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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第4章
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第9話

読んで頂きありがとうございます。

1週お休みしてしまい申し訳ありませんでした。

「ここでは、なんだな・・・・」

 キールさんはそう呟いて私を抱き上げると、扉に向かって歩き始めた。

「キッ、キールさん、歩けます。私歩けます」

 私は恥ずかしくて声を上げた。

「どこに血が飛び散ったかわからないような場所を歩かせるわけにはいかない」

 会場の中は未だに負傷した人達が転がっている。そおっと、あたりを見回すと血だまりが目に飛び込んで来た。怖くてすぐに目を瞑る。うん、ここはキールさんにお任せしよう。



「どこに行くんですか?」

 私はキールさんの胸元にしがみついたまま尋ねる。

 うぅ、恥ずかしい。まだ、城内がざわざわと落ち着かなくて、多くの人とすれ違うのにキールさんに抱かれたまま移動しているんだもの。いろんな人がすれ違う度に驚いた目で見てくる。会場も出たから充分歩けるんだけどな。


「静かなところでちゃんと話がしたい」

 キールさんは前を向いたまま答えた。



 会場から遠ざかると令嬢たちの傍らを通り過ぎることが多くなった。令嬢たちの目には驚きじゃなくて羨望とか、嫉妬のようなものが浮かんでいるように見える。そうだよね。キールさんは宰相の息子で、伯爵で、強くて、かっこいいんだもの、私なんかが抱えられてていいのかなって思っちゃうよ。

「あの、私歩きます」

 令嬢たちの視線に耐えられなくて言うと、

「だめだ。まだ、城内がざわついてる。なにかあったら大変だ」

 キールさんが憮然と返してくる。城内はもう皇子側に制圧されてて、騎士も総出で監視や巡視をしているから安全だと思うんだけど。


「キールさんは心配性ですね」

 私はクスリと笑いながら呟いた。いつもいつも心配して守ってくれる。これからもずっと傍にいてほしい。

「ミオリにだけだ。俺はミオリに何かあったらとても耐えられないからな」

 キールさんが耳元で囁いた。うわーっ! 恥ずかしい。私は真っ赤になって俯いた。



「キールったら、私たちに気づかずに通り過ぎたわ」

「サリー。仕方ないだろ。なんてったって今から人生の大イベントだ」

「せっかく、子栗鼠を紹介してもらえると思ったのに」

「まぁまぁ、お義母さん。すぐにでも連れてきてくれますよ」

 私たちが通り過ぎた後、ジャンさんが心のなかで「あぁ、面倒だ」と思いながら、サリーさんとキールさんのお母さんを宥めていたなんてこと知らなかった。




「きれい」

 キールさんが連れてきてくれたのは王城内の温室だった。外は寒いけれど、温室の中は温かくて色とりどりの花が咲いている。微かに良い香りも漂っている。

 私はキールさんに降ろしてもらうと、蘭に似た花の鉢植えに近づいて香りを嗅いだ。あぁ、いい香り。ふと、柔軟剤を思い出した。それと共に家族の顔が浮かんでくる。みんな元気かな。私のこと心配しているんだろうな。鼻の奥がつんとする。


「ミオリ」

「はっ、はい」

 物思いに耽っていたから急に声かけられて驚いた。慌てて振り向いた私の顔を見て、キールさんが少し目を見開いた。涙が出そうだったことに気付かれちゃったかな。


「ミオリはニホンに還りたいか」

 キールさんが真剣な表情で聞いてくる。日本・・・・還れるものなら還りたいと思ってたけど・・・・。


「伯爵は還る手立てを求めて、3年もの間国内を彷徨い、様々な文書を調べたそうだ」

 私は黙って、キールさんを見つめる。

「結果、見つかることはなかったと聞いた」

 やっぱり。

「そうなんですね」

 答えながらも不思議と強い落胆は感じなかった。




「ミオリ。俺の傍にずっといてほしい」

 キールさんの言葉に心臓が跳ねる。


「ニホンに居た時には及ばないかもしれないが幸せにする。ミオリがいつも笑顔でいられるようにしたい。俺の傍で、この国で共に生きてほしい」

 同じだ。キールさんは私に傍にいてほしいって思ってくれるんだ。私もキールさんに傍にいてほしい。ずっと、ずっと。

 私の頬を温かいものが伝った。


「でも。でも、私でいいんですか。私、禍つ人って呼ばれているんですよ」

「禍つ人は、カレンドア伯爵だ」

「でも、迷い人ですよ。キールさんは由緒ある伯爵家の子息じゃないですか」

「家族はとっくに賛成している。父はもうミオリを『嫁』って言ってただろう。まぁ、いろいろと規格外な家族でミオリを困らせるかもしれないけど・・・・」

 キールさんの言葉にまた涙が出てくる。家族・・・・この世界での家族・・・・。

 キールさんが涙を拭ってくれる。温かい指先が頬に触れて心地いい。


「ミオリがなんと言おうと、俺にはミオリしか見えないんだがな」

 キールさんがフッと笑った。

 その笑顔を見た瞬間、私の中の想いが様々な迷いを跳ね除けた。


「私も! 私もキールさんに傍に居てほしい!」

 キールさんの瞳を見つめて想いを伝える。キールさんの青い空色の瞳、私の大好きな瞳。

 その瞳が一瞬大きく見開かれ、優しく細められる。

 キールさんの顔が近づいてきて、唇に温かい熱が触れる。私は慌てて眼を閉じた。



「ありがとう。ミオリ」

 キールさんの言葉に俯いたまま頷く。恥ずかしくて顔が上げられない。



「さぁ、戻ろうか」

 キールさんはそう言うと、また私を抱き上げた。

「あっ、歩けます」

「城内はまだ不穏だ。大事な妻を歩かせるわけにはいかない」

 キールさんは笑いながら言うけど、つっ、妻って、妻って! 私の心臓はドキドキしまくりだよ。


「でも、3年は結婚できないって」

「そうだな。長いな3年」

 キールさんは深い溜め息をついた。なんだか可笑しい。私もキールさんと一緒で長いなって思ったの。


「でも、キールさん。3年なんてあっという間ですよ」

 キールさんは私の言葉に、不思議そうな表情を浮かべた。

「だって、やりたいことがたくさんあるんですよ。それをしてたら3年なんてすぐ過ぎます」

「やりたいこと?」

「そう。まずトリア村に行きたいです! 皆に会って今日のこと報告したい。それから、佐山さんの東の領地に行ってみたい。それから、皇子の作る平和で豊かな国にも協力したいし、勉強もしなくちゃ! この国の言葉も書けるようになりたいし、それから・・・・」

 話し続ける私をキールさんがじっと見つめる。表情はとても優しくて、口元には笑みが浮かんでる。

「そうだな。俺もディーンを手伝わなくちゃならないし、国が落ち着くまでには暫く時間もかかる。本当に3年なんて、あっという間かもしれないな」

「そうですよ」

 微笑むとキールさんから軽くキスされた。うぅ、恥ずかしいよ。

 すぐ赤くなる私にキールさんがクスリと笑う。


「一緒にひとつひとつ叶えて行こう」

「はい」

 キールさんと一緒なら安心してなんでもできるし、頑張れると思う。

 キールさんに出会えてよかった。


 私はキールさんの腕の中で目を閉じた。 








本編完結です。

長い間お付き合い頂きありがとうございました。

最後まで書き続けることができたのも皆さまのおかげです。本当にありがとうございました。

あと数話の小話を考えています。よろしかったらお付き合い願います。

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