閑話 夕日と別れたシャルネア、その後
少し時は遡る。
夕日と別れた後、シャルネアは武術大会の行われた訓練場に来ていた。
「あれ?ダナトリアではないか」
訓練場に来て早々、一人で訓練しているダナトリアの姿が目に入った。
「えっと、シャルネアさん、ですか?」
「ああ、そうだ」
「王様から聞きました。僕に武術の師範をお願いしたいと」
「そうだ。私が王様に頼んだ」
「僕なんかの力が役に立つかどうかはわかりませんが、どうぞよろしくお願いします」
「それでは師範をしてくれるのか?」
「はい」
ダナトリアは武術の師範を受けた。
そのことにシャルネアは嬉しく思った。
「ありがとう。だが、君の武術は洗練されている。単純な武術の腕であれば私といい勝負をするだろう」
「そうですね単純な武術であれば⋯⋯夕日くんと同じようにあの奇妙な技を使うんですよね?」
「よくわかったな」
「あの騒ぎを聞いていましたから」
申し訳なさそうな表情で言うダナトリア。
それを横目にシャルネアはあの騒ぎの中、夕日が放った言葉を思い出す。
(師匠、か。私は何もしていないんだがな)
シャルネアは嬉しい反面、師匠と呼ばれるほど教えてやれなかったことを悔やんでいた。
「あの技は何なんですか?」
ダナトリアは神妙な面持ちで問う。
「そんな気を張らなくていい。どうせ皆に教えることになるからな」
「そうですか」
そう言うとダナトリアは表情を柔らかくした。
それを確認し、シャルネアは口を開いた。
「あれは纏道の最終奥義『纏魔』だ」
「『纏魔』⋯⋯」
「『纏魔』は魔力を纏う技だ」
「魔力を⋯⋯纏う?」
魔力を体外に出す。
それは普通できないこと。
天球に住んでいるものなら誰でも知っている常識だ。
だから、ダナトリアはシャルネアが言っていることが理解できなかった。
「普通、魔力は体外にでない。だが、それを『纏魔』は可能にする」
「すごいですね」
「ああ。でも、『纏魔』を使えるようになるには度重なる努力が必要だ。私は『纏魔』を修得するのに十年を費やした」
「十年、ですか」
十年。
その長い時間にダナトリアは顔を引きつらせる。
おそらくもっと簡単に修得できると思ったのだろう。
「まあ、修得方法にはもう1つあってな、そっちの方が簡単に修得できる」
「本当ですか!?」
簡単にあの力が手に入る。
そう思ったダナトリアは目を輝かせる。
「寿命を削って修得するんだ」
「寿命を?」
「そうだ。大体70年の寿命を使って『纏魔』を修得することができる」
「な、70年!?そんなことしてまで修得する奴なんているんですか!?」
ダナトリアのその反応は至極普通。
だが、シャルネアはその反応が妙におかしかった。
「で、どうだ?やるか?」
「いくらなんでもやりませんよ。そんなことするのは命知らずの馬鹿ですね」
「そうだな文字通り、命知らずの馬鹿だな」
シャルネアのその言葉に棘はなく、誰かに向けているようだった。
(だそうだよ、夕日)
シャルネアは薄っすら笑った。
シャルネアの微妙な表情の変化にダナトリアは気が付かなかった。
「それより驚きましたよ。まさかシャルネアさんがあのタース家だとは」
興奮気味に話すダナトリアに対し、シャルネアは苦い顔をする。
「よしてくれ。君の思っているタース家に私はいない」
「そう言わないでください。あなたはシャルネア・タース。僕の思うタース家にシャルネアさんも入っていますから」
ダナトリアの優しい口調と言葉にシャルネアは少し泣きそうになった。
「そうか。ありがとう」
シャルネアはダナトリアに心から感謝した。
「それでシャルネアさんも武術の鍛錬をしにきたんですか?」
「私は訛った体を動かそうと来ただけだよ」
「それじゃあ、お手合わせ願えますか?」
「別にいいが」
「ありがとうございます」
シャルネアに感謝を述べたダナトリアの表情は笑顔だった。
シャルネアと戦える。
そのワクワクから来る笑みだろう。
そうしてお互いに距離をとった。
「では行きます」
「来い」
ダナトリアはそう言うと先手必勝とばかりに一気に間を詰め腹を狙ったパンチを繰り出す。
だが、シャルネアはそのパンチを右手で撃ち落とす。
その瞬間、手の内側に衝撃が加わり、シャルネアは一歩後退する。
その隙に追撃をしたダナトリアだったが、今度は受け流され反撃を受ける。
その攻撃を避けダナトリアは一旦距離を取った。
「シャルネアさん、流石ですね。夕日くんも耐えたのにあなたが耐えられないはずがないと思っていました」
「これは、発勁か」
「そうです」
発勁。
それは、力を姿勢を崩すことなく効率よく発揮すること。
事実ダナトリアは姿勢崩さず最小限の力であの威力を出していた。
「シャルネアさん。別に『纏魔』を使ってもいいんですよ」
「わかった。手加減はしないぞ」
シャルネアは武術大会でダナトリアの戦いを見ていた。
だからこそどれほど強いのかわかっている。
それでも『纏魔』を使えば速攻で勝つことができる。
だからこそ使わなかった。
だが、ダナトリアはそう思っていなかった。
ダナトリアは相変わらず笑顔だ。
強い者と戦える喜び。
その喜びが表情にも影響していた。
「行くぞ」
シャルネアは魔力を纏った。
そして魔力で強化された足でダナトリアに攻め寄る。
そして顎を狙った一撃を放つ。
「来ると思ってました」
だが、その一撃はしっかりとガードされた。
殺さないようにと制限された一撃。
だが、その一撃でもかなりの威力だ。
その一撃を止められた。
そのことがシャルネアの失いかけていた心が呼び覚まされた。
(ここまで強い相手。師匠以来か)
「夕日くんとシャルネアさんは攻撃の仕方がとても良く似ている。やっぱり師匠と弟子ですね」
「そうだな」
少し勘違いしているダナトリアにシャルネアは勘違いを治すことをしなかった。
(少し違うが、まあいいだろう。面倒くさいことになりそうだしな)
夕日はシャルネアの戦闘だけの記憶を持っている。
だから、攻撃の仕方は同じ。
夕日は常に顎を狙った攻撃を仕掛けていた。
だからシャルネアの攻撃も読まれてしまった。
「それでは行くぞ」
話しで途切れていた戦闘を再開させるシャルネア。
「はい」
シャルネアはダナトリアの返事の後、すぐに動いた。
ダナトリアと開いてしまった距離を詰める。
「えっ!?」
シャルネアが動いた瞬間、ダナトリアは空を見ていた。
そして地面にバタンと音を立て倒れ込んだ。
「い、一体なにを」
「魔力を足に集め、脚力を更に強化した」
「それで、あんな速さに」
ダナトリアが見たのはシャルネアの残像。
その残像を認識した瞬間、顎に衝撃が加わり、吹き飛ばされ、気づけば空を見ていたというわけだ。
魔力は全て足に集中させていたため拳は普通の威力。
気絶させるまでにはいかなかったがかなり効いたようだ。
「痛てて」
ダナトリアは立ち上がり、痛がる素振りを見せ顎を押さえる。
そしてレベル2の回復魔法『小回復』を唱えた。
「大丈夫か?」
「はい。魔法で治りました」
「ならよかった」
「やはり強いですね」
「お前もなダナトリア」
そうして急遽始まった手合わせはダナトリアの負けで終わりを迎えた。
「とりあえずこれからよろしくなダナトリア」
「こちらこそお願いします。シャルネアさん」
これから二人は基本的に『マルグリア』中心に、皆に武術指導を行わなければならない。
二人の物語はまだ始まったばかり。
夕日と別れたシャルネアのその後を書きました。たまにシャルネアのことについて閑話を書くと思います。




