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たとえ君が学園一の美少女だろうと、俺は君を好きにはならない  作者: 速水 雄二
第1章 椎菜夜宵は国民的アイドルである。
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入学式と編入生②

 私立秀恵(しゅうけい)学園は、日本の才能ある中・高校生が最も多く在籍する学校である。

 その所以としてまず挙がるのは、その特徴的な入試制度だ。


 『Organization Value of Ability(通称:OVA)』世界で初めて導入されたその制度は、日本だけでなく世界各国で議論の的になった。

 なぜなら、このOVAという制度は才能がある人間にのみチャンスが与えられるべきだと主張するものだったからだ。

 にも関わらず、この制度が廃止されていないことには理由がある。

 それは日本政府がこの政策に対し非常に協力的だったからだ。

 現在この、日本という国は専門分野に進める人材が非常に欠けている。

 その点、各々の才能を活かし、それぞれの分野に改革をもたらすほどの人材にまで成長させるという秀恵学園の方針が、日本国にとって非常に魅力的に映ったのだろう。


 そしてOVAが実装されてから、実に13年の時が流れた。


 極論を言おう。

 今、この学園にモブキャラなんて存在しない。

 全ての生徒が何かしらの才能を秘めていて、それをのばすためにここにいる。

 しかしそれは逆説的に、才能以外のものはこの学園ではあまり必要とされないことを意味していた。


 その現状を打破するために、10年前に実装された二つ目の精度が『評価別格差制度』である。

 半年に一度特殊実技試験というものが行われ、その結果と普段の生活態度によって、毎月支給される個人費用と支給品が変わってくるというものだ。

 個人費用とは才能をより効率的にのばすために必要な資金を先行投資する制度で、生徒一人につき平均して毎月15万から20万。

 才能がより希少かつ秀でている場合には、50万ほど支給される場合もある。


 これで、教室での会話で霧ノ宮が俺の月別支給額が500円と言った時、驚いていたのも頷けるだろう。

 俺は才能を伸ばす学園にいるにも関わらず、特殊実技試験や提出物などを疎かに扱った。その報いが、評価別格差制度で顕著に現れていたというわけだ。


「ん……?」


 俺は作文を提出し入学式の会場である第3体育館に向かおうとしていた。

 そんなとき、中央広場でたたずむ一人の女子生徒を見かけた。

 後ろ姿しか見えないが、なんとなく察しはつく。

 迷子か。


 言わずとも分かるだろうが、この学校の敷地面積は異常なまでに広大だ。

 単純に普通の都立高校と比べるとしたら、その倍以上は広さがある。


 また、体育館は第1から第4体育館まで、校舎も中学・高校と一つずつ、計2棟が点在いていて、それらはこの中央広場を円形で囲むように設計されている。


「……」


 別に彼女を助けてあげる義理はないが、行き先が同じだというのに、わざわざ置いていくというもの引け目を感じる。


「……おい」


 あ、今考えたら、いきなり話しかけるなんてやめといた方が良かったんじゃないか?というか、本当に新入生なのか?

 心の中で、自分のしてしまった行為をぼやく。

 まぁだからって、話しかけてしまったのに逃げるというのもナンセンスというやつだ。ここは先輩の威厳を持って接しなくては。


「え、私……?」

「っ……」


 透き通るような優しい声だった。

 遠目だったのに加え、後ろ姿しか見えていなかったため、分からなかったが、その顔立ちは間違いなく美形だし、きめ細かい肌や長く白い髪はそこらの女子とは明らかに別次元。

 そして、なんと言っても、彼女からはいい香りがした。


「いや、まぁ。…………」

「……?」

「新入生か……?」


 なんか妙に緊張して、言葉に詰まってしまった。

 そんな俺の様子を彼女はまじまじと見つめる。

 頼むからこれ以上、俺の醜態を凝視しないでもらいたい。

 それにしても、彼女とどこかで、会ったことがある気がするのは気のせいだろうか。


「……え、あ、はい。二年生です」

「…………へ?」

「あ……二年生の新入生です。あれ、伝わってないかな……?」


 二年生なのに、新入生?ということは転入生ということだろうか。

 俺は中学校の時からこの学校に通っているが、今まで編入なんて話、一度も聞いたこともなかった。


「まぁ、なんとなくは理解した。俺も君と同じ二年生だ。だからその敬語は外してくれ……」


 同じと言ってしまっては、なんだが、中高一貫校だから中学生ということもあり得るのか。

 そんなことを考えたが、彼女の成熟したスタイル(特に部位の指定はしない)を見て高校生だと察しがついた。


「え、そうなの?うーん、……ごめんね?」

「……いや、別に謝ることじゃないだろ」


 妙に力が抜けてしまうのは彼女のそんな性格からくる何かなのだろうか。

 彼女の態度を見ていると、なんだかこっちまで悪く思えてくる。


「それよりも君、あー、……えーっと名前……」


 彼女のことを呼称で呼ぼうとしたが、そもそも俺は彼女の名前を知らなかった。


「名前?あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はこの学校に編入することになった椎菜夜宵(しいな やよい)。この学校にはアイドルとしての才化が認められて、編入が決まった感じかな……」


 俺は椎菜の話を聞きながら、間違いなくこの学園で有名になるだろう、なんて少し先のことを考えていた。

 ちなみにエビデンスとして、彼女の容貌は常人のそれを遥かに超えていることや、彼女の笑顔はには人の胸を打つものがあること、性格も一見して良さそうなことが挙げられる。

 きっと、こんな微笑みを向けられた日には、全国の男子高校生はひとたまりもないだろう。


 アイドルということは後天的な才能ということか。


 この学園に入学できる中高生の条件として『才能を持っている』ということが挙げられるが、厳密にいうと、そうじゃない。

 『才能と呼べるものを持っている』というのが正しい解釈だ。

 つまり彼女の場合は、生まれながらのポテンシャルに、アイドルとしての活躍というステータスが追加されての入学なのだろう。


「って?……アイドル……!?」


 彼女の顔を間近で見た時に感じていた既視感が、妙に晴れた。


『頼む、零斗。風邪で行けなくなった夜乃美園(やの みその)(通称:みそのん)のライブに俺の代わりに行って、数量限定写真集を買ってきてくれ……!!お礼は取引の日に要相談ということで、頼む!!零斗の永遠の親友幸仁より』


 俺は、春休み最終週の金曜日に、幸仁から唐突に、そんなメールを受け取った。

 別に、春休みに特に用事があるわけでもない俺は、幸仁の願いを聞いてやることにした。

 もちろん、それなりのことを幸仁には後で要求するつもりだ。

 というか、本当はさっき教室でその話をしようと考えていたのだが、霧ノ宮がいたこともあって言い出せずに終わってしまった、あの時の本題がこれだ。

 まぁ、霧ノ宮が聞くといろいろ面倒だからな。


「そう、アイドル。活動名は、夜乃美園で、何年目だろ……十年くらいかな?今も絶賛活動中って感じだね」


 やっぱり俺が先月行ったライブはこの子のだったのか。

 俺はあの日、会場に入ったものの、席も後ろの方だったし、お目当ての本も手に入れたのでライブを見ずに帰ってしまっていた。


「……なんか、悪いことをしたな」

「え……?」

「ああ、いや。こっちの話だ」


 まさか、その当の本人が転向してくるなんて思いも寄らなかったんだ。許してくれ。

 まぁそんな、プチ謝罪会見を頭の中でしていると、チャイムが鳴り始めた。

 それは、入学式の訪れを知らせるもので。


「……あ、完全に忘れてた」


 学校の外壁についた、大きな時計を見るとその針は8時55分を指している。

 まずいな、ここからだと5分はかかる、

 うん、サボるか。

 ここで真っ先に諦めるという選択肢が浮かぶあたり、俺らしいな。


「……ところで、椎菜?、は入学式に出るのか?」

「うんん。編入案内の紙によると第2校舎3階の職員室って場所に行けばいいと思う…、多分……」

「多分って……」


 というかここから第2校舎って1番離れてるぞ?どれだけ方向音痴なんだよ。


「……どうせなら、俺が連れて行ってやるよ」

「え……?」

「あぁ……いや、別に特に深い意味はない。ただ、どうせ遅刻するんだったらついでに人助けをしてもいいと思っただけだ」


 言葉にすると気づく、なんてことが多々ある。

 今の言葉も同様に考えていたことをいざ、口に出して言ってみると、恥ずかしくて消えたくなってくる。


「……」


 そんな俺の様子を彼女は黙って見つめている。

 お願いだから、何か喋って。


「……あの、」

「……、なんだ……?」

「………………ジャックス・フィーバーって知ってる??」

「え…………??」

「ジャックス・フィーバー」

「…………ほぇっ?!」


 あまりの驚きに、喉の奥の方から変な声が出てしまった。


 なぜそれを!?

 それもそのはずで、ジャックス・フィーバーとは俺が中学生の時に、頭の中で勝手に、作りだした架空のヒーローの名前に他ならない。

 さらに俺はそれだけでは物足りず自分のことをジャックス・フィーバーと名乗ってしまっていた。

 いわゆる、忘れたい過去というやつだ。

 にしても、そのことは高校から入ってきた幸仁や霧ノ宮も知らないはずだ。どうしてこの女が知っている。


「……やっぱり分かるんだね」

「ぁ、いや……知ってるといいますか……知らないといいますか……どっちなんでしょうね、あはは……」


 自分でも何を言ってるのか分からないが、とりあえず今年1番に動揺していただろう。

 そんな俺を真剣な眼差しで見つめる椎菜。

 そして、


「会いたかった……」

「………………………………へ?」


 またしても予想外の言葉に、俺はリアクション芸人がドッキリ に引っかかった時のような驚き方をする。

 それと同時に、


「っ……!!」


 椎菜夜宵は、俺の胸元に飛び込んできて、ギリギリ納まり切っていた俺の脳の処理能力のキャパシティーを、オーバーヒートさせる。


「あっ……、あの!?……椎菜さん??突然どうしたのでしょうか……?」

「ずっと、……ずっと会いたかった…………」


 そう告げる彼女の声はどこか寂しげで、俺は彼女を無理やり引き剥がすことはしなかった。

入学式と編入生②を読んでいただきありがとうございます。

正直、アイドルの転校生なんてテンプレート過ぎて、見飽きたという人が大半でしょう。

すみません……私の好みなんです。

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