第6話
「すごい・・・・」
私は、夜会の会場にはいった途端言葉を失った。
体育館だよ。学校のじゃないよ。市民体育館くらいの広さがあるんだ。
そこにテーブルが並んでてたくさんの料理が乗ってて、ダンスをする場所もあって・・・・。
「はぁ」思わずため息が漏れた。
「そんなにすごいかな?」
皇子が苦笑いしている。
「すごいですよ。こんな夜会を毎月のようにしてれば国費がかさみますよね」
「そうだね。でも、年2回くらいは必要かな。地方の貴族との情報交換や交流もしなくちゃならないからね」
「そうなんですね・・・・」
年2回くらいは仕方ないのかな。遠方の貴族と頻繁に連絡を取り合う手段なんてないものね。
でも、グレン王は毎月大規模な夜会を開いているって聞いた。それはダメだと思う。
皇子のエスコートで王族の席に着くとマリアンヌ皇女にすごい眼で睨まれた。
そうだよね。何度、殺そうとしても死なないんだものね。
でも、私もそう簡単に死ぬわけにはいかないんだ。青き闇の暗殺者に話したとおり、私には叶えたい願いがたくさんある。
それに、キールさんに絶対、絶対に会うんだ。
グレン王は楽隊の演奏が始まっても登場しないけど、招待客はそれぞれに夜会を楽しんでいるようだった。
皇子は、招待客に囲まれている。
私はポツンと王族席に座ったまま、華やかな衣装の裾を翻して踊るきれいな令嬢たちを眺めていた。
一人で大丈夫かなとも思ったけど、スレイさんが変装して給仕役についているのに気付いた。頻繁に私の近くに来てくれる。目があうと自然に逸らされたけど、傍にいてくれるのがわかってホッとした。
「ミオリさま」
声の方を向くと、サリーさんが私に向かって来るところだった。
今日はずいぶん背の高い、筋肉質なイケメンと一緒だ。美男美女ってこういうのをいうんだろうな。
「夫のジャン・エイルですわ」
ジャンさんは紹介されるとにっこりと笑って、私のことをじっと見つめた。
「はじめまして。可愛いなぁ、こんな娘が妹にな・・・・ぐっ・・・・」
ジャンさんは何かを言おうとしたけど、急に顔色が悪くなり屈みこんで足元を擦っている。
「大丈夫ですか」
私が心配して尋ねると
「大丈夫ですわ。ジャンは時々足が攣ってしまうんですの。運動不足ですわね。まったく」
サリーさんがニコニコと返してくれたけど、ジャンさんの額には脂汗が浮いていた。
「サリー。ジャンが可哀想だよ」
皇子が招待客から解放されて戻って来た。
「一言、多いんですもの。足を踏むくらい大したことありませんわ」
「まぁ、わかるけどね」
皇子は苦笑している。えっ、ジャンさん、なにか一言多かったの?
「皇子、王都の四門が閉鎖されました。うちの隊商も足止めをくってます」
ジャンさんはいつの間にか立ち直っていて、皇子に囁いている。
門が閉鎖されたらキールさんは帰って来られない? 東の伯爵も連れてこられない。計画は中止になるの?
「キールは北の抜け道から入って来るかな」
皇子は思案して呟いた。
「抜け道周囲には神殿兵が配置されていました」
「そうか。まぁ、キールだけなら大丈夫だろうけど、伯爵もいるとなるとな・・・・。足手まといにならなきゃいいけど」
「少し神殿兵の数は減らしておきましたけどね」
ジャンさんは、皇子に片目をつぶってみせた。
「さすが、ジャン。頼りになるな」
その時、国王が登場するとの伝令が場内に響き渡った。
現れた国王はたくさんの宝石を付けた王冠を被り、キラキラした王笏を持ち、ありとあらゆる装飾品を身につけていて、見ていると目が痛くなった。これを王威のある姿ととるのか、ただの装飾過剰な人ととるのか意見は分かれるんだろうな。皇子も即位したらこんな格好するのかな。私がちらりと皇子みると「私はあんな恰好しないよ」と慌てて首を振った。
「皆の者、よく集まってくれた。今宵は楽しむがよい」
国王の大きな声は会場によく響き渡った。
「今年はディーンが正気に戻った。喜ばしいことだ。来年はディーンに指揮を任せ、アルツハイ王国に侵攻しよう。貴石鉱山を我が国のものとするのだ」
国王が笑みを浮かべ力説すると、周囲から拍手が沸き起こった。招待客の大半が笑顔で頷きながら国王に向け拍手を送っている。皇子は多くの貴族に協力を取り付けたって言ってたけど大丈夫なんだろうか。みんな国王派のように見えて不安になる。
「王よ」
皇子の静かな、よく通る声が場内に響く。場内はシンと鎮まり、さっきまで聞こえていた令嬢たちの話し声もしない。
「私は、アルツハイには侵攻しません。私の望む国のあり方ではありませんからね。それに気づいておられないのですか? 我が国には他国に侵攻できるような兵力や軍事費がすでに無いことに」
皇子は国王に静かに語りかける。
「なっ、何を言っている。足りなければ集めればいい!」
王が激昂する。
「民からですか? 民は疲弊していますよ。地方から兵を徴収すれば、地方はますます働き手を失い税を納めることなどできないでしょう。税がなければ国は成り立ちません。まだ、気付かないのですか?」
「民は国のため、我ら王族のために働くべきだ!」
「いいえ、国が民のためにあるべきなのです。民の生活を整え支えるために私たちがいるのです。あなたはすでに民の信頼を裏切っています。あなたの考えが変わらないのなら、退位して頂きたい」
皇子の言葉に、国王は言葉を失っている。国王はどうするんだろう。
「ディーンよ。お前とはやはり相容れんな。お前の考え方は全く理解できない」
国王は暫くの沈黙の後、言葉を発した。
皇子の顔が一瞬だけ痛々しく歪んだ。やっぱり、皇子は父親を斃さなくちゃならないんだ。
「残念ですよ。父上」
「わしもだ。トレイア!ディーンを捕らえよ。こやつは禍つ人に操られておる!」
国王は皇子と睨み合ったまま、後方に控えているトレイア大神官に声をかけた。
「はっ」
トレイア大神官が歪んだ笑みを浮かべる。
「衛兵、皇子を捕らえよ!」
トレイア大神官の命に場内の衛兵が動き出した。
それと同時に、皇子を守るように若い貴族たちが立ちはだかった。
「どういうことだ」
トレイア大神官は貴族たちを睨め付けた。
「我らは皇子に賛同する」
貴族の一人が声を発した。
即座に動いた貴族以外はやや高齢で、成り行きを見守っているようだった。
「皇子、これは謀反ですね」
トレイア大神官はニヤリと笑って、皇子と私を見た。
皇子を討つ理由ができたから、もう生半可な手ではこないと思う。
トレイア大神官が、近くの衛兵から剣を受け取った。彼は躊躇なく、剣を鞘から抜き取る。場内がざわめき、令嬢たちが叫びながら会場外に去って行く。
「謀反人を捕らえよ。抵抗する者は切り捨てよ!」
トレイア大神官が皇子に向かって来る。皇子も隠し持っていた剣を鞘から抜いた。
「スレイ! ミオリを頼む!」
皇子もトレイア大神官に向かっていく。
私は、スレイさんに抱えられてその場から離れた。
背後で皇子と大神官の、そして貴族と衛兵たちの剣の交わる音が響いた。
皇子負けないで。キールさん、早く来て。私はきつく目を瞑った。




