オークの襲撃
あるところに、とても小さな村があった。
小さいながらも肥沃な大地に農作物がよく育ち、放牧も盛んであった。
そこに住む人々は毎日を楽しく平和に過ごしていた。
そう。誰も村にオークの魔の手が迫っているなど、知る由もなかった。
***
ある晴れた日のことだった。
突如村の警鐘が響き渡った。
誰かが叫ぶ。
「オークだ!オークの群れがこの村に向かっている!」
村人達に動揺が走る。
オークだと!人間よりはるかに大きく凶暴で、血も涙もなく、人に対して暴虐の限りを尽くすモンスターがこの村に……!?
噂には聞いたことがあった。しかし平和に慣れ過ぎた村人達は自分達がその餌食になろうなど、一度も考えたことがなかった。
男は騒ぎ、女は怯え、子供は震えていた。
守備兵はおろか戦える者さえまともに居ない村は一瞬で制圧された。
オークは先ず食料庫を物色し始めた。
「壊せ!そして中の食料を全て奪い尽くすのだ!」
「や、やめてください!せっかく育てた作物が」
オークは体にまとわりつく老人を振り払う。
「貴様ら雑魚の人間どもは一生俺たちに食料を提供するための奴隷なんだよグへへ!」
集団から遅れて入ってきたオークの首領は、鋭い目で村を見渡す。
「火を」
首領はスッと手をあげる。
呼応するように何匹ものオーク達が手に持つタイマツに火をつけ始めた。
どのオークも邪悪な笑みを浮かべ、下卑た笑い声を上げている。
積み上げられた芋の山を目の前にして。
「焼き尽くせ!数千の焼き芋を作るのだ!」
オークの首領が手を振り下ろした瞬間、
ごうごうと燃えるタイマツが次々と芋の山に投げ入れられる。
「グヘヘへへへ!楽しみだなあ!ふっくら焼きあがるかなあ!甘くておいしいのかなあ!」
オーク達は燃え盛る芋を前によだれを垂らしながら叫んだ。
「首領!こんなところに人間のメスが隠れてましたぜ!」
1匹のオークが逃げ遅れた少女の首根っこを掴んで首領の前に持ってきた。
「い、いやあああ!誰か助けてえええええ!!!」
少女は必死に逃れようともがく。
「ほう。メスか」
目の前で見るオークのあまりの大きさと恐ろしさに動けなくなり、少女はガチガチと歯を鳴らし始めた。
「お前達でまわせ」
首領のオークは興味なさげに背を向けた。
少女は青ざめる。
ここで死ぬよりも辛い目に会い、絶望に打ちひしがれながら死ぬことになる、と直感的に分かったからだ。
何匹ものオークが少女を取り囲み始めた。
少女は泣き叫び、必死に命乞いをする。
しかし無情にも1匹のオークが少女の肩を掴み、回し始めた。
物理的に。
「オラオラ!どうだ駒みたいに回る気分はよぉ!グヘヘへへへ!」
「んほおおおお!目が回るのおおおおお!!」
平衡感覚を失った少女は今にも吐きそうだった。
「回し終わったら芋をたらふく食わせてやるからなあ!!」
「いやああ!おなら出ちゃうのおおおお!」
また村の別の場所では幼子を連れた母親が複数のオークに囲まれていた。
母親は震えながらも必死に赤子を抱き締める。
「この子だけは!この子だけは助けて下さい!」
しかしそんな情けがオーク達に通用するはずもない。
「ガキを取り上げちまえ!」
オークは母親から無理矢理に赤ん坊を引き剥がした。
半狂乱になって叫ぶ母親。
「グヘヘへへへ!俺がお前の代わりにお乳を提供してやるぜ!!!」
泣き叫んでいた赤ん坊はまるで母の手の中にいるかのように静かになり、ちうちうオークの乳を吸い始めた。
ちなみに今回の襲撃に加わったオークは全てがオスである。
オスである。
「グヘヘ!どうだ!母乳をオークに奪われた気分は!悔しいか!悔しいかあっ!あっ」
「いやああああ!やめて!赤ちゃんが幼くして変な性癖に目覚めちゃうから止めてえええええええ!」
こうしてオーク達は村を隅々(すみずみ)まで蹂躙していった。
今回の襲撃でオーク側は無傷。強いて言えば赤ん坊に乳を吸われた奴がどうやら変な性癖に目覚めてしまって数日間妙な空気が漂っていたくらいだった。
それに対して村の被った損害は大きく、
特に野菜をほとんど食べ尽くされてしまったことでその損害額は膨れ上がっていった。
オークが去ったあと村人達に残された道。それはみんなで芋煮会を開くことだけだった。
おわり
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