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たとえ君が学園一の美少女だろうと、俺は君を好きにはならない  作者: 速水 雄二
第3章 霧ノ宮麗香は俯かない。
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東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編② Side:1

「霧ノ宮麗香を助ける。構うなとは言われたが、俺はまだ彼氏をやめろとは言われてないんだ」

「そうだな」


 幸仁はまだ悩んでいるようだった。


「どうした……?」

「いや、確かに助けたいと思う。ただ、どうやるんだ?」

「……それに関してだが、俺に一つプランがある」


 俺は、幸仁にその旨を伝える。

 それを聞くと、驚いたように目を見開く。


「……お前はそれでいいのか?」

「なに言ってんだ。いいに決まってるだろ」


 自分でもらしくないことを言っているのは分かっている。

 それでも、やるしかない。


「それは麗香のためか?」

「……違う」


 このお節介は、霧ノ宮麗香のためじゃない。

 前にも言ったが、俺が霧ノ宮を助けるのは七瀬瑠奈の死を無駄にしないため。


 でもそれを、強いて言うなら、

 そう。


「自分のためだ」


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


「一つ、協力してもらいたいことがあるんですけどいいですか?」


 俺は、中等部の生活棟である第1校舎にいた。


「まさか、お前が俺に頼み事をするなんてな」

「なに言っているんですか。僕は山橋先生のことを尊敬してます」

「……お前、相変わらずだな」


 山橋が俺のことをじとーっとした目で見る。

 俺は、それから逃げるように目線を逸らす。


「それで、頼み事っていうのはなんだ?」

「今すぐに、校外特殊実技試験の用意をしてもらっていいですか」

「なっ……」


 校外特殊実技試験とは、学校外で行われる定期試験のことを指す。

 スノーボードや、競馬などの学校ではどうしても実力発揮が特殊試験を、行うために実装された制度の一つで、教師の立ち会いのもとでのみ行われる特殊型試験。

 担当教員は、カメラで生徒のことを撮影してそれを最終決定機関である、秀恵学園総本山に提出し、それを視聴して判断するというシステム。


「はぁ……」


 そして、あからさまに呆れた様子をみせる山橋。


「お前、今がテスト期間じゃないの分かっていってるのか?」

「それくらい分かってますよ」

「だったら、なんで聞いたんだよ……」

「いや、僕が求めているのは、もう一つの試験の方です」


 この学校には、普通の高校で行われているような数学や理科などの通常科目は存在しない。

 存在しないと言ったが、授業は行われている

 ただ、それらの科目は定期テストとして、扱われていないということだ。

 つまり、もう一つの試験というともちろん特殊実技試験が関係してくる。


「……つまり、お前は今すぐに追試がしたいと」

「ダメですかね」

「まぁ、無理だろうな」

「そうですか……」


 まぁ、分かりきっていたことだ。

 そもそも、追試を行うにもそれなりの準備が必要で、何より教師にだって都合と事情というものがある。

 赤点を取ったからといって、追試をしない学校だって存在する。

 つまりは、その担当の教師次第ということだ。

 そう。


 だからこそ俺は、この先生を選んだ。


「……そういえば、山橋先生。最秀学科のこと覚えていますよね?」

「ああ。もちろんだ。俺から話題にあげたくらいだ」


 『最秀学科』と聞いた途端に、聞く耳が変わる山橋。現金な奴だ。


「前に言わなかったことなんですけど、僕はそこで実験生をしていました」

「……それは誰かに口止めされていたのか?」

「いや、ただ面倒だっただけです」


 再びため息をつく山橋。

 そんなにため息ばっかついてると、結婚できないぞ?

 いや、そういえば、山橋は篠崎といい感じだったんだ。


「そこでどんなことが行われていたのか興味がありませんか?」

「確かにそれは有益な情報だが」

「それに、僕の実力の程を図ることもできます。これはかなりお得な話だと思うんですけどどうですかね……?」

「……ん、わかった」


 山橋は渋ってはいたものの、なんとか承諾する。

 それどころか俺が考えていたよりも、よっぽど判断が早かった。

 山橋のこういう決断力があるところがこの学園に選ばれたのかもしれない。


「それで、お前はどこで何をするんだ?」

「それは、こいつに聞いてください」


 俺は、自分の携帯電話から幸仁のアドレスを探して電話をかける。

 たった1コールで幸仁は電話に出た。


『おい、零斗か?』

「ああそうだ」


 耳元に充てているだけでは、山橋が聞こえないため俺は、スピーカー機能をオンにして山橋の机に置く。


「それで、場所は特定できたのか?」

『ああ、スマホアプリで相手の居場所がわかるやつがあるだろ? 麗香の友達からスマホを借りて場所を割り出した』


 いや、驚くべき場所が2つもあったのだが。

 まず、そのスマホで相手の位置がわかるアプリってやつと、他人からスマホを借りようと思う度胸だ。

 しかも、多分女子のだろう。


「山橋先生、支度をできるだけ早くお願いします」

「あ、ああ……」


 山橋は職員室の隅にある、キヤノンの一眼レフカメラを手に持つ。

 特別実技試験を学校外で受けたことがないが、きっとそれを使って撮影するのだろう。


「先生それだけでいいんですか?」

「まぁ、追試に必要な書類は後でも書ける」

「はは、そういうところ尊敬しますよ」

「おい」


 狼少年の話だろうか。今度のは本当に言ったのだが、どうやら冗談にとられてしまったようだ。


「先生って車の免許持ってますか?」

「一応は持ってるが、肝心の車がない」

「ちっ。なぁ、幸仁タクシーをつかまえてくれないか?」

「お前今舌打ちしただろ……」


 俺はくびを横に傾ける。

 変な言いがかりをつけないで欲しい。


『タクシー? 分かった、一応やってみる』


 幸仁はそう言っているが、希望は薄そうだろう。

 となると、別の移動手段を講じるしかなさそうだが。


「あれ? 零斗くん?」


 俺の後ろで聴き慣れた声が聞こえる。

 その声はとても穏やかで、今の緊張感ある現場にはそぐわないものだった。


「篠崎先生。久しぶりですね、それでは」

「え、それだけなの!?」

「すみません。ちょっと今、忙しいんです。早くタクシーをつかまえないと行けないんです」

「タクシー? それなら私が代わりに運転できるけど……」


 は……?

 この穏やかそうな人が運転免許を持っていて、さらに自分用の車を持っているなんて。

 山橋の方に顔を向けると、呆れたように笑っていた。

 どうやら、まじらしい。

 誤解されないように、言っておくが俺は女性が車を持つことに嫌悪感を持っているわけじゃない。

 篠崎が持っていることに違和感を覚えているだけである。


「……お願いします」

「あ、うん」


 というわけで、綺麗に篠崎の伏線が回収されたわけだった。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


「一応、シートベルトを閉めたほうがいい」

「へ?」


 車に乗った山橋が、深刻な表情で俺に告げる。

 篠崎の車は、一見して普通の乗用車だったため、俺はその意味がよくは理解できなかった。


「じゃあ、出発するね」

「っ……」


 その瞬間、車が水を得た魚の如く勢いよく飛び出す。

 その勢いは、普通の乗用車のそれではなかった。


「おら、おらおらっ!」


 篠崎が、何かの掛け声なのかは分からないが、オラオラ言い始めた……。

 その形相は、元の温厚な人柄からは全く予想もつかないものだろう。


「や、山橋先生、これはどういう……」

「……実は、彼女は車に乗ると人が変わるんだ」


 いや、頭おかしいだろ。

 クレ○ンしんちゃんでいうところの、上尾○すみ先生みたいなものだろうか。

 それにしても、この豹変具合にはびっくらこく。


「それで、どこに向かっているの?」


 どうやら戻ったようだ。


「というか、知らないで走ってたんですね……」

「あはは……」


 笑ってごまかせるほどのものじゃない気がするが。


「なぁ幸仁、今どこにいるかわかるか?」

『んー、どういうわけか荒川沿いにいるんだが』

「携帯を捨てられるかもしれない。とりあえず今いる場所の情報を詳しく頼む」


 そんな俺と幸仁の会話をぽかんとした顔で見つめる山橋と篠崎。


「なんですか……」

「いや、なんかこんな真面目な零斗を初めて見たな、と」

「ほんと。なんかちょっとかっこいい感じ」


 俺も、久しぶりに少しやけになっている気がする。

 自分でも驚くくらいにここ一年半、何も感じていない日々か続いていたからな。


「……それよりも、自分の男の前で別の男を褒めない方がいいですよ」

「えっ!? 知ってたの?」

「口で聞いたのは今が初めてです」

「おい、謀ったな小童」


 ひっ。

 お願いだから突然、ますみモードに入らないで欲しい。


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


「ごめん、車で行けるのはここまでなの……」


 篠崎先生の声のトーンは少し低かった。


「いえ、とても助かりました」


 荒川沿いは車が通れないため、俺と山橋はここから徒歩で向かうことにした。


「幸仁。もう一度場所を教えてくれないか」

『なぁ、お前はどこにいる?』

「新砂大橋の真下にいる」

『だったら、あんまり距離はないな。少し北に行ったところの公衆便所にスマホがある』


 ……。

 嫌な予感がしてきた。

 麗香がいると言わずに、スマホがあると言い方をしたことも合わせると、幸仁もなんとなく察しがついているのだろう。


「先生。少し走りますね……」

「おいっ、ちょっと待て」


 突然飛び出したにも関わらず、山橋は俺の走る速度についてきた。


「っ、先生。何か運動でもしてたんですか?」

「学生時代に少し、ラグビーをしていた」


 衝撃のカミングアウト第二弾。

 ちなみに、第一弾は車の中ですでに披露済みである。


「それで……、どれくらい、の距離を……走るんだ」

「先生、限界なんですね」

「そんなことは……ない」

「もうすでに着いています」


 眉根を寄せ俺を見上げる、絶賛息切れ中の山橋。

 それもそのはずで、そこにあるのは広大な面積の荒川と、河口に生茂る草。

 そして、そこに併設されている公衆トイレだけだったのだから。


「なぁ、ここで何をするんだ……?」

「カメラを回してもらっていいですか?」


 俺のシリアスな空気を察してか、手に持っていたカメラですぐさま撮影を始める、山橋。


 そして、


「おい」


 公共トイレの中に俺と山橋が足を踏み入れる。

 そこには、校門の前で遭遇した、3人の男たちと大便器の前で膝を突く、一人の女子高生だった。


「霧ノ宮だよな」

「あ? 誰かと思ったらさっきの男じゃねぇか」

「今更になって、どうにかしたいとか思ったのか?」


 男達が俺を取り囲むようにして、群がる。


「助けにきた」


 俺は霧ノ宮麗香を助けにきた。

 だが、それはあくまで自分自身のためである。


「霧ノ宮の彼氏だからじゃない。俺がそうしたいからここに来た」

「あ? テメェ、この人数差で勝てると思っているのか?」


 ……人数差。

 確かにこと喧嘩においては、その人の実力だけでなく、そこに加わる人員が物をいう場合もある。

 だが、それでも俺には勝機がある。


「なぁ、今からお節介かけるけど、許してくれるよな?」


 その言葉に対して、俯いていた霧ノ宮が顔をあげる。

 霧ノ宮の顔は彼女の涙で濡れていた。


 そして俺に、一言告げる。


『助けてよ……零斗』


 と。

この度は、東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編② Side:1を読んでいただきありがとうございました。

『続きが読みたい』と感じたら、ブックマークの方をお願いします。


 また、24日から、もう一つ別の作品を書き始めたため、投稿するペースが落ちるかもしれません。

 ご了承ください。


『https://ncode.syosetu.com/n1276gb/』

Title:学園屈指の美少女の裏の顔を知った俺が、なぜか逆に脅されているんだが

内容は、長ったらしいタイトルから察しがつくと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 伏線回収()からの山崎先生と篠崎(略)のスクープからのラグビーという怒涛の急展開(笑) 主人公のかっこいい所も見れるとは何と豪華な…(適当) [気になる点] 人が変わるってまさにじゃがいも…
2020/04/24 19:22 名無しのハテナ
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