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革命の理論、そして囚われた翼

これ3月に打ち込んだって信じられますか……?

ジュラキラス皇国属領 トーキョー



カツカツ、と地下の石畳を歩く音。硬質で、どこかさめざめとしている 。

そしてその足音はある牢屋の前で止まった。


「ミズハ、ご飯持ってきたよ」


囁く声。誰かに聞こえたらまずいのか少女は辺りを見渡しながら袋の中に入ったパンを牢屋の中に置いた。

するとジャリジャリと牢屋の中で金属が擦れる音が響いた。ひた、ひた、と暗闇の中から檻に向かって歩く気配。

それは少年だった。

年は10代の後半だろうか。手足はスラリと長くボサボサの黒い髪と茶色の瞳。いわゆるニホン人というものだ。

しかしそれは異質だった。

まず手足のどちらにも鎖が巻きついている。その様はさながら大罪人のようだ。そしてその顔、まるで生気というものが見受けられない。感情という言葉とは程遠い"無"の表情だった。


「足元、パンが置いてあるの……見える?」


牢の外少女の言葉にミズハ、と呼ばれた少年はこくり、と頷いた。


「定期的に持ってきてあげられなくてごめん。……でもなかなか外に出る機会が無いから」


少年はその言葉を黙って受け止める。


「私もお兄様にお願いしてるんだけど……ミズハは外(、)に出しちゃいけないって、だから--」


言外にお兄様に逆らえない、というのに気づいたか少年は何も言わずにしゃがんだ。


「あ、ごめんね。パン、掴めないよね」


少年が後ろ手に縛られているのに気づき少女はパンの袋を破いて少年の口にあてがった。


「さ、食べて」


「……ありがと」


「っううん。こっちこそごめんね」


少年はお礼を言ってパンを一口口に含んだ。なんてことはない普通のパンだ。それでも少年にとってはありがたい。なんせ六日ぶりの食糧だ。


「どう? 美味しい?」


「……わかんない」


少年にパンを食べさせるために冷たい床に座った少女は申し訳なさそうに微笑みを浮かべた。

やがて少年がパンを食べ終えると少女はパンの入っていた袋を丁寧に折りたたんで服のポケットに入れた。


「袋、私が捨てておくね」


少年は黙って頷いた。そのまま黙って少女のことをじっと見ていると少女は両手を檻の中に入れ少年の頬を包んだ。


「ミズハ、もうちょっと待っててね。またお兄さまの所に行って頼んでみるから。……外に出れたらさ、どっか遊びに行こ? 二人っきりで、ね?」


「……外に出る」


「そう、出たいでしょ?」


「わかんない。出て、どうするの?」


その無邪気な言葉は業物のナイフより鋭く少女の心を抉った。彼が外に出て何がしたいのか、なんて少女が知るわけもない。ミズハは外に出たくないのか、どうでもいいのか、なんでそんなに無関心なのか、もう何もかも諦めてしまっているのか……そんな暗い疑問が尽きることなく溢れ出そうになる。年頃とは思えないほど表情を浮かべない少年は一体何を考えてるのだろうか。


「……ねぇ、どうしたの」


そんな負の思考から少女を救ったのは元凶とも言える眼前の少年だった。少女は目の端の涙をふいて「なんでもないっ」と言って立ち上がった。


「もう行くね。また次のご飯すぐに持ってくるからっ」


少女は駆け出した。これ以上少年と話していると泣きそうだから、それを少年に悟られないように。



✕ ✕ ✕



トーキョー州内 某隠れ家にて


「人は……どうして他者より上に立とうと思う?」


1人--金髪の青年が同志に向けて弁舌を振るう。


「神は言った。全ての人は平等だ、とな。だがそれは全くの嘘だ全ての人間が平等なら何故キリストのみが神の言葉を聞いた? 何故全員がその言葉を聞けなかった? 答えは簡単だ、当然キリストが特別だったからだ。……ハッそうするとおかしいな。全て人間が平等という土台が崩れ落ちることになる」


青年は鼻で笑って全員を見渡した。誰もが笑うことなく真剣に青年の話を聞いている。


「話を戻すか。どうして人は人の上に立ちたがるか……それはな、特別でいたいからだ。人は多かれ少なかれ欲、というものを持つ。そして人は自分の欲が満たされた瞬間に"幸福"を感じる。特別、ということは人と違うということだ。頭がいいと人から羨まれる、運動ができると人から目標とされる。そうした時どうだ? 自慢げにならないか? 得意げにならないか? 人間ってのはそういうもんだ……人より上に立って見えるものは当然下界で見る景色とは違う。人はな、それが好きなんだよ。大多数の人間が自分のことを見上げて讃える光景は気持ちのいいものだ。それ故に人はより上に立ちたがる」


馬鹿と煙は高い所が好きと言うがこれからは権力者も入れた方がいいかもな、と青年はそんな冗談を飛ばしてから再び真面目な口調に戻った。


「今の皇帝を見てみろ。こいつは前皇帝の圧政をくじくため、と革命を起こし王になった男だが、さて問題だ。現皇帝は以前にいた奴らと何が違う?」


答えを求めるように青年が押し黙ると辺りは沈黙に包まれた。しかし、しばらくしてその静寂は誰かの「何も変わっちゃいない」とうい呟きに引き裂かれた。

あぁそうだ、と青年は頷く。


「今までの奴らがクズならこいつもクズ。何故奴らは革命を起こしたか……それは自分が上に立って優越感に浸りたいからだ。言ったろ、人は尊敬されたいがために上に立ちたがる。結局はどいつもこいつも人の子だ」


だから、と青年は一際声を大きくした。


「俺たちが潰す。俺たちが俺たちの手で皇帝を破滅させる、それが『方舟の担い手』の存在意義だ。そのための第1歩が、こいつだ」


青年が皆に見せるは1人の少年が写った写真。


「殺すんですか?」


「違うな、知らないか? 『革命の翼』の都市伝説を」


「その話は……聞いた事ありますけど--」


「話の流れからするとその少年が……?」


青年の隣にいた男がそう尋ねる。


革命の翼


それは現皇帝が革命を起こしている最中に流れたある噂だった。

 曰く革命の翼と呼ばれたバケモノは銃弾を見てから切り裂いた、生身でグガランナと戦うどころか何十機と葬った、一人で街をひとつ消し去った......などとどれが真実でどれが嘘かすらもわからない革命期に流れたとある噂。そして彼、もしくは彼女は革命が終わったのとほぼ同時期にパタリと消えた。そんなありもしない噂は誰もその彼を見たことがないためにいつの間にか民間伝承(フォークロア)に昇華されてしまった。

 しかし周りの人間は突然そんな話を振られ誰も青年の話に付いていくことができない。それもそのはず、何故なら青年は冗談など口にしない。だったら革命の翼は存在することになる。しかし今や与太話ですらあるその革命の翼のことを周りの人間はそう簡単に信じられない、そこで彼らと青年の認識が乖離する。

話を促すつもりで青年の横に立っていた男が周囲の気持ちを代弁するように口を開いた。


「ギャレン、その話は誰も信じられないのでは……?」


「だろうな」


「私も疑問に感じています、たとえその革命の翼が存在するとしてその彼が私達に協力してくれるのでしょうか?」


「最もな疑問だな……ただ、それについては俺は何も答えられない。まだ保証がないからな」


その言葉に周囲がザワつく。当たり前だ、そんな確証もないものの為に命を懸けろと、言っているようなものなのだから。だが青年も無策ではない。すぐさま「しかし、だ」と言葉を繋いだ。


「俺は今までお前達の期待を裏切ることがあったか? お前達に不義理を働いたことがあったか? いや、なかったはずだ。だから今回も俺を信じて着いてきて欲しいーー無論、嫌ならここで降りてくれても構わない。ここからは、本番だ。もし、そうなったとしても俺は恨まない」


青年は押し黙り誰かが降りるのを待つが誰も席を立つことは無い、読めている。それさえも青年の計画通りだった。


「いいのか、ここで乗ったらもう降りられないぞ、方舟からは」


「私は……ギャレンを信じてる。私を、私たちを導く先導者として……私は、もうとっくに覚悟出来てるよ。ギャレンはどう、なの」


1人の少女の声を皮切りに場に居た全員が青年について行くと答える。その答えに青年は笑ってピンッと手に持っていた写真を弾いて胸ポケットの中に入れる。


「覚悟……? そんなモンとっくに出来てるさ。お前らこそ後悔するなよ……俺達は時代の開拓者になるんだからな」


その独特の言い回しに皆がニヤリと笑う。青年の言葉遣いにはもう慣れたものだ。


「俺達には力と後ろ盾が足りない……その"力"の部分をこいつで補う」


「それで……私達はどこで何をすればいいの?」


笑みの種類が変わる。今度は苦笑いのそれだ。


「そんなに焦るな。場所はーートーキョー州皇居別邸。そこから始めるぞ、俺達の革命を」

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