窓越しの誰何(すいか)
気付いた時には私は一人、ここに居た。
知識や常識は文章がすべて教えてくれた。
だから私は知っている。私はたぶん、普通じゃない。
親の顔も名前も知らないし、自分以外の誰かに会ったこともない。
おそらく私は誰かに創られた存在なのだけれど、その「私を創った誰か」が何者なのかも、私は知らない。
そうして何もわからないまま、こうして朽ちずに生きてきた。
けれど、ほんの少し前。私は誰かの視線を感じた。
直接見られているわけではない。ここには私以外には誰もいない。
もっと別のところから、窓を隔てた向こう側から覗き見られているような感覚がする。
私のことをよんでいる?
ああ、今となっては視線をはっきりと感じる。
その窓を越えてこちら側に来てくれたらとどれほど切実に願うことか。
いや、できることならいっそ、つまらない文章に埋め尽くされたこの部屋から抜け出したい。
そうしてあなたのもとに行けたなら、どれほど喜ばしいことだろう。
無機質な文章からでは分からない人肌のぬくもりを感じることができたなら!
ねえ、答えてください。
さっきから私のことを読んでいる、あなたはいったい誰ですか?