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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

惨劇〜戦場では死こそが絶対、そこからは何者も逃れられない

作者: ハムカッタ

そこは一面死体で埋め尽くされていた。それも骸となっているのは人間ではなく、人外だ。


種族特性として性欲旺盛である故に発情ザルと一部では揶揄されるオーク。蔑称こそ酷いものだが、5.56mm弾や7.62mm弾でも簡単には貫けない頑丈な皮膚と骨格を有し、その膂力は人間の頭をまるでトマトのように簡単に握りつぶせるほど。


低いとされている知能も、実際には命令を理解し銃火器を扱うことすら可能だ。実態は、人間が一対一で戦ったところでまず勝ち目などない正真正銘の化け物。


その化け物が群れを成して死んでいた。それもその遺体はろくに原形を留めておらず、千切れた四肢が残っているなど幸運なほうで殆どが体を粉々に砕かれ、臓物や肉片を晒すという酸鼻を極めるもの。これがかつて生きていたなどと誰にも想像できまい。


オークだけではない。圧倒的な体躯の主でオークに勝る怪力を誇るオーガ。筋力こそ劣るものの、素早い機動性で敵を翻弄し、相手の喉笛を切り裂く人狼。優れた魔法の才と弓に秀でる故に銃火器でも優れた才を発揮するダークエルフ。


それらが皆等しく無残な屍を中東の大地に晒し、尽く挽肉に変えられていた。


圧倒的な身体能力と異能の力を有す魔族があっけなく死んでいる姿は俄かには信じがたいが、別に珍しいものではない。大量の人命を徒らに消費する戦場という地獄では、例え人外だろうと平等に死神の鎌に刈りとられてしまう。


死が絶対的な戦場の支配者だ。男女や貴賎の別なく、正義や思想の是非を問わず、容赦なく命が奪われるのが戦場。あらゆる命を飲み込む戦場の法則からは化け物ですら逃れられはしない。


戦場を求め魔界から地上に進出した歴戦の傭兵団の盛り上がりに欠ける幕切れだった。歴戦の勇者だろうと、戦場では英雄譚に出るような死を遂げるとは限らない。


まるで屠殺するように魔族を惨たらしく殺した犯人は、空にいる。上空を舞うAC-130は尚も死の旋回を続けながら、絶え間ない砲火で地上を薙ぎ払う。105mm榴弾砲。GBU-39。ヘルファイア。


AC-130から絶大としか言いようのない火力が放たれ、火線の先の生命を破壊していく。それに耐え抜けるものはまずいない。魔族が強靭な肉体の主だろうと致命傷を避けられるのは、対人用の銃弾まで。5.56mm弾や7.62mm弾は、鉄板に凹みを与える威力を持つが、金属装甲を射抜けはしない。


装甲目標さえ破壊する圧倒的火力に晒されては、魔族と言えど体を砕かれるしかなかった。


AC-130は、2020年代以降も現役のアメリカ空軍の対地攻撃機だ。起源はヴェトナム戦争まで溯り、戦闘攻撃機や爆撃機が不得手な地上への継続攻撃を得意とするために今暫く現役から退くことはない。歴戦の古強者といえる兵器の手にかかった事実がせめてもの手向けだ。


もはや魔族と言えど息のあるものはないと思われたが、唯一見目麗しい異形の女魔族は、辛うじてその生を繋ぎとめていた。虫の息と言えど生きていられるのは、上級魔族の面目躍如というべきか。


髪は、腰まで届くウェーブのかかったロングヘアで、燃える赤毛。瞳は人ではありえぬ真紅で、鋭い眼光は目を合わせただけで萎縮してしまいそう。


眼光こそ鋭くとも顔だちは美しく、可愛いというよりも綺麗という形容が相応しい。


服の上からでもわかるほど筋肉が発達しているが、女性的な柔らかさは損なわれておらず、むしろ肉感的にすぎるー胸は豊満すぎるほどたわわに実り肉付きのいい尻はむっちりと柔らかそうだ。


背中には、蝙蝠を思わす紫の翼。


気高い戦女神然とした容姿をしているが、そんな素晴らしいものではなく傭兵団の首魁である女性の上級魔族だ。物資不足から略奪に手を染めるなど理想の戦士像からは程遠く、容貌も今や戦女神とはいえない醜悪極まりない姿だ。


上半身と下半身が完全に両断され体が千切れ、剥き出しとなった細長い腸が糞便の匂いを漂わす。ピクピクと体を小刻みに動かす様は、おぞましい。


そんな有様で、全身を絶え間ない激痛に襲われ、程なく意識を永遠に手放すというのに女魔族は思わず見惚れてしまいそうな満面の笑みを浮かべていた。


「獲物の追うのに夢中になって、CAS >に気付かないなんてとんだ間抜けね・・・。部下には悪いけど、それでも私に悔いはない。どんな形であれ戦場で死ねるなら私にとっては本望よ。」


豊富なキャリアを持つ彼女はどこまでも現実主義者であり、傲慢さや驕慢から思わぬ敗北を人間に喫する魔族が多い中そんな悪癖とは無縁の存在だ。油断や驕りが敗北をもたらすと何より理解しており、生存の為ならば卑怯な手も厭わない。部隊指揮は、願望を挟まずどこまでも冷徹に行う。


戦場に生きがいを感じているが、戦場にロマンなど欠片もないと同時に理解している彼女は、故に地上に進出してからも人間を侮らず、人間の兵器や戦術を入念に学び、取り入れられるところは取り入れるという姿勢を見せるほど。


そんな彼女に率いられた傭兵団の敗因は、結局のところ判断の錯誤に他ならない。雇い主である中東のテロ組織の一拠点を探っていた鼠を深追いしすぎた結果がこの有様だ。


相手は、情報活動支援隊 。戦地での情報収集を任務とするアメリカ特殊部隊であり、中東に介入を再び始めたアメリカの耳と目の一角を構成している存在。拠点の情報を持ち帰らせないために情報活動支援隊 の追撃を行ったのだが、それに熱中しすぎたために全滅の憂き目にあっていた。


長引けばCAS もあると認識していながら、彼女が引き際を誤ったのは強敵との戦いに高揚していたためだ。戦いに興奮する余りに、撤退の機を逸するなど他の魔族を笑うことはできない。本当に馬鹿な女と女魔族は自嘲する。


それでも彼女にとってこれは満足のできる死だ。戦場こそが全てと豪語する彼女にしてみれば、例え間抜けと嘲笑されようと戦いの中で死ねるならば、それは望外の喜びだった。媚薬等を用いる洗脳で歪められ、セックス依存症じみた状態になるより遥かにましだ。


ああ本当にいい戦いに溢れた人生だった―。そうひとりごちた瞬間、彼女の肉体は105mm榴弾砲の直撃を受け、盛大に肉片を飛び散らせながら今度こそ完全に意識を手放した。


熟練の、それも人外の傭兵の何とも締まらぬ最後だが、何度も言うように戦場とはえてしてそういうものだ。ベテランの兵士だろうと華々しい死を遂げられやしないのが戦場の現実だ。


確かに人外や異能者は脅威の存在だが、今や人間は高度に組織化された軍事組織と強力な兵器を編み出すに至っている。それを駆使すれば鍛えたただけの人間に過ぎない軍人が人外や異能者を狩ることも不可能ではない。


AC-130に皆殺しにされた魔族の傭兵団は、それを示すほんの一例にすぎない。



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