東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編①
「ねぇ、もう私に構わないで」
5月5日火曜日の放課後。
霧ノ宮に告白したときと同じ場所に呼び出されて告げられる。
「……そうか」
「うん」
会話中に霧ノ宮が俺の方を見ることは一切なかった。
「霧ノ宮は、それでいいんだな?」
「……うん、大丈夫。これが1番いい方法だもん」
1番いい方法とはなんのことを言っているのだろうか。
引っ掛かったがこれ以上の詮索はしなかった。
「じゃあ、私はもう帰るね」
「いちいち言う必要ないだろ」
「……うん。そうだね」
霧ノ宮の後ろ姿を見つめながら考える。
彼女のことを知る上で知らなければいけない問題が、2つあるだろう。
まず『彼女が彼氏を欲しがっていた理由』
これについてだが、きっと他の男に告白されないようにするための予防線だろう。
霧ノ宮はモテる。
そう考えれば、納得がいく。
そして、二つ目。
『霧ノ宮がギャルをしている理由』
これに関しては、まだ謎のままだが、これは相手に安くみられないようにするためのもの、じゃないだろうか。
ネットがソースだが、ギャルになる人の大半がコンプレックスを抱えている、ということを聞いたことがある。
それともう一つの疑問。
『森田という男と、その仲間』だ。
あいつらの霧ノ宮に対する発言は明らかに、バカにしたようだった。
その言い方は、まるで自分たちの霧ノ宮と言わんばかりに。
つまり、ここから結論づけられることは、霧ノ宮が昔あいつらにいじめられていたということだ。
それも、男を嫌いになるほどに。
『性的暴行』
どういうわけか、頭にそのワードが浮かんだ。
それと同時に、今までの謎が晴れていく気がした。
だから、彼女は女子生徒に全く興味のない、俺や幸仁と付き合うことを決めたのだ。
これで、彼女が幸仁のアイドル好きを知った時に『この人しかいない』と思ったのも頷ける。
とは言っても……、
俺は居心地が悪くなり首の裏に手を当てる。
これはあいつ自身の問題だ。
あいつが必要ないと言ったら、そこまでなんだ。
「なぁ、幸仁。話聞いていたんだろ? お前はどうすればいいと思う?」
俺はさっきから、柱越しにこっちを窺っている幸仁に話しかける。
というか、柱って。
「げっ、バレてたのかよ」
「ばればれだよ」
「さすが、零斗」
「それより、さっきのことについて、お前はどう思う?」
さっきというのは霧ノ宮が俺のことをもう必要としていないことを告白したときのことだ。
「明らかに、状況に変化があったとしか言えないね」
「やっぱりか」
「それより、零斗は霧ノ宮の過去についてどう考察してるんだ?」
考察って、なんか上から目線だな。
まぁ、このことに関しては長く付き合っていたこいつの方がもしかしたら詳しいかもしれないが。
「俺は霧ノ宮が、過去にいじめられていて、そのせいで男が嫌いになったんじゃないかと考えている。だから告白されないために俺たちと付き合ったと、こんなところだ」
幸仁は別に驚きもせずに俺の話を聞く。
どうやら同じ考えのようだ。
「状況に変化か」
独り言のようにボソッと呟く。
「……なぁ幸仁、少し俺は心当たりがある」
「まじか!?」
「実はちょっと前に、いじめっ子と遭遇したかもしれない」
俺の言葉に黙り込む、幸仁。
その男は森田といい、俺たちに接近しようとしてきた少し年上くらいの男子高校生だった。
見たわけじゃないが。
「なら、早く手を打たないと手遅れになるぞ」
「……わかってる」
「俺たちで霧ノ宮を追いかけよう。今ならまだ間に合う」
「……ああ、そうだな」
幸仁は眉を寄せて俺の不可解な様子を見ていた。
「どうした、零斗」
「いや、なんでもない。それより急ぐぞ」
「ああ」
この学園には、1つしか校門がないため、そこで待ち伏せすれば絶対に現れると確信して、校門へ走り出す。
そして、予想通りそこには霧ノ宮がいた。
ただ、
「なぁ、お前の友達か? あいつらは」
「え、どうしてここにいるの……」
そこにいたのは、霧ノ宮だけじゃなかった。
「なぁ、こいつらどうする?」
「別に、どうもないだろ。邪魔してくるなら話は別だが」
近くの南里高校の生徒だろうか。
制服からなんとなく当たりをつける。
「なぁ、そいつは俺たちの友達なんだ。乱暴なことはしないでくれ」
幸仁が、そいつらに向かって声を掛ける。
というか、よく反抗する気になったな。
いうまでもなく、そいつらの体格は俺らよりも大きかった。
「勘違いするな。俺たちはこいつと一緒に遊ぶだけだ。なぁ、そうだろ麗香?」
「……うん、そうだよ」
「嘘ついてんじゃねぇ。麗香だって怯えてるだろ!」
「……待て、幸仁」
必死で食らいつく幸仁だが、今俺たちにできることはない。
ただ、遊ぶだけと言われたら、その時点で引き下がるしかないんだ。
「くそっ」
「なぁ、幸仁、今の俺たちができることはない。もう帰ろう」
「何言ってんだ、零斗」
「今は、そのときじゃないんだ」
幸仁は俺のことを薄情な奴だと思うだろうか。
それでも、このままここで殴り合いになったとして霧ノ宮自身の問題が解決するわけじゃない。
「っ……」
幸仁も、状況を理解したようだった。
これが今俺たちにできる最善の手だと。
「……ありがと、零斗」
「何を言ってんだ、霧ノ宮。俺はお前が望んだことをするだけだ」
「……嫌な言い方」
苦笑いをする霧ノ宮。
その言葉を最後に、霧ノ宮は校門を抜ける。
「これからどうするってんだ、零斗」
俯く幸仁。
「決まってるだろ……」
最初から俺の目的は変わっていない。
「霧ノ宮を助ける。構うなとは言われたが、俺はまだ彼氏をやめろとは言われてないんだ」
この度は『東雲零斗と霧ノ宮麗香 勃発編①』を読んでいただきありがとうございました。