悪いが其方、家具を選んでくれないか?
このエスカレーターの先には1フロア丸々家具コーナーだ。
エスカレーターを登りきり家具フロアへと到着する。
「さて……家具はなにが必要なんだろう?」
「真帆、「カグ」とは寝具や棚の家財の事か?」
「……えらい古い言い方ね。昔はそう呼んでいたと思うわ」
「ふむ……正直寝具と本棚、机と椅子があれば余は満足だ」
「それじゃまずは寝具を見に行きましょうか」
「うむ」
私達は寝具コーナーへと歩を進める。
そして到着し色々なベッドが目に入る。
「ふむ、色々な種類があるな」
「そうね、ベッドの頭元にもライトなんかあったりするし下には収納できるスペースもあるやつなんかもいいよね」
「寝れればいいのだが……」
「レイってば質素なのね」
「そうだろうか? む、あれはいいな」
レイが指差したベッドは頭元が少し大きく物が置けるタイプだ。
「これがいいの? もうちょっと見て決めない?」
「ふむ、第一候補としておこう」
「その心は?」
「頭元に本が置ける所だろうな」
レイは見かけよりも機能性重視なのね。
そのあとも色々なベッドを見て回る。
ダブルベッドやセミダブルなども見ながらレイが「ダブルベッドか。広くていいな」というので「部屋の大きさも考えてね」と私が言うと「ううむ」と唸っていた。
「それにしても人間の作るものはすごいな……大きさもだが色々な機能がついている……なんなんだ? あの安らぎの音楽が鳴る安眠ベッドとか……正直そこまでするかとも思ってしまったが……」
「そうね、海外の物もあるし結構な数があったわね……安眠ベッドは正直田舎の夜には合わないと思うわ……なにせカエルが鳴いたり鈴虫が鳴いたりしているから――」
「余は最初のベッドを所望する」
「結局あのベッドなのね」
ふんすと鼻息を荒くし大胸筋を前面に押し出すレイ。
「あとは何がいるっけ?」
「真帆は買わなくていいのか?」
「買ってもいいの?」
「うむ、世話になるんだ。真帆の分も買うとよい」
「う、うん……ありがとう」
「それにいずれ余の子供を産むという事は余の妃になるということ!」
「それはない!」
私は盛大にツッコミを入れる。
それをレイが受け流し私は気になっていたベッドの注文番号札を手に取る。
「そういえばシオン君のベッドはどうするの?」
「余と同じものを買っておいてくれ」
「へいへい」
私は最初に見たベッドの所に行きレイとシオン君のベッドの注文番号札を手に取りレイの所へと戻る。
だがさっき居た所にはレイはいなかった。
私はレイを探しつつ色々と物色する。
なにせ家具なんてものはそうそう買わないからだ。
家には最低限のものがあれば事足りるし必要になったら近所のお爺さんとDYIすりゃいい話なので家具屋を散策するという事は今までにあまりなかった。
いざ色々と見てみると安くいい商品がいっぱいある事に気付く。
「ほ~、これなんか洗面所と壁の間に入りそう……寸法測っとけばよかったな」
そんな独り言を零しながら見ていくと書斎用机コーナーにレイが座っていた。
海外製であろう書斎用机に凛として座っているレイは見た目が外人ぽいので絵になっている。
他の客もレイをみては「キャー、なにあれ、マネキン?」などと小声で囁いている始末である。
そんなレイが机に手を置き「ふむ、中々によい」と独り言をつぶやきながら机をさする。
「レイ、それ気に入ったの?」
「真帆か……これは中々に良いな。職人の顔が見たいものだ」
「職人の顔は拝めないでしょうが気に入ったのなら買っておく?」
「いいのか?」
「まぁ部屋に入るしいいんじゃないかな。色はどうする?」
「色?」
私は机の上に置いてある色の種類を指さす。
「その展示されている色以外にも数種類あるみたいよ」
「ほぉ……素晴らしい」
そう言いながら机の上に置いてあった色の種類を吟味するレイ。
「ダークブラウンで頼む」
「わかったわ……15-3ね」
私は15-3の札を取り出す。
「次は何を見ようかしら……たしかレイは本棚を見たいんだっけ?」
「うむ、そこまで大きくなくても良いのだ。ただ興味がある本を収納できれば……」
「何冊くらいいれるの?」
「そうだな……五百冊くらいは欲しいところだ」
「ご…………なに?」
「五百冊だ」
「聞き間違いじゃないのね……レイは本が好きなの?」
「嗜む程度だが?」
「…………そう。まぁいいわ、できる限り大きいのを選びましょう。といってもこんなデパートで売っている本棚の大きさなんてたかが知れてるけど……」
私は「ふぅ」とため息をつきつつお金はレイ持ちなので部屋に収まるのであれば好きにさせたいとは思っている。
決してベッドをついでに購入してもらったからなんて理由ではない。
本棚コーナーに来た私達は各々本棚を見だす。
レイが「ふむふむ」といいつつスライド式の本棚を物色し、私はスライドはないが横一面に大きな本棚を見る。
スライド式は見た目に関してはかっこよくいいのだが収納力でいうとスライドしない方がよかったりもする。
私はレイの所に行きどんなのがいいか聞いてみる。
「レイ、いいのあった?」
「そうだな……これなんか……ふむ」
レイが無造作に本棚をスライドさせ見本の本をカコンと七十五度に傾ける。
すると横の本棚がガコンと後ろに下がり勝手にゴゴゴと音を立てて横にずれていく。
「こっちの世界に来た者の仕業か」
「…………なにこれ」
本棚があった空間に廊下のようなものが現れた。
レイが堂々とその廊下にはいっていく。
私は少しためらったが、レイが心配なのでついていくことにした。
もしかしたらデパートが用意したなにかのアトラクションかもしれないし!