第41話 待つ者の気持ち
今回は前の続きで魔物退治です。
始めて戦闘に参加する夕日、そして家で待つリサ。果たして夕日は魔物を倒すことができるのか⋯⋯
深夜に鳴り響いた鐘の音に騎士団の団員はすぐさま行動に移していた。
それは、団長であるティーナと、臨時の団員である夕日も例外ではない。
「こんな夜中に魔物が来るなんて初めてだ」
「それほど異常なんですね」
「ああ。まあ、とにかく早く魔物を倒しに行くぞ」
「ああ」
リサを家に置き、二人は話しながら家を出る。
周りの家の明かりは深夜にも関わらずついており、やけに騒がしかった。
それもあの鐘の音が響いたからであろう。
魔物は市民にとって恐怖の対象。
その恐怖は十年前、ティーナが英雄と呼ばれるようになったあの出来事から今も色濃く残っている。
だが、逆にあの出来事で英雄となったティーナがこの都市を守っているという事実が、市民を安心させてもいた。
だからか、騒がしい中にも皆落ち着きを持っている。
そして、皆の視線は、都市を翔け目前を通り過ぎる英雄の姿を捉えていた。
「英雄様、頑張ってください!!」
「いつも守ってくれてありがとう!!」
走り去る英雄に皆声をかける。
背後から聞こえるその声にティーナは振り返ることはしなかった。
だが、耳ではしっかりと聞いていたらしい。
ティーナは表情を変えず、尚も走りながら口を開く。
「夕日」
「なんだ?」
「⋯⋯いいものだな、こういうのも」
「⋯⋯ああ、そうだな」
ティーナの表情は少し緩くなり、穏やかになる。
だがそれも一瞬、ティーナはすぐに表情を真剣なものへと変えた。
「急ごう夕日」
「ああ」
二人はすでに全速力。
夕日たちはここディヌスへ入るときに通った門へと向かった。
「お願いします」
「ああ。お願いされた」
門へ到着すると深夜にも関わらず門番がおり、門を開けていた。
普通、門は深夜に開くことはない。
だから門番もいるはずがない。
だが、門番はいた。
やはりあの鐘の音を聞いて急いでここまで来たのだろう。
寒い夜の中、荒く、白い息を吐く門番の姿があった。
開いた門を通り抜け、颯爽と草原を翔ける。
「今回はどんな魔物でしょうね」
「さあ、さっぱりわからん。だが、どんな魔物であろうと全力で戦うのみ」
「⋯⋯俺だけ呼んだってことは、俺も戦っていいんだよな?」
「ああ、今の夕日なら魔物と戦っても大丈夫だと判断した。この前のような狼型の魔物ぐらいだったら大丈夫だろう」
「他にどんな魔物がいるんですか?」
「私も直接見たことはないが、昔の人が残した書物には人型の魔物であったり、空飛ぶ大型魔物がいたり、知能を持った魔物である魔族がいたりと色々あるそうだ」
「人型の魔物に、空飛ぶ魔物⋯⋯」
ティーナの挙げた例に該当する魔物を実際に見たことがあり、その一方は夕日が天球に来ることとなった元凶。
そのことを思い出した夕日は硬い顔をする他なかった。
「どうした、魔物と戦うことが急に怖くなって怖気づいたか?」
「⋯⋯いや、なんでもない」
「⋯⋯本当にどうしたんだ?」
ティーナは夕日の表情に違和感を感じていた。
だが、話しつつ走っていると目前には騎士団とシスト、そして敵である魔物が見え、その違和感はすぐに頭の中から消えていった。
「狼型か、助かった」
騎士団とシストが対峙しているのは狼型の魔物。
二日前に戦ったティーナたち騎士団とシストが戦った狼型の魔物と同じだった。
以前はかなり余力を残しつつ余裕で倒していたが、今回はそういっているようには見えない。
戦線に合流し、迫ってくる魔物を一刀両断するティーナ。
その右隣には夕日が剣を斜に構えていた。
「団長!!」
「すまない遅くなった。⋯⋯シスト殿、こんな夜分にすまないな」
「いえいえ、ちょうど起きていたところですからお気になさらず」
ティーナの左隣にはシストが。
こんな夜中にまで駆けつけてくれるシストに、ティーナは感謝してもしきれなかった。
「それにしても多いな」
「ええ、二日前とは桁違いです」
騎士団とシストを持ってしてもなかなか数が減らなかったのには訳がある。
二日前、狼型の魔物と戦ったとき、魔物の数は五十体だった。
だが、今回はざっと二百体近くはいる
一体一体は弱いが、数が多いとそれは脅威となる。
多勢に無勢。
こちらの陣営は十五名ほど。
数から見ても圧倒的に不利である。
だが、それは個々の力が同じ場合。
今は英雄であるティーナがいる。
圧倒的な者の前では皆無力。
それはどういうことか。
つまり、圧倒的有利、ということだ。
「シスト殿には左を、夕日には右を任せる」
「はい」
「俺に右を!?」
「夕日なら大丈夫だ。やれるさ」
夕日にとって魔物との初戦闘。
恐怖は感じない。
だが、恐怖は忘れていない。
魔物は簡単に人を殺せる。
その記憶はしっかりと残っている。
(俺にできるかわからない。でも、やらなければ)
後ろにいる騎士団員たちは、夕日がティーナから右を任されたことに対し、異論を唱えるものはいなかった。
「夕日さん、頑張ってくださいね」
「しっかりしろよな」
「団長と稽古できるのはお前くらいだ、自信持てよ」
皆、この短期間とはいえ、夕日のことを認めている。
背後から聞こえる団員の声、魔物から目を話さずその声を聞いていた夕日は、死と隣り合わせのこの状況で、なぜだか胸が熱くなっていた。
「よし行くぞ!!」
対峙していた魔物が一斉に攻撃を仕掛けた。
それを合図に、ティーナが皆に声をかける。
戦いの火蓋は切られたのだ。
迫りくる魔物をティーナは切っていく。
魔力が霧散し、魔石がボトボトと落ちる。
シストは魔法で周囲の魔物を一掃、地面には魔石がゴロゴロ転がっていた。
そして夕日は二人に続くように、戸惑いつつも一体一体着実に魔物を倒していた。
「すまん。一体抜けた」
「了解です」
まだ戦い慣れていない夕日。
魔物が一体横をすり抜けてしまい、慌てて後ろにいる騎士団員に声をかけた。
すぐに返事は返り、魔物もすぐに討伐され事なきを得た。
(この数を一人で倒さないといけないのか)
ティーナ、シスト、夕日の三トップで前線を上げていき、溢れた魔物を後ろにいる者たちで倒すこの戦闘スタイル。
手っ取り早く魔物を倒すのに向いているこのスタイルは、自然と前の三人に負担がかかる。
だからこそ強い者が一番前にいるのだが、流石に負担が大きすぎたのか夕日は数体魔物を仕留め損なうことがあった。
そのたびに後ろにいる騎士団員が処理をする。
そうして危なげながらも魔物を倒していき、遂に数は残り数える程となった。
「夕日、よく頑張ったな。あとは任せろ」
「は、い」
そうして残った魔物をティーナが処理し、深夜の魔物退治は終わった。
「ただいま」
家の玄関のドアを開けると目の前に可愛らしい女性が座りながら寝息をたてていた。
「あれ? リサ?」
玄関に座っていたのはリサだった。
不安になってここで夕日の帰りを待っていたら、急に眠気が襲ってきて寝てしまったのかもしれない。
このままでは風邪を引いてしまうと思い、夕日は肩を軽く叩いて起こす。
「あれ? 夕日?」
リサは重たい瞼をゆっくりと開ける。
まだ眠たいのか、瞼は閉じたり開いたりを交互に繰り返していた。
「……夕日!! 大丈夫でしたか?」
だがそれも数秒。
目の前にいるのが夕日だとわかり、リサの眠気は一気に飛んだ。
そんな夕日を見るリサの表情は心配そのものだった。
「ああ、なんとかな。それと……ごめんなリサ、心配、させたよな」
「本当ですよ。心配しました」
申し訳なさそうに断りを入れる夕日と笑顔で答えるリサ。
そして、困り顔のティーナがそこにいた。
「⋯⋯リサ、私に心配はないのか?」
「あっ」
「⋯⋯まあいい。夕日、疲れだろう、もう寝ろ」
「本当に疲れましたよ。もう眠くて眠くて⋯⋯それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
戦いで汚れた体と服を魔法で清潔にし、夕日とリサはベットに入る。
ベットに入った二人の間に静寂が訪れる。
この静かな空間に少し気まずくなった夕日がリサに話しかけようとすると、先にリサが口を開いた。
「夕日」
「ん?」
「私、もっと強くなります」
「リサ?」
「……もう待ってるだけなんて嫌なんです」
「リサ⋯⋯」
リサの真剣な表情と心からの声に夕日は自分がどれだけ心配をかけたか再度気付かされた。
(本当にリサには心配かけたな。俺も、ティーナさんみたいにリサを心配させないくらい強くならなきゃな)
そんなことを考えていると、突如強烈な眠気に襲われ、なんとか抵抗を試みるも、魔物との戦闘での物理的な疲労と精神的な疲れも襲い、抵抗むなしく夕日は静かに落ちていった。
「夕日の隣に立てるように。⋯⋯夕日?」
リサは隣から小さく寝息が聞こえてきたため夕日を見ると、案の定眠っていた。
「あ、夕日もう寝てる。そうだよね、疲れてるよね⋯⋯おやすみ、夕日」
そうして、今の気持ちを胸にしまい、先に寝てしまった夕日のあとを追い、リサも眠りに入った。
久しぶりです。
なかなか投稿できずに楽しみにしていた人には申し訳ないです。
次回は稽古やらなんやらやります。
まだまだ努力回ですが引き続き見てくださると嬉しいです。




