第40話 都市に響く音
翌日の朝、リビングにて朝食を取りつつ会話を交わす夕日とティーナの姿があった。
リサはというと、会話の蚊帳の外という感じで、昨日に引き続き少し暗く、何か思いつめた表情で料理を口に運んでいた。
「ティーナさん。今日はどうするんですか?」
「パトロール、と言いたいところだが今日は稽古だ」
「あの行方不明の娘さんはどうするんですか?」
「一応、都市の方に女性の身分は伏せて容姿を伝えておいて、見つけ次第知らせてもらうことにしようと思う」
「そう、ですか」
夕日は突如表情を暗くし、歯切れの悪い返事を返した。
そのことを当然、ティーナは不審に思った。
「どうした夕日?」
「いえ⋯⋯行方不明の娘さん、大丈夫かなと思って」
「⋯⋯そうか、心配なんだな。でも大丈夫さ。きっと見つかる」
「そう、ですよね。きっと見つかりますよね」
夕日に向けての言葉に反応したのは、意外にもリサだった。
リサの表情はやはり暗かったが、先程よりは少し明るくなっていた。
「そうだな。リサの言うとおりだ。絶対見つかるさ」
夕日リサはお互いに目を合わせ頷く。
リサはその時、夕日と感情が通じているのを確認していた。
「昨日はパトロールの最中だったから娘さんを探したが、本来であればできないんだ」
ティーナの声に夕日は視線をリサから外す。
「どうしてですか?」
「それは騎士団を都市が運営しているからだ。騎士団は外と中から都市を守る役目にある。それは昨日言ったからわかるよな?」
「はい」
「そもそも今日はパトロールはなく、稽古をすることなっている。これはすでに決まっていることだ。それに、今は魔物の大量発生続いている。今はまだいいが、強い個体が現れた時に対処できるようになるには稽古をして力をつけるしかないからな」
「確かにそうですね。今、騎士団で娘さんを探して、もしその時に魔物が現れたりしたら大変ですもんね」
「女性には悪いが今の私たちは都市を守ることを選ぶしかないんだ」
そう、いつもと変わらぬ口調で言うティーナだが、娘さんを助けに行けないことを本気で悔やんでいるように見えた。
「ほら、そうとわかればさっさと食べて稽古に行くぞ」
「「は、はい」」
そうして朝食を終え、夕日たちはいつもどおり拠点ヘと足を運ぶ。
すでに団員は来ており、どうやら夕日たちが最後だったらしい。
「おはようございます団長」
団員の一人の挨拶にティーナと夕日、リサは挨拶を仕返す。
「ああ、おはよう」
「「おはようございます」」
「一応都市の方には行方不明者の情報を流しておきました」
「ああ、ここまで来る間に行方不明者を見つけたら知らせると言われたよ」
ティーナたち三人は家から拠点に着く間、何人かから声をかけられていた。
それはまさしく、行方不明者を見つけたら知らせるというものだった。
「そうですか。早く見つかるといいですね」
「ああ」
団員の一人に視線を向けていたティーナは団全体へと視線を移す。
団全体の雰囲気は良く、表情もやる気に満ちている。
みな行方不明者のこともあるが、今やるべきことをしっかりと理解しているようだった。
「それじゃあ、稽古をはじめる」
「「「はい!!」」」
どことなく暗かったティーナの表情も今や影もない。
ティーナは団員がしっかりしているのに団長が行方不明者のことであれこれ考えても仕方がないと気付かされ、心の中で喝を入れていた。
散り行く団員。
それを見てティーナ夕日へと視線を向けた。
「やるぞ夕日」
「はい。お願いします」
そうして開始した稽古は中々に濃い時間となった。
「いい攻撃だ夕日」
時刻は午後一時。
天球は地球の合わせ鏡みたいなもの。
天球にも太陽があった。
夜になれば月も出る。
太陽がちょうど天井に来る頃、夕日の剣を眼前で受け止めるティーナの姿があった。
だが、ティーナには焦りはなく、かなり余裕があるように見えた。
(これでも届かないか)
ティーナに届かない切っ先。
本当に届いても困るが、本気でやらなければティーナとの稽古は意味がない。
今、夕日が持ちうる限りを尽くして出した攻撃は、いとも容易く防がれてしまった。
そのことがティーナに一生届かないと夕日に思わせるほどだった。
一方通行な鍔迫り合いのティーナと夕日。
ティーナは夕日の剣を軽々と弾き、夕日の剣は自由となる。
「本当、強いな」
「何を言っているんだ夕日は。お前も大概だろ」
「え?」
「私の稽古についてこれた者は夕日、お前が初めてだ。だからお前も十分強いよ」
予想外のティーナからの称賛に困惑しつつ、半ば絶望的だった夕日の心に灯りが灯った。
(⋯⋯なに弱気になってんだ、俺。今までもなんとか食らいついてきたんだろ)
自嘲気味に笑い、夕日は剣を持ていない左手で自身の頬を叩いた。
パチンっ!!
その光景と音を聞いて、ティーナは素っ頓狂な顔をしていた。
「すいません。ちょっと弱気になってました」
「⋯⋯ははっ、そうこなくっちゃな」
夕日の目に火が灯る。
その目はまっすぐにティーナを見据えていた。
「行きますティーナさん!!」
「ああ、来いっ!!」
夕日はティーナへ向け疾走する。
眼前に迫る夕日を見て、ティーナはどんな攻撃へも対処できるように剣を構えた。
ティーナのすぐ前まで到達した夕日は剣を素早く構え、ティーナの右腕へ狙いをつける。
ティーナは夕日の攻撃の意図を理解し、剣を腕の前に持っていった。
ここまでは普通の攻撃。
特に工夫も何もない。
だが、それではティーナに勝てない。
単純な力比べだと今はティーナのほうが上。
力がないならどうするか。
夕日は疾走しながらそんなことを自問自答していた。
夕日の剣がティーナの剣と交わる、かと思われたが夕日の剣は空を切り、そのまま剣はティーナの腹へと向かっていた。
「っ!!」
これにはさすがのティーナも不意を突かれ、慌てて攻撃を防いだ。
フェイントを入れてもティーナには勝てない。
だが、今の攻防に夕日は少し手応えを感じていた。
「本当に末恐ろしいな」
呆れ顔でその夕日を見ているティーナがいた。
フェイント。
それは一見、簡単なように見える。
だが、フェイントが使えるのはある程度強くなければならない。
初心者がフェイントを使っても全く意味がないのと同じように。
基本的な強さがあり、その上でフェイントは生きてくる。
さらにティーナが慌てて反応せざるを得ないほどのフェイント。
それほど夕日は強い。
ティーナは夕日が右腕を攻撃する、それはわかっていた。
だが、それがフェイントだと気づかなかった。
並のフェイントなら余裕で気づくティーナでさえ。
だからティーナは夕日のことを強いと言ったのだ。
短期間で成長する夕日のことを。
「もうこんな時間か」
気づけばもう夕方だった。
太陽は沈みかけ辺りを紅く染めている。
「稽古は終わりだな」
「ティーナさん。稽古ありがとうございました」
ティーナに対し、汗を流し頭を垂れる夕日。
それをティーナは同じく汗を流し、口を開く。
「ああ、こちらこそ、な」
稽古を終え、夕日たちは家へと戻っていた。
食事を済ませ、体をきれいにし、そしてあとは寝るだけ。
「今日は疲れたな」
「そうですね」
ベットの中で今日のことを思い出しあくびを打つ夕日。
「リサの方はどうなんだ?」
「どう、ですか?」
「どんな感じなのかなって」
「いつもどおりですよ。基本的な動きを教えてもらってる感じです」
「へぇー、基本か。⋯⋯そういえば俺やったことないな、基本」
「ふふっ、夕日らしいですね」
リサは笑顔で笑うが、その時、心には痛みが走っていた。
リサは感情が夕日と一致していないことに気づいているが、夕日が気づくことはない。
「とりあえず明日も頑張るか」
「そうですね」
今日の稽古は一段と疲れたのか、昨日よりも強い睡魔が夕日を襲ってきていた。
「もう寝るよ。おやすみリサ」
「はい。おやすみなさい」
ちょうどリサも眠くなってきた時で、二人はおやすみの挨拶を交わし、目を瞑った。
睡魔が襲い、二人の意識は闇に溶けていく。
そして完全に溶けていく、その手前で二人の意識は覚醒した。
カンカンカンカン!!
夜遅く、都市に響く魔物の存在を知らせる魔道具の出す音。
夕日たちは慌ててベットから起き上がる。
「魔物!?」
「夕日、魔物が出た行くぞ」
「はい!!」
夕日はそのままティーナへとついていく。
「夕日、私はどうすれば」
「リサは体をしっかり休めておいて」
「えっ、で、でも」
「心配ないよ、魔物のことは大丈夫」
「あっ、夕日⋯⋯」
そう言い残し、夕日は行ってしまった。
そして、部屋にぽつんと一人残されたリサは、ベットのシーツを掴み小さく呟く。
「私が心配なのは夕日のことだよ」
その呟きは部屋へと溶けていった。
夕日とリサはなんというか危うい感じがしますね。
まあ、書いてるの私なんですが(笑)
次回は魔物討伐回です。
夜中に来るとか魔物さん、ちょっと非常識ですね。
というわけで引き続き見ていってくれると嬉しいです




