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猿の手なんて都市伝説

猿の手。初めて知ったのは東方の茨歌仙かxxxHolicでしたね

まずは手前の1匹からだな。

レーダーに映る一転を片目で見ながらもう片方の目でメインモニターを睨みグガランナを前進させる。目視できた。銃を構えて正面の画面にターゲットサークルを表示させる。敵が背中を向けてる時が好機だ。機銃を背中のコクーンに向けて思い切り叩きつける。煙を吐いて崩れ落ちる機体。


「まずは1匹」


うなじがちりつくような殺気。

目の前に敵がいないならそれは後ろからだ。腕部に格納されている刃を展開させながら振り返るとやっぱり。後ろからこちらに剣を振りかぶっていた軍のグガランナ。それを振り向きざまに切り裂く。胴部が切り裂かれてアレは……炉心の方がダメになったね。追撃は必要ない。

メインモニターに2機の軍のグガランナ。軍は陣形を組んでテロリスト側を1匹ずつ包囲して潰す作戦だろう。統率の取れた動きだ。


「ーーハッ」


僕の胸に突き立てようとする剣を刃でいなす。ギャリギャリギャリと不快な金属がこすれる音と火花。甲高い音が鳴って剣と刃が離れる。腕部に取り付けられている刃の方が取り回しがいい。だから次の先制は僕が取れる。

下から突き上げるような形で炉心に刃を刺し込んだ。これで2匹目。

最後の1匹も同様に突っ込んでくるーーので冷静にターゲットサークルを覗いてトリガを引く。銃弾は敵のグガランナの頭を物の見事に撃ち抜いた。これでメインカメラは使い物にならない。


「じゃあ」


これで最後。

機銃を操ってグガランナを蜂の巣にしていく。

サブモニターで銃に詰まっている残りの弾を数える。少し心もとないな。ていうか持ってる武装が手元の刃と機銃だけってこのグガランナはどうなってるの?軍が使う機体は"色々なパーツを交換して様々な事態に対応ができるぐらい汎用性が高い"っていう特徴が売りなのにこれじゃあ性能が十分に活かせないじゃないか。

……まぁテロリストならそんなたくさんの武装を買う資金なんてないよね。


「す、凄いねミズハ……本当に初めてなの?」


後ろで今までの事を一部始終見ていた少女の声に「慣れたら簡単だよ」とだけ返す。

レーダーを見るとすぐ近くに|味方(、、)のグガランナがいる。それを狙おう。

再びターゲットサークルからそのコクーンを狙い撃とうとするがーー


「……へぇ」


急いで振り向いた第2世代のグガランナが機銃をこちらに向ける。そんなに反応がいいなんて……エース級かな?

お互いに黙って対峙する。向こうは訳が分からずだが、こちらは出方を伺うためだ。

剣を構えようとして、間違えて手が動いた。僕の操るグガランナの手が誘うように手前に指を折り曲げる。


「ミズハ!? なんで煽るようなことするの!?」


「ん? これって煽りなの」


「そんなこと言ってないで! 来るよ!」


後ろでそんな叫び声をあげる少女と言葉を交わしていると目の前のグガランナが動いた。背部に附属のバーニアで加速して右手の剣による斬撃。いなすように刃でそれをそらした。まぁ加速が乗ってたから少しこっちが押され気味だけど……大丈夫。期待の制御はもう慣れた。


『ちょっとアンタ! 何してんの!』


対面の機体からだろうか。大きくて耳障りな女の声。


『仲間割れなんてしてる場合!? もうこうなった時点で誰も降りられないのよ、方舟からは!』


「方舟だとかなんだか知らないけどさ」


抽象的な会話は第三者から聞いたらただの暗号で、そして意味不明な電波だ。僕はそれを切って捨てる。


「こっちに手を出したならこれは正当防衛だから」


『その声……! アンタ……"方舟"じゃない……! 軍の人間?』


懇切丁寧に答える義理はない。だけど僕は口を開いていた。それは相手の動揺を誘うため。


「軍は自前のグガランナを持ってるのにこんな型落ち機なんて乗るわけないじゃん、もっと頭を使ってよ」


『なっ』


煽る。頭に血を昇らせて正常な判断力を奪う。


「僕はただの第三者さ」


『そんなッ、そんな訳ない! じゃあなんでそんなに上手く機体を使えるの!? それがアンタがウソついてるって証拠!』


どうやら話し合いにはならないらしい。元から話し合う気なんてないわけだけど。

僕は刃を構える。それを会話の終止符と受け取った向こうも銃を構えた。


「降参はしない?」


『!? 馬鹿じゃないの!! するわけないじゃない!』


そっか、じゃあーーいくよ?

走る。手っ取り早く奴を無効化させるために、炉心を穿つ。だけど向こうも抵抗するためにこちらに鉛玉を撃ち込む。速い、目で追える訳が無い。それでもーー


こっから先は一瞬だよ。


向こうの狙いは分かってる。僕と同じ、炉心だ。それが1番手っ取り早いから。炉心は人間の心臓と同じ、精密機械。少しでも不調を起こせれば勝つ可能性が格段に上がるのだ。それがグガランナ同士のタイマンでの定石(セオリー)。だから、そのセオリーを突かせてもらうよ?


「ッ」


一瞬で手元のレバーを手繰る。僕は突き刺そうとした刃を起こして盾替わりにした。勿論、心臓を守るためだ。

駆け寄る。速いんだ。車なんかが出す全速力。大きな質量を持ったグガランナがそんな速度を出すんだ。圧迫感はすごいはず。瞬きはしない。ただじっと目の前のモニターで相手の機体を睨む。

接近は刹那。僕はグガランナの首を跳ね飛ばす。いや、厳密には叩き切ってるんだけど。これで視界は潰した。

続いて蹴りつける。足の駆動を無理にしたせいでアラートが、機体から悲鳴が上がるが黙ってろと呟く。

目は見えない。満足に起き上がれない。これは……勝負あったよね?


「勝負はついたよ。緊急脱出(ベイルアウト)しろ」


『私は……まだ!』


あぁ……諦めが悪いのはイライラするな。


「敗者の末路は勝者が決める。気が向いたから、アンタは逃がす。チャンスはもうないよ?これが軍相手だったら……こうはいかないでしょ」


考える余地すらないだろう。だって僕には嘘をつくメリットがどこにもない。それは非合理的だ。やる意味がわからない。


「なぁ聞いてるんだろ? 乗り手の後ろ、こいつをアシストしてる奴。どっちが効率がいいか、教えてやってよ」


しばらくの沈黙。勝ち負けに敏感なのはいい事だけど自分の負けは認めなよ。

敵のグガランナが覚束無い足取りで起き上がる。 武器を全て捨てるのは降参の構えだ。


『ハァー……ハァー……覚えてなさいよ……』


「……あっそ」


それだけ言い残して背中のコクーンが弾丸のように後ろ側へ射出される。それが緊急脱出(ベイルアウト)だ。


「……大丈夫?」


戦いに一段落がつき、後ろでずっとしがみついてるだけだった少女にそう声をかけると「な、なんとか……」と返ってくる。


「ミズハって……すごいね……なんでもできるんだから」


「なんでもはできないよ……ただ命じられたことしか出来ない」


「ううん。それでも、何もできない私なんかよりもずっと凄い……私は」


「自分を卑下しないでよ」


この際だから、僕は口を開いた。


「こんなもの、できない方がいいよ。汚れ仕事は、嫌われ役がやればいい。それに貴方だって得意なことがあるでしょ。社交ダンスとか」


「ミズハは……嫌われ役なんかじゃない……それに、社交ダンスなんて誰でもできるよ。慣れなんだから」


「こんなことも慣れだよ。どのタイミングでどう動けば効率がいいか、それをわかってたら話しは早い。それに貴方はこんなこと分からなくていい、分かる必要が無い。そのための僕なんだから」


左下のレーダーに目をやると味方の数は大分減ってきていた。それは軍にやられたからか、撤退したからか……もしくはその両方だろうな。


「貴方にしかできないことは、後でゆっくり考えればいい。絶対に、あるはずなんだから」


「……うん、そう、だよね。きっと私にも何か……あるのかも」


未だ気落ちしている少女を傍目に僕は周りを見渡す。どうやら軍の数も減ってきてるみたい。そこで気付く。足元に、何かいる。


「……人、かな」


「? ッお兄さま!!」


なんの事か分からなかったが少女が食い入るように画面を見つめそう叫ぶのを聞いて僕は別れを悟る。


「行ってきなよ」


コクーンの中でいくつかのコマンドを入力して僕は繭を開いた。焼け着いた空気が肺腑のなかに流れ込む。


「み、ミズハは……?」


「関係ない僕が行ってどうするのさ」


目で降り方は分かるよね、と訊ねると少女は頷いてワイヤーを使い下の地面へ降りていった。


× × ×


私はミズハに言われた通りワイヤーを伝って無事が分かったお兄さまの元に駆けていく。


「お兄さま!」


その声にお兄さまは驚いて私に気付く。それから狼狽の声を発した。


「カリス……どうしてグガランナから……」


「ミズハが……戦ってくれたの」


「アレが、戦ったって……? カリス、何かの冗談だろ。アレはオレたちの、皇族の敵だぞ!」


「そんなことない! ミズハは私を助けてくれたもの!」


だけど私のそんな叫びを一顧だにせずグガランナに向かって叫びを上げる。


「いつまでもそんなとこにいないで出てこいよ」


少し身じろぎしたくなるような気まずい沈黙。それを切り裂いたのはグガランナに搭載されているマイクからだった。


『いいよ』


その言葉の後ミズハがコクーンから降りてくる。そしてお兄さまと対峙した。


「どうだよ、久々に牢屋から出た気分は」


「別に……昔と何一つ変わってないね、ここは」


「そうだな……オレがどれだけ手を尽くしてもこのトーキョーの病巣は深い。つくづく自分の不甲斐なさを実感するさ」


「……|子守り(、、、)をしてる暇があったら少しでも仕事をすればいいのに」


私には意味がわからない言葉。それでも、お兄様には通じたのかその言葉に皮肉げに返した。


「妹に変な虫がつかないようにしなきゃいけないからなそっちの方が最優先だ」


「そ」


相変わらずミズハの態度は変わってない。誰に対しても平等に冷たい。


「オレは……まだ迷ってる」


お兄さまは僅かにだがミズハに対して逡巡を向ける。それをミズハはただ黙って聞き続ける。


「お前は……オレたちの敵だ。ただ今日1日、お前は逃げなかったな。この子相手なら、お前は逃げれただろうに」


「っ」


心臓が1回跳ねた。お兄さまはやっぱり知っていたのだ。今更になって罪悪感が私に襲いかかる。


「逃げて、それでどこに行くの」


「ははっ最もだな。お前に居場所なんてない!」


だから、とお兄さまは懐からあるものを取り出した。


「俺が決着をつける……父上の尻拭いみたいで嫌だがな」


「お兄さまッ!」


それはこの数時間で随分見なれたもの。そう、拳銃。

なんでお兄さまがそんなものを……? そんなことを思うより先に私はミズハを庇うように前に出ようとするーーしかしそれを押しとどめたのは他でもないミズハ自身だった。


「この……今の世界にお前のいる居場所はない。だから、オレが終わらせてやる。使命を終えた人形を供養してやろうって言うんだ」


「やめてお兄さま! ミズハはまだ使命なんて終わってない! 私を守るって、そう言ってくれたもの!」


「だったら今、この場でそれは達成された! オレがいる以上アレは必要ないだろう、違うか?」


「それでも! 私はまだ納得してない!」


「納得したとかしないとか、そんな問題じゃないんだ……これは、平和への1歩だ。こいつはその礎になるんだよ」


訳が分からない! どうしてお兄さまはミズハのことになると頑固になるの!?


「オレではお前には勝てん。どうやっても、だ。それでもオレは……やらなくちゃいけない」


「アンタも難儀だね。勝算がないのに銃を向けなきゃいけないなんて。でもそっちがその気なら……容赦はしないよ」


ダメ……戦っちゃう……私じゃ……私なんかじゃ2人は止められない。もう2人は、やる気だ。


「危ないから、もっと下がってて」


「ここは危ない。お前はここから逃げろ」


2人から同時にそんな声が飛んでくる。そんなの……! そんなことって……!

頭で処理が追いつかない。情報がどんどん頭の中に流込んできて私はもう既に情報の海に溺れそうになっていた。だから私はただ目を瞑って祈る。



お願い!! 誰でもいいから、どうか2人を止めて!!



「なんだ、一人の女を取り合う劇か何かか?」


私は運がいい。1人の侵入者によって私の願いは聞き届けられた。


但し。但しだ。


聞き慣れた音。飛び散る火花。


昔、怖い話で"猿の手"って話を聞いたことがあったっけ。何でも願いが叶うんだけどそれは回数制で、しかも猿の手の持ち主の身近な何かを奪い、意にそぐわない形で叶える呪われた腕。そして最後は持ち主の命をも対価にしてしまう。そんな話。その話を聞いた時私は何を思ったっけな……


あぁそんな場違いなことが頭をよぎる。だって目の前の光景を信じたくないから。きっとそんなどうでもいいことを考えちゃうんだろうな。

私が願った"争いを止めて"はーー


銃弾がお兄さまの心臓を穿つ、という間違った、望んでない方法で叶えられることになった。


心の中で消えていたはずの憎悪の炎がまた焚かれる。

グガランナに搭載されてる刃はガンダムエクシアが持ってるGNソードみたいなものですね

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