小話「出会い」
読んで頂きありがとうございます。
今回は、時間をだいぶ遡って隊長さんがミオリを発見した時のお話です。
春盛月5日。
今夜の日の森の警邏はサンクだったが、妻が産気づいたとのことで急遽俺が代行することとなった。
今夜はあいにく、各家庭で春の女王を迎える小さな祝いをする日だったため皆予定があり、特に決まった約束のなかった俺が代わることとなったのだ。
アルツハイ国との国境であるこの森には時折強盗が野営することがある。国境警備隊では不審者を摘発するために森の警邏を実施している。
春の名を頂く月にはなったが、夜の森はまだまだ寒かった。
だが、俺はこの空気が好きだ。シンと澄んだ空気を思い切り吸い込む。
シンとした森の中、馬の足音のみが響く。
愛馬のラインもこの夜の散歩を楽しんでいるようだ。
森の入り口から10分程度進むと、少し先の木々の間にぼんやりとした明かりが見てとれた。
強盗だろうか。光のみがぼんやりと灯っており、物音は聞こえない。
慎重に近づくと、少し開けた草むらに光に包まれた人間が倒れていた。
急いで馬から降りて近づく。
俺は目の前の光景に驚き、立ち尽くした。
淡い光が少女を包みこんでいるのである。少女は光の中で静かに眼を閉じている。
「死んでいるのか」
手袋を外し、手を鼻先に近づけると微かに息が触れた。生きている。良かった。
少女を起こそうと肩に触れると、彼女を包んでいた淡い光が、俺の腕を伝って天に昇り、すっと消えていった。
「これは、一体・・・・」
少女の肩を軽く揺するが、眼をひらく兆候はない。
ふと、少女の着用している衣服に目がいった。この国ではみかけない形状をしている。アルツハイ国との衣服とも違う。
一つの可能性に行き当たる。数百年に一度、この世界に迷い込む「迷い人」だろうか。
「う・・・・」
少女が身じろいだため、思考からひきもどされる。とにかくこの子をこのままにはしておけない。
ゆっくりと抱え起こし、マントで小さな身体を包んだ。ほんとに小さな子だ。手足も細く、軽々と抱き上げることができた。慎重に扱わないと壊れてしまいそうだ。
少女を抱え、ラインに跨る。少女の体温がマント越しに伝わってきて少しホッとする。
砦に着くとオレムが迎えに出てきた。オレムは俺が少女を抱えているのを見てひどく驚き、休息室を整えに走った。
「迷い人ですかね」
少女をベットに横たえるとオレムが聞いた。
「おそらくな。光に包まれて森の中で倒れていた」
「厄介ですね」
オレムは溜め息をついた。
「そう言うな。こんな子どもじゃないか」
「しかし、迷い人は禍つ人とされています。この子も子供にみえてどんな悪しき力を有しているか」
「まぁ、今は休息が必要だ。身体が冷え切っている。毛布を追加して温めよう」
「うっ・・・・」
少女が目覚めるのか声を上げた。
俺はあれから何度も休息室に足を運んで様子をみていた。
少女の顔を覗き込むと、小さな手が無意識に宙を彷徨い俺の頬に触れた。小さな温かい手だった。
小さな手は暫く俺の頬を撫でていた。なんだかとてもくすぐったい。笑い出しそうになった時、少女の眼がうっすらと開かれた。
漆黒の瞳! この世界にはないとされている瞳の色だ。
きれいだ。澄んだ夜空のような、星の煌めきを映すような黒い瞳。
その瞳に見つめられ、一瞬息ができなくなった。
次の瞬間、瞳は大きく見開らかれ、驚きと恐怖を映す。
あぁ、恐れないでくれ。
その時オレムが現れた。
少女はオレムを見て、更に周囲を見渡し泣き出してしまった。環境の違いに気づいて不安になったのだろう。
オレムは村で一番信頼できる女性であるアン・ヤールを呼びに走った。
あぁ、泣かないでほしい。漆黒の瞳からとめどなく流れる涙に切なさが募る。
大丈夫。守るから。君を守るよ。だから泣かないでほしい。
俺はそっと少女に近づき抱きしめた。少女は怖がる素振りもなく泣きじゃくっている。
そっと黒髪を撫でる。背中を軽くポンポンと叩く。
少女の嗚咽は次第に収まり、軽く寝息が聞こえ始めた。
少女を抱え、再びベットに横たえる。
寝顔に苦痛がみられなかったことに安心して、頬に伝っている涙をぬぐった。
もう一度、漆黒の瞳がみたい。君の笑った顔がみたい。
俺は、少女の傍らに跪いて黒髪を撫でた。
俺はあの時からミオリに捕らわれたのだろう。
ミオリは今、俺の隣で白いドレスを着て、皆から祝福を受けている。
彼女の笑顔は俺を癒してくれる。なんの色もついていなかった日々が、彼女によって彩のある充実した日々となっていく。
彼女に出会えてよかった。もう、彼女のいない日々は考えられない。
2話同時更新したいと思います。
次話は超小話で字数がかなり少ないです。
次の投稿をもって、この物語を完結と致します。




