第35話 上達
翌日。時刻にして午前9時。
夕日たちは訓練場にいた。
「ほら、もう一回行くぞ」
「はい!!」
訓練場には騎士団の姿があった。
その中に夕日とティーナは稽古をしていた。
「本当すごいな夕日さんは」
「そうですね」
「あのティーナさんの動きについていってるだけでなくしっかりと攻撃も防げるなんて」
そして、リサと騎士団の青年でリサの稽古相手であるケイルの姿もあった。
夕日とティーナの稽古は騎士団の本来の稽古から程遠く、みんな夕日たちの稽古に目がいっていた。
それはリサたちももちろん例外ではない。
「とりあえず僕たちも稽古を始めましょうか」
「そうですね。今日もよろしくお願いします」
「いえいえ。それじゃあ始めましょう」
他の騎士団員が稽古を開始したことからケイルとリサは夕日たちから視線を外した。
そうしてリサたちも騎士団本来の稽古を開始した。
「夕日、守るだけか?」
「これで精一杯ですよ」
「まあ、なんとかしてみせろ」
「なんとかしろって言ったって」
夕日たちの稽古は相変わらずスパルタで、昨日と同じく攻撃を仕掛けるティーナに夕日はただただ攻撃を防ぐので精一杯だった。
(一体どうすればいいんだよ?)
今もティーナの攻撃は続いている。
だが、夕日はその攻撃をなんとか防いでいる状態。
当然、攻撃を仕掛ける暇などなかった。
しかし、今日の夕日は昨日の夕日ではない。
攻撃を受け続けたおかげか、段々慣れてきていた。
そうして効率よく攻撃が防げるようになり、少しだけ思考に余裕が持てた。
(どうすればいい? 今は少し余裕があるけどこのままじゃ結局ティーナさんに反撃なんてとてもじゃないけどできないな)
今の状況を打破する作戦をティーナの攻撃を防ぎつつ考える。
そうして夕日はあることに気がついた。
(ティーナさん、かなり手を抜いてる?)
気づいたのはティーナの攻撃の仕方。
ティーナは攻撃を夕日が防げるギリギリのスピード、威力に調整していた。
だから、夕日は攻撃を防ぐことができた。
そのことに気づいたとき夕日はティーナに恐れを抱くとともに、自身の情けなさに恥じていた。
(本当に情けないな。どこか剣ができるようになっていた自分がいた。それは、ただの傲りだったんだな)
自身の情けなさを認めた夕日はすぐに行動を移した。
(ティーナさんが手加減しているんだったら付け入る隙はあるはずだ。それを見つけることができれば)
そうやって突破口を探るため思考を回転させる夕日。
だが、そんな簡単に見つかるはずもなかった。
「だいたい攻撃は防げるようにはなったようだな」
「どういたしまして」
「よし。それじゃあ休憩にしようか。流石に疲れただろう?」
「ティーナさんは全く疲れているようには見えませんね」
「そうか?」
夕日たちは稽古をやめ、休憩に入った。
夕日はずっと攻撃を防ぎ続けかなりの汗をかいていた。
それに比べずっと攻撃をし続け、夕日よりも激しく動いていたはずのティーナは全く汗をかいていなかった。
(この化け物め)
夕日は呆れ気味にティーナを心の中で罵った。
それから少しの時間休憩を取りすぐに稽古再開となった。
「それじゃあやるぞ」
「はい」
そうして稽古は再開し、ティーナがまたしても迫ってくる。そして、両手で剣を持ち大きく振り下ろしてきた。
それを夕日は同じく両手で剣を構え受け止めた。
「くっ!?」
「よく耐えたな」
重い一撃に夕日は声を漏らす。
攻撃を受け止められたティーナはすぐさま剣を通常状態に戻し怯んだ夕日に攻め立てる。
少し反応の遅れた夕日は攻撃を剣で受け止めることは不可能だと考え、大ぶりに繰り出された攻撃を後ろに下がることでなんとか避けた。
「やるな」
「これで仕切り直しですね」
「そのようだな」
後ろに下がることによって夕日はティーナと離れ、攻撃のラッシュからなんとか逃れることができた。
これは休憩の時に考えていたことだった。
ティーナの攻撃は鋭く速い。一度捕まってしまうと後は攻撃を防ぐことしかできなくなってしまう。
そうなると反撃をするのはなかなかきつい。
だったらどうするか、攻撃を受けず、ギリギリのところで避け、後ろへと距離を取ればいいと夕日は考えた。
幸い、その機会はすぐに訪れた。
大ぶりに仕掛けてきたティーナの攻撃を受け止めればすぐさま次の攻撃に繋ぐのは厳しい。
だから夕日は攻撃を受け止めた後、前へ攻撃をしに行くのではなく後ろへと下ることを選んだ。
「さあ、かかってこい」
「了解」
ティーナは攻撃を受けてやると剣を下に向け、体の正面に大きく腕を開いた。
ティーナに攻撃の意志がないことを確認し、夕日はティーナヘと詰め寄った。
(今度は俺の番だ!!)
夕日はティーナは目前のところまで勢いよく走り真剣であることを忘れ思いっきり剣を振りかぶった。
「もらったー!!」
「甘い」
「痛っ!!」
夕日は攻撃を防ぐことはうまくなっていたかもしれない。だが、攻撃に関してはからっきしだった。
当然そんな攻撃は避けられ、ティーナに剣の柄で頭を軽く殴られた。
「惜しかったな」
そういうティーナの表情は少し柔らかかった。
それが夕日には微笑しているように見えていた。
「なんでそんなに嬉しそうなんですか?」
「そうか? まあ、こんに上達が早い奴、今までにいなかったからな。夕日には何かとワクワクさせられているんだ」
「そんな上達早いですか?」
「私の攻撃をほぼ完璧に防げるやつなんてそうそういないだろう」
「そう思いますけど、手加減されていたんじゃあんまり嬉しくないですね」
「気づいていたのか?」
「あんなの、俺じゃなくても気づくでしょ」
夕日から発せられた言葉にティーナはかなり驚いていた。
「手加減している攻撃でさえ防げる者も少ないというのに」と夕日に恐れを抱き、呆れ気味なティーナだった。
それから稽古は続き稽古2日目は何事もなく終了した。
「それじゃあ解散」
例の如くティーナの解散の合図により各団員訓練場から去っていった。
そうして最後に残ったのは夕日とティーナ、そしてリサだった。
「それじゃあ私達も帰るとするか」
「ああ」
「はい」
そうして訓練場を後にし帰路についた。
「リサは稽古どんな感じだ?」
会話も特にない帰り道に夕日はリサの稽古がどんなものか気になって声をかける。
その夕日の問にリサはかなり疲れた面持ちで口を開いた。
「今は基本を教えてもらっている感じですね」
「基本か。⋯そういえば俺、基本なんて知らないな」
「夕日の場合は基本なんて知らなくていいだろう。お前は体で覚えたほうが早い」
「なんですか、それ。⋯まあ確かに、強くなっているような気はしますけど」
「夕日は上達早いですもんね」
リサのその口調が若干いつもと違うことに夕日は気づいていなかった。
(やっぱりあれかな。シャルネアのあのダンベルのおかげかな)
夕日は以前ダンベルにより全身を強化した。
それにより体は出来上がっている。
そのおかげで夕日はティーナの速い攻撃にも難なくついていけていた。
そんな会話をしているとティーナの家の前まで着いていた。
それから夕日たちは夕食を取り、後は寝るだけとなった。
「おやすみリサ」
「おやすみなさい夕日」
2人は同じくベットに入りおやすみの挨拶を交わした。
その後、先に寝たのは夕日だった。
リサはというと眠気を制し考えた事をしていた。
(私だけどんどん遅れていってる。夕日はどんどん強くなっていってるのに。私は全然だめだ。もっと頑張らないと)
そうして抑えていた眠気は抑えきれなくなり遂にリサも深い眠りへと入っていった。
どんどん強くなる夕日に対し、劣等感を覚えるリサ。
これからどうなっていくのか⋯




