第08話 王城
夕日たちが森を出発してから5時間が経過していた。
「ここが王都か」
王都に着いた。
森から王都までの距離約500キロ。
その距離を歩くと4日かかってしまう。
だが、シャルネアたちは走って5時間で着くことができた。
しかし、ずっと走っていた訳ではなく時折休憩を入れていた。
セルフィスもシャルネアも、魔力を使ってあのスピードを出している。
そのため魔力がなくてはあのスピードはだせない。
時折休憩を入れていたのは魔力を回復させるための休憩、という訳だ。
となると魔法の使えない夕日は、またしてもシャルネア抱えらていることになるが、『回復』によって自然治癒力を強制的に上げた代償か、疲れが夕日を襲い眠っていた。
出発時、辺りは薄っすら暗く、日が落ち始めていた。
時刻は午後7、8時くらいだろう。
そこから5時間で着いたわけだから今は0時くらい。
そんな夜中の王都は街灯の灯りがポツポツ見えるくらいである。
「その紋章『マルグリア』の隊員でございませんか!!ささ、どうぞ中へ」
「すみません。こんな夜分遅くに。いつもお務めご苦労さまです」
「有り難いお言葉、感謝します。それではこのことは王城に連絡を入れておきます」
そう言うと門番のおじさんは魔法を使用し、誰かと話しをし始めた。
夕日たちはそのまま王都の中へと進んでいく。
シャルネアによると、王都に入るには門があって、そこで検問が行われている。
その検問で許可が下りて初めて入れるのだ。
門は夜10時に閉められ、それ以降は入ることができない。
となると本来入ることはできないはず。
では、なぜ夕日たちが本来入れない王都に入ることができたのかというと、セルフィスがマルグリアの隊員だったことが1番の理由だ。
さらに今回は魔物の討伐の為の外出。
そうなってくると門番は中に入れざるを得ない。
ここまで休憩をしながらとはいえシャルネアたちはずっと走りっぱなしで、疲れている。
なので今日はこのまま宿に泊まることにした。
セルフィスの話しによると王様に会うのは明日とのこと。
門番と別れ、宿屋を探す。
探すのに苦労しそうだなと思っていた夕日だったが、一軒目に訪れた宿屋に泊まることになった。
どうやら王様が手配をしていてくれたらしい。
だがとれた部屋は1部屋。
ちょうど宿屋は1部屋しか空いてなかったらしい。
いくら王様からの願いとは言え、既に埋まっている部屋を取ることははばかられた。
そういうわけで部屋に男1人と女2人。
この状況、さすがにやばいと思った夕日だったが夕日には彼女がいる。
彼女でもなんでもない二人の女性に対し、やましいことを考えるのはやめた。
(裏切りたくないしな)
夕日はおいといてシャルネアたちはずっと走り続けていた。
その疲れが今ピークに達しようとしていた。
それに、朝は早いとのことだったのでもう寝ることにした。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
寝る前に挨拶を交わし、夕日は深い眠りについた。
翌朝、夕日たちは朝日が登り始めたことに目を覚ました。
その後、すぐに朝ごはんを食べ、余裕をもって王城に向かう。
その際、王都の町並みが視界に入ってくる。
「お〜すごいな」
夕日は王都の町並みに感動を覚えていた。
昨日は夜で暗く、あまりわからなかったが今は王都の町並みが綺麗に見える。
現実世界でいうところの中世ヨーロッパの町並みに似ている。
「なあシャルネア」
「なんだ?」
「服買うことはできないか?」
「服、か?」
「今から王様に会いに行くのにこの格好じゃ、なあ」
「それもそうだな」
賛成の意見を述べるシャルネアだったが、セルフィスの言葉に遮られた。
「それは別に大丈夫だと思いますよ」
「どういうことだ?」
「王様の性格的に服装は気にしないということです」
「それじゃあこのままで行く、と」
「本当に大丈夫なんですか?セルフィスさん」
「とりあえず会えばわかりますよ」
セルフィスがそう言うので夕日はそのままの服装で行くことにした。
大きな道を少し歩くと城が見えてきた。
かなり大きさのある城の周りには壁があり、入り口には門があった。
夕日たちはその門のところに行き、門番に話しかける。
「マルグリア隊員のセルフィスです」
「王様から通すようにと仰せつかっております。さあ、どうぞ」
ギィギィーと音を立て開く門。
門が開いた先には女性が待っていた。
「皆様初めまして。私は王様に支えるディステレと申します」
丁寧な挨拶とともに着ているスカートの裾をつまみ、頭を下げてきた。
優雅で上品な雰囲気を放つ女性。
さすが王様に支えているだけはある。
「皆様どうぞこちらへ」
夕日たちはディステレさんに着いて王城の中を歩く。
しばらく歩くと豪華な扉の前で止まった。
「セルフィス様と他2名様をお連れしました」
ディステレさんは扉の向こう側に声を発した。
するとすぐに返事が返ってきた。
「入ってくれ」
ディステレが扉を開け中に入れと促され、夕日たちは部屋のなかに入っていく。
するとそこには机につき、豪華な椅子に座った男性。
ただ、その男性から放たれるオーラを目の当たりにして確信する。
この男性が王様だと。
だが、そんな王様はアロハシャツを着ていた。
王に会うのに正装じゃなくていい理由がそれでわかった。
「任務から戻って参りました」
「任務ご苦労だった」
王の感謝の言葉にセルフィス顔を歪めた。
「ところでセルフィス、そちらの方たちは?」
「こちらはシャルネア・タースさんと龍崎夕日さんです。」
「というと?」
「はい」
王に顔が曇り始める。
セルフィスはゆっくりと手に持っていた袋と遺品を王様に渡す。
「これはまさか」
「仲間たちの遺品と遺灰です」
「⋯そうか。あの者たちは国によく尽くしてくれた。今回の事は非常に残念だと思う。国の王としても、1人の人間としても」
王様は言葉通りすごく残念そうに、そしてとても苦しい顔をしている。
たくさんの人の上に立つ者とはいえ、人を失うのはやはり辛いのだろう。
「マルグリアに入る時、そうなることがあるということを仲間も私も覚悟していましたから」
「そうか⋯なら、いいのだが⋯」
王は気持ちを整理し、王様として今やるべきことを考えていた。
「⋯それでは早速本題に入るとしよう。彼女らを連れてきたのは何かわけがあるのだろう?」
「はい。⋯実は魔物を倒したのはこの方なのです」
セルフィスはシャルネアが魔物を倒したことを王に知らせた。
「ほう!!なんと」
魔物を倒したのはシャルネアであると知り、思わず声が出る王。
「今回我々が討伐に向かった魔物は魔法が効きませんでした」
「なんだと?」
「魔法が効かなければ私達はなんにも役にたちません。そこで助けに呼んだのがこのシャルネア・タースさんです」
「そうか、君が魔物を」
王はシャルネアのことを興味有りげな表情で見ていた。
「では、魔物が効かない相手にどうやって勝ったのだ?」
「武術です。王様」
「武術⋯ほう。武術か。この魔法が重要視される国で武術とはな」
そう言うと王は口を大きく開け笑った。
そうして数秒笑った後、すぐに王は何かを考え込むかのように黙り込んだ。
「⋯うむ。武術大会を開くことにしよう」
「武術大会ですか?」
「魔法で倒せない敵が現れた今、対抗出来るのは武術しかない。剣という道もあるが実例が武術での討伐しかないのでない。もし剣も効かなかった時が危ない。ならば武術を使うしかなかろう。そのためにまずは皆がどの程度武術ができるのか確かめねばならん。なればこその武術大会だ」
王様は言葉に力が入りすぎたのかゴホゴホむせていた。
机の上にあった水を一口飲み、喉を潤してから再度口を開いた。
「私は皆の本当の実力を知りたい。そのために今回、優勝者には私に何か願いを言う権利を与えよう。なんでもとはいかないが、叶うものならなんでも叶う。これなら皆参加するだろう」
そこまで王が尽力するのは今回現れた魔物が国家にとって脅威であるからだ。
なぜそこまでする必要があるかのと疑問に思う者は誰一人としてこの場にいなかった。
「あの、王様。私も参加しなければならないでしょうか?」
シャルネアが王に問う。
「シャルネアさんには武術の師範をしていただきたいと思っています」
だが、シャルネアの問いに対して答えたのはセルフィスだった。
「師範、ですか」
「あなたの武術はすごい力を秘めています。そしてその力は国を守る力にもなる。どうかその力を国の為に教えていただけませんか?」
シャルネアは唖然としていた。
予想していなかったのだろう。
シャルネアにとって武術を教えるというのは絶たれた夢みたいなもの。
それが今叶おうとしている。
手を伸ばせば届く距離に夢があるのだとしたら、当然答えは決まっている。
「やります。私に武術の師範をやらせてください」
「ありがとうございます」
「そういうことで武術大会には参加せず、外から皆を評価をしてくれ」
「わかりました」
シャルネアは手を伸ばし、そして届いた。
正直、国の為という重荷があったが、シャルネアにはどうでも良かった。
ただ、夢が叶えば。
「コホンっ。それでは武術大会終了までの間、今泊まっている宿を借りるといい。金は私が出す」
「王様。そのお金は私に出させていただけませんか?」
「セルフィス。なぜじゃ?」
「私はこの方たちにお礼がしたいんです。お礼をするといっても私が受けた行為に見合うお礼というものが思いつかなくて。だったらせめて宿代だけは私が払おうと」
「そうか。⋯そういうわけだが、いいかね?」
王はセルフィスの話を聞き、シャルネアに合意を促す。
「はい。ですが、セルフィスから一番礼を受けるべきは私ではなく、彼です」
そう言い、シャルネアは夕日を示した。
王はその意外な人物に目を見開き驚く。
「今度は君か?」
「俺は、何もしていませんよ」
夕日の言葉を聞いた後、王の目はセルフィスに向けられた。
王に目を向けられたセルフィスは黙り込んだ。
「何かあったようだな」
「⋯」
「そうか。私にも言えないことか」
「⋯」
セルフィスは黙りコクンと頷いた。
「⋯わかった。もう詮索はしない」
王はそう言うと手を上げ、軽く笑う。
緊張した空間を和やかなものに変えていく。
「ありがとう、ございます」
セルフィスはそう言うと「それでは」と言い部屋の外へ出ていった。
それを見て夕日たちも王に別れを告げ、部屋の外へ。
外へ出るとセルフィス待っていた。
バタンと扉が閉まる音を確認し、セルフィスは口を開く。
「先程も言ったとおり宿は武術大会終了まで宿は借りれますので。それと今回の件、誠にありがとうございました。あなたたちがいたから私はここにいることができる」
「いや、礼には及ばんよ」
セルフィスはシャルネアの言葉により少し表情が柔らかくなる。
「本当にありがとうございました」
頭を下げ感謝を述べるセルフィス。
10秒ほど下げていた顔を上げ、「それでは」と言い、そのまま行ってしまった。
対して付き合いも長くない、言ってしまえばほんの数時間前に会った間柄、だが、夕日はかなり長い時をセルフィスと過ごしているような気がしていた。
その後、すぐそばで待っていたディステレさんに連れられ、来た道を戻る。
そうして門のところまで送ってもらった夕日とシャルネアは城を後にした。
「武術大会かぁ」
ため息混じりに呟かれたその言葉はシャルネアには聞こえない。
(あまり気が進まないけど、目的のためだ。仕方ない)
夕日は武術大会に参加することになっている。
そして、その武術大会は2日後スタートで2日間行われる。
まず1日目に予選、2日目に準々決勝、準決勝、そして決勝。
このあと鬼魔纏流のすべてを継承するということだが、その継承の仕方が寿命を削るというもの。
寿命を削られる。
そう思うと夕日は不安で不安で仕方がなかった。
今回でセルフィスとの話は終わりです。
次回は夕日が鬼魔纏流のすべてを継承するところからです。