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たとえ君が学園一の美少女だろうと、俺は君を好きにはならない  作者: 速水 雄二
第1章 椎菜夜宵は国民的アイドルである。
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入学式と編入生①

『人間は皆酒豪である。

夢や幸福、色恋、そして過去。

人はそれらを浴びるように呑み、そんな自分に酔いしれいている 。

ただ、この世界に悠久なんてものがない以上、その熱は時間が経つごとに抜けていくし、一度知った逸楽を求めずにはいられなくなる。

つまり、その酒は、浸かれば浸かるほど、耽溺性(たんできせい)を増していく麻薬のようなものとも言える。


ただ、そんなドラックから解放される方法が一つだけ存在する。

 ーーそれは切り離すことだ。 

抑制、逃避、忘却、罪報。


それでも、それらはあくまで手段にすぎない。

そこには強制も強要もはたまた、義務すら伴わない。

意志が弱ければ、永遠に溺れていることだってできてしまう。


だから、

俺は__に依存したままの、こんな自分が嫌いだ。』



「……お前の作文は相変わらずだな」

「え、何これ、まじでキモい……」


 そんな、呆れた口調で俺の作文をうちわ代わりに、ひらひらと自分を仰いでいるのは高校からの付き合いの割に案外親しい友達一号、天舞幸仁(てんまい ゆきひと)

 彼とは高校の入学式でたまたま隣の席になったことがきっかけで話すようになった。

 そして俺の作文に対して酷評を述べたこのギャルっぽい口調の女子生徒は霧ノ宮麗香(きりのみや れいか)

 ちなみに言うとこの二人は半年ほど交際をしている。


「暑いのは分かるが、人の作文をそんな使い方するな……、というか勝手に見た上でその扱い方はないだろ……」

「別にいいだろ……?だってお前、これ出す気ないじゃんか……」


 まぁ、いつものことだけど、と付け加える。

 確かに、俺は今回もそんな人格破綻者のような作文を出す気はないのだが、それでも扱いってものがある。


「それよりこの伏せ字になってるところには何が入るんだ?」

「ふっ、内緒だ……」


 俺は人差し指を自分の口元にあて、口角をあげる。


「……ごめん零斗、今のは流石の俺でもひいたぞ……」


 俺を奇怪なものを見る目で幸仁は告げる。

 流石に今の行為は自分でも正直キモいと感じる。

 ほんと何やってんだ。


「ねぇ、こんなやつに構ってないで早く体育館に行こうよ、幸仁。入学式、始まっちゃうよ?」


 今日は4月9日。

 春休みが明けて初の登校日にも関わらず、入学式も同日行うというハードスケジュールだ。


「まぁ、そんなこと言うなって。零斗はこう見えて結構いいヤツなんだ」

「こう見えては余計だ……」


 自分が他人からどんなふうに見えているかなんて、別に気にすることもないが、社会にはモラルというものがある。

 自分ではそれなりにしているつもりではあるが、果たして俺は他人の目にどう写っているのだろうか。


「それより表面上の作文は終わったのか?」


 表面上の作文とはよくいったものだと感心する。


「ああ……今回のは特に傑作だぞ……」


 俺は机の中から、昨日徹夜で書き上げた『将来の夢』というタイトルの作文を取り出す。


「何これ、白紙じゃん……」


 霧ノ宮が俺の作文を取り上げて、宙に掲げる。


「何を言ってる、よく見ろ。名前とタイトル、そして1番最後の行にちゃんと文字があるだろ……」

「うわ……こういうところキモさが詰まってるよね……」

「あはは、しかも1番最後の行の1番下の方に『ない。』とだけ書くなんて正気とは思えないよ、零斗」


 また、俺の作文を馬鹿にしているのかと思ったが、今回ばかりはマジらしい。

 確かに、春休み全部を使って書いた作文が原稿用紙一枚で、その内容が200字どころか20字にも満たないなんて正直ダサい。

 でも、『今の自分』か『将来の夢』なんて言われてもないものはないんだ。

 それとも何か?お医者さんになることです、とか書いとけばよかったのか?


「まぁでもこの学校の提出物に関する規則には当てはまっているだよね……」

「……だろ?」


 俺は少し得意げに、鼻を擦り付ける。

 そんな様子を、幸仁は呆れたように見つめる。


「てか、この学校の規則ゆるすぎない?そんな紙切れですらA判定をもらえるなんて、真面目に書いた私が馬鹿みたいじゃない」

「いや、ちゃんとペナルティーはある。個人費用の減額と支給品の制限だ。ちなみに言うと、現在の俺の月別個人費用は500円だ」

「やば……、どうやったらそんなに減らせるの……?」


 霧ノ宮がマジで引いたような顔で俺に尋ねる。

 どうやったらって言われても何もしなかったらこうなったんだが……。


「こいつ、定期テストの特殊実技科目を全てサボってたからな……」

「……」


 今度は俺のことを汚物を見るような目で見つめる霧ノ宮。

 そんな彼女の眼差しに自分がやったことの異常さを知る。

 はぁ、どうぞ勝手に罵ってください……。


「……っと」


 今は8時28分か。

 入学式が9時からだから8時45分には体育館に行くべきか。

 俺は、クラスにおいてあるデジタル時計を見ながら入学式の始まるまでの時間を計算する。

 それと同時に、幸仁に目で合図を送る。


「……っ。なぁ、麗香。先に体育館行ってくれないか?」


 そんな俺の合図を機敏に受け取った幸仁は霧ノ宮に先に体育館へ行くことを促す。

 そう言う察しの良さは彼の美徳だ。

 だが、


「幸仁とじゃなきゃやだ……」

「おい、麗香……俺は零斗と話があるんだが……」

「それって……私がいたらダメなの?」


 はぁ、心の中でため息を吐く。

 別にダメというわけではないんだが、やめておいた方が彼女のためになるだろう。


「……まぁ仕方ない、別に急用ってわけでもないし放課後でも問題ない。それより、お前らはもう作文を出したか?」

「ああ。俺たち、と言うか大体の生徒は春休みにも学校に来て活動をしていたから、その時に提出したと思うぞ」

「結構なことだな……」

「じゃあ、俺たちはそろそろ行くわ。なんか、こっちの都合に合わせてもらって悪りぃな……、その話は放課後にということで……」


 お安い御用だよ、と俺。


「仕方ない……とりあえず俺も作文を提出しに行きますか……」


 椅子にかかっていた重い腰を持ち上げる。

 そして俺は机の上に置いてある、表面上の作文を丸めてポケットに詰め込むと、俺はもう一つの作文の『__』の部分に『瑠奈』という文字を書き足した。


「……はは、何やってんだろう」


 しかし、今自分がしている行動が妙に恥ずかしくなり、原稿用紙をビリビリに破って、窓からそれを投げ捨てた。


 俺の作文だったものが、風に乗り空に舞い上がる。

 その光景を俺はただ呆然と見つめていた。



『あらら、捨ててしまうんですね……』

「まぁな、あんなキモい文章は捨ててしまった方が良いだろ?」

『そうですか?私はあの作文、結構好きですよ?』

「……そうかい。」

『ええ、とても。どうです?私とお茶でもしながら、あの作文について語らいませんか?』

「……それはできないな」

『どうしてですか?』

「だって君は……」


 俺は窓の方に向けていた体を、教室向き直す。

 しかし、教室内には誰もいない。


「君はもういないんだよ……」


 吐き出したその言葉は、彼女の重みを再び俺に思い出させるものだった。

入学式と編入生①を読んでいただき、ありがとうございます。

これからは、読者の皆様への謝礼と一言をこの後書きに書いていきたいと思います。

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