000 プロローグ
バラバラ、と土と瓦礫が黒くて薄手のコートの背中から落ちていく。ゆっくりと体を起こした。
特徴的に、短髪なのに一束だけ長い濃いブルーベージュ髪、長い束の先端付近についた夕焼け色の宝石が、朝日をあびて輝いている。ゴリ押ししたのは、失策だっただろうか。周囲はどう見ても廃墟の家屋だ。
「いてぇ……おい、フィー。どこ落ちた?」
「んむー! ほっひー!」
瓦礫の中から、ずぼっと挙手。どうみても子供の小さい手だ。
それを確認して、頭に乗った埃を叩く。……もごもご、がりがり。不穏な音を聞きながら。
「……瓦礫は食うなよ」
「だっれ、……んきゅぷ、クッキーみたいなかんじが! ほら!」
「味はしないだろ……」
青年の赤い瞳が日に照らされた。右目は髪の毛に隠され、見えていない。首にはぐるりと縫い付けて頭と体をつなげたような傷が目立っている。
ずぼっと、瓦礫を吹き飛ばしながら先程の手の主たる少女が飛び出た。青年よりかるい色合いのブルーベージュ。土と埃にまみれて、長めの髪がごちゃごちゃになっていた。アンバランスなブロンズの翼が、朝日で鈍く輝いて。
「……変なもん食ってもカロリーねえんじゃエネルギーになんねえだろうに」
「うーん、やっぱりクッキーのほうがいいね。本物の」
こてん、と少女は首を傾げた。どうせ、本物は甘くて、さくさくで、とか、こんな形の、とか。そんな事を考えているのを、青年は把握していた。
頭を掻こうとして、右手を上げて――あ、と思い出す。
よかった、落としてはないようだ。それは――……すらりとした女性の右足。
人形のそれと似通っていはするが、黒く深く奥行きのある星空の断面が本来つながっているべき場所にある。動かせばくたり、と力なく関節だって曲がる。
「右足げっとー?」
「……ああ、集めてさっさと――言い訳を聞いてから、俺がぶっ壊してやるさ」
こてん、と次は逆向きに首を傾げる少女。青年のほうはその足を見ながら、吐き捨てるようにそういった。
これはとてもとてもつまらない、物語。
愛憎? 欲望? 世界? 心理? 理論? 無関心?
――つまらない人間が、屁理屈の理由を探して、星を落とす物語。