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たとえ君が学園一の美少女だろうと、俺は君を好きにはならない  作者: 速水 雄二
第2章 東雲零斗は振り向かない。
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東雲零斗と椎菜夜宵 休日編①

「ねぇ、東雲くん。今週の土曜日空いてるかな……?」

「え、突然どうした?椎菜……」


 午前の授業後わった昼休み。

 今や学園のアイドルである椎菜夜宵が空いていた俺の席の前に座って俺に尋ねる。


「んー。なんかね、福岡ライブの後に、この近くの水族館のチケットを2枚もらったんだけど、行く相手がいないから、一緒に行こうかなー、なんて……」


 確かに、椎菜は学校に編入したばっかだから友達が少ないかもしれない。

 ただ、


「俺じゃなくても、霧ノ宮と行けばいいんじゃないか……?」

「あー、うーんとね、そう。実はその日、麗香ちゃん用事あるんだって……」

「……そうか」


 椎菜が明後日の方向を向いていたのは気になるが、断る理由もない。


「……わかった」

「ほんと……?! じゃあ、新木場駅に12時でどうかな?」

「ああ、問題ない……」


 ちなみに、水族館とは葛西臨海公園にあるやつだろう。

 秀恵学園は新砂に建設されているためここから新木場はあまり離れていない。


「だが、椎菜。別に寮で待ち合わせでもよかったんじゃないか?」

「んー、そっちの方がデート感が増すと思わない……? なんて……」

「……」

「あはは、冗談冗談、寮だと誰かに見られるかもしれないからね」


 なんだそういうことか。

 一瞬、瑠奈みたいなことを言いだすから焦ってしまった。


「じゃあ、また明日ね」

「おう……」


 誤解されないよう釘を刺すが、これはデートではない。

 俺は、明日水族館に一緒に行くことで、彼女の『恩返し』が果たされるのではと俺は考えている。


◆   ◇   ◆


 そして、5月2日土曜日新木場駅。


「しまった、中途半端な時間に来てしまった……」


 時計を見ると、11時50分。

 本来ならロッテリアか吉野家で昼ごはんを食べるはずだったのだが、お金を下ろすのに手間取ってしまい、何もできない時間になってしまった。

 まぁ、しょうがない。今日はごはんを抜くか。


「あっ……東雲くん。おはよ」

「ん、椎菜か」


 目線を椎菜の声がした方へ見やる。


「……うん、なんとなく予想通りだ」

「えっ、それだけ!? 」


 白のトップスに黒の少し短めなフレアスカート。

 そして、顔バレ用か、赤色の伊達と思われるメガネを身につけていた。


「まぁ、なんとなくイメージしていたのと同じだったからな……」

「んー、もっと可愛いとか言えないのかな?」

「……んー。スカートのリボンが可愛いと思う」

「服を褒めるのね……」


 まぁいいか、とため息をつく椎菜。

 口では、ああ言ったものの、正直に言ってクソ可愛い。

 白色の長髪と、服のバランスがとてもマッチしていてこれ以上ないまでに、ポテンシャルを惹き立てていた。

 まぁ、本人には伝えないが。


「んじゃ、行こうか」

「そうだね……」


 ここで時間を潰すのもナンセンスである。

 俺たちは、とりあえず目的地である葛西臨海公園に向かうことにした。


 新木場駅から葛西臨海公園駅までは、JR京葉線で二駅である。

 さらにもう一つ奥まで行くと、あの有名な夢の国があったりする。


◆   ◇   ◆


「ねぇ、」

「なんだ?」


 電車の中で椎菜が、ボソッと語りかける。


「もしかしてだけど、学園のポイントカードってショップとかで使えなかったりする?」

「多分な……」

「……」

「…………」


 どうやら、現金を持って来ていないようだ。


「まぁ……、奢ってやる」

「うんん、気にしなくていいよ」

「まぁ、水族館代は出して貰えるんだ。これでチャラだろ?」


 いや、チャラだと恩返しにならないぞ、俺。


「わかった。……ありがと」

「気にするな……」


 まぁ、そんなことを言えるはずもない。

 俺は今日、恩返しをしてもらうという期待を早々に捨てたのだった。


◆   ◇   ◆


「わっー」

「…………すげ」


 正直いって水族館というものをなめていた。

 どうせ、魚が泳いでいるのを見るだけだと思っていた。

 でも、実際に見る大迫力の水槽で力一杯泳いでいる魚の群れは自然の恩寵を体現したようで、とても引き込まれる。


「なんか生命力に溢れてる、って感じがするよね」

「……それはわかる」

「私たちって、この魚達食べてるんだよね……なんか不思議」

「椎菜、それは言わないお約束だ」


 椎菜がクロマグロの水槽の前で、アイドルとは思えない感想を述べる。

 確かに、同じことを考えていたが、まずいだろう。

 というか、周りからの視線がさっきから気になるのだが、


「なぁ、椎菜。変装用にメガネかけてるけど、普通にバレてる気がするのだが」

「え……? そんなことないと思うよ?」

「いや、明らかに周りの奴らが魚じゃなくてこっちを見てる気がするんだけど」

「え、これくらい、いつものことだよ……?」


 なるほど。

 常識が少しおかしかったようだ。

 というか、もしばれたら世間的に色々とやばくないか?


「それより、ねぇ。北極と南極に魚っているの……?」


 『北極・南極の海』のコーナーを見て興味を示す椎菜。

 どうやら自覚がないようだ。

 まぁでも、そんな能天気な椎菜を見ていると、そんな問題が些細に思えてくる。


「……いるんじゃないか、海だし」


 まぁ、知らんが。



 館内をあちこち回っていたら、いつの間にか3時を回っていた。

 想定していたより中が広かったが、どのコーナーも魅力的で、飽きることはなかった。


「なぁ、椎菜。昼食は食べて来たか……?」


 流石に、少々小腹が空いてきた。

 一応、椎名も食べてない可能性もあるのでダメ元で聞いてみる。


「あはは、実は食べてないんだよね」

「……よしっ」

「えっ……?!」


 腰あたりで小さくガッツポーズをすると、そんな俺を椎菜が凝視する。

 気にするな。というか、恥ずかしいからあまり見るな。


「……あの、アイドルの夜乃美園さんですか?」


 誰とも知らない、一般客が椎菜に話しかける。


「ん? そうだけど……」

「握手してくださいっ」

「……あっ、うん。全然いいよ」


 そう言うと椎菜は、そいつの手を握る。

 その様子を見て俺は、アイドルって大変だな、なんて他人事のように考えていた。


「えっ!? やっぱりみそのんだったの? 俺とも握手してくださいっ!」


「え……」


「俺もお願いします」「私もっ!」「俺も……」「お願いします」

「それより、写真撮っていいですか?」「サインくださいっ!」


 …………。

 まずい、テンプレにハマった。

 このまま終われるのではないかと考えていたが、やっぱりこうなるのか。

 と言うか、写真撮っていいですか、って無礼だろ。


「んっ……」

「……」

「これ、美味しい」

「…………そうだな」


 30分後。

 ファン対応を終えた俺たちは、カフェテリアまできていた。

 ちなみに昼食には、『マグロかつカレー』というものを注文した。

 何やら、この水族館では人気の商品らしい。

 味は良かったが、名前が気になってあまり集中できなかった。

 もしかしてとは思うが、さっき見た魚を使ってないよな……。


◆   ◇   ◆


「ねぇ、東雲くん……」


 駅のホーム。

 線路の方を見つめている椎菜が突然、俺の名前を呼ぶ。

 その声はどこか、震えていたようにも感じる。


「なんだ?」

「……麗香のことなんだけど、どう思ってる?」

「……それは、あいつの事情についてか?」

「うんん、違う。女性として……」


 俺は霧ノ宮の彼氏をしているが、だからと言ってあいつに何か特別な感情を抱いているわけではない。


「どうとも思ってない……」

「ん、だったら……」


 椎菜が俺の目を見て真剣な表情で告げる。


「……私のことはどう思ってる?」

「……」

「…………」


「…………ごめん」


 俺は、椎菜からの目線を逸らすようにして、駅へ到着する電車の方へ向ける。


「……分からないんだ」

「そう……、なんだね」


 確かに、今日のデートは楽しかった。

 久々に楽しかったんだ。

 ……けど、瑠奈と一緒にいたときのような、高揚感を感じられなかったんだ。


ーーー俺はまだ、七瀬瑠奈という少女の死を引き摺っているんだ。

本日も、『東雲零斗と椎菜夜宵 休日編①』を読んでいただきありがとうございます。

次回から話が重くなるため、休日編を挟みました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 普通デートでも何でもないのに「私の事どう思ってる?」とか聞く? 告白すら全くしてなくて恩返しって感じで来てたのにそういう雰囲気出して主人公も謝るて… よく分からない()
2020/04/24 19:10 名無しのハテナ
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