第39話 心配
女性と別れたあと、夕日たちは訓練場もとい拠点へと帰っている途中だった。
「ティーナさん。あの女性は⋯⋯」
「ああ」
続きの言葉を言おうとした夕日を遮り、ティーナは夕日が言わんとしていることを理解していた。
「あの女性は魔法が満足に使えない、スラムの女性だ」
「スラム⋯⋯」
「⋯⋯」
ティーナの口から出たその言葉は地球でも聞き馴染みのある言葉だった。
リサはその言葉に驚きを隠せていない様子だった。
「あの服装を見ただろう?」
「は、はい」
女性の着ていたボロボロの服。
それは普通であれば捨ててしまうほどボロボロだった。
魔法を使えないと言っても基本魔法は誰でも使える。
その事実は変わらない。
女性の服は確かにボロボロ。
だが、特段汚いというわけではなかった。
「魔法が使えなきゃお金を稼ぐのはキツイ。魔法は絶対の力だからな」
―――魔法は絶対の力
その言葉が夕日の頭の中でループしていた。
「あの服装はまさに魔法が使えないものの象徴だ。新しい服を買う余裕がないんだ」
「だったら新しい服を買って上げましょうよ。あれじゃあ可哀想です!!」
夕日の発言は正しい。
(困っているなら助けて上げるべきだ)
だが、その考えは都合のいい考えだ。
それをティーナの表情が物語っていた。
「それはできない」
「なんでですか!?」
「スラムはこの都市にどれくらいいると思う?」
「⋯⋯5人、くらい」
夕日の全く根拠のない予想にティーナは鼻で嗤った。
「5人?そんな少ないとでも思ってたのか?」
「そのくらいじゃないんですか?」
「500人だよ」
「え、500人もですか!?」
夕日は予想の100倍の数に驚き声を上げる。
この100の数字を少ないと見るか多いと見るかは勝手だが、少なくとも夕日は多いと見ていた。
ティーナの言葉に一番反応を見せたのは意外なことにリサだった。
「そんなにいるんですね⋯⋯」
「リサ?」
リサの表情は暗く、悲しい顔をしていた。
今、ここにいるリサはティリサになっていた。
「500もの人たちを助けるのは厳しい。それにその者たちだけを助けると他の都民が許してくれない」
「だから、助けられない、と」
夕日の表情は重く、何もしてやれない無力感が襲っていた。
「スラムの人々は何かと差別の対象になっている。それを変えるのは正直言って難しい。だが、それでも私は皆平等に接していきたい。スラムだからとか、魔法が使えないとかじゃなく一人間として」
「ティーナさん」
話をしつつ歩いていると目の前には拠点の入口が見えていた。
「あ、団長。遅かったですね」
拠点へ帰ると、団員はまだ稽古を続けていた。
稽古の終了は団長が告げるもの。
故にパトロールに行った団長が戻ってこないことには稽古は終われない。
そのため今のいままで稽古を続けていたのだ。
よく見ると団員の顔には疲れが見えていた。
「すまんな、こんな時間まで」
言葉通りの表情を見せ、団員に稽古をやめる指示を出すと皆一様に地面へ座り込み、大きく息を吐いた。
「疲れているところすまないが少し聞いてくれ」
団長の真剣味を帯びたその言葉に団員は視線を向ける。
その視線を受けティーナは大きく息を吸った。
「都市に行方不明者が出た」
その言葉に団員の一人が反応。
すぐさま聞き返した。
「行方不明者ですか?」
「ああ、そうだ。パトロールに行った際、ある女性が娘が2日前から帰っていないと言うから探したんだが」
「結果は?」
「だめだった」
「そう、ですか」
団員は残念そうな顔をし、下を向いた。
「だから、長い茶髪に真紅の瞳、15歳くらいの子を見つけたら教えてほしい」
「はい」「了解」「わかりました」
皆一様な返事で承諾をしてくれた。
(これなら娘さんも見つかるはずだ)
夕日とティーナ、リサは同じことを思っていた。
その後団員は各々帰宅し、同様に夕日たちも家に帰っていた。
「おやすみリサ」
「おやすみなさい、夕日」
リサの返事は元気がなかった。
「リサ?」
「⋯⋯」
夕日は問いかけるがリサは反応しない。
夕日は仕方なく目を瞑り寝る体制に入った。
(どうしたんだろリサ。何かあったかな?)
稽古の疲れか、行方不明者探しの疲れからか睡魔が襲ってくるのにそう時間はかからなかった。
夕日が寝たあともリサは起きていた。
今はわからないが、夕日が寝る前、嘘をついていないと理解できた。
リサが嘘をついていないとわかるということは感情が同じのときで、その感情とは
―――――――心配だった
夕日はリサのことを心配し、リサは何を心配していたのでしょうか……
というわけで次回は行方不明者探しの会になりそうですね、この感じだと。
果たして行方不明者を探し出すことはできるのか……




