第22話 疾風
夕日たちは家に帰るために教会に背を向けた。その時、背後から男の声が聞こえた。
「動くな!!」
「きゃっ!?」
その声に慌てて振り返る夕日たち。
「なっ!?」
夕日たちの視線の先には8人の男。その男たちは孤児の子供とカプリティーナを捕らえていた。捕らえられている子供たちは先程の鬼ごっこみたく体を動かすことができない。それほどの恐怖が子どもたちを襲っていた。すると、男の子が口をパクパクさせていることに夕日は気がついた。恐怖で声が出なくなっているのだろう。
(助けて、か)
男の子は夕日たちに助けを求めていた。夕日の隣にはリフッシがいる。昨日、泥棒を速攻で無力化した時のように、夕日はリフッシがすぐ行動にでるかと思っていた。だが、リフッシは動こうとしなかった。否、動けなかった。
「動いたらどうなるかわかってんだろうな」
リーダーらしき男は男の子の首筋にナイフを突きつけていた。ナイフの刃先が肌に刺さり、血が流れる。またしても男の子が口をパクパクする。今度は言葉、ではなく叫びだった。それを見た瞬間行動に出ようとするリフッシ。だが男の子から滴る血を見て、動くのを止めた。助けたいのに助けられない。動かなければ子供たちが危ない。でも、動いたら男の子は死んでしまう。そんな思考がリフッシの中をループする。
「こいつらを開放して欲しければ有り金すべてよこしな。お前がこの教会に寄付をしていることは知っている。とりあえずその寄付金を貰おうか」
「はっ、離してください!!このお金はリフッシさんが子供たちの為に」
「子供たちの為?はっ!!こんな孤児に金を使わせて何の意味がある。俺たちが使ってやったほうが金も喜ぶだろうよ。ほら、さっさとよこせ!!」
「きゃっ!!」
リーダー格の男はカプリティーナの持っていたリフッシから寄付金を強引に奪い取った。その反動でカプリティーナ勢いよく前に倒れる。
「っ!!外道め」
「何とでも言うがいい」
リフッシは何もできない自分に腹が立っていた。その怒りはカプリティーナを乱暴に扱うリーダー格の男の行動により更に増幅した。
「それでまだあんだろ?ほら、渡せよ」
「くそっ!!」
リフッシは渋々ポケットから小さい袋を出した。その袋は夕日も持っている。王から貰ったお金が入っている袋と同じだった。そうしてリーダー格の男にリフッシは袋を渡した。その際、リーダー格の男に近づくことになるが、攻撃など到底できるような状況でもなかった。他の男も子供たちにナイフを突きつけいつでも殺せるような状況。リフッシが攻撃をしようものなら子供とカプリティーナは速攻で殺されてしまう。
「おお!!結構持ってんじゃねぇか。こりゃ孤児に使うには勿体ない金だな」
リーダー格の男はリフッシから受け取った袋の中身を見て歓喜する。すると、孤児の女の子を取り押さえていた中肉中背の男がリーダー格の男に話しかけた。
「なあなあダンナ。この女ヤッていいか?」
「ああ、いいぜ。その子供は孤児。何したっていいんだ」
「わかった。じゃあ、早速」
女の子を取り押さえていた男の手が体へと移っていく。見知らぬ人に体を触られる恐怖に女の子が悲鳴を上げる。だが、声は出ない。リフッシはそれをただ見ることしかできない。
「くっ!!どうすれば」
早くしなければ女の子は犯されてしまう。それはなんとしても避けなければならない。夕日はこの2日でリフッシが爽やかイケメンたる所存を理解していた。それは何事も当然にする、ということだ。だから昨日も当然のように人を助けるし、当然のように寄付もする。そんなリフッシに感化されたのか、夕日もまた当然のように子どもたちを助けようとする心が起こった。その時、急に意識が現実から離れた。
《えー、風属性の移動系統魔法の使用許可が降りたぞ》
〈意識の、中か。⋯というかえらく適当になったな〉
《なんか堅苦しいのあんま好きじゃないんだよな》
〈⋯それでどんな魔法が使えるんだ?〉
アンスと会話をするということは即ち魔法が使えるようになっているということ。夕日はそれを理解してアンスに問う。
《えっとなレベル4の移動魔法だな。魔法名は⋯》
意識が現実に戻った。
「それじゃあ脱ぎ脱ぎしようか」
「うぅうぅぅー」
意識が戻ったとき、かなり危機的な状況になっていた。女の子は恐怖で声にならない悲鳴を上げている。
「ぐへへへへ。そんなに嫌がらなくてもいいよ。すぐに気持ちよくなるからさ」
「んーーーーー!!」
男の手が女の子の体に伸びていく。女の子の体に手が触れる前に夕日は先程アンス様から教えてもらった魔法名を唱えた。
『疾風』
夕日がボソッと呟いたその言葉にリフッシが驚く。その直後、リフッシを猛烈な風が襲った。
「え?」
風は一瞬で収まり、自身の見ている光景に驚くリフッシ。それもそのはず子供とカプリティーナを捕らえていた男たちは全員意識を失い地面に倒れていた。
「い、一体何が?」
どういうことだと考えているとリフッシは夕日が視界に入った。倒れている男たちの所にいる夕日が。
「もしかして、夕日。君が?」
「⋯」
夕日は無言で返した。その無言をリフッシは肯定と捉える。
「そうか。夕日が子供とカプリティーナさんを救ってくれたのか」
リフッシは安堵に胸を撫でおろす。隣にいたリサは夕日を見て僅かに頬を赤らめていた。その夕日はというと自由になった子供とカプリティーナを見ていた。夕日の視線に気づいたカプリティーナが質問を投げかけてくる。
「あの、一体何をしたんですか?」
子供が犯されそうになった瞬間夕日は魔法を唱えた。その魔法は『追い風』より上位のレベル4の風属性移動魔法『疾風』。『疾風』は風を脚に纏い、文字通り疾風の速さで移動する魔法。その魔法で相手との間合いを一気に詰め。そして『纏魔』を使用し、一瞬のうちに男たちから意識を奪っていた。敵との距離が近い場合魔法よりも『纏魔』を使ったほうが戦いやすい。それに『纏魔』を使ったまま魔法使うことは今の夕日にできない。身体を外部から強化する魔法を纏った魔力が防いでしまうからだ。魔法の恩恵を受けるためには魔力の制御をし、魔力を纏っていない場所を作り出さなければならない。それをできるようになるにはかなり訓練が必要になってくる。だから、魔法は距離を詰めることに使い、敵を掌握する時に『纏魔』を使った。適材適所。夕日はその場での完璧な行動を行っていた。夕日はカプリティーナにそんなことを説明するのもあれなので簡単に説明することにした。
「魔法と武術を使って敵を倒しました」
「武術ですか」
「そうです。武術です」
そんな会話をしていたらようやく状況が理解できた子供たちが驚きに声を上げる。
「僕たち助かったんだ」
「よかった。よかったよー」
「ゔぇーーーん!!!!」
リフッシが子供たちの姿を見て夕日に視線を向けた。
「色々わからないことはあるけど。今はそんなことどうでもいい。子どもたちが無事なら、それで」
リフッシは夕日が何をしたのか全く検討がついていなかった。だが、子どもたちが無事なのを見て、リフッシはそんなことなどどうでもよくなった。
「すいません。この人たちどうします?」
カプリティーナは地面に倒れている男を指差す。
「とりあえず警備員を呼ぼうか」
「それじゃあ、私が呼んできます」
「わかった。僕はこいつらが起きたらすぐに対処できるように見張っておくよ」
カプリティーナはそう言うと警備員を呼ぶため、大通りの方へ小走りで向かっていった。
「連れてきましたー」
数分後、カプリティーナは警備員大勢連れて戻ってきた。
「また君達かい」
「あ、昨日の」
「いや、昨日といい今日といい、すまないね。私達がすぐ側にいれればよかったんだが」
「いえ、そちらにも色々と事情はあると思いますから」
「そうか。でも、次からはこんなことがないように努力しよう」
「そうしていただけると助かります」
「それではこれで」
警備員は男たちを連れ去っていった。そうして事件は終わり、夕日たちは街灯が照らす道を歩き、家へと帰っていった。




