閑話 リサの稽古
夕日がティーナと稽古を始めたのと同時にリサと騎士団の青年も稽古を始めるところだった。
「えっと、あんな感じじゃないから安心していいよ」
リサの稽古相手の青年は夕日とティーナの稽古を見て震えているリサに優しく声をかけた。
「そ、そうですねよ。良かったです」
あんなスパルタな稽古じゃないとわかり、そっと胸をなでおろした。
「それにしても夕日さんはすごいですね。あの団長についていけるなんて」
「夕日はすごいですからね」
「まあ、僕たちは基本からやっていきましょうか」
「⋯そうですね」
稽古を始めようという提案に曖昧にうなずくリサ。
まだ剣を握ったこともない、ましてや体も鍛えていないリサに夕日たちのような稽古は無理だ。
リサもそのことをわかってはいたが、夕日と比較すると自分の無力さを感じ、胸にチクリとした痛みが走った。
「木刀の持ち方はわかりますか?」
「こうですか?」
「利き手はどっちですか?」
「右です」
木刀は片手ではなく両手で持つタイプのものだった。
リサは木刀の柄を左手を前右手を後ろにして木刀を持っていた。
「それじゃあ左手と右手を逆にしたほうがいいかもね」
「こうですか?」
「うん。それでいいよ」
リサは木刀の持ち方を右手前左手後ろに持ち直した。
「それじゃあ僕はリサさんの攻撃を受けますから右左交互に攻撃を仕掛けてください」
「わかりました」
リサはティーナから渡された木刀を手に取り構える。
木刀を持つリサの手は震えていた。
「どうしましたか?」
青年はいつまで立っても攻撃を仕掛けてこないリサを不思議に思い問いかけた。
「その、人に攻撃をするというのが、どうも怖くて⋯」
うつむき加減に言うリサに青年は尚も優しく語りかける。
「大丈夫ですよ。僕だって騎士団の一員なんです。ちょっとのことじゃ攻撃は当たりませんよ。だから大丈夫。安心して攻撃してください」
「⋯わかりました」
リサはもし怪我をさせてしまったらと些か不安な気持ちだったが青年の言うことを信じて数歩先にいる青年目掛けて攻撃を仕掛ける。
1歩、2歩と青年に近づくにつれ、恐怖は増すばかり。
だが、リサは勇気を振り絞って思いっきり木刀を振った。
『カンっ!!』
木と木のぶつかる甲高い音が聞こえ、リサの振るった剣は動きを止めた。
「ねっ、大丈夫でしょう。ほらその調子でどんどん攻撃を仕掛けてみて」
「はい!!」
青年がリサの攻撃をしっかりと受け止めてくれたことにより不安は一気に晴れ、リサの表情は明るくなった。
『カンっ!!』
再び響く甲高い音。
「うん。いい腕してるね」
「あ、ありがとうございます」
青年に褒められ照れながらも感謝を述べるリサ。
「それじゃあ次は交互じゃなくて自分で考えて攻撃を仕掛けてみて」
「え、でもそれじゃ」
「大丈夫。しっかりと防ぐから」
「わかりました。やってみます」
青年はリサから数歩離れて仕切り直す。
リサは青年が動きを止めたことを確認し攻撃を仕掛ける。
リサは青年と開いた距離を埋める際どんな攻撃を仕掛けようか考えていた。
(腕、それとも足? どこを攻撃しよう)
間合いが完全になくなる前にリサはもう決めていた。
「うん。よく見てたね」
リサが選んだのは右腕。
リサは青年の右腕が少し攻撃がしやすいことに気がついた。
青年は自身の右腕を狙いやすいように少しのすきを作り、リサがそのすきをつくか見ていた。
リサはしっかりとその僅かなすきをつき攻撃を仕掛けたのだ。
「それじゃあもう一度」
「はい」
それから青年による稽古は続いた。
「それじゃあ稽古は終わり。今日は解散だ」
ティーナの稽古終了の合図に合わせてリサたちの稽古も終わった。
稽古に集中していたからか辺りが暗くなってきていることにリサは気づかなかった。
「あ、えっと」
「あ、すいません。名前を言っていませんでしたね。僕の名前はケイルです」
「ケイルさん。今日はありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」
「はい。それではまた」
リサは稽古相手のケイルに別れを告げ夕日の元へと歩く。
「夕日とリサは私の家に来い。住むところないんだろう?」
夕日のところに着くなりティーナが話し始めた。
「いいんですか?」
「ああ。夕日とリサは一時的とはいえ騎士団の一員なわけだからな。別に構わないさ」
「「ありがとうございます」」
こうして夕日たちはディヌスに来て1日目の稽古が終わった。
リサは今日の稽古で少し強くなれた。
そんな気がしていた。




