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悪いが其方、余の買い物に付き合ってくれないか?

 レイが無造作に本棚をスライドさせ見本の本をカコンと七十五度に傾ける。

 すると横の本棚がガコンと後ろに下がり勝手にゴゴゴと音を立てて横にずれていく。

 そしてその中へとレイが無防備に入っていくのを見て私は心配になりついていくことにした。

 薄暗い廊下のようなところを五十メートル程進んだだろうか……私達は応接間のような場所に出るが明かりがランプとかなり洋風チックかつ薄暗い――正直不気味である。


「お待ちしておりました――お客様」


 私は「ひっ」と悲鳴交じりに肩を震わす。

 レイの背中が邪魔して応接間にいた人物が見えなかったのだ。


「ふむ……ここでは珍しいものが売ってそうだな」


 レイの体が邪魔で見えないので私はレイの横へと進んでいくと初老の執事の男性で右目にモノクルを着けた男性がいた。


「はい、お客人の思っている通りでございます」

「ふむ……真帆、其方はそこらの物でも見ていなさい」

「ほぇ? 私は話を聞いてたらダメなんですか?」

「別に良いが真帆が欲しいと思うものはないと思うぞ? 真帆の趣味嗜好は「機能性重視」であるとみたからな……ここには「機能性重視」のものは一つもないと断言できる」

「は、はぁ……」


 私は初老の男性――店員へと視線をずらすと、


「はい、ここには「機能性を重視した物は一切ございません。ここには趣味嗜好が偏ったものしかないのでございます。当ミオンデパートでもこの部屋に来られるのは一部の人間のみ……それこそ趣味嗜好が偏ったお客人しか訪れることのない場所なのです」


 ふむ――周りを見てもどこぞの中世の貴族の部屋を思わせる物ばかりである。

 映画のセットと言っても通じるほど雰囲気が出ている――まぁ実際中世の貴族の部屋なんて私は行ったこともないが……まぁ映画の中世時代の恋愛ものや革命ものを見た時の部屋と同じようなので実際には違うのだろうが……。


「ミオンデパートにこんなところがあるとは思いませんでした。何か会員証などが必要なのでは?」


 私は疑問を口にする。


「いえ、ここに入れただけですでに会員証を持っていると同じようなものなので。ちなみに違うミオンではローマ風のお部屋もあります。そこでは古代ローマの部屋に売り物は古代ローマ時代の物の複製などがあります」

「…………確かに趣味嗜好によって購入意欲がかわりそうね。この部屋はテーマは中世の貴族かな?」

「中世十五世紀――ルネサンス期を基に再現された部屋でございます。お嬢様にも興味の持たれるものはありますかな?」


 お嬢様――私だろうか? 執事喫茶にでも私は来たのだろうか?


「ううん……特には――この本なんておいくらくらいするんでしょうか?」


 私は自分の横に合った机の上に乗っている本にポンと手を置き執事風店員に聞いてみる。


「ほぉ……真帆、それはグリモワールの魔導書だぞ?」

「ぐりも……なに?」

「知らないで手を置いたのか?」

「それは三億程でしょうか」

「三億ですか、面白い冗談ですね」


 私はハハッと笑うがレイと店員は笑っておらず店員は静かにニコリと微笑むだけで私は怖くなりすぐに手を離した。


「う、嘘でしょ?」


 私の頬に汗が一滴垂れる。


「嘘なんて言いませんよ。私は店員ですから」


 店員がそう言うと同時に本が一瞬光り輝きすぐに収まる。


「「ほぉ」」


 レイと店員が珍しいものを見たような目になる。


「真帆、余はこの店員と話があるから部屋の中を「触らず」見て来なさい」


 どうやら余計なことをしてしまったらしい。

 私は渋々レイたちを背にしながら部屋を見て回る。

 一応レイたちの声が聞こえては来る……なにせ部屋は狭いのだから。

 言っておくけれどこれは盗み聞きなんかじゃない! 決して!


「お主こちらのものではないな?」

「はい、お客人の言う通り私はあちらの者です。この部屋もあちらの者でしか開けられないように鍵をしております」

「それで? どういうものがある?」

「はい、こちらなど――少々お待ちください……<シャットアウト>」


 その言葉を機に話声が聞こえなくなる。

 私は謎に思い振り返るがレイと店員はなにやら話し込んでいる……が、全然聞こえない。

 内緒話のようにとても小さい声で話しているか、もしくは口の形で相手の会話を読み取る読唇術をお互い駆使しているのか私には全然聞こえなくなった。

 私は仕方なく棚を物色するが細工の凝った懐中時計などお高そうなものが並んでいる……とおもいきやどんぐりにネックレスを通しただけの物まで綺麗に飾られている。

 珍しいどんぐりなのだろうか?

 十五分程して背中から「真帆さん」と子供っぽい声がして私は振り返る。


「あれ、シオン君じゃないの……よくここが分かったわね」

「ええ、殿下の匂いで――」


 なんか変態チックなワードが出たがスルーしておくのが吉だろう。


「今レイはあの店員さんと買い物の話をしていて――」


 言いかけてレイが振り返る。


「そろそろいこうか、真帆――おや、シオンじゃないか。今来たところか?」

「はっ! 殿下のいるところに私あり!」


 スッと胸に手を当てお辞儀するシオン君。

 そういえばレイが主人ぽくてシオン君が執事みたいにしていることや「殿下」呼びしている事から察するに親戚とかではなくどこぞのロイヤルファミリーの主人と執事みたいだな……と思っていると、


「真帆、この本を持っておきなさい」

「それってさっきのカビ臭――じゃなくてお古い御本様ではないですか!」

「うむ、千円らしいぞ」

「千! 騙してたんですか!」

「値札を間違えておりました」

「そんな極端な!」

「指摘されるまで気付かず申し訳ありませんでした。本来なら五千円の本なのですが千円にてお譲りしたく存じます」


 正直五千円でも高いよ……ていうかでかくて邪魔なんだけど? そんな本買っても……。

 なんせ日本語以外読めないしね!

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