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精霊姫の帰還  作者: 香霖
7/14

読みに来てくださって、

有難うございます。

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ありがとうございます。


主人公視点ではなく

三人称で終始すすみます。



 リリィがいなくなっても

グラント商会には何も、変わりは無かった。

祖母は相変わらず女帝の様に、尊大だった。

ルーカスは煩わしい事から逃れるように

仕事にのめり込んでいた。


義姉のアイリスは奪った首飾りを肌身離さず、

好きに使える使用人がいなくなった事を不満に思っていた。


 定期的にグラント商会を訪れていた

トラヴィス・ミドルトンはリリィを追い出した、

母の姉……叔母を責めた。

言い争いの末トラヴィスはグラント商会と縁を切った。



 グラント商会の女王、エレノアは不機嫌だった。

使用人見習いの子供を、母親がいた孤児院に送り

届けてやったのに、何故甥に責められるのか……

ルーカスは王都に出ていて不在だった。


エレノアの不満の矛先はアイリスの母親、

嫁に向かった。

死んだ妻の事ばかりで、娘の事さえ忘れてる

ルーカスは、自分が再婚している事も、

義理の娘が出来たことも認識していなかった。


 望まれて再婚したはずが女としても、

家族としても自分をみない夫ルーカスに、

嫁というより使用人扱いの姑と、姑に甘やかされて

我儘になってきた娘……

アイリスの母親は、今の自分が、

妻でも無く、嫁でも無く、

娘にも侮られ、母親である事にも

嫌気が差していた。

やがて、娘を置き去りに

取引先の商人と駆け落ちしてしまった。


置いて行かれたアイリスをエレノアは

不憫に思い、娘の様に可愛がった。





******





 トラヴィスは、リリィを引き取ろうと

考えていた。

リリィが送られたという、

リリィの母リリアナがいた

孤児院がどこなのか、聞くために 、

トラヴィスは王都にある

グラント商会に、ルーカスを訪ねた。


「ルーカス、リリィが母親のいた

孤児院に送られた。

その孤児院はどこだ?それと、リリィは俺が

引き取るからな!」


トラヴィスはルーカスの襟首をつかみ、

殴りそうな勢いで問い詰めた。

ルーカスは、リリィの名を聞いても、それが

娘の名だという事が、わからないでいた。

だが、リリアナの名を久々に聞いたルーカスは、

トラヴィスを孤児院まで案内することにした。


ルーカスに案内された孤児院は、隣国

ローゼンハイムとの国境沿いにある、

小さな教会に併設された

孤児院だった。


孤児院の記録に、リリアナという娘の

記載は無かった。

ただ、水晶の首飾りを持った娘が、

寄付金と共に預けられたと、走り書きがあった。


その孤児院に、リリィはいなかった。

グラント商会からの寄付金も、届いていなかった。

トラヴィスは途方に暮れてしまった。

可愛い姪が、消えてしまったのだ。


後悔ばかりの、苦い思いを抱いて、

トラヴィスはルーカスと一緒に、

王都のグラント商会に戻っていた。



「もっと早く、引き取っていれば……」


後悔するトラヴィスとは対照的に、

ルーカスは、リリィの事ではなく、

リリアナの首飾りについて、考えていた。


「そういえば、リリアナの首飾りは、

どうしたかな?」



トラヴィスは、リリィの事を

少しも考え無い、覚えていない

ルーカスの態度に、とうとう

堪え切れなくなって、ルーカスの

左頬を殴っていた。


「リリィはな、母親の形見なのに、盗んだだろうって、

首飾りを取り上げられて、追い出されたんだ……。

孤児院に送った、って、叔母さんは言ってたのに、

リリィはどこへ消えたんだよ?」


「リリィ……さっきから言っているけど、誰、だ?」


バキッ!


リリィを忘れたルーカスを、トラヴィスが

再度、殴りつけていた。


「今のお前を見たら、死んだリリアナは、

なんて言うだろうな……」


「し、死んだ?リリアナが?う、嘘だ……」


「ルーカス?お前……リリアナが死んだ事も、

忘れちまったのか?一体何が、どうして?」


「リリアナは死んでなんかいない……

これ以上おかしなことを言うなら、

帰ってくれ!」


「ルーカス!俺は叔母さんとだけ縁を切ったつもりでいたが、

お前との縁も、これまでの様だ……。俺だけじゃない、

ミドルトン商会としても、もう取引することは無い。」


トラヴィスはそう言うと、振り返ることも、

ルーカスにそれ以上言葉をかける事も無く、

グラント商会の建物を出て行った。


リリアナを失った事から立ち直れなかった

ルーカスは、重度のアルコール依存症になっていた。

酒量が増えるにしたがって、酒に含まれる不純物が

体内に蓄積し、身体を壊したルーカスは、

季節の変わり目に体調を崩し、あっけ無く

その人生に終止符を打った。


最愛の息子(ルーカス)を失ったエレノアも、

後を追うかのように息を引き取った。

アイリスは母方の親戚に引き取られていった。


継承者がいなくなったグラント商会は、

幹部が商会の名を変え運営していたが、

破綻し別の商会に吸収された。


再婚先から男と出奔したアイリスの母を恥じた兄は、

妹の娘アイリスを、姪とは思わず、奉公人として

扱っていた。

因果応報、かつてリリフローラに対して行っていた事が、

アイリスの身に起きていた。

甘やかされ、我儘に育ったアイリスは、母親の実家を

早々に逃げ出した。


アイリスがいなくなった事で、アイリスに奪われた

リリフローラの首飾りの消息も、途絶えたのだった。





******





 エッシェンバッハ王国の東側に位置する

古の国、ローゼンハイム皇国……

アストランティア大陸中で最も古い、

古の理に守護されている国家だった。


 ローゼンハイムの皇族は、

建国時、いや建国するよりも遥か

昔から、精霊と深いかかわりがあった。


皇家、皇族の血族から、

時折〈精霊の愛し子〉と、

呼ばれる存在が生まれた。


〈精霊の愛し子〉は、

男児であれ女児であれ、

黒い髪に紫の瞳を持ち、大量の魔力を

有していた。


 現皇帝アウレリアには、

早くに亡くなった母の代わりに

自分を育ててくれた叔母がいた。

叔母はアウレリアを、我が子の様に

愛情深く、育てた。

今はアウレリアの子供達を、

孫の様に可愛がっていた。


 皇帝アウレリアの

二人の皇子も、三人の皇女達も、

大叔母に懐いていた。


 ローゼンハイムでは、

産まれた子に護りの意味を込めて、

水晶を送る習慣があった。

皇族や貴族、余裕ある者は、

子の瞳と同じ色の水晶を贈り、

余裕なき者は、同じ水晶が

親から子へと受け継がれた。


 皇帝アウレリアの叔母、

アナスターシアには、

行方知れずとなった、娘がいた。

金糸のような髪に青い瞳、

天使の様に愛らしい少女だった。


 アナスターシアは娘に

自分の持つ水晶の首飾りと同じデザインの

首飾りを贈った。

娘の瞳の色に合わせた中央の水晶の色以外は、

すべて同じデザインだった。


 皇帝アウレリアも、

敬愛する叔母の持つ首飾りと同じデザインを

使用した水晶の装飾品を自分の子供達に贈った。




 精霊と深く関わるローゼンハイム皇国の、

皇族が使用する水晶は、精霊の国へと

つながる鉱脈から採掘されている。


いつからか……

ローゼンハイムの皇族が、

子に贈る水晶には、精霊が眠っている……

水晶の正統な持ち主のみが、

精霊を目覚めさせ、共に生きられる……


そう、言い伝えられていた



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