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精霊姫の帰還  作者: 香霖
5/14

読みに来ていただいて

有難うございます。

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有難うございます。



 トレント様に私が聞きたいことは、

いくつかあった。

その一つが、ここ数年、農作物の生産高が

減少している原因についてだった。


私の質問を意外に思ったのか、

何故(何故)そのようなことを?と、

トレント様が、聞いてきた。


何故なぜ、私がそんな質問をしたのか……


 あの日、初めて辺境伯様にお会いした時、

私がまだ近くにいるのに、お義父様と、辺境伯様が、

問題の話をしていた。


気象や災害といった要因は思い当たらないのに、

作物の出来が悪い事を、疑問に思ったからだ。。


連作障害もあるかもしれないが、新たに開墾した土地まで、作物が実らないというのは、どう考えても変だと思った。


義父ちちや、辺境伯様に、連作障害の話や、

肥料、腐葉土の提案をして、

それを取り入れてくれたとして、失敗したら……

役に立たない、かえって邪魔な子供だと、

捨てられてしまうかもしれない……


誰からも見向きもされず、実の親にも愛されなかった私を、家族にと望んでくれたお義父様の役に立ちたかった。


私が役に立つと思われれば、ずっと家族でいてもらえる。

愚かな私は、そんな事を考えていた。



『姫……小さな貴女がそんな心配を……』


『ふん、人間共め、姫を蔑ろにするなど許しがたい。

全ての草木を枯らしてくれようか……』


『アーブル、浅慮はいけない、そんな事をすれば、

姫が悲しむだけだ』


トレント様は、アーブル様を諫めた後で、

作物の実りが減っている理由を、教えてくれた。


『百年ほど前から、この地に精霊王の祝福が無い……』


「精霊王の祝福……?」


『ハイハーイ、それについては、私が説明するねー』


アーブル様は竪琴を何もない空間から取り出し、

脇に抱えて奏で始めた。




 昔々、東の精霊王には美しい姫が四人おり

中でも末の姫を精霊王は可愛がっていた

やがて姫たちは成長し

一の姫は南に、二の姫は北に、三の姫は西へと

その地を統べる精霊王の元に嫁いでいった


手元に残りし末の姫は類まれなる声を持ち

祝福の歌を歌い、大地は潤い、芽吹き、花咲き乱れ、

木々は茂り、葉が色を変え、豊かな実りが

新たな命を育む……

巡る季節の始まりに、不可欠なるは姫の歌


巡る季節のひと時 姫の歌声に導かれし

凛々しい若者と姫は恋に落ち結ばれる

精霊王ちちの怒りに、姫は若者と世界を渡る

姫を失いし精霊王 嘆きは深く大地は枯れん


界を渡りし姫君の 行方は知れず

精霊王の嘆きは今なお収まりを知らず

実りの祝福も失われん




吟遊詩人の様な、アーブル様の弾き語りが終わった。

精霊王の溺愛している末っ子の姫君が、人間と駆け落ちして、異世界に行って行方不明で、祝福の歌が無いから、

精霊の祝福が無くて、作物の実りが減ってるって事?


『ああ……まぁ、そんなところだ……時に姫よ……』


『私の歌どうだったー?』


トレント様が何か言おうとしていたのを、

アーブル様が遮っていた。空気を読まない、

自由なアーブル様だ。


『次ねー、姫の番だよー歌って、歌ってー』


『うむ、姫よ、何か歌を……』


「歌って……急に言われても……どんな歌でもいいの?」


私が聞くと、トレント様は少し考えた後で、

こう答えてくれた。


『大地とか、花とか、植物の事を

歌った歌が良い』


『気持ちがあれば、何でもいいんだよー』


私は、大地を褒め称える曲と、川の歌を歌った。

フルアカペラで、音がずれていても、

まぁ、誰も原曲知らないしと、

自分を励まし、とにかく、歌い切った。


『姫……素晴らしい歌を有難う……』


『もっともっと、歌ってほしいー』


……アーブル様、勘弁してください。

これ以上は、無理です。

せめて、何か伴奏つけて練習して、

心の準備も済んでからにして下さい。


『さて、時間もだいぶ過ぎてしまった。

他に聞きたい事はあるか?』


トレント様に言われて、

私は聞きたかったことを次々に質問した。

それは、この地に適した作物から

樹木のこと、サトウカエデや

ムクロジ、ゴムの木、

栗やクルミと言ったナッツ類や、 

ハーブ類、リンゴ、桃、といった 

果実の有る無し、また森に採集に来ても

良いものかどうか……それらを、思いつくまま、

質問したのだった。


それから、トレント様が、

歌の対価として私の望みを叶えると言われた。


私は、私が魔法(魔術)を使うことが

出来るかどうか、トレント様に聞いてみた。


私に魔力があることは、シェルビーから聞いている。

魔力があるなら、魔法を使ってみたい、よねぇ?

魔法が使えるように、魔力の使い方を

教えて欲しいと、トレント様にお願いした。


他の精霊とか、妖精に要請するのかと

思っていたら、私の魔法の先生に、 

アーブル様が立候補していた。



『ハイハーイ。私が姫の先生になりまーす』


『ふむ、いいだろう。アーブル、姫に魔術の指導を……

それから、姫には護りと、連絡用に使い魔契約を、

いくつか、していただくとしよう』


私の守りと、トレント様との連絡用に、

鳥の精霊が、私と使い魔の契約をする事になった。


私と使い魔の契約をしてくれる鳥の精霊は、

全身を羽毛で覆われ、手の部分が羽根になっていて、

顔は間違いなく美人さんだった。

女子なのか、男子なのか……

そのどちらでも、無さそうだった。


使い魔の契約には、名付と、少量の体液か、

血液が必要だと言われた。


体液……イヤイヤまだ私子供だからね、

血液……どうしよう、指を齧る?爪をはぐ?

想像しただけで、痛くて涙が出てくる。

どうしようかと思っていると、アーブル様の

手の爪先が細く尖って、針の様になった。


『姫、チクッとしますよ』


アーブル様は、私の左手の小指の先を、

針のように尖った爪先でそっと突いた。


「!」


チクッと指先が痛んだ。小さい傷なのに、

ダラダラと血が流れた。

鳥の精霊は、指先から流れた私の血を

ペロリっと口に含むと、体が微かに光った。


私はその鳥の精霊に、

“ホークアイ”と名付けた。


《姫……素敵な名前をありがとう》


ホークアイはそう言うと、人型から、

鳥の姿、鷹の様な姿になって、空高く舞い上がった。


『良い名前を付けたね。普段は空から

姫の安全を見守り、姫が必要と思う時には、

すぐに目の前に現れるよ。』


甘えた喋り方ではなく、普通に

話せるんですね……アーブル様


「あ、アーブル様……」


私の指先を、アーブル様が啜っていた。


『うん、姫の魔力は甘いね。』


アーブル様の話では、血にも魔力が

含まれているという事だった。

私の血を啜って、アーブル様は

使い魔になったリしないのだろうか?

私が不思議に思っていると、


『姫、私と契約するにはまだ、

魔力が足りません。ああでも、私と契約を、

結びたいと思って下さったのですね。』


アーブル様はそう言って、両手で自分の身体を

抱き締め、イヤァ~ン、とかドウシヨウーとか、

言いながら身悶えていた。


うん、変態さんは、放置しておこう……。



 結界内で、精霊に対する用事を

ほぼ済ませた私は、ライムンド様の所に、

戻ることにした。


帰りの挨拶と、今日の礼を言う為に、

トレント様の顔を見上げ、私は慄然としてしまった。

アーブル様が、さっきまで吸い付いていた左手の小指を、

トレント様が怖い顔で凝視していた。


トレント様が何を考えているのかわからない私は、

知らない間に何か、怒らせるようなことを

してしまったんだろうか?


「あ、あのトレント様……何か、

怒らせてしまったでしょうか?」


私はビクビクしながらでも、トレント様に、

今後の為にも何かやらかしていたなら、

それが何か、聞いておかなければ……


『ん、いや、別に怒ってなどおらぬ。それに、姫が

何か粗相をしたという事も無い……』


粗相……そそうですか、そうですか……


『いや、ただ不思議でならない……姫の気配と、

姫の魔力は感じられるのに……感じているのに……

血には姫の血統が感じられない……』



う~ん……聞いても、わからない話だった。

私は、トレント様に帰りの挨拶と、今日の、

私の問いかけに答えてくれた事に、礼を述べた。


『姫、これを……』


トレント様が、私の腕に、緑の石が付いた

銀の腕輪をはめていた。


『この腕輪は、姫の望む形に変化する。

使い魔との契約に血を必要とする時には、

針の様に、また、盾にも、剣にも、必要に応じて、

姫の望むままに、変化しよう……』


「そんなすごい腕輪、

私がもらっていいのですか?」


トレント様は、無言で、ゆっくりと

首を上下に動かしていた。


『私からはこれー』


そう言って、アーブル様が私に寄こした物は、巾着袋でした。


(?何が入って……)

「こ、これ……アーブル様、ありがとうございます」


『ふふっ、喜んでくれてよかった。

その巾着、マジックバッグだから、

注意してね』


「マジックバッグ?魔法の袋……」


『使い方は、魔法を教える時に、

詳しく教えてあげるね』


そう言って、アーブル様は

ウィンクしていた。


お二人に、こんなに良くして頂いて、

どうやってお返ししたらいいだろう……

それに、また来てもいいのかな?

その事を、私がトレント様に聞く事は、

いや、聞く必要が無かった。


『姫、また……歌を聞かせて下さいね』


トレント様に請われた私は「はい」と、答えると、

私を此処側(結界の内側)へ連れてきてくれた妖精、

シェルビーに連れられて、ライムンド様が待つ、あの、

切り株の所へと戻るのだった。




******




 一方、切り株の所で、リリフローラを見失った

ライムンドだったが、「待っていて」と言った、

リリフローラの言葉を信じて、父親のベルンハルトと、

切り株に座って、リリフローラが、戻ってくるのを待っていた。


ベルンハルトはリリフローラを見失った事で、

ライムンドが思い詰める事が無い様、

気を紛らわすついでに、リリフローラの事を

どう思っているのか、聞いてみた。


「リリィは、妹みたいな……

妹としか、思ってません」


「でも、妹じゃないよね?」


「父上…僕は……」


「まぁ、二人共まだまだ、子供だからね」


「……」


「まぁ、後悔する事が無けれ、ば……」


ベルンハルトは、二人で座っている

切り株周辺の空気が、張り詰めた様な

気がして、咄嗟に身構えた。


二人の目の前の空間が、揺らいだ。

すると、大きな蝶の様な羽の妖精に、

手を引かれたリリフローラが、

いつの間にかすぐ側に立っていた。




 アーブル様に頂いた巾着を持ち、

シェルビーに手を引かれ、私は、

精霊界と人界の境界まで、戻ってきた。


薄い幕の様な結界の向うに、

ライムンド様とベルンハルト様が見える。


シェルビーに手を取られたま、

私は境界を越えた。


「うぁあ!」


精霊王が施した結界を越えた、

私の姿を目にした途端、ライムンド兄様は

悲鳴をあげた。


「リリフローラ!」


ベルンハルト様は私の名を呼ぶと、

私の無事を確認するするかのように、

そっと膝の上に抱き上げると、

ギュッと、抱きしめられた。


「リリフローラ……今まで、どこに行っていた?」


「……」


ベルンハルト様は、私の事を

心から心配しているようだった。


私は前世の父に抱きしめられているような、

錯覚に、涙があふれて、止まらなくなった。

(父さん……母さん、お兄ちゃん、お爺ちゃん……)


「リリィ、責めているのではない……だから、

だからそんな風に、声を押し殺して泣くんじゃない」


「……っって……だっ、って……」

(父さん……って言っちゃう、よ……)


「リリィ、声を出して、泣きなさい」


「うっ、ひっく……お、おと……」


「リリィ……」


「ひっ、ぐっ……お、とうさぁ、ん……」


「リリィ、よーしよし……

怖く無い、怖く無いよ、安心して?」


ベルンハルト様は私の背中を、優しく撫でて、

あやす様に、トントンと、叩いていた。


「リリィに、お父さんって、呼ばれた事が、

ヴィクトールに知れたら、妬かれるだろうな……」


ベルンハルト様の言葉に、

確かにアノ、義父ちちが知ったら……

「リリィの父様はこっちだよ?間違えないでー」とか、

涙目で言いそうだ……


想像したら、可笑しくなってきた。


「ああ、泣き止んだね?リリィ……少しは落ち着いたかい?」


ベルンハルト様は私の頬を両手で包み込むと、

私の目の下に残っていた涙を、

親指の腹でぬぐい取ってくれた。


私はベルンハルト様の逞しい胸筋に

顔を埋めて、すーはーすーはー……

(ああ、なんか、落ち着く……)


「っく、おい!りりィ、お前、父上に

何やってるんだよ?」


ライムンド兄様が何か言ってるけど、まだ、

ううん、もう少しこのままでいたい……

私は聞こえないふりをした。

ベルンハルト様も、何も言わず、

そのまま私を抱っこしてくれていた。


「リリィ、聞こえてるんだろう?

さっきまでどこ行ってたんだよ、答えろよ」


「そうだね……リリィ、そろそろ状況を

説明してくれるかい?」


ライムンド兄様に続いて、

ベルンハルト様にまで、問い掛けられてしまった。


私はまだ、全ては話せないけど、

今後の為にも、話すべき事は話して、

説明する事にした。


「実は……妖精に導かれて、精霊に会っていました」


「精霊?妖精って……寝ぼけてるのか?」


「魔物に誑かされたか?ああ、ヴィクトールに何て言えば……」


「寝ぼけて無いし、魔物に誑かされてもいません」


私は、一瞬シェルビーを呼ぼうかとも思ったが、

ベルンハルト様が帯剣しているのを見て、やめた。

姿を見せてもらうのは、後でいい……

そんな事より……


私はベルンハルト様に右手を見せた。

始めはキョトンとしていたが、直ぐに

違和感に気が付いていた。


「傷跡が……痣が失くなって?

いや、小さくなったのか?」


「精霊が、癒してくれました。それから……」


私は、アーブル様に頂いた

巾着の中身についても、

ベルンハルト様に説明をした。


巾着の中には、野菜の種苗や、果実、

ハーブなどが入っていた。

ベルンハルト様も、ライムンド兄様も、

巾着袋の見た目以上に、中から物が出てくるのに、

驚いていた。



「精霊様から頂いたマジックバッグです」


私の説明を、黙って聞いていたベルンハルト様が、

大きなため息を吐いた。

そして、【精霊の愛し子】と、呟いていた。


「ライムンド、この森で見た事、聞いた事、

リリフローラの事、決して漏らすな!良いな?」


「母上と、リズィにも?ですか……」


「……そうだ。誰にも言ってはならぬ。

それからリリィの事、お前が側にいる時は、

何としても護れ!わかったな?」


「はい!父上……」


「では、リリィ……ライムンド、戻るぞ」


「はい、父上」


「……あ、ま、待って、待って……」


切り株から立ち上がり、歩き出そうとする

ベルンハルト様に、私は待ったをかけた。


「どうした……?リリィ……?リリィ!」


私は心の中でホークアイを呼ぶと、

トレント様に教えてもらった、

あの木の所まで、案内を頼んだ。


ホークアイは、少し考えた後で、

初めて会った時のような人型になり、

私の手を取ると、駆け出した。


私は必死にその後を、付いていった。

不思議と息が切れない……それどころか、

体が浮いているように、軽い気がしていた。


風の精霊が、リリフローラを

手助けしていた。

焦ったのはベルンハルトと、

ライムンドの二人だ。


「クッ、また、見失ってたまるか」


 ライムンドは父から護るように言われなくても、

リリィを護るのは、自分だと思っていた。


前を行くリリフローラの姿を、見失わないように、

顔に当たる葉や小枝にも構わず、疾走していた。


ベルンハルトは、ライムンドの後ろ姿に、

妹にしか見えない相手にする態度なのか?と、

苦笑いを浮かべていた。



やがて、リリフローラは同じような木が

並んでいる場所で立ち尽くしていた。

始めから、ここが目的の場所で

あったかのように……



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