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祭りの神輿は大義名分足り得るか

工事現場みたいにバラララと何かが打ち込まれる音、甲高い金属音。それは屋敷の外で国が開発した有人搭載兵器、グガランナが戦っている証明だ。


「ねえ、あいつらの目的とか分かる?」


動くにしてもまずは現状把握をしないと始まらない。そこで思案した少女が思い出したように口を開く。


「あ……ここにいる年頃の男の子を捜してるって」


「この屋敷に……そういうのはーー」


「うん。ミズハしかいないよ」


やっぱり。

革命軍、僕、<革命の翼>……すべてが僕の頭の中を掠め絵を描いていく。それは完成直前の絵だ。もう最後の仕上げに掛かっている。


「それなら」


「?」


少女が首を傾げる。それに僕は告げる。


「それなら、何とかなりそうかな」


こちらの都合としても、貴方を守ることとしても。

僕は彼女から離れる。少女が何か言いたげな表情を浮かべるが今はそんなことしてる場合じゃない。それに……僕がすることじゃない。


「……手伝って欲しいことがあるんだ」


「? ……!」


少女は最初僕が何を言ってるか分からない、という顔をしたがやがて理解し驚きを顔に表す。少し前に貴方の助けは必要ないと言ったばかりだからだ。

彼女は、頷く。


「私に……できることなら……するよ」


この場において素晴らしい決断の速さ。こうした命のやり取りがなされる現場では決定の速度が成功の基だ。

これから始まることにガチガチに緊張している少女に僕は短く告げた。


「大丈夫。そんなに難しいことじゃないよ」


それじゃあ、始めよう。僕の目的の第一歩を踏み出そう。


× × ×


その無線は革命軍<方舟の担い手>の全員に一斉に届いた。


『こちら突入部隊! 対象を発見しました!』


その言葉にそれぞれいる場所は違えど全員に緊張が走る。

そう、ここからは賭けだ。彼らの先導者、ギャレンが提案し皆が乗った丁半。その件の<革命の翼>がホンモノかどうか、そして彼が自分たちに手を貸してくれるかどうかのギャンブル。


『分かった。今からポイント13-11を合流地点(ランデヴーポイント)とする。そちらに向かえ』


聞こえてきたのは若きリーダー、ギャレンの声だ。


『他の突入部隊も撤収しろ。被害は最小限に抑えるぞ。合流地点にはβ3が回収にいけ!』


『了解!』


『チームβも隊列を組め! 軍とまともにやり合うな! 程々に荒らして逃げるぞ!』


『ははっ毎度毎度の無茶ぶりだにゃ〜』


茶化すのはグガランナを指揮していた少女。その少女も舞台の大詰めと言わんばかりに忙しなくアナログキーボードとホロキーボードをピアノのように弾いている。


『総員! まだ終わってないぞ、気を抜くな』


『そんなの分かってる! てかこっちに人寄越して! 数が多すぎる!』


その通信からはグガランナの持つ銃が奏でる演奏会。どうらやら派手に撃ち合っているらしい。

通信を聞いて何人かの乗り手がその少女の方向へ駆けつけていく。


『こちらβ3、ランデヴーポイントに到達。対象を発見しました。は――ーー』


突如ブツン、と不快な音が鳴ってβ3との通信が途切れる。


『どうした、応答しろ! β3!聞こえているか!? おいヒナタ、どうなってる!』


ギャレンの少し焦った声。その声音を聞きヒナタと呼ばれた情報管制官は一度自分のタスクをそっちのけにしてβ3が向かったランデヴーポイント辺りを精査し始める。


『おかしい! 軍のグガランナが来てる形跡なんてない! しかもそこには<革命の翼>とβ3しかいないの!』


そこでおかしいとギャレンは気付く。<革命の翼>の発見を報告した突入部隊の1人はどこに行った?


ピーピピピピー


『ッ』


電子音。これはどこからーーいやそれはどうでもいい。

ふざけているのか?


『ねぇギャレン!? どこ行くの!?』


『わかんないか? ははっどうやら招待されたみたいだぜ。件の<革命の翼>が主催する茶会に』


『ちょっと! 指揮官が戦地に行ってどうするの!?』


『あとのことはシロウゾノに任せる』


たったそれだけ言い残してギャレンは情報管制官からの呼び声を背に受けその地点に、<革命の翼>が手招きする会場へと足を向けた。

なぜその信号が通じると思ったのか、歩きながらギャレンはふと考える。

皇国式無線暗号。ジュラキラス皇国で創られた"軍隊で用いる"秘匿信号だ。

それをどうして革命軍である俺が……いやその通信が聞こえたなら誰でも良かったのか? 周りの反応を見る限り気付いたのは|偶然にも(、、、、)俺だけみたいだが。

皇国で開発された一昔前のモールス信号じみた電子音は確かにこう告げていた。


"そこに閉じこもってないでお前が来いよ、リーダー"


× × ×


言いたいことだけ無線で伝えた僕はその無線を閉じる。


「すごいねミズハ……ええっとあんな切羽詰った声も出せるなんて」


それを聞いて僕はいつも通りに答える。


「別に、必要だったらやるだけだよ」


「……また元に戻ってる」


少女が不服そうにそう言って頬を膨らませる。別にいつもそんな感情を出す意味ってあるの?


「次は……貴方に手伝ってほしいな」


「い、いよいよか……緊張しちゃうな」


「何度も言うけどそんなに難しいことじゃないよ。やってもらうことはただの演劇なんだから」


地面に打ち捨てられた女ーー当然だがこいつも<方舟の担い手>の1人だーーが来ているジャケットをおもむろ脱がす。その女は気絶させてるから勿論抵抗はない。


「ミズハ?」


「言ったでしょ? 演劇だって」


そしてそのジャケットを手渡した。それを少女は困惑した顔で受け取る。


「え、演劇? それって一体どういうーー」


「やることは今から説明するよ」


少女に疑問を挟ませず僕はただ淡々と今からやることを説明する。しばらくして全ての説明を聞いたあと少女が頷いた。


「うん、分かった……私にできるなら、やってみる」


そっか。じゃあ、攻略を始めようか。





少しの時間が経って僕達の準備が終わったあとに僕らは<方舟の担い手>のリーダーが指示したポイント13-11に向かうーーと既に一台のグガランナが待ち構えていた。いや本当はポイント13-11なんて分からなかったから迎えが来るのを待ってただけなんだけども。それはさておくよ。


「遅いぞ!」


グガランナを操るコクーンから降りていた男が僕の隣にいる<方舟の担い手>の服を着た少女に向かってそう怒鳴る。


「す、すいません! 屋敷の中にも軍がいたものですら!」


真面目一辺倒な声で少女はそう返事をすると男は苛立たしそうに「マジかよ、やばくねぇかそれ」と苦々しげに返す。


「ま、それは追追だ。そいつが対象でいい……みたいだな」


僕をじろりと男が1目見る。


「けっ、こいつが本当に|そう(、、)なのかよ。ただのひょろっこいガキじゃねぇか」


吐き捨てるような男の台詞に隣の少女が眉を顰める……お願いだからそんな表情はしないでほしい。ただでさえバレそうなのに少し危ない。


「彼は……どうしましょう」


「こいつは俺が持ち帰る。お前も急いでここを出た方がいいぜ。なんしろ軍が来てんだろ? 早くしねぇと殺されちまうぞ」


そこで今度は男が眉を顰める番。拙いな、風の流れが少し変わった。


「なぁ、わりいんだけどよ……お前みたいなガキ、作戦会議にいたか?」


「ッ……い、いましたよ! ……すみっこの方でしたけど……」


いいアドリブ。だけどそろそろもういいでしょ?

男は疑り深い目で少女のことを覗き込む。バレそう……少女の目が泳いでる。こちらに助けを求めてるみたいだ。……そうだな。


「ねえ、急いでるんじゃないの?」


僕が口を出す。そう、こいつらの狙いが僕なら僕の、<革命の翼>の発言はかなりの重要度と見ていいだろう。案の定男はあぁそうだなと頷いてグガランナの背中に付随しているコクーンを指さした。


「じゃあちっとばかし揺れる船旅に付き合ってくれや」


そして男は無線で他の仲間に報告を入れる。


「こちらβ3、ランデヴーポイントに到達。対象を発見しました」


「ーーいや、あんたの船頭はいらない訳だが」


「……は?」


突然の手のひら返し。男が呆気に取られるのも無理はない。だけどその判断は致命的だ。たとえ一瞬でも僕が動くには十分な時間だ。

男に殴り掛かり、抵抗される間もなく昏倒させ、その場に打ち捨てる、それまでに3秒とかかっていない。


「……終わったよ」


男が通信を入れていた無線機の電源を落としながら少女にそう言うと「お、おつかれさま」と返ってくる。労って欲しくて言ったわけじゃないんだけど。


「それでこの人はどうするの?」


「別に、ここら辺に捨てとくよ。運が良かったら生きられるかもね、さっきの人も」


みんな殺してもいいがさすがに手間だ。


「いくよ」


「い、行くってどこに……?」


コクーンを指し示した。


「あそこ。アレを使って安全圏まで行く」


コクーンから乗り降りするために使うワイヤーに手をかけて、それからもう片方の手を少女に差し伸べる。


「ぐ、グガランナに、乗るの?」


「うん。それが一番早いから」


おずおずと手を伸ばす少女の手を握り、それから落ちないように抱きとめる。高いところが苦手なのか目を瞑った少女の顔を人目見てから僕はワイヤーを握っていた手でリールを巻き上げるためのボタンを押した。じーっと焦らすような音、ゆっくりと登っていくのが妙にもどかしい。


「狭いね」


完全に登りきりコクーンを見るなり一言呟いていた。これじゃ二人乗り込むのは厳しいかな……?


「私のことは、大丈夫だから」


気遣いは無用との少女の言葉に僕は「そう」とだけ返し早速中央の椅子に座り込んだ。


「電源切ってる」


へえ、あんな外見でもこういうのには気を使うんだな……と妙な感慨を覚えて僕はグガランナを起動させるためのスイッチを押し込んだ。

目の前の画面が明るくなる。中にインストールされてるOSは軍のものらしい。それなら尚更動かし方はわかりやすい。


「ね、ねえ本当に大丈夫? 乗ったことないんだよね?」


「……守るって僕は言ったよ」


なんとかしてみせるという意志を孕んだ言葉を背もたれにしっかり掴まっている少女に掛けた。グガランナが完全に起動しきるまでまだ時間がある。その間に僕は無線機のスイッチをONにしたりoffにしたりして通信を送る。

メインモニターがテレビがつくみたいに頭部についてるカメラが見てる景色を映し出した。補正をかけてるのか映像は鮮明だ。


「世代は僕が知ってる第2世代……」


なら安心だ。壊し方も運用の仕方も分かってる。


「静かにしててね。舌噛むよ」


後ろを僅かに振り返り少女にそう言うと必死に彼女は首を縦に何回も振った。

まずは機体を歩かせる。1歩2歩と覚束無い足取りだが歩いていく。良かった。これならすぐに慣れそうだ。

ずしん、ずしん、と1歩ずつ進む度に振動でメインモニターの風景が揺れる。

そこでふと気づいた。


「困ったな」


「?」


不思議そうに首を傾げる少女。口を開けない分行動に感情が乗っている。いや、いつものことかな……? まぁともかく本題は


「これはテロリストから奪ったもの。僕たちはテロリストから逃げたいけどさすがに奴らも気付くでしょ。奴らは僕たちを襲いに来るし軍は"テロリストが乗ってるはず"のこのグガランナを狙う。つまり、だ」


言葉を考えて端的に言う。


「僕らは2方面から狙われる訳」


「ッ!?」


少女の顔が引き攣る……まるで「それってかなり危険じゃない!?」と言いたげな顔だがそんな顔されたって事態が変わるわけじゃない。

僕は頭の中で状況を整理した。


さてと、どうしようか。


効率よく進めないとな。

事態は危険でも僕の心は完全に冷えきっていた。僕は正面のサブモニターを冷静に眺める。レーダーには大量の点(つまりまだ動いているグガランナなわけだが)がそこかしこに散らばっていた。

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