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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第4章
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小話「里帰り」

 あぁ、トリア村だ。

 何か月ぶりだろう。この空気。王都から9日かかった。長かった。

 馬車の窓を開けて、思い切り澄んだ空気を吸い込むとキールさんが笑った。

 めいっぱい鼻を膨らませたの見られたかな。


 馬車の中には私とキールさんとニナさん、リリカちゃんが乗っている。

 ニナさんは私の世話をする侍女として、リリカちゃんは国内を見て回りたいという希望があって今回のトリア村行きに同行してくれている。


 村の中央広場に馬車を止めて、足早に金色亭を目指す。


 あぁ、赤い屋根が見えた。金色亭だ! 数か月しか離れていなかったのにすごく懐かしい気がする。


 あっ、おばさん、おじさん、リィナ! 

 私はキールさんの手を引っ張って金色亭に向かって駆けだした。


「おばさん! ただいま!」

「あぁ、ミオリ! 無事だったんだね」

 おばさんの胸に飛び込むと、おばさんは少し驚いた後にぎゅっと抱きしめてくれた。

 あぁ、この匂い。ママを思い出す。


「隊長さん! ミオリを取り返せたんだね! ありがとう! また、この村でみんなと一緒に暮らせるね」

 リィナがキールさんに向かって笑顔を浮かべると、キールさんはちょっと困った顔した。


「それにしても大層な馬車でやって来たね」

 おばさんが広場の方に目を向けて言った。

 ちょうど、ニナさんとリリカちゃんが馬車を降りてこちらに向かって来るところだった。


 二人はおばさんたちの前に立つと深々とお辞儀をした。

「ミオリ様の侍女をしております。ニナ・バートンと申します。ヤール家の皆様にはミオリ様が大変お世話になったとのこと、トラウト宰相夫妻からもくれぐれもよろしくお伝えするよう給わっております」

「リリカ・エイルです。叔父様について見聞を広めているところです」


「宰相夫妻! ミオリ様!? エイルってエイル商会のこと!」

 おばさんとリィナが揃って大声をあげた。おじさんはぽかんと口を開けたまま。ニナさんとリリカちゃんはにっこり笑っている。



 村の人たちが集まってちょっとした騒ぎになった後、私たちは金色亭の中に入っておばさんの淹れてくれたお茶を飲んでいる。

「村の人たち、すごかったね」

 リィナが溜め息をついた。

「そりゃそうだろうね。隊長さんが宰相の御子息だったとはね・・・・」

 おばさんは脱力したように呟く。

「別に隠していたわけではないんですが」

 キールさんが申し訳なさそうに言った。

「わかっていますよ。わざわざ言う必要もないでしょうからね」



「で、ミオリは王都で大活躍だったんでしょう。気が触れていた皇子を正気にさせたり、国王を変わった剣で斃したって聞いたよ。変わった剣って何?」

 リィナが興味津々に聞いてくるけど、なんだかへんな風に伝わっているみたい。

「違うよ。国王を斃したのは東のカレンドア伯爵。彼も迷い人だったの。私に代わって禍つ人を名乗ってくれたの」

「えぇ、ラインドアには2人の迷い人がいるの?!」

 リィナが驚いて大声を出すのと同時に

「隊長とミオリが帰って来たって本当か」

 ヴァンさんや砦のみんなが金色亭に飛び込んできた。


「隊長! 寂しかったっす!」

 ヴァンさんが、キールさんに飛びついた。うわっ、キールさんが迷惑そうな顔してる。

「ミオリちゃーん! 寂しかったよ」

 ヴァンさんは次に私を抱きしめようとしたけど、キールさんが全力でヴァンさんを止めたのでしぶしぶ諦めたようだった。良かった・・・・。


 それからはもう、金色亭は大騒ぎだった。隊員さんたちはお酒を呑んで、私は久しぶりにおじさん、おばさんを手伝って料理を運んだ。

 私が給仕をすることにニナさんは渋い顔をしたけど、我儘を言って許してもらった。だって、ここで働いている時、こうしてみんなと笑い合う時間が大好きだったから。もう、これから先はこんな時間は持てないだろうから。

 重い大麦酒を運ぶ時はキールさんが手伝ってくれた。「無理するな」って言われたけど、楽しくてつい頑張っちゃう。


 気付くとキールさんとオレムさんがカウンターで吞んでいた。

「オレム、隊長に任命する書状を持ってきた。砦を頼む」

「はい。他国に攻められるような国にはならないよう舵取りをお願いしますよ」

 オレムさんの言葉にキールさんが頷いた。


「それにしても、まだ結婚できないとは残念ですね。ここにいる者は皆それを願っているのに」

「まぁな。いつも一緒にいられるから構わんのだが・・・・おまけがな」

「おまけ?」

「俺がミオリに近づき過ぎるとニナとリリカが割って入って来るんだよ」

 キールさんは深い溜め息をついた。


 そうなの。ニナさんとリリカちゃんは、私とキールさんが近づき過ぎないようにするためサリーさんが考えたストッパーなのです。

「まぁ、あと2年と少しだ。我慢しよう」

 キールさんは苦笑いして、コップのお酒を呑み干した。




 宴会が終了すると、キールさんは砦に泊まるって皆と引き上げて行った。明日、帰るまでに執務室の整理もしたいって言ってた。

 ニナさんとリリカちゃんは同室で休み、私はリィナと同じ部屋で休むことにした。でも、なかなか眠れなくてここから連れ去られてからの話や王都での生活の話をしていた。


「ミオリ・・・・。王都に戻っちゃうの」

「うん」

「仕方ないよね。未来の伯爵夫人だものね。色々修業があるよね」

「そうなの。私この国のことよくわかってないんだもの」

 私の言葉にリィナは頷いて、ミオリなら大丈夫だと思うって言ってくれた。


「隊長さんは、何やっているの」

「文官の試験受けて合格してから、宰相さんの元で政務官してる」

「すご・・・・」

 リィナが言葉を発しようとした時、ドアが開いておばさんが顔をのぞかせた。

「まだ、眠らないのかい」

「おばさん」

 おばさんは部屋に入って来ると私のベットの端に腰かけた。


「ミオリ、幸せにおなりね。まぁ、相手は隊長さんだから心配はしてないけどね」

 おばさんが、私の髪を撫でながら優しく話しかけてくれる。ツンと鼻の奥が痛くなる。

「あんたは私たちの家族だからね」

 おばさんの言葉に涙が流れる。家族って言ってくれる人々の存在が嬉しくて、ありがたくて。

 また、この世界で大事な人や場所が増えていく。


「そうそう、隊長さんと喧嘩して家出するならここに戻って来なね」

「リィナ、めったなこと言うんじゃないよ」

 リィナはおばさんに睨まれると首をすくめて苦笑いした。

 そのやり取りが、いつも通りで可笑しくて、嬉しくて更に涙が流れてきた。


「時々、里帰りさせて下さい。私の故郷はここだから」


 私はおばさんとリィナに抱き着いた。

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