第6話
今日は、隊長さんの誕生日だって。金色亭には砦の隊員さんが大勢訪れている。
おじさん、おばさん、リィナは忙しく動いている。勿論、私も給仕のためにテーブルと厨房を行ったり来たりしている。みんなよく食べたり、呑んだりするから大変。
ここの料理は地球のものとそう変わらないみたい。おじさんの料理は味付けもいいし、美味しいから大好き。
「ミオリちゃん、こっちに大麦酒3杯」
「はーい」
早速、追加注文です。みんなもう呑んじゃってるけど、隊長さんのこと待ってなくていいのかな。
私が、トレイに大麦酒の大きなジョッキを載せていると
「こんなに持てないだろう。分けて運んだほうがいい」
「隊長さん!」
隊長さんは、ポンポンと私の頭を軽く叩いて、大麦酒を全部持って行ってくれた。
「持ってきてやったぞ。ありがたく呑め」
「隊長。ミオリちゃんに優しすぎですよ」
「ミオリの小さな体で大麦酒のジョッキ3つは大変だろう」
「この間、持ってきてくれましたけどね」
隊員さんの言葉を聞いて隊長さんがこっちを見た。
「えへへ。結構力持ちなんですよ」
両腕を挙げて苦笑いすると、隊長さんはびっくりしたみたい。隊員さんたちは一斉に笑った。
金色亭には砦の常連さんが多い。結構、かっこいい人が多くて、村の女の子たちはそれぞれ、お気に入りの隊員さんがいるって聞いた。
隊長さんのファンの子もいるかリィナに聞いてみたら「えっ、隊長さんはおじさんでしょ。それに、眼が少し怖い感じがするから対象外だよ」って言われた。その言葉を聞いて、ムッとした。だって、隊長さんは優しくて少しも怖くなんかないもの。確かに、少し視線が怖い感じがする時はあるけど、あの澄んだ空色の瞳には嘘がないから安心する。それにちっともおじさんだなんて感じしない。
「ミオリ、この料理、3番テーブルね」
おばさんが、厨房のカウンターに大皿を置いた。
ぼーっとしてる場合じゃないや。働かなきゃ。
「隊長さん、お誕生日おめでとうございます」
料理をテーブルにおいて、隊長さんに言葉を伝えた。
「ありがとう。もう祝ってもらうような歳でもないのだがな」
「祝ってくれる奥さんとかがいないから、俺たちが祝うんですよ。まったく、来年も俺たちに祝いをさせないでくださいよ」
常連3人組の一人ヴァンさんが、顔を赤くして言った。もう、酔ってるみたい。周囲の隊員さんたちも笑って、ヴァンさんに同意する。
「隊長さん、何歳になったんですか」思い切って聞いてみた。
「26」
「えーっ、やっぱりおじさん」
私に続いて料理を運んで来ていたリィナが、思わずといった感じで口にする。
「リィナちゃん。やめてやって。隊長かっこいいから、全然おじさんじゃないから。俺たち、訓練の時全然かなわないんだから」「そうそう、隊長の隊員しごき、見に来て、俺たち死んでるから」「リィナちゃん13歳だから、おじさんに見えちゃうかもしれないけど、隊長もまだまだ若いからね」
周囲から声が上がった。
「そっ、そうなんだ。よかったね。ミオリ」
「えっ、なんで」
「だって、あたしが隊長さんのことおじさんって言ったら、むっとしてたじゃない」
うわっ、ばれてたの。顔が赤くなる。
「えっ、ミオリちゃん、隊長のファンなの!」
「ダメダメ、ミオリちゃん。隊長はやっぱりおじさん。俺たちみたいなぴちぴちの若者に興味持って!」
ぴちぴちって・・・。
「隊長、わかってんでしょうね。ミオリちゃんは15歳だよ。犯罪だよ、犯罪」
隊長さんは苦笑している。そうだよね。私なんか子供だよね。
「リィナ、ミオリ。料理がたまってるよ」
厨房からおばさんの声がした。慌てて給仕に戻る。
仕事が一段落して、カウンター席でおばさんの淹れてくれたお茶を飲む。ここのお茶は緑茶のようなんだけど、お花の香りがしておいしい。あーっ、ホッとする。
リィナはもう就寝時間で部屋に戻っている。私はお皿洗いまで手伝うつもり。隊員さんたちは、まだわいわいと騒いでいた。
「疲れたか」
隊長さんが、私に気づいて隣に座った。
「大丈夫ですよ」
「ニホンでは、働くことなんてなんてなかったんだろう」
「そうだけど、このくらいでは疲れませんよ」
私は過保護な隊長さんに苦笑いした。
「そうだな。意外に力持ちだったし」
「あはは」
声を出して笑ってしまった。そんなに非力じゃないんだけど。
「隊長さんのしごきってすごいんですか」
「そんなことはない。今度、訓練を見に来るといい」
「わっ、本当。行ってみたい」
「でも、お誕生日祝ってもらって。隊長さんはみんなに好かれてるんですね」
「どうだかな。ミオリの誕生日はいつなんだ」
「ここのカレンダーがよくわからないんだけど。おばさんに聞いたら春待月の3日だろうって言ってた」
「そうか。盛大に祝わなくちゃな」
「えぇ! いいんですか。あっ、でも・・・私」
私が言い淀むと、隊長さんははっとした顔をする。
「すまん。早く還りたいと思っているのに。配慮がなかった」
「ううん。いいです。なんだか、もう殆んど帰れないような気もするんです。だからこの世界で頑張らなくちゃとも思ってるんですよ」
「・・・・ミオリは前向きだな」
「そうでもないです・・・・。隊長さんになら言えるけど、時々、日本の家族や友達を思い出して、寂しくて苦しくて仕方なくなるんです。でも、ヤールさんたちには言えなくて・・・・。みんな私によくしてくれるから」
「そうか。聞いてやることしかできないが、俺でよかったらいつでも言ってくれ」
隊長さんはそう言って頭をポンポンしてくれた。隊長さんに頭をポンポンされるとホッとして、自然に笑顔が浮かんでくる。
「隊長ーっ、だめだめミオリちゃん独り占めしちゃ」
「ヴァン、飲み過ぎだ」
隊長さんは、真っ赤になってフラフラしているヴァンさんの襟首を掴んで席に戻っていった。
隊長さんは、私のことどう思ってるんだろう。保護した迷い人だから気にしてくれてるんだよね。
ヴァンさんがからかってたけど、隊長さんはどうして独身なんだろう。実家は王都にあるって言ってた。王都に恋人とかいるのかな。この世界は早婚らしくて、女の子は16歳くらいからお嫁さんになるってリィナが言ってた。男の人は、隊長さんくらいの歳で2~3人の子供がいてもおかしくないって。ここでの任務はあとどのくらなんだろう。隊長さんがいなくなったら、私どうしよう。




