第7話
昨日の夜はいろいろ考えてなかなか眠れなかった。
ぼーっとする頭で、村の朝市に野菜を買いに来ている。少し眠い。
リィナと他愛ない話をしながら歩いていると、村の人たちが広場の中央に盆踊りの時に見る櫓みたいのを建てているのに気づいた。
「なに、あれ」
「ああ、週末は収穫祭だからね」
「お祭りなの!」
「あの櫓から今年16歳になった女の子が、秋の恵みの作物を投げるんだよ。広場にはいろんな屋台も出て、ちょっと観光客が多くなるかな」
「へーっ、楽しみだね」
「でも、この祭りはね。女性が男性を誘って来ないとダメっていう決まりがあるんだ」
リィナはいたずらっ子みたいに笑った。
「えぇ! なにそれ」
「あたしは、父さん、母さんと来るけど」
「じゃ、私はどうすれ 」
「ミオリちゃん。祭りは誰と行くの」
言いかけた時、櫓を組んでいた男の人、雑貨屋さんのお兄さんが声をかけてきた。
「だれも・・・」
「隊長さんだよ」
私が誰もいないって言おうとしたらリィナが即答しちゃう。約束なんてしてないのに。
「隊長さんか。勝てないなぁ」
お兄さんは肩を落として苦笑しながら、櫓の組み立てに戻っていった。
「勝てない? なんのこと? それより、リィナ、お祭りなら隊長さんは忙しいよ。見回りとかするんじゃないの」
「ミオリの頼みならきっと聞いてくれるよ。そうだ、今から頼んできたら。買い物はもういいからさ」
「でも・・・・」
「いいから、頼んできなよ」
なぜかリィナが張り切ってる。
お祭りには行きたいから、隊長さんに頼んでみようかな。
「ありがとう。急いで行ってくるね」
私は砦に向かって走り出した。
砦に着くと、隊員さんたちは朝の訓練中だった。
木の剣で、剣の練習をしている。ひときわ目をひくのが隊長さん。素人の私がみても、隊長さんの動きには無駄がなくてスマート。そして、とても強い。隊員さんたちは息が上がっているのに、隊長さんはなんともない。私は隊長さんから目が離せなかった。
「ミオリちゃーん、早速しごかれてるの見に来たの」
ヴァンさんが、私に気づいて地面に転がったまま声をかけてくれた。今日も顔が赤いけど、訓練のせいだよね。
「違いまーす。隊長さんにちょっと用があって」
私が声を上げると、隊長さんが気付いて向かってきてくれた。
あっ、髪が汗に濡れてちょっと素敵です。
「おはよう。早いな。用とは?」
「あの、収穫祭なんですけど、私と一緒に行ってくれませんか」
思い切ってお祭りに誘う。胸のドキドキが大きく、早くなる。
「えっ」
そう言ったきり、隊長さんは動かなくなっちゃった。驚いた眼で私を見て固まってる? 顔がちょっと赤いけど、昨日のお酒が残ってるのかな?
「ミオリちゃん、大丈夫だよ。隊長は祭りの1日目は非番だから。連れてってあげて」
近くにいたオレムさんが、苦笑いしながら隊長さんの代わりに返事をしてくれた。
「お、おい、オレム」
隊長さんはオレムさんが返事をしたことに少し慌ててるみたい。
「ほーっ、断るんですか。こんな可愛い女の子のお誘いを」
「い、いや。それは」
「よかったね。ミオリちゃん」
「ありがとうございます! じゃあ、お祭りの日に!」
やったぁ! お祭りに行けるのは嬉しいけど、隊長さんと行けるのはもっとうれしい。私が、金色亭に向かって走り出すと、オレムさんが追ってきた。
「ミオリちゃん、お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「隊長のこと名前で呼んでやって」
「名前ですか?」
「そう、名前」
オレムさんも、なんだかリィナと一緒でいたずらっぽく笑ってる。
「たしか、トラウトさんでしたよね」
「違う、違う、ちがーう。それは名字! 名前はキール!」
「キールさん」
「そうそう、いつまでも隊長さんだとかわいそうだからね」
「かわいそう?」
「いやっ、こっちの話」
オレムさんは、苦笑いしている。なんだか今日は、わかんないことばっかり。