小話「やけ酒」
明日はミオリとキールの結婚式だ。
私は国王となって忙しい日々を過ごしている。会議に謁見、書類の整理と仕事が尽きることはない。
仕事に追われていると、ふとミオリと過ごした離宮での日々を思い出す。
あのまま時が止まっていたらよかったのに。
ずっと穏やかに幸せに過ごすことができたろう。
だが、私には責任がある。
父が壊したものを作り直していかなくてはならない。
「でもねぇ、仕事ばかりもつらいよ。あぁ、癒されたいなぁ」
つい愚痴と共に溜め息が漏れた。
「何言ってんだ! お前も吞め!」
スレイが溜め息を遮って大声を出す。
彼は先程からこの執務室で酒瓶を傾けている。
まったく、ここをどこだと思っているのか、私に対する態度もぞんざいだ。
まぁ、仕方ない。彼は未だに傷心中だ。
スレイは現在、隣国に潜入し業務にあたっている。いろいろと口実をつけてここ数年ラインドア王国には戻っていなかったが、明日のミオリの結婚式にはぜひ出席するよう命じた。
彼女が、全く姿を現さなくなったスレイを心配していたからだ。それを伝えるとスレイはミオリのためならば仕方ないと帰国したのだ。
私はグラスを手にスレイの真向かいに座った。
「おっ、呑む気になったか」
「まぁね」
スレイは私のグラスに酒を注いだ。
「あれから3年、なかなかミオリみたいないい子に会えないんだよ」
「だろうね」
「俺はどうすればいいんだろうな」
スレイは溜め息をついた。本気になって探せばいないこともないんだろうに。
「あーあ、どうしてあんな奴がいいんだろ。だいぶ年上だし、なんか目つき悪いし、あんまり優しそうじゃないし。伯爵だからかなぁ」
スレイはソファーにゴロリと横になった。
「スレイ、それは聞き捨てならないな。ミオリはキールが貴族だから好きになったわけではないよ。そんな娘じゃないのは充分に分かっているだろう」
酔っ払い相手にむきになることもないんだが、ミオリをその辺の傲慢な令嬢と一緒にした言動は否定したかった。
「すまん。愚痴が過ぎた」
「それにキールは驚くくらいミオリを大切にしている。城内の噂を聞いただろう。彼女は幸せになれるよ。きっと」
「ははは。そうかな」
スレイは力なく笑った。
「運なんだよ」
「運?」
「そう。ミオリが現れた時にお前が傍にいたら、彼女と共に歩むのはお前だったろうね」
「そうか」
そう。ミオリとキールが出会ったのは運命だったんだろう。運命に選ばれたのは私たちじゃなかったんだよ、スレイ。
「でも、お前は大変だよな。俺は自由に恋愛できるけど。お前は国があるし、隣国とのバランスとか考えると周辺国の姫との政略結婚もありそうだしな」
「そうだね。君やキールが羨ましいよ」
「あーっ、呑もう、呑もう! やってられないよ」
スレイはピッチを上げて呑み始めた。まだ、ブツブツと文句を言っている。悪酔いしすぎだ。
あれから3年、ミオリはとてもきれいになった。
私の国づくりに協力するために頻繁に登城してくれている。未来の宰相夫人としての勉強も頑張っている。エイル商会の方も手伝って若い女の子に受ける商品をいろいろ開発しているらしい。
もう彼女を迷い人なんて言うものはいない。
私は深く溜め息をついた。
明日はちょっと・・・・つらいな。
彼女は妹、妹、妹・・・・。私は自分に暗示をかけ始めた。
明日は笑顔で祝福しよう。




