を目にして俺は一つ、ある疑問が湧いた。

 あれ、幸仁って彼女いるよな。

 そう、彼。天舞幸仁には彼女がいる。

 霧ノ宮麗華という正真正銘の彼女が。


「なぁ、霧ノ宮、幸仁があんなにデレデレしてるけど、お前はいいんか?」


 恐る恐るその質問を投げかけるも、


「まぁ、いいんじゃない?」


 まぁ、いいんじゃない?って

 霧ノ宮は、購買メニューの一つである夕張メロンパフェのスプーンを咥えながら、その様子を眺めているだけだった。

 というか、いつ買ったんだよ。


「だって私、幸仁が夜乃美園のことを好きだって知ってるし、彼の好きな様にすればいいんじゃない?」

「は、アイドルオタクってこと、知ってたのか……?」

「え……?何言ってんの、そんなの初めから知ってたし。だって結構有名な話でしょ?えっ、それとも何……。そのことを私が気付いてないと思ってたの?うわっ……鈍感」

「マジか」


 まさか、そのことを知っていたとは。

 それだったら昨日の放課後じゃなくても限定雑誌を渡せたじゃねぇか。

 俺が勝手に勘違いをしたにしろ、言ってくれれば、よかったものを。


「……ちなみに聞くが、それについてどう思った?」

「それって……?」

「幸仁がアイドルオタクってことについて、」


 俺はなんとなく、自分の彼氏が、他の女性を熱狂的に愛しているというちょっと変わった状況の彼女側の気持ちに興味があった。


「え、そりゃもう。この人しかいないなーって思ったけど……?」

「…………は?」


 霧ノ宮のやつ。

 何を言い出すかと思えば、なるほど。

 ”何かに熱中している人が好きです系”女子だったか。

 それは流石の俺も見抜けなかったぞ。

 って、

 んな、アホなことがあるか。


「まぁでも、もう別れたんだけどねー」

「へぇー」


 おい。さらっと、仰天発言をするな。


「まさか、幸仁の応援しているアイドルの夜乃美園?って子がマジで学園に来ちゃうとはね、流石に想定外……」

「……だな」


 なんかもう、急展開すぎて、話についていけないぞ。

 というか、別れたってマジなのか……?


「…………あっ、そうだ」

「……?」


 霧ノ宮が何かを思いついたかの様に、パフェに向いていた視線を俺によこす。


「ねぇ零斗。……試しに私と付き合わない??」

この度は、東雲零斗と霧ノ宮麗香 接触編①を読んでいただき、ありがとうございます。

まさか、霧ノ宮麗香が主人公に告白するなんて、書き始めには思いもしませんでした。

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