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鳥を放つ少女

(感想書いてくれるニキいたらすげー嬉しいゾ)

あと後書きに某シャングリラフロンティアのニキを見習って設定も書いてくので良かったら……

×××


この日が、ついにこの日がやってきた。私が頑張らなきゃいけない日だ。

目覚めてまず私はそう思った。戦い、なんてものに行ったことなんてないけど戦地に行く人はきっとこんな気持ちなんだろうと勝手に考えた。

部屋を出る前に顔を洗う。それから1人で着替えを始めた。今日は人前に出る行事はない、だからお手伝いさんの手を借りる服を着る必要はないのだ(地味にだがこれは嬉しい、だって1人で着れない服は腰周りがキツく作られてるから!!)。1人でさっさとドレスを着て部屋を出た。


「おはようございます、お嬢様。いつも通りですね」


「えぇ、おはようフィオネ。今日はいつもより気分がいいの」


「それは良いですね。今日来て下さる社交ダンスの先生にもそう伝えておきます」


「社交ダンスのダニエル先生は厳しいからそんなこと言わないで!?」


この前なんか3時間ほぼ休憩なしで踊らされたのだ。いつもより気分がいいと伝えたらどんなことになるか……考えただけで眩暈がする。

侍女のフィオネと笑いあってるが心の中がズキリ、と傷んだ。


(フィオネにも、嘘つかなきゃいけないんだ)


きっと彼女は私がすることを見過ごしてはくれないから。だったら隠さなきゃいけない、騙さないといけない。彼女と面と向かってるのが心苦しくてさっさと食事をとる広間へ向かうとそこには既にお兄さまが座っていた。


「おはようカリス。いつもと変わらないね」


「おはようございます、お兄さま。相変わらずの前髪ですね」


「ふふっ似合うだろ?」


えぇ、おはようございます、私が今日一番騙さなければいけない人。

心臓がバクバクと高鳴る。今日私はお兄さまが絶対にするなと言っていたことをしてしまうのだから、それも当然だ。


「お兄さまは今日何をなさるんですか?」


「なんだ突然……いつも通りさ、トーキョー州の自治、それが父上から与えられた仕事だからな」


それはつまりいつも通りということ。なら計画は変更する必要が無い。

私はお兄さまの対面に座り朝食が来るのを待つ。だけど食欲なんかある訳もない。緊張で胃が裏返りそうなくらいだ。そして手の震えも。私は食卓の下に手を隠し、俯いてただ時が過ぎるのを待つ。時の進みは残酷だ。辛い時ほど時間が経つのが遅く思える。それはまるで死刑になってしまう直前の人みたいな気持ちだ。


「? どうした、カリス」


お兄さまの言葉にビクリと跳ね上がりそうになる……がそれを無理くり押さえつけて「何がですか?」と笑って見せた。どうだろう、上手く笑えてるだろうか……どうにも笑いが引きつっている気がする。


「いや、体が震えてるぞ。風邪でも引いたのか?」


「やだ、お兄さま。元気そのものですよ? 今日だってフィオネが起こしてくれるより早く起きれたんですもの」


誤魔化せ、何も無いかのように誤魔化すの……!


「? 私、何かおかしいですか?」


「……辛いなら今日の習い事は休みにしておくが?」


それはダメ。そうなるとフィオネが付きっきりで看病することになる……それだけは避けたい。


「本当にっなんでもないですからっ! それとも……私が信じられませんか?」


お兄さまが私に甘いことを知ってのこの言葉。お兄さまが私に信じられないという言葉を吐くはずがないことを知ってのこの仕打ち。

……最低だ。こんな薄っぺらい言葉しか言えないなんて。

当然お兄さまは「いや、それならいいんだ」とだけ言ってこの話は流れた。

そうして何事も無かったように侍女さんが朝食を持ってきて私たちは朝ごはんを食べ始めた。

当たり障りのない会話ばかりが朝食の上を滑っていく中、時計の針がザク、ザクと進むように私の中で何かが噛み合っていく。そうだ、そうだね。

私の覚悟は、もうとっくに出来てるよ。





行動を起こすのは昼食を食べ終わってお兄さまが散歩に出るため部屋を離れた時だ。

朝の社交ダンスの習い事を終えシャワーを軽く浴びた私は自分の胸に手を当てて鼓動の高鳴りを確認した。

ずっと……止まらない。この心臓が口から飛び出そうな緊張が。

だって……もう昼だ。さっき昼食は食べ終わった。だから、もう時間だ。行かなきゃ、ミズハを外に出してあげなきゃ。

外に出るための動きやすい服に着替え、さっき納屋から拝借したミズハのサイズの執事服を胸に抱え「いこ」と口に出した。そうでもしなきゃ私は動けなかった。

音を立てないように扉を開けてから足音を殺してお兄さまの部屋の前に立った。

1回深く深呼吸。

それから自分を落ち着かせるように扉を3回ノックした……が反応はない。知ってる、だってお兄さまが居ないことを確認してノックしたんだから。

私はゆっくりノブを捻って部屋に踏みこむ、当然だが中には誰もいなかった。逸る気持ちを押さえつけて机に向かって歩いていく。そこで気付いた。


「鍵が1本しかない」


おかしい、いつもは2本かけてあるのに。牢獄の鍵か、ミズハに掛かってる手枷の鍵か……どっちかが足りない。

だけど、迷ってられない。これを逃したらもうチャンスはないかもしれない。

手を伸ばす。普段なら何も考えないでそうするのかもしれないが、私の指が鍵に触れるまでがすごく長く思える。

取れ鍵を取れそしてミズハの元に向かって何もかも終わらせようそして2人で外に出てそれから2人でたくさんのことをしようたくさんのものを見よう私がミズハに教えてあげたいミズハが生きる意味を見つけられないなら私と一緒に考えようそれから2人でいっしょに笑い合おうたとえそれで世界中の人が苦しんでも絶望してもそれでいい私とミズハが笑いあえていたらそれでいいそれ以外何もいらないーー

そこで色んなことが頭の中を過った。

ミズハを逃がしちゃったら私はもう元には戻れない。お兄さまはそう言ってた。もう覚悟なんかできてた筈なのに今更になって躊躇が私を襲う。お兄さまは……いつだって私の事を考えてくれてた。だからきっと今回もそうなのだろう。私は鍵を取るべきではない。それが誰にとっても幸せことなのだろう。

でも、でもだ。

みんなが幸せでも……彼は、ミズハは絶対に幸せなんかじゃない。そう言うと本人は否定するかもしれないが。

小を切って大勢の幸福を選ぶか、それともーー


「お兄さま……ごめんなさい」


やっぱり私はミズハを選ぶ。彼を見過ごす訳にはいかないから。みんな何かを我慢して生きてる……けどミズハだけがあんなに辛い思いするなんてそんなのおかしい。何があってミズハがあそこにいるのかは分からないけど、それがたとえどんな罪でも彼だけが耐えなきゃいけないってそんなのおかしい。誰にとっても生きにくい世界なんだ、みんなも我慢すればいい。ミズハだけが我慢する必要は無い。

私は言いつけを破ります。指先が鍵に触れた、そしてそれを握り込む。

もう、振り向かない。

私は、私が選ぶのはーー





運良く見張りがいなかったのをいいことに私は牢獄まで駆け込んだ。私の走ってくる気配に気付いてミズハが顔を上げてくれる。相変わらずの無表情だ、そんな顔に心が痛むけどそんな感傷は、ここを出てから。


「ミズハっ、ここを出よ」


「……なんで」


「なんでも何も無い! 今開けるから」


お兄さまの部屋から持ってきた鍵を檻の上に差し込む。そして祈るようにゆっくり回すとガチン、という音がしてロックが解除される。

そして中に入りこみ思案する。今の格好で外に出るのはまずい。でも服を着てもらうためには後ろ手に組まれてる手枷をどうにかしなければ。


「……これをなんとかしたいの?」


ミズハが私にそう声をかけるので私は頷く。


「なら、細いヘアピン一本で十分だよ」


……そんなものでどうにかなるなら。私は髪につけていたものを1つ外してミズハに渡した。留めていた髪がハラり、と解き放たれる。この髪はお母様譲りの私自慢のものだ。


「鏡が欲しいな……じゃなきゃ見えない」


流石にそんなものあったろうか……と考える。ツイてる、確かバッグの中にハンドミラーが入っていたのを思い出して取り出し、それも渡す。


「これで、外せるの?」


ミズハが頷く。


「じゃあお願い。時間が無いの」


ミズハは再び頷いて鏡を見ながら枷の鍵穴にピンセットを入れて作業を始める。時間が無い、と言ったからか案外簡単にカチリ、と音がして手枷がその口を緩める。そしてすぐに足に掛けられた枷も外してしまう。


「すごいね、ミズハ」


「……別に、誰でも出来るよ」


そんなこと、私には絶対できない。いよいよミズハがなんでここに居るのか気になったがそれを聞いたらミズハが遠くに行っちゃう気がして、それは聞けずじまいになってしまった。


「じゃあ着替えて。こんなものしか無かったけど、服は持ってきたから」


私が服を手渡すとミズハは私が見ている目の前で服を脱ぎ始めた。


「な、な、な、ミズハッ!? 何してるの!?」


「何って……着替え?」


「わ、私が見てるんだよ!? 恥ずかしくないの?」


「別に、見たければ見ればいいよ」


ミズハのその言葉を読みすぎて顔が熱くなる。うぅ、まともにミズハの顔が見られない……とりあえずくるり、と回ってミズハを見ないようにした。

後ろから衣擦れの音。それにも意識しないようにしてただこれからのことを考えてると「終わったよ」という声が聞こえたので振り返りその姿を確かめる。


「う、うん。よくできてる……でもネクタイが少しズレてるよ」


近寄って胸元のネクタイを直してあげるとミズハが「ありがと」と呟く。その声にも感情はのっていない。

まずは外に出よう。話はそれからだ。


「いこ、ミズハ。私について来て」


先導し屋敷の中を移動する。事前にここから出よう、と決めていた所について私は歯噛みした。


「フィオネ」


視界の先、少し先でフィオネが掃除を行っていた。……おかしい、いつもなら絶対ここにはいないはずなのに。

どうしよう。

このままフィオネが立ち去るまで待っているか? いいやそんなことしたら別の誰かに見つかってしまう。どうしたら、どうやってフィオネを移動させようか……

その答えは単純。私がする必要はなかった。


「すまないフィオネ!! 少し来てくれるか!!」


別のところからお兄さまの声。雇い主の頼みを使用人が断れるはずがない。少ししてからフィオネが立ち去って私たちはようやく動ける。


「今だよ、ミズハ」


私たちは1歩を踏み出す。これを逃したらチャンスはもう二度と来ないかもしれない。足音を殺す走り方から、やがて速度を重視したものへ。それは屋敷を抜け外へ出たことを意味する。





こうして皇居別邸から2人の少年少女が消えた。

ミドルネーム


貴族が持ってるもの。平民は持ってないです。真ん中にくる名前は母方の旧姓が原則つきます。

お兄さまがローズネルなのは母方の旧姓がローズネルだからです。ちなみに本国には母方が住むローズネル宮があります。妻問婚が基本です。

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