とある所に居た、幻想的なデウスエクスマキナ
ある日だ、俺は即死ウイルスをばら撒く、高度なネット内、知的生命体を追っていた。
ネットという広大な世界を、己の電脳として生存する以上は、破壊は困難を極める。
だが俺のような、神クラスの格を持っていれば、そのような不可能ごとも必然的に可能になるのだ。
「このような辺鄙にも辺鄙なポイントに、レベル80以下で存在しているとは、一体奴は何を考えている」
限定的に創生された、仮初の世界だった。
四方が十キロメートル限定で、見た目は寂れた繁華街のような場所、人の気配はほぼ無し、俺の知覚は広く正確だ。
「とりあえず、まあいいか、両断するモノ」
左手に、黄金に光り輝ける鎌を取り出す。
この概念ごと切り裂くモノは、どんな事象体でも一切関係なく消去する、至高に位置する俺の万能具だ。
「出てこいよ、此処は既に、俺の神聖結界で隔離されている」
神聖属性、説明不要な奇跡の力、万能に万能を掛け合わせたような、反則の理。
「あら、ごきげんよう」
電子柱の陰から出てくるは、この世のモノとは思えないほどに、整い過ぎて歪に美し過ぎる金髪碧眼の女。
「黄金の魔女、シャルロット、お前を世界の穢れと認定し、浄化する」
「いいわ、できるのなら」
相手は剣を取り出した、黄金の。
「俺には勝てんぞ、その程度の力で、どうにかなると思っているのなら笑わせる、大人しく往生しろ」
ツカツカ歩み、間合いを真に詰める一瞬、急速に展開し、相手の首を切断するコースを駆ける。
「勝てるわよ、今しがた、レベルが上がったのだから」
レベル、81、当然ながら押し負ける。
「なぜだっ!」
バックステップで距離を取り、相手の様子を伺う、クツクツと笑っているようだ。
「面白いわね、自分の力が絶対だと、過信しているから、不確定要素くらいで、それほどまでに動揺を激しくできるのだわ」
「神聖の結界は絶対だ。
お前は課金でレベルを上げられない。
レベルアップスキルも無い。
そして、このステージにはレベルアップを促す、何もかもが無い、そうだろう?」
無意味だと思いながら、気まぐれな魔女の気まぐれに期待して、問うてみる。
「黄金の種族って、知っている?」
もちろん知っている、神聖すら超越する、世界の裏側から、いや外側から、世界を創生した、真の支配者たちだ。
「それが、ワタシだとしたら?」
「そんな、まさか、、、馬鹿な」
知らず、後ろ足が出ていた。
「黄金の属性は、絶対化、合理化、まあ色々あるし表現できるけど、
簡潔に言ってしまえば、上位構造、それも最上位の概念からの、事象に対する強制介入、
さらに言えば、対する事象に対する上位の構造が無ければ、一瞬で創造する事もできる、つまりは無敵化ね」
「下らん戯言を、俺は見抜いたぞ」
ライプニッツの神聖、その付加属性の副産物、遠方観測というスキルの威力行使で、視えた。
「お前の黄金の属性は、エルドラゴ・エクスエルドラゴンの黄金という、言うなら真なるモノではない、
真なるオリハルコンが絶対で、模造が絶対値でないように、お前の持つ絶対性は、決して絶対性では無いと云う事だ、
とんだ虚言だったなあぁ、驚かせやがって」
対面の少女は、ばれたかっと呟き、舌を出して、正眼に武器を構えた。
「できれば、戦いたくは無いけれど、負けるかもしれないのだからね、それでも、貴方はやるのでしょう?」
「ああ、即死ウイルスは、俺の妹を殺した」
「なるほど、復讐だったか」
「お前の目的は何だ?」
「ないわ、殺したい、ただそれだけ」
少女は声に出さずに、呪詛を紡ぐ。
次の瞬間にお互いは駆けた、武器が交錯して、何度も何度も、鍔迫り合いの行われない交錯が繰り返される。
流麗な軌道が、何度も何度も。
「どうやら、今のお互いでは、お互いを殺しきれないようだ」
「そのようね」
幾度も切り結び、結果を淡々と語る。
「殺したいほど憎いが、復讐対象のデータが欲しい、サンプリングさせろ」
「ええ、いいわよ、別に」
「なぜ、無差別に殺す?」
「多く殺せるからよ」
「なぜ殺す?」
「殺せば、観測者という自覚無き罪と不幸の生産者、愚かで鈍な人間が死ぬもの」
「観測者?」
「ええ」
「私を認識して、ワタシを記憶するモノが、居なくなるから」
「意味が分からない」
「当然よ、思考回路から、知識体系が、根源的に違うモノ、貴方とは永久に平行線で交わらない、確信があるわ」
この世界で、限りなく幻想的な、神の格を持つモノ同士、それが真理なのだろうと、ただそう思ったのだった。