とある暗殺劇・銃火器という幻想
「今回の暗殺は、香港の研究所、その系列に連なる、とあるマフィア、クラークという組織の、頭だ」
眼前の見た目からしてツンデレなのが明らかな、猫目の意地らしい、可愛げのある、黒髪の少女に言う。
「下らねえ任務だな、この程度の雑事を、この俺様に押し付けるな、てめえをまずはぶっ殺すぞ」
「イリカ、啖呵は、この俺に向けるのはやめるべきだ」
「なぜだ?」
「お前の方が、弱いからだ」
抜き、構え、狙い、そして撃つを省略した、俺の次の意志の瞬間、
それは既に今と同一、コイツは死ぬようになっている現実を提示する。
「クソが、レベル差が無ければ、俺様の方が、基本能力は上だろうがよ、くたばれ!」
中指を上げて、舌を出して、任務に行くのだろう、逃げるように駆けて行った少女だった。
資料を見れば、件の暗殺、イデアという実行部隊の長、力を持つ奴が、組織の長という、なかなかにやりずらい構成のようだ。
「ネットゲーム内バイオハザードを意図的に引き起こすテロ、そして強請りの手口か」
噂では良く聞く事象だった、裏の世界で闇の事情に少しでも通じるなら、ばだ。
「だが、手を出してはいけない場所に、手を出したツケか」
世界を支配する七つの絶対的な思想、そして統治機関、国でなく所属する人間の枠組みで構成されるそれら、
その中でも特別で別格、全ての中心点として機能し、世界を統合する絶対的な思想、”矛盾”、
その首都市、エクストラシャペルンという場所、あの絶景を少しでも汚そうとすれば、報復が必ず来る、
「そう、例え意図しない、そう例えば、己が開発した薬品の、その被害が、僅かでも出て、
その上で、一定値で断罪・排除の必要ありと、勝手気ままな絶対的な尺度で判断されれば、こうなる」
矛盾審問官という、それらの観測者という属性を持つ、絶対的な世界監視者が存在する。
「まあ、ほぼほぼで見せしめだろうがよ。
矛盾に害する存在に、不用意に害悪の根源を流した、その責任問題を、世界の共通の観念として、確立し、これから先も維持し続ける為の、な」
香港の一大ネットワークゲーム空間、ソードワールド。
「最近は頻度の高いバイオハザードで、めっきり人口のほとんどが戦闘狂の、クソ野郎に成って、拠点防衛ゲー化したらしいが」
それでも転移した安全圏、都市内、経済などの交わる個所は、全然モンスターの気配もありはしない、一応の秩序は維持されているようだ。
「だが、どんな環境でも、よそ者に対する対応は、変わらんかよ」
ゴロツキと形容するのも憚られる、ただただ血に飢えているだけのゴミ屑共、総数七十人。
先頭のリーダーっぽい奴が、口を開く。
「あらあら、貴方が暗殺者の匂いを撒き散らして、此処にくるからでしょう?」
尋常ではない気配、金髪碧眼の超美少女から発せられるのが滑稽なほど、殺しに特化しまくったキャラクター性だ。
「とりま、名を名乗れよ、俺様は殺しには、ある一定の美学が必要だと信じる性質でね、冥土の土産に俺様が記憶してやるよ」
「イデアですわ、某研究所の所長も兼任の、貴方と同じ、同類、殺し屋ですわよ」
そうかい、と呟き、能力発動。
フリズスキャルヴ系統の、この場合は、無数に凍結する手法として顕現する、
デッドコピーでしか無い技、フリーズアサルト。
「銃撃における、全ての手順、抜き・狙い・構え・撃つ、全てを省略して結果だけを顕現させる、チート業ですわね」
「てめえの、相手の呼吸を読むだけで、殺しの手順の全てを省略するのも、なっ!」
コイツ以外のモブは、今の攻防だけで、全員が脳漿を散らして絶命。
コイツの概念攻撃だけは、同様の殺意の刃で相殺した、こっからは能力勝負では、まあなくなるわけだが。
「引き分けだな、正味殺しきれんわ」
「そのようですね」
本部の大本、端的に言って最上層部の脳味噌にアクセスし、計算した結果だ、間違いはミリ単位でしかありえん。
「てめえの能力、都市の空気読むってのは、どれだけの研鑽の歴史の結果なんだ?」
「あら、敵と世間話する舌を御持ちで、よく暗殺者なんていう、淡白でどこまでもクールでなければ務まらないお仕事をするのね」
「うるせえ、
俺様は、
特異点スキル持ちの、能力者組合ガン&ソード、武器依存した形のスキルの能力の開発に開拓・共有研究とかする奴だ」
「なるほど、そういう事ですか。
ワタクシの暗殺剣、このレイピアも、その組合からの指南によって、こういう形になりましたわ。
なるほどなるほど」
「で? どうなんだ? 都市の空気読むなんて、前例としてなきゃ、誰も極めんだろうがよ、
それによって、都市内における殺しにおける前段階の全てを省略して、得られる効能の全ても知りてえ所だな」
「敵に、なぜそれを教えると?」
「俺様の上はな、相手の発現の真偽を見極められる、
そして、てめえのような化け物の脅威度を正確に知れば、殺しの優先順位を下げるタイプだ、
俺様も、規格外の殺しきれん相手をしている暇はねえってわけだ」
「ふーうむ、脅威度が不明ならば、脅威度が分かるまで攻勢を仕掛けてくると?」
「ああそうだ、俺様も暇じゃねえからな、
てめえのようなタイプは、経験的に殺しきれねえって、直接刃を交えた結果直観できる訳だ。
上に命令されて、無理筋な殺しの全計画を練りに練って事に及ぶまでを、こうやって省略したい訳だぜ」
「手の内を教えるかどうか、今ここでは決められませんわね」
「ああそうかい、ならば死ね」
レベル差を逆に利用する、敵の刃が僅かでも掠れば即死、この極限の状況は俺様の能力感度を上げるのだ。
「危ない危ない、今のは正直に言えば、死に掛けるレベルでしたわよ?」
死体が起きて妨害されなきゃ、刺さった刃だった、やはり未解明の未知の多い生物兵器は厄介だと思い知らされる。
「だろうがよ、ミリ単位の誤差で、ヤれる計算だったんだな」
上は、これ以上は止めろと言う、俺様的にも、必殺が防がれて精神的な感度が落ちている、
今の刃が止められた以上は、これ以上は感度の暫時低下で、通常戦闘でもジリ貧なのだ。
「逆に、貴方を殺してしまっても、よろしくて?」
「ざけんな、俺様を殺せば、どれだけの報復が有るか、分かってんだろうが、ハッタリや吹かしも大概にしろやコラ」
「報復合戦で、無駄に殺し合うのも、ワタクシの好みなのよ?」
ガチの目だった、
やはり厄介が服着て歩いている様な奴、どこかで暴走して自滅するのを待つのが定石な、暗殺稼業としてはクズのような標的と確定される。
放置で結構と上は言う、だが俺様の好み的には、やはり殺し合いたい相手だった。
「まあよろしくてよ、同じ組合の好み、ワタクシ好みの貴方という逸材、これからの成長に期待して、殺さないでおいてあげますわよ」
「こっちの台詞だ、てめえのような賭けの甲斐のある能力開発するタイプは、組合の意向的にも生かすべきと認定される奴だろうしな」
背中を向けて、その場で何事も無く別れた。
生き残って、これから先も成長するなら、定期で存分に殺し合いたい相手だったと、雑な感想をその辺に唾棄した。