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鎧甲冑と重機関銃

作者: タマゴ

 夢を見た、何処とも分からない真っ白な部屋の中、見ず知らずのド派手な司会者のような格好をした男性と二人きりで対談する夢だ。

 男性は言った、物凄い勢いとノリのよさで、異世界へ行きたいか。と。

 その勢いに飲まれ、俺は反射的に行きたいと答えた。


 刹那、背景が入れ替わり、目の前にマルとバツがそれぞれ書かれた二つの巨大なパネルが出現する。

 これは一体何が起こっているのかと理解する暇もなく、いつの間にか司会台に立っていた先ほどの男性が、考える間を与える事無くクイズを出題する。


「問題。食用魚として有名なブリ(鰤)ですが、ブリは大きさごとにその呼び名が変わる出世魚でもあります。では、ここで問題! 日本の北陸地方では、体長40cm未満のものをハマチと呼ぶ! マルかバツか!? パネルに飛び込んでお答えください!!」


「えぇ!?」


 突然の問題に頭が混乱しているのに、それに加えて問題の内容が地域別での魚の呼び名。北陸地方出身者じゃない俺には当然答えの目処などあるはずがない。

 とは言え、男性は制限時間を読み上げてるし、このままではタイムアップになる事は必須。


 なので、一か八か自分自身の勘にかけ、マルの巨大パネルへと駆け込んだ。


「とりゃ!」


 刹那、マルの巨大パネルを突き破った先にあったのは、緑美しい草原でした。


「……へ?」


 一体何がどうなっているのか、目まぐるしく変わり続ける状況の変化に、もはや俺の思考は完全に停止してしまった。

 そして、それから暫くの間。俺は広大な草原を見つめながら、思考が再び回り始めるまで突っ立っているのであった。



 緑が美しい、透き通るような青空、そして吸い込む空気のなんと美味しいことか。


 なんて、暢気に考えていたのもつい数分前まで。

 気付けば着用していたのは部屋着ではなく、見慣れない西洋の鎧甲冑。そして、腰には鞘に収められた紛うことなき本物の剣。

 しかも、不意に上空を何かが通ったかと思うと、その後姿は紛れもなくフィクションの中の生物、ドラゴンそのものであった。


「……マジか、マジなのか」


 お約束とばかりに自分の頬をつねったりしたが、痛みはあるし。そもそも風も草の匂いも、五感の全てに異常は感じられない。

 となると、これは紛れもない現実。現在進行形で進んでいる出来事の只中なのだ。


「はは」


 あまりに唐突で実感の湧かない中での事に、もはや乾いた笑いしか出てこない。

 とは言え、人間と言うのはこうも順応能力の高いものなのかと自分自身のことであるのに関心しそうな程、自分の中では既にこの名も知れぬ世界で生きていく算段を立て始めている部分もあった。


 こうして、俺の唐突な、名も知れぬ世界での第二の生活が始まったのだ。





 さて、あの唐突な幕開けから早いもので二年が経過しようとしていた。

 都合のいい事に、初めてこちらへと来た時に剣とは反対の腰にはちょっとした硬貨の入った皮袋があり、何とか野垂れ死にせずには済んだ。

 更に都合のいい事に、同じ袋に近くの村までの地図も入っており、見ず知らずの世界で寂しい想いをせずには済んだ。


 更に更に都合のいい事に、この世界の住人との意思疎通については何の問題もなく。自分側から見れば、皆普通に日本語を喋ったり書いたりしている。


 とは言え、相変わらず手探り状態であるのに違いはなく。最初の頃は色々と苦労も絶えなかった。


 相変わらずこの世界が何と呼ばれているのかは分からないが、この世界が前の世界とは大きく異なっている事は、この二年で嫌と言うほど理解した。

 初日に見たドラゴンから想像はしていたが、この世界にはごく当たり前に魔物、即ちモンスターが生息している。

 そして、そんなモンスターを狩って生計を立てる職業もあり。


 俺は、そんな職業の存在を知るや否や、迷わずその門を潜った。


 とは言え、フィクションよろしく躍進出来る程現実は甘くはなかった。


 一応村からそこそこ大きな街に拠点を移した祭に、そこのギルドで登録してハンターになったものの。

 登録者をランク付けした表に照らし合わせて現在の俺のランクを見てみれば、俺のランクは最低ランクの一つ上、即ち下から二番目なのだ。

 当然俺よりもランクの高い人はごまんといる。


 しかし、俺自身はこの事実に特に焦ってはいなかった。

 と言うよりも、むしろ及第点以上ではないかと評価している。


 何故なら、全くのゼロからスタートして、二年でここまで来たのだから。


「んー、今日もいい天気だ」


 と言うわけで、今日もせっせと仕事をするべく俺は街の一角にある宿屋を出て背伸びをすると、もはや体の一部と化しつつある鎧と剣を身に纏い街の外へと向かった。



 巨大な壁に守られた街の外に出て、そこから歩いて一時間ほどの所にある森へと足を踏み入れると、森に巣くう悪いモンスターを狩っていく。

 しかし、森で行うのは狩りばかりではない。狩りの合間合間には森に生えている薬草を採取し、少しでも『ポンズ』を稼ぐべく努力を惜しまない。


 因みに、ポンズとはかんきつ類の果汁を用いた調味料ではなく、この世界の通貨の名前である。

 なお、イントネーションで言えば平坦ではなく、最初のポを強く発音する。


 そうそう、通貨の説明ついでに、今俺が住んでいる地域についての説明も簡単にしておこう。


 今俺が住んでいるのは、世界最大の大陸の西に位置する『グレートブリテリ島』と言う名の島。

 その島の中心に位置するリイズと呼ばれる街に住んでいる。

 余談だが、最初にこの島の名前を知った時は、思わず噴出しそうになってしまった。


「ま、こんなもんか」


 と、そんな説明をしている間に、十分な数の狩りも薬草の採取も終わり、後はリイズの街へと戻るだけとなった。

 最初はその美しさのあまりたかが夕焼けであっても立ち止まって眺めてしまっていたが、今ではもはや気に留める事もなくなった。

 それよりも気にしているのは、閉門の時間だ。


 魔物対策用に設けられたリイズの街を守る壁、その壁を通行できる唯一の手段が、四方に設けられた門だ。

 毎日日没に閉じられる四つの門。もしも、閉門までに街には入れなければ、それは即ち野宿を意味する。

 しかも、モンスターの生息している中での野宿だ。当然リスクは前世の比ではない。


「ふぅ、セーフ」


 そんな訳で、少々足早に街へと戻り、何とか余裕を持って閉門前に街に戻ってきた。


 街のギルドで森で狩ったモンスターやら薬草やらを換金し終えると、その足で向かったのは街の酒場だ。

 丁度良く腹の虫が鳴き、否が応でも夕食の時間だと知らされる。


「うーん、でりしゃす」


 二年も生活していると、もはやこの世界の料理の味にも慣れ親しんできた。

 最初の頃は、前世とは異なる生態系ゆえにその料理もどんなものに仕上がっているのかとびくびくしていたが、食べてみるとこれが案外すんなり受け入れられた。


 ただしナーナナットウ。てめぇは駄目だ。


 ま、何処の世界にもゲテモ、もとい個性的で万人受けしない食品と言うものはある。


「でよ、あの森の奥にある神殿にあるって言うんだよ」


「なにが?」


「エクスカリバーだよ、エクスカリバー! 手にしたものに勝利を齎す伝説の剣さ」


 なんて、俺の自身の好き嫌いの話を内心していると、不意に他の客の話し声が耳に入る。

 少し気になって聞き耳を立ててみると、どうやら昼間に俺が行った森の奥に放置されて久しい神殿があるらしく、その奥に、エクスカリバーと呼ばれる剣が眠っているのだとか。


 眉唾物の噂話。

 話を聞いていた客の相棒はそう一蹴したが、俺は、何故かその話の真相が気になってしまった。


 

 そして、時は過ぎ翌日。

 俺は準備を整えると、朝早くからあの森へと出かけた。目的は勿論、例の噂話の真相を確かめる為だ。


 通いなれてるとは言え奥までは足を運んだ事がない為、途中苦労しつつも何とか森の奥へと辿り着く事に成功する。


「おぉ、あった……」


 そして、その苦労が報われたのか、俺の目の前には古びた神殿がその姿を現していた。


「よし、いざ!」


 気合を入れて神殿内へと足を踏み入れる。

 当然の事ながら神殿内は薄暗く、松明を用意しておいて良かったと安堵する。


 こうして神殿内に入ってからどれ位経っただろうか。

 とりあえず神殿の奥へ奥へと進んでいくと、突然何か重要なものを守っているかのように、頑丈で分厚そうな扉が目の前に姿を現す。


「むむ、怪しい。間違いない、ここだ!」


 何処からどう見てもここであろうが、とりあえずお約束とばかりにリアクションを取ると、扉を開ける方法を探し始める。

 が、不思議な事にこの扉、何処にも鍵穴らしきものが見当たらない。しかも取っ手らしきものも見当たらないし、どうやって開けるんだ。


「困った……」


 とりあえず押してみたり引いてみたりしたものの、扉はびくともしない。

 お宝を目の前にして足止めか。


「はぁ……、ん?」


 肩を落として視線が下がった刹那、ふと扉の下の方に何やら溝のようなものを見つける。


「何だこれ?」


 しかも溝は二つあり、その大きさから、まるでそこに手を入れるかのよう。

 と、その時、俺の脳裏にある考えが過ぎる。


 刹那、松明を置き両手を溝に入れ、そして、一気に持ち上げた。


「なんじゃそりゃ!?」


 すると、それまでびくともしなかった扉が勢いよく持ち上がり、開いたではないか。

 そう、まさかの持ち上げ開放式だったのだ。


 想像の斜め上をいく開け方にため息が零れつつも、最大の難関を突破した事に対する安堵のため息も漏らすと、いよいよ例の物を拝見すべく扉を潜る。


 扉を潜った先に広がっていたのは、巨大な円形の部屋であった。

 まさに聖剣を安置しておくに相応しい雰囲気を持ったその巨大な部屋、壁には職人の手で掘られたと思しき神々の像がその姿を見せる。


 そして、部屋の中心、そこに置かれた台座の上にそれはあった。


「……聖、剣?」


 50口径の巨大ライフル弾を安定して撃ち出すに相応しい肉厚で巨大な銃身。

 毎分650発を撃ち出す機関部を内包する箱型のガッチリとした本体。

 本体から伸びるベルトリンクには、何十発もの50口径弾が連なっている。


 それはまさに前世で開発され世界中の軍隊で使用されていた傑作重機関銃。

 ブローニングM2重機関銃であった。


「……ってこれ! カリバーじゃなくて、『キャリバー』じゃねぇか!!」


 因みに同重機関銃は、使用弾薬の口径から別名キャリバー50とも呼ばれている。


「何だよ、聖剣があるかと思えば全然違うじゃねぇか。……しかも世界観ぶち壊しの品物だし」


 なお、俺がこのM2重機関銃について詳しいのは、俺が前世で軍事についての知識を少々多く得ていたからに他ならない。

 この世界に来てからは生かすこともないかとは思っていたが、まさかこんな形で生かされる事になるとは。


「でもどうするかな、これ」


 世界観をぶち壊しなのはこの際置いておいて、聖剣ではなかったにしろ、改めて考えるとM2重機関銃が使用できればまさに鬼に金棒だ。

 飛び道具を持たないモンスター相手なら遠距離から一方的に狩り放題だ。


 見たところ、特に壊れて使い物にならない事はなさそうだが。


「でもこれ、40kg近くあるんだよな……」


 最大の問題は、M2重機関銃の重量にあった。

 『重』と付いているだけあり、その重量は38kgにもなる。


 なので、前世で同銃を使用していた軍隊ではもっぱら車輌やヘリコプターに搭載して使用していたし。

 人の手で運用も出来るが、その場合は三名で運用していた。


 よって、俺一人では、到底使えない。


「これじゃ宝の持ち腐れじゃないか……」


 一人で無理なら仲間と共にと考えられなくもないが、生憎俺は今ソロで活動中。

 そもそも、この世界の住人に前世の文明の利器である銃火器を見せたらどうなるのか、どんな化学反応が起こるのか俺には想像もつかないし、恐ろしくもある。


 もういっその事、手をつけずにここを離れようかな。


「はぁ~い、そこの可愛いボウヤ」


 と思った瞬間。突然、台座から煙があがったかと思えば、その中から妖精が姿を現した。


「……え?」


 だが、その妖精は、等身こそ小柄で同じではあるものの、俺がリイズの街で時折見かける可愛らしい容姿のものではなく。

 性別は何処からどう見ても男、輝かしいスキンヘッドに、見事なまで焼けた褐色の肌と上から下まで見事なまでの筋肉モリモリ鋼の肉体のマッチョマン。


 しかもボディービルダーよろしく、パンツ一丁という格好だ。


「だ、だれ?」


「うふ。わたしはこのキャリバー50の妖精よ」


 加えて、その野太い声の口調から察するに、この妖精さんはどうやら女性の心をお持ちのようだ。


「名前は『キャル』って言うの、よろしくね、ボウヤ」


「そ、そうなんですか。あ、出会ったばかりですいません。ちょっと急用思い出したんで帰らせていただきます」


 俺の本能が危ないと叫んでいる。

 刹那、本能の赴くままにその場から立ち去ろうとするも、不意に腕を掴まれる。


「あらちょっと、まだ話したりないんだから、もうちょっと位いいでしょ?」


 あの小柄な体の何処に、いや、もはや見た目どおりと言うべきか。

 何とか振り解こうと力を入れるも、まるでびくともせず。


「ボウヤ、もう逃がさないわよー」


 結局、俺は逃げられる事も出来ず。マッチョマン妖精ことキャルのお話し相手を務める事になった。




「はぁ~、溜まってたもの喋ったらスッキリしたわ! ありがとね、ボウヤ」


「は、はぁ……」


 話を聞いてただけなのに、一日中モンスターを狩っていたかの如く疲れた。

 でも、これでようやく開放される。


「それじゃ、話を聞いてもらったお礼に、ボウヤの力になってあげるわ!」


「……え?」


 と思った刹那、キャルは何やら意味深なことを言い出した。


「そ、それってどういう事ですか?」


「ん、もう、察しが悪いわね。わたしの分身を使わせてあげるって言ってるの」


「ぶ、分身?」


「そう、これよ」


 と言ってキャルが指差したのは、キャルの話でとうに頭の隅に追いやられていた台座のM2重機関銃であった。


「え、でもこれ重量が……」


「安心なさい。これはわたしの分身だから、ボウヤ一人でも持ち運び可能よ。試しに持ってみなさい」


「は、はい」


 キャルに言われるがままに、俺は台座のM2重機関銃に手をかける。

 手から伝わるその重量感、だが、その重量は、とても38kgもあるとは思えなかった。


「す、凄い! 一人でも持てる」


「当然よ、なんたってわたしの分身ですもの」


 とは言え、やはりある程度の重量はあるらしく。長時間持っているのは流石にきつい。


「さぁ、思う存分わたしの分身、使って頂戴ね」


「その、ありがたいんですけど、このままじゃちょっと使いずらいと言うか……」


「あら、そう? ならこれを付けましょう」


 そう言って一体何処から取り出したのか、キャルの腕には身の丈以上の大きさのあるスリング、負い紐が。


「これをここと、ここに通して……。序に持ちやすいようにキャリングハンドルも付け替えて。はい、出来た」


 それを分身たるM2重機関銃に装着すれば、携帯しやすいM2重機関銃の出来上がり。

 と言っても、多分ライフルのようにぶっ放しながら走り回るなんて事は出来ないだろう。


「うん、重い」


 スリング越しに伝わるその重量、走り回るのは困難だ。

 しかし、重量の軽減やキャリングハンドルの交換等によって、オリジナルではなしえない個人運用が可能になったのには感動を覚えずにはいられない。


 まさに気分はハリウッドスターだ。


「似合ってるわよ、ボウヤ」


「どうも」


「さ、それじゃ、外に出て、悪いことしてるモンスター達を懲らしめにいきましょう」


「あ、所でこれって弾薬とかどうなってるんです?」


「ふふ、安心しなさい。わたしがちゃんと110発ずつベルトリンクをボウヤに手渡すわ」


 後で気がついたが、この頃には既に、M2重機関銃を運用できる喜びが勝り外の世界へ持ち出すことへのリスクなんてこれっぽっちも考えてはいなかった。

 ま、気付いた頃には後の祭りだったが、ゴブリン達を文字通り蜂の巣にしてその快感を覚えてしまったので、多分もう不使用には出来ないだろう。


 もうこうなれば、キャルと二人三脚、突っ走る所まで突っ走ってやろう。




 後日、奇妙な形のクロスボウを使用する新進気鋭のハンターの噂がグレートブリテリ島を駆け巡った。

 そのハンターの名は、ヤマト。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった。短編にしておくなんて勿体ない! つ⑤ つ⑤
[良い点] テレビ番組のような雰囲気から一転、異世界へ! という冒頭の流れで一気に引き込まれました。 世界観とマッチしない武器がたくさん登場するところも個性的で面白かったです。
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