悪いが其方、回想もいいが、今後の方針をきめてくれないか?
~これまでのあらすじ~
私は後藤 真帆。普通のOLで田舎暮らしである。
春の終わりを告げ桜が散り始めた今日この頃、夕刻帰宅時に裸の男性を発見、つい癖で筋肉を見ながらスマフォ片手にシャッター連打。
男性には気付かれ近づかれ「余の子供を産んでくれ」ときたもんだ。
もちろん私の答えは「NO」一択!
しかし男性はあきらめず金銭を払うからと同居を提案――もちろん「NO」であったのだがあまりに美しい筋肉に見ほれ私は「YES」と言っていた。
まぁ自分の言った事には責任を持たねばなるまい――ということで裸の男性お持ち帰りぃ!
名前はレイといい筋骨隆々、体脂肪率おいくつですか? と聞きたくなるような体である。
足がどろんこだったので風呂に入ってもらい夕ご飯を一緒に食べつつビールを飲むがレイはお酒に弱くビール一缶ももたずにダウンという情けない姿に――そして私が客室へと引きずりながら案内する。
重労働だったが引きずる際に振れる広背筋に目を瞑ろう。
これが昨日の出来事である。
◆◆◆◆◆◆
そして本日私の休日はレイのお買い物に潰されていた。
というか私が学生時代に来ていたジャージはレイにはピチピチで筋肉がめちゃ浮き出てこれはこれで――良き!
と思いつつも都会のデパート「ミオン」にて衣服を買う。
少し疲れたので私達はテラスにて席に着きお昼を食べようと――おっと会社のお局様の加藤さんご登場、しかも取り巻き付きときたもんだ。
そして私が困っているとレイが変な外人アピールで撃退。
これはさすがにクスリと笑いが出た。
そしていきなり出てきたロングヘアのルビー色の目を持つ少年――シオン君が登場した。
レイの世継ぎがどうのこうのと言ってもめていたがレイの提案により何故か私が試されることに……。
目を見てほしいというので見たらなにやらきょどるシオン君……ちょっとかわいい――と思っていたら絶賛催眠術実施中だったらしい。
正直身の毛のよだつ体験何だろうが何をされたのかもわからないので受け流しておこう。
さっきもレイが「自分はドラゴンだ」等と供述しており信憑性に欠けるので催眠術もごっこ遊びかもしれない。
そしてシオン君はこうも言ってきたのだ。
家事全般は私がするので同居をゆるしてほしい……と。
どうやら元々レイの執事もやっており本屋でみかけた「家事全般」も習得してきたらしい。
アッサム紅茶がおいしいよ。の一言で仕方なく私は同居を認めることになった。
◆◆◆◆◆◆
と、ここまでが回想である。
うん! 自分で回想しといてなんとなく落ち着いた。
恐らくレイは生粋のコスプレイヤーで角は絶対外さない主義なのだろう。
設定はドラゴンだが堅苦しい日本語や質にいれる高級な指輪などをどこからともなく出してくるあたりマジシャンで有名なのかもしれない。
もしくはまだイギリスに残っている高貴なロイヤリティ――つまりは王族の一人かもしれない。
そう考えるとシオン君の事も納得がいく。
家族ぐるみの主従関係――生まれたその日からレイに仕えるように教育を受けたプロフェッショナル執事というのも納得ができる――うん、きっとそうに違いない。
「さて、シオン君――君は服を持っているのかな?」
「は? 服――ですか? この執事服で十分かと」
「学校は?」
「学び舎ですか? そんなものは必要ないかと」
「本屋に戻って学業の事やそれに必要な文具、それと日常で使う服を今レイからもらったこの指輪を質屋という場所で交換して用意してきなさい」
「ですが、学業など私には不要!」
「世間体では君のような年齢の子は学校に行くの!」
「ふむ……郷に入れば郷に入れと」
「その通り!」
「わかりました、指輪を頂戴いたします」
そう言いながら私の目の前で膝をつき手を差し伸べる――仰々しいなぁと思いつつもレイから渡された指輪をシオン君に渡す。
渡されたシオン君はとぼとぼとデパートの中へと帰っていく。
質屋の場所分るのだろうか?
というかあの年齢の見た目で質屋に入れるのだろうか?
ああ、もしかして催眠術ごっこでなんとかするかもしれないな。
それはさておき部屋の総数はまだ予備がいくつかある。
伊達に田舎に立っている二階建ての一軒家、二階が倉庫になっているのでそこを片付ければシオン君の部屋も確保できるだろう。
そうなれば家具も必要か。
恐らくではあるがロイヤリティ……王族に近い高貴なお方が廃屋同然の所に泊まるのだ。
せめてベットくらいは何とかしてあげたいところである。
「レイ、私達は家具を見に行こうか」
「「カグ」? それは武器であるか?」
「そうね――睡眠用枕選びは人生において最大の武器であるともいわれることがあるわね」
「防具はどうする?」
「そうね――寝具もそこそこいいものにしましょう。レイの高級な腕輪とかを質屋にいれたからかなりの額が今あるわ! 私の分もここから出していいかしら?」
冗談半分に聞いてみる。
「ああ、もちろんだとも」
ニカリと笑いを向けてくるレイ。
成人君主がいるとすればレイみたいな人だろうなと私は思ってしまった。
そして腰に当てた手の先にある二頭筋もニカリと笑った気がした。
私達は家具売り場へと行くことにした。
その間も服などをいれていた袋をもっていたレイがポツリと「これは邪魔だな、しまっておくか」と言うといつのまにか買い物袋が消えていた。
さすがはマジシャン! こういうの見たことある!
「買い物袋どこかに置いてきたの?」
「収納した」
「そうなんだ」
収納とはあれだろう。
コインを腕の中に隠して手のひらを開け「コインどこいったでしょう」的なことだろう。
マジシャンはよくそういう口実でどこかに隠す。
もしかしたら私が気付かなかっただけで備え付けられていた三百円ロッカーにでもしまったのだろう。
さて、このエスカレーターを登れば家具置き場だ。
いい枕や寝具が見つかるといいね!