第28話 親切
温泉に入ったあと、夕日たちは朝食を食べに屋台のあった通りに来ていた。
夜は屋台でいっぱいだったが今は屋台は無く、普通のお店が並んでいるだけである。
おそらく屋台が出てくるのは夜だけなのだろう。
「リサ、何を食べようか」
「うーん。そうですねー」
リサはそう言い、周りをキョロキョロと見回す。
銭湯から続く通りには3軒ほど食事ができるほ場所があった。
1軒は食堂で、残り2軒はレストラン。
その3軒の店を見比べ、リサは朝食を取る店を決めた。
「あのお店でいいんじゃないでしょうか」
リサが指で指し示した店は、どこにでもありそうな大衆食堂だった。
そんなリサの選択に夕日は意外感を示していた。
「意外だな。リサが食堂を選ぶなんて」
「食堂って言うんですね。初めて知りました」
リサは王家の人間。
だから、今まで食堂で食事を取るなんてことは1度もなかった。
ましてやリサの場合外に出ることもなかった。
食堂なんてものがあることも、その言葉を聞いたこともこれが初めてだった。
「他にも食事を取れるところはあっただろうに、どうして?」
「お店の雰囲気がいいな、って思って。 ⋯だめ、だったでしょうか?」
リサは夕日の反応から食堂を選んだことは間違いだったのではないかと不安になり少し表情を暗くする。
「いや、そこでいいよ。リサが食堂を選んだのがちょっと意外だっただけだから。それに俺も食堂でいいかなって思ってた」
リサが暗い表情を見せたため、夕日は慌てて説明を加えた。
「そうですか。よかったです」
リサは自分の選択が間違いではなかったことを確認し表情をぱぁっと明るくさせた。
食堂はここから少し歩いたところにあり、リサ先導で食堂へと入っていった。
「いらっしゃい。お客さんは二人かい?」
「ひゃ、ひゃい」
リサは食堂のおばさんに人数を聞かれるとわたわたと慌て、かみかみの返答をした。
(リサ。もしかして人見知り?)
夕日はそんなリサを見てまたしても意外感を示す。
「それじゃあ、適当に座って」
「わ、わきゃりましたっ」
店主にそう言われ、夕日たちは入口近くにあった席に座る。
夕日が座った席の前にリサも座った。
夕日はリサの様子が妙にそわそわしていることに気づき、どうしたのかと話しかける。
「リサ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫って何がですか?」
「いや、ものすごく噛んでたから」
「⋯その、実は私極度の人見知りなんです。初めてあった人に自分から話しかけるのは苦手で」
「リサの場合、初対面の人の方が少ないもんな」
「そうですね。お家ではお父様とお母様、それとお姉様。その他使用人くらいですからね」
リサの話を聞いていた夕日はその中で気になったことをリサに聞いた。
「そうか。リサが次女っていうことは長女であるお姉さんがいるのか」
「はい。姉はよくできた人で、昔は外に出れない私とよく遊んでくれました」
「今、お姉さんは? リサの家に行ったときはいなかったけど」
「お姉様は家のことで忙しくて家にいることが少ないんです」
「それは寂しいな」
「はい。とても寂しかったです。でも、今はこうして自由にできるのでそこまで寂しさは感じません。それに夕日もいますから」
「そうか。それならよかった」
席に座ってから3分ほど時間が経っていた。リサのお腹から可愛い音が聞こえてきたので店員を呼び食事を取ることにした。
「とりあえず、何か頼もうか」
「そうですね」
夕日は席に置いてあったメニュー表をリサの正面に見えるようにして置いた。リサはその時夕日の方を見た。リサはメニューを正面から見ることができるが対して夕日は逆。文字も逆さになってしまう。だが、それは夕日の優しさだと気づきリサは夕日から視線を外しメニュー表へと向けた。それから夕日とリサは少しメニューに目を通し、頼むものを決めた。
「すいません。注文いいですか」
食堂に入った時にリサに人数を聞いてきたおばさんに夕日は声をかけた。
「あいよ。ちょっと待ちな」
机を吹いていたおばさんはそう言うと、机を吹く手を止め夕日たちのいる席まで歩いてきた。
「それで注文は?」
「えっと俺は生姜焼き定食でリサは?」
夕日はリサに目を向けたがリサはメニュー表を指差していた。
(どんだけ人見知りなんだよ⋯)
仕方ないなと夕日はメニュー表を指差すリサの代わりに注文をした。
「それと、とんかつ定食を」
「了解。少し待ってな」
おばさんの言うとおり少し待つとすぐに料理は届いた。
「へいお待ち」
机の上に置かれた生姜焼き定食ととんかつ定食。自分の前に料理を持っていき夕日とリサは手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
生姜のいい匂いにそそられ、自然と箸が生姜焼きを掴む、そして口の中に入れ、すぐさま米を頬張る。
「うまい」
美味しいのは生姜焼きにだけではなく米も美味しかった。
(そういえばこっちに来てから米を食べたの、これが初めてだな)
夕日にとってこれが初めてのお米となった。
「美味しいです」
「美味しいだろ」
「夕日は食べたことあるんですか?」
「ああ。地球にもあるからなとんかつ定食」
「地球?」
「ああ、他の世界から来たとしか言っていなかったか。俺がいた世界っていうのは地球っていうんだ」
「地球⋯」
「ここもいいけど、地球もいいところだよ。こっち世界は魔法が発達しているけど、地球は科学が発達しているんだ」
「科学ですか」
「ああ。そもそも地球には魔法がないんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。だから魔法の代わりとして科学がある。科学は簡単に言えば魔法できることを実際に存在しているもので代用するっていうことかな」
「⋯さっぱりわかりません。魔法でできることを実在するもので代用?」
頭から煙が出そうになっているリサ。そのリサを見て夕日は微笑した。
「まあ、とにかく。科学はすごいってことだよ」
「そうなんですね」
長々と喋っていたせいで随分と時間が過ぎてしまった。
朝食はもう取ったので長居するのは店の迷惑になると思い夕日たちは金をテーブルに置き、店を出た。
「賑わってきたな」
「そうですね」
時刻は8時。
朝とはいえ店も開き始め段々と賑わいを見せていた。
その賑わいの中に入っていこうと夕日たちは足を進めたが後ろから声が聞こえたので足を止めて振り返った。
「大丈夫か兄ちゃん」
「ほら、立てる?」
「ほら水だ。飲め」
背後の道端には男性が1人地面に座り込んでいた。
その男性の周りに男性1人と女性1人が集まっており、えらく心配していた。
「あのどうしたんですか?」
夕日は何があったのか気になってその人たちに声をかけた。
「こいつ朝まで酒飲んでたんだけど、結構飲みつぶれてこんな感じだ」
夕日は地球でもしょっちゅう見かけるその光景に苦笑いをしていた。
(こっちでも同じか)
「すまん。ありがとう」
「そんなのいいから。 ⋯家帰れるか?」
「なんとか大丈夫かと」
水を飲み落ち着いた男性は親切な人たちに感謝を述べる。
だが、その人たちは感謝などどうでもいいようで、ただただ男性を心配するのみ。
男性は立ち上がり、ゆっくりと家へ帰って行った。
「大丈夫か? あいつ」
「しっかりと家まで帰れるといいのですが」
男性がフラフラと遠くに消えていくのを見てまだその人たちは心配していた。
そのことに夕日は素直にすごいと思った。
「すごい親切ですね。俺にはここまで徹底してできませんよ」
夕日は徹底して親切なことをする男性と女性に称賛の言葉をかけた。
「親切も何も、人として当然のことだろう。そこに徹底も何もないと思うんだが」
男性がそう言うと、女性も同意見とばかりに縦にうなずいた。
(本当にすごいな。 ⋯それに比べて俺はなんて浅はかなんだ。親切にするんじゃなくて自然と親切にしているっていうことか。思えばリフッシもそうだったな)
リフッシは何事も当然にしてきた。
夕日はまだリフッシから学んだことをしっかりと実践できていなかった。
夕日はリフッシからの教えを再度認識し、しっかりと心に刻んだ。
「それじゃあ俺はもう行くよ」
「私も買い物をしないと」
男性と女性はそう言うと街の賑わいの中に消えていった。
「それじゃあ俺たちも行こうか」
「そうですね」
そうして夕日たちも街に賑わいの中に消えていった。
次でこの都市での話は終わりです。




