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たとえ君が学園一の美少女だろうと、俺は君を好きにはならない  作者: 速水 雄二
第3章 霧ノ宮麗香は俯かない。
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東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編② Side:2

※一度全てを書いたのですが、あまりに内容が残酷だったために、

 全てを書き直しました。昨日は投稿できず、すみません。

 遠い昔の話がしたい。

 霧ノ宮麗香が、霧ノ宮麗香になるまでの話。



 私が首輪を付けられたのは、中学2年の夏だった。


 当時の私を一言で表すと、『可愛げのない子供』という言葉がふさわしい。

 お洒落な服を着ることはたまにしかないし、一人でいることが多かった。

 誰かに話しかけられることはあっても、自分から話しかけることはない。

 いつも料理本ばかり読んでいたから、おかしな人だと思われていたかもしれない。


 それでも私には友達がいた。

 それでも私は告白をされた。

 それでも私はいじめられなかった。


 それは私の容姿が、女として可愛かったからだろう。

 それも一級品に。


 だから、特に不便はなかった。

 だから、私は彼氏を作らなかった。

 だから、私は自分の魅力が誇らしかった。


 しかし、私の見せ掛けの華やかな日常は、

 ほんの一瞬のうちに崩れ落ちた。


『おい、こいつが霧ノ宮じゃねぇか?』

『ああ』

『うっわ、噂通りのメチャクチャ美人じゃねぇか』


 そいつらは、うちの中学の三年生だった。

 体格は、中学生にしては完成していて、若干色黒なところが、私に恐怖心を与えた。


『ねぇ、ちょっと俺たちと少し遊ばない?』


 私は、その言葉の意味が分からないほど、うぶじゃなかった。

 もちろん私はその誘いを断った。


 だけど、彼らは私のことを諦めなかった。

 無理やり奪い去ろうとするほどに。

 抵抗しても、離してもらえなかった。


 そして、私はそいつらと初めてを迎えた。


 今でもあのヒリヒリとした感覚と、こいつらの笑い声が、

 私の全身に残っている気がする。



 別に、同情することなんてない。

 こんなのよくある話なんだから。










———よくある話だけど、私の話。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「どこ行くの?」


  私の前を歩く、清河という男に聞く。


「俺たちも知らないんだよねー、柴波に聞いてみ」


 柴波とは、この3人の中でもリーダーに位置している男だ。

 私たちは、学校を出てからしばらく歩いた。

 きっと、場所を特定するのがすでに困難な距離まで離れただろう。


 それでいい。

 私は、他人に迷惑をかけない。


「いやー、それにしてもこいつが、俺たちのところに戻ってくるなんて思わなかったぜ」


 清河が、私の肩の後ろに手を回す。


「脅迫したのはあんた達でしょ……」

「脅迫じゃねぇよ。お前の友達を交渉材料にしたんだよ」


 いや、だからそれを脅迫っていうんじゃん。


「そう言えば、麗香は今、彼氏いるのか?」

「下の名前で呼ばないで」

「えー、別にいいじゃん」


 けらけらと笑う清河。

 私は、そういう軽いノリが本当に嫌いだ。

 ノリで告白して、ふられたとしても、こいつはきっと『嘘告でした』とか言い出すのだろうか。


「で、どうなの? 彼氏いるの?」

「……いる」

「まじかー、やっぱ中学の時よりも可愛くなってるもん」

「……」


 私は、こいつらが中学を卒業するとともに、行為からも解放された。


 それからというもの、私は可愛げのある女子になるために努力をした。

 メイクや、話し方。

 服装や髪型。

 ありとあらゆるものを意識して、取り組むようになった。

 ナメられないために、彼氏も作った。

 もちろん、私に興味がなさそうなやつをテキトーに選んでだが。


「まぁでも。そんなの関係ないよね?」

「……」

「だってもともとは、俺たちの麗香だし」


 なにそれ。


「それに、本当に麗香がそいつらのこと好きだったかも怪しいし」


 変なところで鋭い、清河。

 確かに、今まで付き合ってきた人は私のことを好きじゃなかった。

 もちろん私もだ。

 だから、なにも言い返せない。

 なにも言えないのが、たまらなく悔しい。


 ……誰のせいでこうなったと思ってる。


 しかし、その言葉はそっと心の奥にしまい込む。


「着いたぞ」

「は? なに言ってんの」


 柴波が立ち止まる。

 そこは、荒川が横目に見える公衆トイレだった。

 ここでするというのだろうか。


「いやいや、流石に俺らもきついぜ」

「それ。ここではヤりたくねぇ」


 森田と清河が愚痴をこぼす。

 そんな、私なら別にいいという言い方が鼻につく。


「んなわけねぇだろ」

「だ、だよな」

「とりあえず、こいつの『メイク落とし』をしないとな」


 は……?


「おい、男子トイレの便器の水で顔を洗え」

「…………」

「さすが、柴波。考えることが違う」

「は? それやるとキスできなくなるじゃねぇか!」


 え、そういう問題じゃないでしょ。


「早く、入れ」

「……」

「おいっ」


 柴波に背中を押されて、男子トイレの地面に手をつくポーズで倒れ込んだ。

 それと同時にひどい匂いが鼻に溜まる。


「臭っ……」


「うわっ」

「マジでやりやがった……」


 どうせなら、スカートを脱がしてから押して欲しかった。

 制服のスカートを洗うというのは、なかなか手間がかかるのに。


「メイクを落とせ。俺は、女の化粧の匂いが嫌いなんだ」

「っ、」


 私は視線を男子トイレの大便器に向けた。

 そして、便座に手をつけて水面を見つめる。


 そこには私のひどい顔が映っていた。

 なにやってんだろ、私。

 本当馬鹿みたいじゃん。

 あんなに努力したのに、結局ここに戻ってきちゃうなんて。


 そういえば、メイクのやり方を覚えるの大変だったな、

 料理の盛り付けは得意なのに。

 どうしてなんだろ、


 ほんと、どうしてなんだろ……。


 私は、今泣いているのだろうか。

 視界に映る水面が波打つように小刻みに揺れている。


「ぁっ、どう……して……」


 便器にうずくまるように嗚咽を溢す。


「もう、やだよ……」



 ……零れちゃった。

 今まで我慢してたのに、

 意地貼ってたのに。

 こんなこと、初めてじゃないのに。

 どうしてだろ。


———こんなに、今の生活を失うのが辛く感じるなんて。









「おい」


 ……誰?


「霧ノ宮だよな」


 この声……零斗?

 どうしてここにいるの?

 構うなって言ったじゃん。


「助けに来た」


 助けるって、

 あんたじゃ無理だって。

 私のことなんて放っておいてよ。


「霧ノ宮の彼氏だからじゃない。俺がそうしたいからここに来た」


 はは、

 なに?

 カッコつけてんの?

 私そんなの望んでないのに、

 助けて欲しいなんて思ってないのに、


「なぁ、今からお節介かけるけど、許してくれるよな?」


 そんなこと、

 全然、これっぽっちも思ってないのに、


「助けてよ……零斗」



 ———私は結局、メイクを落とせなかった。

この度は、東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編② Side:2を読んでいただきありがとうございました。

前書きでも、伝えたように今回はすごく苦労しました。

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