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隊長さんと小さな迷い人  作者: らさ
第4章
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第5話

読んで頂きありがとうございます。

今回も三者の視点で進みます。

わかりにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。

 明日はいよいよ今年の締めくくりの夜会。

 この間の夜会より規模が大きくて、地方から参加する貴族も多いという。

 先日の夜会だってそれなりに大きなものだったのに、さらに規模が大きいだなんて想像がつかない。

 こんなに頻繁に夜会が行われるってことは、莫大な費用がかかってるってことだよね。

 頭の中に、神殿で供物に手を出した少年とその母親が浮かんで消えた。



 皇子は、夜会を計画実行の場に選んだ。

 国王に退位を迫り、王に迎合する貴族や神殿関係者を一斉に排除するらしい。

「できるだけ、血が流れないようしたい」って皇子は言っていたけど、私も流血した人や死人なんて見たくない。

 できれば、そんな場所には行きたくないけど、皇子の想い人としては行かざるを得ない。

 国王が退位に納得してくれればいいんだけど。



 緊張と恐怖を強いられるだろうけど、私は明日が待ち遠しい。


 だって、キールさんに会えるんだもの! 

 明日はキールさんが王都をたってから10日目。皇子は10日後にはキールさんが帰って来るって言った。


 あぁ、どうしよう。今から緊張してドキドキが止まらない。

 でも、どんな顔して逢えばいいんだろう。


 幼い恰好で夜会に参加するし、皇子の想い人とか言われてるし。がっかりされないかな。誤解されていないかな。皇子に対する「好き」は、スレイさんと同じ。お兄さんみたいで「好き」であって、皇子だって私みたいな子どもには何の感情も持ってないと思う。


 それに、キールさんが宰相の子息だってこともわかっちゃった。キールさんは、私が身分差を気にすると思って教えてくれなかったのかな。実際、それが気になってキールさんには貴族の綺麗なご令嬢がお似合いなんじゃないかと思ってる私もいる。


 でも、逢いたい。いつ帰ってくるんだろう。朝かな。夜会の時かな。

 あーっ、落ち着かない。

 私は、暖炉の前の椅子に座って、刺繍を手に溜め息をついたり、考え込んだりしていた。


「ミオリ。手は休んでるけど、顔は百面相だね」

 皇子が読んでいた本から目を外し、苦笑しながら私の手元を指摘する。


 ダメだ、ダメだ。なにかに集中していた方がいい。私は刺繍するのを諦めて、本を手にしたけれど、また物思いに耽ってしまい、皇子に苦笑いされた。


「何してても落ち着かないようだね」

 皇子の言葉に、私は黙って頷いた。

「皇子、キールさんはいつ帰ってくるんでしょう」

「どうだろうか。まだ、王都に入ったっていう連絡はないけど夜会には間に合わないとね」

「無事に戻ってきますよね」

「大丈夫。東の領兵も動いているし。もう少しじゃないかな」


 怖いけど、明日が楽しみ。



     ☆



 王都に向かい早駆けしていると、背後から蹄の音が迫って来た。振り向くと、カレンドア伯爵が不敵に笑っている。

「キール君、追いついたぞ」

「早いですね」

 伯爵の業務に追われて、馬術訓練や身体訓練などする時間もないと思っていたが。

「言っただろう。あちらの世界では騎士のようなものだったと。今も鍛錬は欠かしていない」

「本当に、俺たちは心強い味方を得ましたよ」

 俺が口角を上げると、伯爵もにやりと口角を上げ「君への礼だ」と返してきた。



 王都は頑強な石壁で囲まれており、東西南北に入場門が設置されている。


「閉鎖されているな」

 伯爵の言葉に頷く。

 石壁に埋め込まれた頑強な東門は固く閉じられている。

 周囲では多くの隊商が本日の入場を諦め、野営の用意をしている。

 今夜は夜会だ。警戒されているのだろう。


 入場門を叩くと門脇の扉が開き、衛兵が顔を出した。

「私はキール・トラウト。トラウト家の者だ。開門願う」

「はっ? 誰だ、お前は? 宰相のご子息は西の辺境にいらっしゃるはずだ。宰相のご子息の名前を騙るなど犯罪だぞ。帰れ」

 衛兵は身体を反転させ扉に手をかけた。

「待たれよ。私はジン・カレンドア。伯爵だ。本日の夜会に参加予定となっているのだが」

「東の伯爵については、御欠席との連絡を頂いている。お前も伯爵の名を騙るのか? いい加減にしろ。俺が黙っているうちにとっとと消え失せろ」

 衛兵は大きな音を立て扉を閉め姿を消した。


「顔がきくんじゃなかったのか?」

 伯爵が俺をとても残念そうに見つめる。

「長く王都を離れていましたからね」

 俺が辺境に飛ばされて3年だ。俺の顔など知らん者も増えたのだろう。まぁ、ダメでもともとだったがな。


「伯爵こそ、夜会に欠席と連絡したくせに何堂々と騙ってるんですか」

 俺の言葉に伯爵は肩をすくめてみせた。

「まぁ、一か八かだったが、やはり無理だったか」


「北の城壁に抜け道があります。そこから王都に入りましょう」

「北か。少し遠回りなるな」

 伯爵は太陽を仰いだ。太陽は僅かに中天を過ぎている。

「えぇ、でも夜会が始まる前には王城に着けるはずです」

 俺は馬首を北に向け、馬を走らせた。


「キール君は気が急いているようだな。いい道具があるのに」

 私は鉤縄(かぎなわ)の準備があることを言いそびれてしまった。まぁ、人目のあるところで使うわけにはいくまい。

「領兵とここで待て」

 カレンドア家の“影”が控えている方向に声をかける。領兵は私たちに遅れること半日のペースで進んでいる。夜会が始まって暫くしてから到着するだろう。



     ☆



「トレイア様、夜会に参加される地方貴族の方々はすべて王都に入ったとの連絡を受けました。指示通り城壁の門もすべて閉鎖いたしました」

 王城のマリアンヌの応接室に部下が報告に来た。マリアンヌは今夜の夜会に向け時間をかけ準備中だ。先程まで着用する衣装や装飾品の一つ一つを見せられ辟易していたところだ。いちいち褒めてやらないと機嫌が悪くなる。まったく、手のかかる女だ。


「北の抜け道も閉鎖したか」

「はい。手練れの者を配置しています」

「いいだろう。下がって指示を待て」

 つい先日、間諜から東西南北の若い有力貴族に妙な動きがあると報告を受けた。

 王都に兵など連れ込まれてはかなわないからな。

 大多数の有力貴族は国王派だ。若い少数の貴族になにができる。指揮をとっているのは皇子だ。皇子と禍つ人さえ亡き者にすればなにもできなくなるはずだ。


 あと数時間ですべてが手に入る。









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