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それは誰がための幕開け

2度言いますが不定期です。不定期です

人を殺すための棺、コクーンの中で僕は目の前のーーと言っても実際に肉眼で見ている訳じゃない、あくまでメインカメラに映ったものをだーー機体を睨みつける。


「毎度毎度……邪魔ばっかり……」


その声に憎しみの色はない……けれど小バエが自分にたかるのが鬱陶しいようにいい加減にしろという思いが湧いてくる。

僕は手元のレバーを操作して僕の乗る有人搭載兵器グガランナの腕部を動かす。そうグガランナが持つ銃を打ち込むのだ。


「いい加減、沈めよ」


発砲(ファイヤ)。コクーンの中にまでも揺れる振動の中メインカメラを食い入るように見つめる。

肉眼で捉えきれない、秒速何百メートルもの速度で射出される弾丸は撃ったのなら直ぐに敵を穿つ。それが自然法則で当たり前のことだ。

しかし、しかしだ。

刹那。小さな金属音、耳を済まさなければ聞こえないほどに小さなその音は確かに僕の耳に届いた。


「また……防がれた」


意味がわからない。いや、違う。そうじゃない。理屈はわかるのだ。答えは奴の腕に装備されているアンカー。それで奴は銃弾を弾いているのだ。

どうにかして奴をーーーー来る。

これもおかしい。グガランナが脚部に持つ車輪を使った走法じゃなく、足でこちらに駆けてくる。そう、なんとなくだがーー動きが|人間くさい(、、、、、)。

構えられた剣、そして振り上げられる。それを腕部に備え付けられている刃を展開して防いだ。


「ッ」


火花が散る。それは紛れもなく殺し合いだ。


『はっ……そろそろ負けを認めたらどうですか?』


お互いのグガランナの頭部が人であったなら吐息と吐息が触れ合うくらいの距離にまで近づく。そして入る向こう側からの通信。


「……冗談じゃないね。そっちこそ、大人しく引いたらどう?」


『それこそ悪質な冗談ですねっ』


剣が離れる。そして2本の腕で握られた剣による突き。

狙いは頭部のメインカメラ。そんなのさせるか。グガランナの首を僅かに傾けて間一髪で避けてみせる。


「いい加減飽きてきたんだけど」


『私はっまだ戦えるっ!』


「そんなのどうでもいい」


轟音の中の無線通信。所々ノイズ混じりで音がひび割れてる。

勝つためにはこっちだって出し惜しみできない。

スイッチオン。背面部に付随しているバーニアを起動させた。燃料を大幅に喰らう、文字通り"命を削る"加速だ。その加速度が付いた機体で相手に体当たりを行う。


『ぐっ……ぅ』


通信越しにくぐもった声。怯んだのが丸わかりだ。トドメを刺させてもらう。

こちらだって揺れが収まらない中で銃を構えた。


「ッ!?」


腕の制御が利かない!? なんで――!

視界の端に見えたサブモニタ。そこには宙を舞うアンカーが。僕のグガランナの肘の部分の関節を貫いていた。


フェイント? それともフェイク?


考えるのは後にしろ。殺されるぞ!


『あはぁ……形勢逆転です、ね』


引きっつたような笑いを含んだ声で奴が僕にそう宣言する。


「なんで、まだやられてない」


『じゃあ残りの手もっ、足もそうしますよっ!』


状況は圧倒的に不利。

集中しろ――鋭く意識を尖らせろ――!

汗が額から垂れる。僕は1秒でも瞬きすまいと瞳孔を極限にまで開いて相手の一挙手一投足を見逃さない。


アンカーが僕の左腕から引き抜かれて、それは左、右からは手に持った剣が迫る、どっちも避けるなんてできっこないどちらか二者択一被害が軽い方を選べアンカーか剣かどれがどれを狙ってる――!


選んだのは、アンカーだ。

右の折りたたみ式の刃で剣を受け止め、アンカーは――これはコクーンを掠める形だ――胴体を右にずらすことでなんとか受け止め――


「――ぐっ」


コクーンが大きく揺れる。えげつない角度、少しズレてたら確実に貫かれてた。


『嘘!? 止めるの!?』


「いい加減さ……」


剣を弾く。こっちの番だ。


「邪魔なんだよ、アンタ――!」


刃で奴の右肩を大きく貫いた。


『ッぐああああぁああああぁあぁぁーー!?』


自身の肩を庇う形で奴が後退する。そこで2人の距離が大きく離れた。

作戦は……あぁ僕抜きで回ってるね。

レーダー端末を睨みながら現状がどうなってるかを把握する。


『ぃたい……痛ぃ……苦し……はぁ……はぁ……だ、大丈夫……刺されてなんかない、刺されてないから痛くない……まだ、ぜんぜん戦える……』


通信機から聞こえる呪詛のような小さな声に違和感を抱き――それよりも先にトドメを刺そうと決めて僕は刃を構える。


「悪いけど、やりたいことがあってアンタは邪魔だから」


『やりたいこと……?』


ふと、痛みに悶えていた奴の動きが止まる。


『それなら……私だって……やらなきゃいけない事があるッ!』


噛み付くような女の声。奴は痛みと迷いを振り切るように先程とは反対の手で剣を構えた。


「交われないね、僕ら」


『吐き気がする……テロリストと、分かり合うつもりなんてない!』


お互い駆けだす。剣を、刃を構えて。2人とも殺意、相手を殺すことを考えて。





少年は1人の少女の顔を頭に浮かべながら

少女は1人の少年の顔を脳裏に映しながら


自分が殺しあってるのがそのお互いにとっての少年少女と気付かずに、今日も2人は殺し合いを続ける。


これはお互いのエゴから始まった戦争。

その幕開けだ。

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