東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編② Side:2
※一度全てを書いたのですが、あまりに内容が残酷だったために、
全てを書き直しました。昨日は投稿できず、すみません。
遠い昔の話がしたい。
霧ノ宮麗香が、霧ノ宮麗香になるまでの話。
私が首輪を付けられたのは、中学2年の夏だった。
当時の私を一言で表すと、『可愛げのない子供』という言葉がふさわしい。
お洒落な服を着ることはたまにしかないし、一人でいることが多かった。
誰かに話しかけられることはあっても、自分から話しかけることはない。
いつも料理本ばかり読んでいたから、おかしな人だと思われていたかもしれない。
それでも私には友達がいた。
それでも私は告白をされた。
それでも私はいじめられなかった。
それは私の容姿が、女として可愛かったからだろう。
それも一級品に。
だから、特に不便はなかった。
だから、私は彼氏を作らなかった。
だから、私は自分の魅力が誇らしかった。
しかし、私の見せ掛けの華やかな日常は、
ほんの一瞬のうちに崩れ落ちた。
『おい、こいつが霧ノ宮じゃねぇか?』
『ああ』
『うっわ、噂通りのメチャクチャ美人じゃねぇか』
そいつらは、うちの中学の三年生だった。
体格は、中学生にしては完成していて、若干色黒なところが、私に恐怖心を与えた。
『ねぇ、ちょっと俺たちと少し遊ばない?』
私は、その言葉の意味が分からないほど、うぶじゃなかった。
もちろん私はその誘いを断った。
だけど、彼らは私のことを諦めなかった。
無理やり奪い去ろうとするほどに。
抵抗しても、離してもらえなかった。
そして、私はそいつらと初めてを迎えた。
今でもあのヒリヒリとした感覚と、こいつらの笑い声が、
私の全身に残っている気がする。
別に、同情することなんてない。
こんなのよくある話なんだから。
———よくある話だけど、私の話。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「どこ行くの?」
私の前を歩く、清河という男に聞く。
「俺たちも知らないんだよねー、柴波に聞いてみ」
柴波とは、この3人の中でもリーダーに位置している男だ。
私たちは、学校を出てからしばらく歩いた。
きっと、場所を特定するのがすでに困難な距離まで離れただろう。
それでいい。
私は、他人に迷惑をかけない。
「いやー、それにしてもこいつが、俺たちのところに戻ってくるなんて思わなかったぜ」
清河が、私の肩の後ろに手を回す。
「脅迫したのはあんた達でしょ……」
「脅迫じゃねぇよ。お前の友達を交渉材料にしたんだよ」
いや、だからそれを脅迫っていうんじゃん。
「そう言えば、麗香は今、彼氏いるのか?」
「下の名前で呼ばないで」
「えー、別にいいじゃん」
けらけらと笑う清河。
私は、そういう軽いノリが本当に嫌いだ。
ノリで告白して、ふられたとしても、こいつはきっと『嘘告でした』とか言い出すのだろうか。
「で、どうなの? 彼氏いるの?」
「……いる」
「まじかー、やっぱ中学の時よりも可愛くなってるもん」
「……」
私は、こいつらが中学を卒業するとともに、行為からも解放された。
それからというもの、私は可愛げのある女子になるために努力をした。
メイクや、話し方。
服装や髪型。
ありとあらゆるものを意識して、取り組むようになった。
ナメられないために、彼氏も作った。
もちろん、私に興味がなさそうなやつをテキトーに選んでだが。
「まぁでも。そんなの関係ないよね?」
「……」
「だってもともとは、俺たちの麗香だし」
なにそれ。
「それに、本当に麗香がそいつらのこと好きだったかも怪しいし」
変なところで鋭い、清河。
確かに、今まで付き合ってきた人は私のことを好きじゃなかった。
もちろん私もだ。
だから、なにも言い返せない。
なにも言えないのが、たまらなく悔しい。
……誰のせいでこうなったと思ってる。
しかし、その言葉はそっと心の奥にしまい込む。
「着いたぞ」
「は? なに言ってんの」
柴波が立ち止まる。
そこは、荒川が横目に見える公衆トイレだった。
ここでするというのだろうか。
「いやいや、流石に俺らもきついぜ」
「それ。ここではヤりたくねぇ」
森田と清河が愚痴をこぼす。
そんな、私なら別にいいという言い方が鼻につく。
「んなわけねぇだろ」
「だ、だよな」
「とりあえず、こいつの『メイク落とし』をしないとな」
は……?
「おい、男子トイレの便器の水で顔を洗え」
「…………」
「さすが、柴波。考えることが違う」
「は? それやるとキスできなくなるじゃねぇか!」
え、そういう問題じゃないでしょ。
「早く、入れ」
「……」
「おいっ」
柴波に背中を押されて、男子トイレの地面に手をつくポーズで倒れ込んだ。
それと同時にひどい匂いが鼻に溜まる。
「臭っ……」
「うわっ」
「マジでやりやがった……」
どうせなら、スカートを脱がしてから押して欲しかった。
制服のスカートを洗うというのは、なかなか手間がかかるのに。
「メイクを落とせ。俺は、女の化粧の匂いが嫌いなんだ」
「っ、」
私は視線を男子トイレの大便器に向けた。
そして、便座に手をつけて水面を見つめる。
そこには私のひどい顔が映っていた。
なにやってんだろ、私。
本当馬鹿みたいじゃん。
あんなに努力したのに、結局ここに戻ってきちゃうなんて。
そういえば、メイクのやり方を覚えるの大変だったな、
料理の盛り付けは得意なのに。
どうしてなんだろ、
ほんと、どうしてなんだろ……。
私は、今泣いているのだろうか。
視界に映る水面が波打つように小刻みに揺れている。
「ぁっ、どう……して……」
便器にうずくまるように嗚咽を溢す。
「もう、やだよ……」
……零れちゃった。
今まで我慢してたのに、
意地貼ってたのに。
こんなこと、初めてじゃないのに。
どうしてだろ。
———こんなに、今の生活を失うのが辛く感じるなんて。
「おい」
……誰?
「霧ノ宮だよな」
この声……零斗?
どうしてここにいるの?
構うなって言ったじゃん。
「助けに来た」
助けるって、
あんたじゃ無理だって。
私のことなんて放っておいてよ。
「霧ノ宮の彼氏だからじゃない。俺がそうしたいからここに来た」
はは、
なに?
カッコつけてんの?
私そんなの望んでないのに、
助けて欲しいなんて思ってないのに、
「なぁ、今からお節介かけるけど、許してくれるよな?」
そんなこと、
全然、これっぽっちも思ってないのに、
「助けてよ……零斗」
———私は結局、メイクを落とせなかった。
この度は、東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編② Side:2を読んでいただきありがとうございました。
前書きでも、伝えたように今回はすごく苦労しました。