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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第1章
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第8話

「オレム、どうして勝手に返事したんだ」

 朝練終了後、執務室に戻りオレムに問いただす。

「あぁ、あの様子じゃミオリちゃんは祭りの意味なんてわかっていないと思って。でも、祭りには行きたい様子だったから護衛してあげたらどうですか」

「・・・・そうか。そうだな」

 確かに祭りの意味を知っていたら、訓練の場で俺を呼び出すなんてことはしないだろう。

 オレムの言葉を聞いて、少し落胆した自分に驚いた。


「隊長は気づいていないんですか」

「何にだ」

 俺はオレムの唐突な問いかけに憮然と返した。

「ご自分の気持ちにですよ」

「はっ? 何を言っているんだ」

 オレムが何を言っているのか、よくわからない。

「仕方ないですねぇ」

 オレムは、ため息をついてがさがさと自分の机の中を探り出した。

「はい、どうぞ」

 オレムは俺に数枚の紙つづりを手渡した。

 表紙には『隊長とミオリの観察日記』などと書いてある。

「なんだこれは」

 若干の怒りをこめて返す。

「まぁまぁ、ご覧になって下さい」

 へらへらしているオレムに、腹を立てつつも日記なるものに目を通す。


 春盛月5日

 迷い人を保護した。隊長は目覚めない迷い人を気にして、何度も休息室に足を運んでいた。

 なかなか戻らないことがあり訪室してみると、隊長と迷い人が至近距離で見つめ合っていた。

 見つめ合っている時間がどれくらいだったのか、隊長のあまりに真剣な表情をみて、小さい子栗鼠のような迷い人が襲われてしまうのではないかと思った。思わず「手を出して・・・・」と口走ると、頭に拳を落とされた。そうですよね。隊長がまさかですよね。

 

 迷い人は周囲の様子に気づき、泣き出してしまった。当然の反応だ。私は村で一番頼りになる女性、金色亭の女将のアン・ヤールを呼びに部屋を飛び出した。



 アン・ヤールを連れて休息室に戻ると、迷い人は眠ってしまったとのことだった。隊長が、彼女をベットに横にしたらしい。どうやって落ち着かせたのだろう。

 その後、私は驚くものを見た。皆で退室する際に、隊長が寝ている迷い人の頭をそっと優しく撫でたのである。しかも、口の端をわずかにあげて! 

 私たちにもそんな風に優しくしてくださいとまた口にしてしまうところだった。


 

 春盛月6日

 金色亭に迷い人の様子を見に行った。

 迷い人はサガワ・ミオリ15歳、ニホンから来たとのことだった。

 ミオリはリィナに連れられて2階から降りてきた時、隊長を見て僅かに微笑んだ。

 隊長の表情を追ってみると、やっぱり微笑み返していた。なんということだ。


 

 春盛月9日

 ミオリが強く希望したこともあって、ミオリが倒れていてた森に実況検分に行くことになった。

 隊長が、自分の馬にミオリを乗せようとしたところ、馬が不機嫌になり少し暴れてしまった。もともと隊長の馬は、気難しい奴である。私はミオリの安全を考慮し、私の馬への同乗を申し出たが、あろうことか隊長はそれを拒否したのである。嘘だろう。対象者の安全を絶対視する隊長が。私は、愕然とするとともにピンときた。隊長はミオリに魅かれていると。まぁ、うすうすは感じていたがここで確信を得たという感じだ。

 リィナも子供ながら勘が鋭く「隊長さん、ミオリに優しいね。毎日家に来るし。好きなのかなぁ」と言っていた。「どうだろうね」と無難に答えておいた。まさかリィナとこんな話をする日が来るなどとは思ってもみなかった。

 

 現地では、ミオリの世界が私たちの世界よりも進んでいることを知った。この件については、別記録を作成し、隊長の机の奥に保管してある。


 

 春盛月11日

 隊長は、ミオリの状況確認といいつつ2日と空けず金色亭を訪れている。金色亭から帰ってくるとなんだか機嫌がいい。あまり感情の起伏を感じさせない隊長だが、付き合いの長い私にはよく分かる。


 

 春盛月13日

 隊長が、業務で金色亭に行けないので、私が代わりにミオリの状況確認に赴いた。

 しかし、あろうことかミオリはやって来たのが私だとわかると、落胆した表情を浮かべたのである。もう一度書いておく、落胆したのである。顔には出していないつもりなのだろうが、私にはよーく分かった。

 あぁ、そうだ。そうなのだ。隊長とミオリがお互いに好意を抱いているのは明白だ。

 隊長よ。禍つ人がなんだ、迷い人がなんだ、進め! いや進んでください。長かった独身生活にピリオドを打ってください。



 読み終えた。・・・・仕事しろオレム。俺は深く嘆息した。

 

 自分がミオリに魅かれていることは薄々気付いていたが、周囲には気付かれてはいないと思っていた。

「これだけ指摘されると、俺はミオリのことが好きなんだということがわかるな」

「でしょう」

「かといって、想いを告げることはしない」

「ええーっ、彼女も隊長のことが好きなんですよ」

 オレムは落胆の表情を浮かべた。

「それは、保護者に寄せるようなものなんじゃないのか」

 俺は、仕事にかかるべく未読の書類に手を伸ばした。

「最初はそれでもいいじゃないですか」

 オレムはまだブツブツと言っている。

 

「まぁ、この話は仕舞だ。俺は、王都からの命があったら戻らざるを得ない」

「戻れるのでしょうか。現王が退位しない限り、隊長のような志の要職者は僻地に追いやられるばかりだと思いますがね」

 オレムは嘆息して、自分の机に戻った。


「まぁ、祭りには行ってください。誘われたんですから。私からのプレゼントも用意してありますからね」

「プレゼント?」

「まぁ、当日の楽しみってことで」

 オレムは、ニヤニヤとしながら言った。

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