東雲零斗と椎菜夜宵 邂逅編②
この話は章の都合上、ものすごく短くなっています。
どうぞ、読む前にご承知ください。
「ほら……」
「ありがと」
俺はすぐそこの自動販売機で買った、『ほっと、ゆずれもん』という商品を椎名が腰掛けているベンチに置く。
もうすでに春だというのにその自販機のメニューは全部冬物で、ほっとゆずれもんの他にもコーンスープや、お汁粉などの商品があった。
「……で、さっきの話はどういうことなんだ?椎菜のせいで誰かが死んだ、ってやつは……」
彼女の隣に座るとそんなことを尋ねる。
俺たちはあのまま長時間立ち話をするのは、得策ではないと判断したため、寮付近の公園まで移動していた。
「誤解されないように言っておくけど、私が直接その子を殺したわけじゃないの……」
まぁ、そうだろうな。
誰がどう見ても、この椎菜夜宵という子が人を殺せるとは思わないだろう。
「ただ……私があの時あの場所にさえいなければ、あの子は助かっていたんじゃないかな……なんて」
「……どういう意味だ?」
「そののままの意味。私がその時、その場所を通ってさえいなければ、あの子が命を落とす事もなければ、その遺族が悲しんでいる姿を見る事もなかった……」
「その子っていうのは椎名の知り合いだったのか……?」
椎菜は、俺の質問に対して首を横に振る。
「……名前も知らない女の子」
「…………ん?だったら、そんなに椎菜が思い悩む必要はないだろ」
「……、うん。そうかもしれない。でも……」
彼女は、自分の足元を見ながら言葉を続ける。
「……見ちゃったんだ。その子の家族が泣いている……その姿を」
「っ……」
かける言葉が見つからなかった。
きっとその当時の彼女からしたら、その様子はあまりにも受け入れがたい現実だったのだろう。
「……まぁ、そんなわけ」
そういうと彼女は立ち上がり、数歩ほど前進する。
「……というわけで、私はみんなに、優しい人間になろうと決めたの。その子の死を無駄にしないために。そして、」
そして、
彼女は振り返って俺に告げる。
満面の笑顔とともに。
「私に道を示してくれたあなたに、笑顔になってもらうためにも……ね?」
この度は、東雲零斗と椎菜夜宵②を読んでいただきありがとうございます。
もし美少女に『私に道を示してくれたあなたに、笑顔になってもらうためにも……ね?』なんて、言われたら悔いは残らないのではないでしょうか?ー残りません。