第29話 聖堂
夕日たちは自身の浅はかさを自覚し、少し重い足取りで賑わいの中へと入っていく。
どこへ行くのかは決めず、適当にブラブラする予定だった。
気楽な気持ちでここまで来たが、先程のことがあり今は少し暗い気持ちになっていた。
「とりあえずどこか寄ってみるか」
夕日はこの空気をどうにかするため、にこやかに笑ってリサに話しかける。
「そうですね」
リサは少し引きつった顔で返事を返した。
そうして寄る場所を決めているとある場所で一際大きな賑わいができていた。
その賑わいの中心には大きな建物があり、似たようなものを夕日たちは見たことがあった。
「あれは、教会か?」
「おそらく聖堂かと」
「ミステスにあった教会に似てるな」
「そうですね」
「リサ、行ってみるか?」
「はい。行ってみましょう」
夕日たちは寄る場所を決め、足を進める。
聖堂の前まで来るとドアが開いていたため中が見えた。
中には何人か手を合わせ何かを祈っているようだった。
「何を祈っているのかな?」
「あまりいいことではなさそうですね」
祈っている人の表情は必死。
それだけで祈りの内容が良くないことはすぐにわかった。
外から中を覗くように見ていた夕日たちは同じく外にいる人から声をかけられた。
「あんたたちも祈りに来たのかい?」
「いえ、そう言うわけではないですけど」
「その、なにかあったのですか?」
リサは話しかけてきたおばさんに何かあったのかと聞いた。
「この辺りでね魔物が現れてね」
「魔物⋯」
夕日は魔物と聞き、以前シャルネアが倒した魔法の効かない魔物のことを思い出し、表情を固くした。
「魔物はたまに現れるくらいだったのがここ最近に頻繁に現れだして、街の皆は神の怒りだって考えて、それでこの有様だよ。神の怒りで魔物が頻繁に現れるなんてそんな訳はないのにな」
おばさんはそう言い冷笑をした。
「そうだったんですね」
一通り会話を終え、夕日は聖堂の中に入る。
すると祈りを続けている人の声が聞こえてきた。
「ガゼイン様!! どうか、どうか怒りを鎮めてください」
「これでは私達は不安で不安で夜も寝れません。どうか怒りを、怒りをお鎮めを!!」
祈りを続ける人の前には十字架。
そしてその先に大きなステンドグラスがあった。
「あれは?」
「知らないんですか?」
「すいません」
「まあ、誰にでも知らないことはありますから。ステンドグラスに描かれているあの方はガゼイン様。神様です」
先程のおばさんも夕日の後についてきて夕日の疑問に答えた。
ステンドグラスには男の姿が描かれていた。
「ガゼイン様⋯」
ステンドグラスに描かれていた男はガゼイン。この世界の神だ。
(俺の倒すべき相手、か)
夕日は地球にいた最後のときのことを思い出し自然と手に力が入った。
ぎゅっと拳を握る夕日にリサはその手を掴んだ。
「夕日。大丈夫ですか?」
リサの不安そうな表情を見て夕日は際限のない怒りに包まれる前に止めることができた。
「あ、ああ」
夕日はそう言うと握り締めていた拳の力を抜いた。
(危なかった。リサが止めてくれなきゃやばいことになっていた)
夕日は心の中でリサに感謝した。
「それじゃあ俺たちはもう行きます」
「そうかい。それじゃあね」
「さよならです」
夕日とリサはおばさんに別れを告げ聖堂を出た。
「それでどこに行こうか」
「そうですね」
聖堂を出た夕日たちは街をぶらぶらと歩いていた。
「それじゃああそこに行きましょう」
夕日の提案にリサは近くにあった魔道具屋を指した。
夕日は特に断る理由もなく近くにあった魔道具屋に入ることに。
「こんな感じなんだな」
「初めて入りました」
魔道具屋の中はリフッシの働く鍛冶屋と少し似ていた。
店に入るとまずアクセサリー類が目に入った。
「いらっしゃい」
アクセサリーに目を奪われていると前方から声が聞こえてきた。
その声の主は40歳くらいの男性だった。
「何を買いに来たのかな?」
「あ、そう言うわけではないのですが、寄っただけというか」
「そうかい。まあ、適当に見てってくれ」
男性はそう言って少し残念そうな顔をした。
男性の言う通り、夕日たちは店内にある商品を見回る。
「欲しいのがあったら言ってくれよ。まあ、俺のお金で払うわけじゃないけど」
「ふふっ、別にいいのに。お父様は夕日にあげたんですからそれはしっかりと夕日のお金ですよ。でも、わかりました。欲しいのがあったら遠慮なく言いますね」
そうして夕日とリサは別々に店内を見る。少し見回り、夕日は防具を見つけた。
(防具か。⋯でも俺には防具要らないよな)
夕日は魔力を纏うことができる。
魔力を纏えばある程度の攻撃であれば防げる。だから防具があると素早い移動の邪魔になる。
そう考え夕日は防具を諦めた。
「夕日。これが欲しいです」
夕日はリサに声をかけられた。
リサは何かを持って手に持っていた。それは髪飾りだった。
その髪飾りには装飾がされており、リサにとても似合いそうな色をしていた。
「ほらどうですか?」
リサはそう言うと持っていた髪飾りを実際に着ける。
夕日の目はやはり正しかったらしく、髪飾りを着けたリサはとても可愛らしかった。
「うん。似合ってるよ」
「ありがとうございます」
リサはとびきりの笑顔で夕日にそう言った。
その表情を見て夕日は可愛いと思ってしまった。
だが、すぐに心を律しリサに話しかける。
「でも、なんで髪飾りが売ってるんだろうな。ここ魔道具屋なのに」
「この髪飾りしっかりとした魔道具なんですよ」
「そうなのか?」
「魔法発動をサポートしてくれるそうです」
「へぇ、魔道具って便利だな」
髪飾りが魔道具ということに意外感を示しつつ魔道具の有用性に感心していた。
「夕日は何かいいのありました?」
「これといって欲しいものはないかな」
実を言えば夕日にはあまり魔道具必要ない。
魔道具とは魔法の発動をサポートしたり、動力に魔力を使う道具のこと。
だが、店内には夕日を助けてくれそうな魔道具はなかった。
「それじゃあ、これとかどうですか? 夕日に似合っていると思いますよ」
リサはそう言って、手に持っていたネックレスを見せてきた。
最初から夕日に着けさせるために持ってきたのだろう。
そのネックレスはリサが夕日のために選んでくれたもの。
その好意は素直に受け取ろう。そう夕日は考えた。
「リサ、ありがとう」
「どういたしまして」
そうして夕日は男性に髪飾りとネックレスを持っていった。
「へえ。これを選んだか」
「なにかまずかったですか?」
「いやいや。そういう意味じゃないよ。ただいい目しているなって」
「??」
「はい。それじゃあこれ2つで銀貨10枚ね」
男性から提示された金額は銀貨10枚。
かなり高価だ。
夕日は男性が嘘をついていないか確かめるためにリサを見た。
リサがコクリと縦にうなずいたことを確認し、夕日は袋から銀貨10枚を出した。
「毎度あり」
男性は夕日から銀貨10枚を受け取り髪飾りとネックレスを渡した。
そうして受け取ると夕日とリサは外に出るために出口へと向かう。
「また来てくれよな」
男性のその声を聞いて外へ出た。
こうして魔道具屋で買ったのは魔道具のアクセサリー。
2人とも買ったアクセサリーをすぐに身に着けた。
夕日はネックレスを着けることに抵抗があったが、リサが選んでくれたと考えると自然とつけることができた。
(別に変じゃない、よな?)
夕日はネックレスを着けている自分の姿を想像する。自分の容姿を若干気にしつつ、夕日たちは色々な店を回った。途中昼食もとり、比較的有意義な時間を過ごせた。夕方になり、夕食を取って宿に帰ろうと道を歩いていたら夕日たちの泊まっていた宿の近くで何やら騒ぎが起きていた。
「くそっ、離せっ!!」
「動くな、この泥棒がっ!!」
「いてて」
騒ぎの中心には男が二人。押さえられている若い男性と押さえつけている男性がいて、その押さえている男性の方に夕日たちは見覚えがあった。
「あれ、あの人は⋯」
押さえられている男性は背の後ろに手を組ませ、地面に這いつくばるような感じになっている。
若い男性がなんとか拘束を解こうと暴れるためいっそう押さえ込める力を強くする男性。
若い男性は強く押さえ込まれ、痛みに悶絶する。
「あのどうしたんですか?」
「おお、君は今朝の」
その男性は今朝会ったとても親切な男性だった。
「こいつが馬車を盗もうとしてたところを俺が見つけて今に至るってわけだ」
「馬車をですか」
「馬車は結構高値で売れるんだ。ここの都市では馬車の盗みが流行っていてな、馬車を持っている者たちは心底困っているんだよ」
そのための馬車保有証だということを夕日は理解した。
馬車を盗られても都市側は一切責任を取りませんということだ。
泥棒が押さえられている場所は夕日が馬車を止めた場所。
夕日はもしかして、と思い男性に問いかける。
「その、泥棒が盗もうとしてた馬車って」
「ああ、これじゃよ」
そう言い男性が指を指したのは夕日の馬車であった。
「それ俺たちの馬車です。守っていただきありがとうございました」
「ほう、これは君の馬車か。それと、別に感謝される謂れはない。俺が勝手にやっているだけだからな」
その優しさ、親切心に夕日は心を打たれた。
ここまで徹底するかと思わないでもなかったが、この男性のポリシーみたいなものなのだろう。
「ありがとうございます」
夕日はしっかりと腰を深々と曲げて感謝を示した。
男性はそれを見て泥棒の方へと視線を向けた。
「ほら、行くぞ」
「ちょ、引っ張んなって」
男性は泥棒を立ち上がらせて、夕日たちに何も言わず、どこかへ消えていった。
その光景を見ていた夕日は「かっこいい」と素直にそう思った。
リフッシとは違う別のかっこよさをその男性は持っていた。
「それにしても危なかったな」
「ですね」
夕日たちは馬車を見て、安堵のため息を吐く。
馬車に異常はないか確認して宿に戻ろうとする。
すると、突然視界が光に満ちていた。
「うわっ、眩しっ」
少しして光は弱まり、視界が戻ってきた。
その光の正体は沈みかけている太陽で、なにかに反射して夕日の目に反射し光が入ってきていた。
その反射する原因となったところに視線を向ける。
そこにはガラスがあった。
ガラスは光を反射し、こちら側が写っている。
その映っているものには夕日とリサも含まれていた。
ただ、そのガラスに映っていたのは夕日の知る姿ではない。
「これどういうことだ?」
ガラスに映る何者かに疑問を抱くしかない夕日。
その姿を見ていたリサはいつもと変わらぬ表情をしていた。
(まさかリサには見えてない?)
夕日はそんなことを思い始めたがその考えは見事に砕け散った。
「ん?」
何かに気づいた夕日。
夕日が見たものはガラスに映るネックレスだった。
それはいまさっきリサに選んでもらったネックレス。
(もしかして⋯)
「なあ、リサ。このガラスに映ってるのって」
「ふふっ、どうしたんですか? 自分の姿を忘れちゃいました?」
リサの言うとおりガラスに映っていたのは夕日であった。
だが、夕日の知っている姿ではなかった。
鏡に映る夕日は身長は平均的とはいえかっこいい顔をしていた。
地球での夕日は言ってしまえば少し顔がいいくらいの感じ。それがここまでイケメンになっている。夕日はそのことを疑問に思うしかなかった。
(もしかして、神がやったのか? この体は神が作ったものだから顔も神が設定したはず。絶対そうだ)
夕日は顔をイケメンにした神に素直に感謝をした。
(顔のことだけは感謝します。神様)
「夕日、宿に行きましょうか」
「あ、ああ」
リサに急かされ、すぐ近くにある宿へと帰る。
その際夕日は複雑な気持ちのまま宿に帰ることとなった。
(俺はイケメン、か。なんか調子が狂うな)
明日、馬車でディヌスに向かう。
早い出発になるため、夕日とリサは宿に着くなりすぐに寝たのだった。
次はディヌス編です。お楽しみに




