東雲零斗と霧ノ宮麗香 接触編②
俺と霧ノ宮が付き合い初めて、実に2週間が経過した。
その間、俺たちの関係に特に何かあったかと聞かれると『何もなかった』としかいえない。
情けない話、まだ何も問題は解決されてないのである。
「ねぇ、これからみんなで駅前のパフェ行かない?」
「イイね、今ちょうど甘いもの食べたいと思ってたとこ」
「麗香はどうする……?」
「あっ、ごめん。今日もちょっと行けないかなー」
「また彼氏ー?イイよねー可愛い麗香ちゃんはすぐ彼氏できて」
「え〜、美花だって十分可愛いじゃん」
「えっ、マジ??」
世間でいうところのギャルに属している生徒達の会話が、聞こえてきた。
その中には、霧ノ宮麗香も混ざっているようで、
「おい、帰るぞ霧ノ宮……」
「あ、ちょっと待って……。ごめん、美花、花音そろそろ帰るね」
「はーい」
「あんま遊びすぎると、不純異性交遊で生徒指導室に呼び出されるよ?」
俺と霧ノ宮と週に3回ほど一緒に帰ることにした。
なぜそんなことをしているのかと言うと、彼女に現在、彼氏がいることを他の男子に周知させるためだ。
なぜ見せつける必要があるかは、定かではないが、彼女なりの理由があるのだろう。
また、これは俺が霧ノ宮と付き合い始めてわかったことなのだが、彼女は非常にモテる。
霧ノ宮麗香は、すごく可愛い上、明るい性格で友達も多い。
そして何より料理がうまい。
やはり、男たるもの料理がうまい女の子を重宝したくなるのは、嵯峨なのだろうか。
「……ねぇ、私がどうして彼氏を欲しがっているのか聞かないの?」
帰りの準備を終えた霧ノ宮が、俺に尋ねる。
「……聞いたって教えてくれないだろ」
「まぁ、そうだけど。今までの彼氏はみんな理由を聞いてきたから……」
今までって、幸仁以外にもいるのかよ。
「まぁ、……特に理由はない」
「…………そう」
今日もいつもと同じように食堂に寄って、放課後メニューのアイスクリームを食べてから帰ることにした。
なんと言っても、食堂には人が多いからだ。
「まずい……」
「お前、それいつも言ってるじゃねぇか……」
「やっぱ、学校で食べられるのは食材をのせただけのパフェだけかも……」
おいおい、のせただけってちょっとテキトー過ぎないか?
「…………」
「ん……?」
霧ノ宮が、唐突に黙りこ込み、食堂の入り口がある方に目線を集中させる。
つられて俺もそっちを向く。
「…………何やってんだ、あいつは」
そこにいたのは、紛れもない椎菜夜宵だった。
独り椅子に座りながら彼女はこっちを観察するかのように凝視している。
というか最近、空気だったな。
「ちょっと行ってきていいか……?」
「なんで私に聞くわけ……?」
「……」
一応、無礼のないように聞いとこうと思ったが、逆にどこか不機嫌にさせてしまったらしい。
「おい……」
「……あはは、偶然だね」
「そんな仕組まれた偶然、俺は知らない……」
「……うぅ」
うぅ、ってなんだ。それ、素でやってるのか?それともアイドルのキャラ付けかなにかか?
そんなツッコミを入れながら、俺は彼女の隣の席に座る。
「……で、何か用でもあるのか?」
「……ん、ちょっと、聞きたいんだけど二人は付き合ってるの?」
直球すぎて一瞬頭がフリーズしてしまった。
「……ま、まぁな」
「そう」
なんか、気まずい感じになってしまった。
「いつから付き合ってるの?……あの告白の時から?」
「……そうだ」
いざ、付き合っていることを認めるのは、やはりどこか不思議というか、居心地が悪いというか、そんな感じがする。
「……そうなんだね」
彼女の声は少しだけ、落ち込んでいるようにも見えた。
ただ、本当のことを言うのはさすがに霧ノ宮に聞いてからのほうがいいだろう。
というか、椎菜は俺に恩返ししたいだけじゃなかったか?
そこに恣意的な何かはないはずだが。
「じゃあ私はそろそろ帰るね……?」
「おう……」
椎菜が席を立って、食堂の外に向かおうとしていた時だった。
「待って、夜宵」
そう言ったのは、霧ノ宮麗香だった。
「ん?どうしたの麗香?」
というか、すでに下の名前で呼び合ってるじゃねぇか。
「私とこいつは付き合ってない……」
「はっ……?」
「えっ……!」
「お前、それ言ってよかったのかよ」
ひっそりと霧ノ宮に耳打ちする。
「……夜宵だったら別にいい。というか、言わなきゃ後々、後悔する気がした」
「まぁ、お前がいいならいいけど……」
「…………つまりは、そういうことだ」
俺は今に至るまでの大体の概要を3分程度で話した。
「黙っててごめん、夜宵……」
「うんん、全然気にしなくていいよ……、麗香にも事情があるんだもんね。それより私にも何か力になれることはあるかな?」
「さすがに、そこまではお願いできない……」
霧ノ宮の声は少し暗いトーンだった。
まぁ、騙していたことを明かした直後だというのに協力しようとする、椎菜という生き物は眩しすぎる。
「そう……?でも、何かあったら相談してね」
「うん、わかった……」
「じゃあ、私はそろそろ帰るね。これから、福岡までイベントに行かなきゃいけないから。じゃあね、」
彼女はそう言い残すと、食堂から去っていった。
というか、仕事があるにも関わらず、ここにきてたのかよ。
恩返しのためにそこまでするか……?
「……」
「…………」
「……俺たちも帰るか」
「…………そうする」
◆ ◇ ◆
「え、今の霧ノ宮じゃね……?」
帰り道。確かにそんな声が聞こえた。
「あ?……お、マジじゃん」
「ん……?、一緒にいるあれ彼氏か?」
「いやいや、あいつに限ってそんなことはないだろ。だって、あんなにいじめてやったんだ。男嫌いになってもおかしくないはずだ」
声はだんだんと遠ざかっていく。
しかし、俺の耳はその声を捉え続けている。
話し声からするに3人だろうか。
「ははっ、確かにそうかもな」
「なぁ、森田、お前ちょっと話しかけて来いよ」
「えっ、マジすか?」
「ほら早くいけ!」
ひとつ、足音が近づいてくる。
歩いているきているため、そんなすぐには遭遇しないだろうが、20秒もあれば追いつかれるだろう。
「おい、霧ノ宮。中学かなんかで、森田って名前のやつと知り合いじゃなかったか……?」
「えっ……、確かにそうだけどなんで知ってるの?」
彼女は、その名前に対して少し怪訝な表情を見せる。
「……いや、なんでも。それより少し走っていいか?」
「それってどういう……って、え?!」
俺は霧ノ宮の手を取って走り出す。
これに関しては、時間がなかったためやむを得なかったとだけ言っておこう。
「はぁ、ハァ……、ハァ……」
30秒くらいした頃だろうか、完全に振り切ったのかそいつの足音が聞こえなくなった。
まぁ、向こうもただ話しかけようとしてただけかもしれないが、感動の再会を邪魔してしまった、なんてことはないだろう。
「はぁ……、はぁ…………ねぇ。どうして突然走り出したの?」
「……お前の知り合いの森田ってやつが、接近してきたからだ」
「え?どこ情報よ、それ……」
霧ノ宮のその問いに対して俺は、自分の耳を指差す。
「最近、耳の掃除をしたから声がよく聞こえるんだ……」
「耳?……なわけ。私には全く聞こえなかったんですけど……?」
「……でも少なくとも、俺が知らない『森田』っていうやつのことを知ってるのは、証拠になるんじゃないか?」
「それは……、まぁ」
納得したとは言えないものの、何が起こったかは理解してもらえたらしい。
それよりも、あいつらが話してた『いじめてた』っていうのはなんだったんだろうか。
そこに疑念が、残ってやまなかった。
この度は、『東雲零斗と霧ノ宮麗香 接触編②』を読んでいただきありがとうございました。
「」を5つ以上つなげないように心がけてはいたのですが、今回は少し、連続させてしまいました。すみません。