閑話 英雄ティーナ
時は遡り夕日が天球に転生する十年前。
いつからあったのかもわからない窪地にできた都市ディヌスでは、何やら慌ただしい様子だった。
「魔物が来たぞ!!」
都市内に響く鐘の音と男性の大きな声。
その男性は街中を走り、魔物の到来を住人に知らせていた。
この時、魔物に対抗できる手段といえば魔法。
それが一般的だった。
ただ、魔物を倒すにはレベル3以上の魔法でなければ倒せない。
レベル3の魔法を使える魔法師は数少なく、この都市ディヌスにも当然、魔物を倒せる者は少なかった。
「今魔物を倒せる魔法師はいねぇ。もう少しでここにも魔物が来るぞ。死にたくなかったら逃げろ!!魔物は北の方角から来るから反対側に逃げな」
「あの、サトルナさんは?」
「あの人は今いねぇ」
「そんな!? では、誰が魔物を倒してくれるのですか?」
「だからいないって言ってるだろ!!死にたくなかったら逃げろ!!」
サトルナとはこの都市にいるレベル3の魔法を使える唯一の人だ。
だが、ちょうどサトルナは都市を出ており魔物を倒せる者はいなかった。
都市を守れる者はおらず、魔物は尚もこちらへ向かって来ている。
だから男性の口調が荒々しくなっているのも仕方がなかった。
女性は男性の必死さに感化されたのか南の方角へと走っていった。
「くそ、まだたくさん残ってやがる。時間がないのにクソっ!!」
男性の呼びかけ虚しくまだたくさんの人が残っていた。
軽く絶望し、それでもなんとか必死に声をかけ続ける男性。
「早く逃げろ!!」
そうして何度目かの声かけをしたとき、北の方角から悲鳴が聞こえてきた。
「きゃー!!」
「ま、魔物だ!!」
その悲鳴に男性は表情を硬くした。
「チッ、もう来やがったか」
男性は周りを見渡すがやはりまだ人は残っている。
「こうなったらなんとかして止めるしか⋯」
今から逃がすことは不可能と判断し魔物を倒すことへと思考をシフトさせる男性。
だが、男性はレベル3以上の魔法が使えない。
それでもやらなければいけない。
今すぐにでも南の方角へと逃げ出したくなる。
でも、それはだめだと自分に言い聞かせ北の方角へと走っていった。
「あれか」
走っていると正面に人型の魔物が3体いた。
そして、襲われ亡き人となった者も少なからず3人はいた。
男性はその惨事を見て早くなんとかしなければ他の人にも被害が出ると焦っていた。
そうして魔物を倒すため距離を詰めようとさらに加速させる。
「おい、どうしてだよ。動けよ、なあ、なあ!!」
だが、足は前に出なかった。
地面と一体化したように足はピクリとも動かない。
すぐ目の前には魔物がいる。
なのに恐怖で足がすくんでしまう。
動け、動けと脳に命令するが脳はそれを拒否してしまう。
男性はわかっていた。
非力な自分が魔物と戦ったところで死ぬだけだと。
それでも行かなければならない。
この都市を守るために。
「動け、動け、動けよ!!」
だがそんな意志を持っていたところで何かが変わるわけはなかった。
やはり死は怖い。
男性の意志よりも遥かに死の恐怖が勝っていた。
「クソっ!!」
自身の弱さに打ちひしがれる男性。
後はこのまま魔物に殺され、都市も終わりだ。
そう考えていた。
急にもうどうでも良くなって全身の力が抜けた。
「もう終わりだ。どうせみんな死ぬんだ。⋯俺は何か役に立てたかな?」
自問自答する男性。
答えは否。
ただ自分は魔物の到来を知らせ逃げることを促していただけだ、なんの役にも立っていない。俺は役立たずだ。
そんなネガティブな思考が頭を駆け巡る。
さあ、後は死ぬだけ。
死を覚悟し、目の前の魔物を見据えた。
「えっ!?」
その時、魔物とある一人の人間が目に入った。
「女の子?」
身長160センチほどの平均より少し高いくらいの女の子だった。
その女の子は剣を片手に持っており、何をやるのか簡単に理解できた。
「おい止めろ!!死ぬだけだ」
男性は叫んでいた。
女の子は剣を持っている。
それはつまり戦うということ。
だが、剣では魔物に勝てない。
だからレベル3以上の魔法を使える者が必要なのだ。
そのことは誰もが知っている常識だった。
なのに女の子は剣を持っている。
女の子は男性の叫びを聞いていたはずだが動かない。
魔物は女の子の存在に気づき、大きな手を振りかざした。
当たれば即死の攻撃。
男性は動き出していた
「危ない!!」
女の子を守ろうと必死に走る。
だが、届かない。
攻撃は女の子に当たる寸前だった。
だめだ。
男性は自身の非力さを嘆く。
しかし女の子に届いた魔物の手は宙に飛んでいた。
「えっ!?」
魔物の叫びが聞こえる中、女の子はすぐさま攻撃を開始。
まず腕を切断された魔物の胴体を真っ二つに切り消滅させた。
女の子を危険、と判断した残りの魔物2体は同時に襲いかかる。
それを確認し、女の子は口を開いた。
『聖壁』
女の子唱えた瞬間、魔物との間に光り輝く壁が出現。
魔物の攻撃はその壁に防がれた。
「レベル3の光属性防御魔法『聖壁』だと!?」
魔物を倒すのにレベル3以上の魔法が必要。
それはなにも攻撃魔法だけではない。
魔物は防御力もさることながら、攻撃力も高い。
魔物の防御力を超えるためには攻撃魔法のレベル3以上が必要であり、魔物の攻撃を防ぐためにはレベル3以上の防御魔法が必要であった。
そしてそのレベル3以上の魔法を使える者がそこにいた。
たった今、目の前に。
「これで終わりだ」
防御魔法で攻撃を防いだあと、怯む魔物に攻撃を仕掛け一体を消滅させ、最後の魔物が残った。
魔物は攻撃する姿勢を取るが、時すでに遅し。
女の子の攻撃はすでに終了。
最後の魔物はそうして消えていった。
「あなたの声、しっかり聞こえてましたよ」
「声?」
魔物を倒すや否や女の子は男性に話しかける。
男性は女の子の言う声の意味がわかっていなかった。
「この場所、いつもは人で溢れかえっているんです」
「それ、が?」
「でも、なぜだか今日は人が少なかった。確かに先程までたくさんの人がいたはずなのに」
「それが声となんの関係が?」
「あなたの声がそうさせたんだ。あなたの声はしっかりとここに届いていた。魔物の到来で指揮系統は混乱。みんなどうすればいいのか戸惑っていた。そんな中、あなたの声が聞こえてきた。必死に叫ぶあなたの声が。そのおかげで迅速に逃げることができた」
「でも、それも意味がなかった」
男性は地面に倒れる動かない人間を見て言う。
男性の死人を見やる表情はとても暗かった。
「全員を救えるわけじゃない。人を救おうと思えば必ず救えない者が出てくる。あなたはよくやった。誇っていい。だからそんな顔をするな」
「俺は、誇ってもいいのだろうか」
「ああ」
「誰かの役に立てただろうか」
「ああ」
「俺の行動は無駄じゃなかっただろうか」
「ああ。無駄じゃない。ちゃんと意味があった」
「くっ、う、うう」
男性はその場に崩れ落ち、涙を流す。
「私はもう行くよ。またどこかで」
女の子は男性の様子を見て歩みを進める。
去っていく女の子に男性は嗚咽を我慢し、声をかける。
「あ、あなたの名前は?」
男性はその女の子の名前を胸に刻んで置きたかった。
声をかけられた女の子はそのまま歩き、振り向こうともしなかった。
「ティーナ・エイス。それが私の名だ」
「ティーナ・エイス」
そう言うと女の子はどこかへと消えていった。
「ティーナ・エイスか」
男性はしっかりとその名を胸に刻んだ。
ティーナ・エイス。
都市にとって、自分にとっての英雄の名を。
えー今回はティーナの過去について書かせてもらいました。
ティーナはやはり昔から強かったんですね。
次は本編を更新します。
夕日は日々成長しています。それにしてもリサが不遇すぎるような⋯いや、夕日の成長速度が異常なんですよ。リサが夕日と肩を並べて戦う時がくるといいなぁ。




