第33話 稽古
ティーナの後をついていくと平凡な街並みの中、いきなりレンガの壁が出現した。
そのレンガの壁はかなりの距離続いており中に何があるのか夕日は気になった。
「何ですかここ?」
「ここが私達の拠点だ」
「ここが拠点ですか!?」
夕日がティーナに質問をするとまさに今向かっていた騎士団の拠点だった。
拠点の規模の広さに夕日は驚いていた。
「まあ拠点といっても訓練所が大半を占めているがな」
「いや、それでもすごいですよ。都市の中にこれだけの広さを確保できれば」
「夕日だったかな。なぜここまでの広さの拠点を騎士団が確保できているかわかるか?」
ティーナと夕日が会話をしていると騎士団の男性が夕日に話しかけてきた。
「いえ、わかりません」
当然夕日が知っているわけがなく素直にわからないと伝えた。
「まあ、そうか。なぜここまで拠点が大きいのかというとな、うちの団長のおかげが大きいんだぜ」
「どういうことですか?」
「団長はな、英雄って呼ばれてるんだ」
「英雄、ですか」
夕日はティーナが英雄と呼ばれていることに心底驚いていた。
「昔、この都市に魔物が入り込んだんだ。その時、まだ騎士団はなくて街の魔法師やらが対処をしていたんだが結局歯が立たなくて、街の数名がその魔物に殺られたんだ。この都市はもう終わりだ。そう思われたとき颯爽と団長が現れた魔物を倒したんだ。それから団長は英雄と呼ばれるようになったのさ」
「そんなことがあったんですね」
「その話はよしてくれ。あまり褒められたものじゃない」
興奮冷めやらぬ男性とは裏腹にティーナは冷めきっていた。
夕日は予想外のティーナの反応に首を傾げていた。
(何かあったのかな?)
そう考えていると、騎士団の男性は何か地雷を踏んだとばかりに顔に冷や汗を浮かべ、その話を終わらせにきた。
「まあそういうわけで団長率いる騎士団はここまでの敷地を得ることができたってわけさ」
「なるほど」「そういうことだったんですね」
拠点の広さの理由がわかり、夕日とリサは頭を縦にうなずいた。
「話は終わりだ。拠点に入るぞ」
歩きながら喋っていたからか拠点への入口の様なものが近いことに夕日は気づかなかった。
ティーナはそう言うと拠点の入口にある門を開いた。
「ギィー」っと音を立て鉄製の門が開くと先には何人か人の姿が見えた。
その人たちは訓練場のような場所で2人1組で剣の稽古をしているようだった。
門が開くや否やその人たちはすぐさま稽古の手を止め、門の方へと走ってきた。
「団長」
「討伐ご苦労さまです」
「ああ」
その人たちから同時に声をかけられ軽く返事をするティーナ。
「あれ、あなたは?」
その人たちは騎士団の一員ではない夕日とリサの存在にすぐに気づきティーナに問う。
「ああ。こいつらは夕日とリサ。この二人に剣を教えることになった。だからここで少しの間いることになる」
「団長に剣をですか!?」
「どうしたそんなに慌てて」
「い、いえ、何でもありません」
「そうか?」
ティーナが夕日とリサに剣を教えるとその人たちだけでなく討伐に行っていた他の団員も今初めて聞いた。
ティーナが夕日たちに剣を教えると団員が聞いたとき、みな顔を引きつらせ驚いていた。
(そんなに驚くようなことなのかな? ティーナさんが剣を教えるっていうのは。それほどまでにすごい人なんだな)
夕日はそんなすごい人に剣を教えてもらえると思い少し興奮していた。
「それじゃあ早速稽古をやるぞ。ほらお前たちもさっさと稽古を続けろ」
「「「はい」」」
魔物の討伐に参加せず拠点にて稽古をしていた者たちはティーナにそう言われ、先ほど停止した訓練を再開する。
討伐に駆り出されていた団員もみな稽古をしに行った。
「それじゃあ、夕日は私の相手をしてもらおうか」
「俺ですか? リサは」
「リサはこいつとやってもらおう」
ティーナさんが連れてきたのは若い青年騎士。
「リサは剣を持っていないよな?」
「はい」
「それじゃあ、稽古にはこれを使ってもらう」
そう言いティーナがリサに渡したのは木製の剣。
木刀だ。
相手も木刀を持っており、どうやら木刀での稽古らしい。
「そして私達はもちろん自前の剣でやるぞ」
「えっ!? 木刀じゃ」
夕日は全く見当違いのティーナのセリフにより、思わず変な声が出てしまう。
「それじゃあ、早速始めようか」
「えっ、ちょっ」
ティーナはそう言うと腰に収めていた剣を抜く。
「行くぞ」
そしてティーナは夕日ヘ詰め寄った。
いきなりの攻撃に夕日は自身も剣を抜き、ティーナの振り下ろされた剣を受け止める。
「ちょっと真剣でなんて聞いてないですよ!!」
「何を言っている? 私との稽古は真剣でと決まっているだろう?」
「いや知りませんよ!!」
全く話の通じないティーナは尚も剣で攻撃を仕掛ける。
その攻撃を夕日はなんとか捌くことしかできなかった。
(速い!! なんとか追いつけているけど攻撃をする暇がないな)
攻撃をする機会を探る夕日だが次第にティーナの攻撃を避けるのに手間を取られ、攻撃の『こ』の字も考えることができなくなっていた。
「ほうなかなかやるな」
「そ、そりゃどうも」
攻撃を仕掛けるティーナは汗1つかいていない。
対して、夕日はかなりの量の汗をかいていた。
長い長い攻防戦の末、遂に終わりがみえてきた。
「くっ!!」
次々とくる攻撃に対処していた夕日。
疲れがたまると同時に集中力も落ちてきた。
右から左からくる攻撃を捌き続け、また右へと攻撃がきた。
「あっ」
「よく頑張ったな」
遂に夕日は攻撃が捌ききれなくなった。
喉元に突き付けられた剣を見て夕日は負けたのだと理解した。
「夕日、なかなかやるな」
「いえ、全然ですよ」
「剣を習っていなくてそれとはな」
ティーナは夕日を褒めたが、実のところ夕日は攻撃を防ぐことしかしていない。
だから夕日は褒められてもあまり嬉しくは感じなかった。
だが、ティーナの話はまだ終わっておらず続きがあった。
「リフッシが認めただけはある。夕日が持っているその剣はリフッシのオリジナル。リフッシが認めた者にしかあげないものだ」
「リフッシ⋯」
リフッシに認められた。
ティーナにそう言われた夕日は嬉しさを感じ、貰った剣を見ていた。
「それじゃあ稽古は終わり。今日は解散だ」
稽古に集中していたからか辺りが暗くなってきていることに夕日は気づかなかった。
夕日は額に浮かぶ汗を拭きつつ先ほどの稽古を思い出していた。
ティーナが夕日に稽古をつけると言った時に団員の皆が顔を引きつらせていたことに納得がいった夕日だった。
「夕日とリサは私の家に来い。住むところないんだろう?」
「いいんですか?」
「ああ。夕日とリサは一時的とはいえ騎士団の一員なわけだからな。別に構わないさ」
「「ありがとうございます」」
こうして夕日たちはディヌスに来て1日目の稽古が終わった。
騎士団の団員が顔を引きつらせ驚いていた理由がわかったと思います。
そんなティーナと行動を共にする夕日たち。
一体これからどうなるのでしょうか⋯




