閑話「“青き闇”の願い」
いつも読んで頂きありがとうございます。
少しほのぼのがほしくて書いてみました。
「お帰りなさい。院長先生」
キャリーとピートが私にまとわりつく。
2人は5歳の男の子と女の子の双子だ。
「こらこら、そんなにまとわりついたら院長が歩けないよ。そろそろ夕飯だ、準備をしなさい」
副院長のサーシャが2人を制する。
「はーい」
キャリーとピートは元気に答えて、食堂に向かった。
ここは、森の中の私設孤児院。
私は院長のレイア・ドーム。30人いる子ども達の保護、教育をしている。
グレン国王が即位してからこの国は、弱者を更に窮地に陥れるような政策が続いている。
ここにいる子どもたちは犠牲者だ。
私もサーシャも親の顔の記憶はない。
幼い頃、娼館に売られたのだ。客を取らされる前に、前院長に身体能力の高さを見込まれて身請けされた。前院長の訓練は厳しかった。当然だ。しくじれば私の命はなく、組織も危うくなる。
サーシャと2人泣きながら励まし合って進んで来た。
初めて仕事をした日は、涙が止まらなかった。
嫌悪、不快、後悔、罪悪感、斃した相手の怨嗟の声など様々なものが頭の中で渦巻いて、冷静を保つことができなかった。
それでも進んで来た。そうしなければ生きていけないと分かっていたから。
人の欲に触れ、その命を絶つことに徐々になんの感情も持たなくなった。
依頼する者も対象となる者も強欲で罰せられるべき者だった。
「レイア、珍しいね。あんたが仕事を放棄するなんて。禍つ人が幼いから、情が湧いたの。でも、国に厄災をもたらすって言われてるんだから罪悪感持たずに殺せるんじゃないの。ここも経営が苦しいんだ。あんな大口の報酬はここ久しくなかったのに」
サーシャは恨みがましい眼で私を見つめた。
「あの子は厄災なんてもたらさないよ。なんの力もない女の子だよ」
「なんの力もないんだ」
サーシャはつまらなそうに言った。
「でも、面白い子なんだよ。サーシャにも見せたかったな。マリアンヌ皇女の前で手品のように菓子を食べるふりをしたり、毒入りのお茶に口だけ付けたりする度胸のある姿をね。仕舞には皇女を困らせようとして毒のことを近衛兵に告げようとするんだからね」
私が興奮して早口で話すと、サーシャは始めは興味のない様子だったけど、徐々に耳を傾けるようになった。
「それから自分の侍女のミスは自分のミスだって言うんだよ。意地悪した侍女に嫌味も言ったりして、自分の侍女を擁護するんだよ」
「へーっ、本当に度胸があるし知恵もあるんだね。本当に13歳なの」
「違うなぁ。抱きしめてわかったけどもっと上だね。15~16歳くらいじゃないかな。それにね、宰相の息子に恋してるようだった」
私が楽しそうに話すと、サーシャは顔をしかめた。
「趣味は悪いね。宰相の息子は顔はいいけど、女には全く興味を示さないし優しくないって言うじゃないか」
「そうだね。でも、あの子が変えるかもしれないよ」
「あの堅物が女に骨抜きにされる姿か。見てみたいかも」
サーシャは苦笑した。
「それに望みを聞いたら、出るわ出るわ。やりたいことがたくさんあるって目をキラキラさせるんだよ。殺せるわけないよ。あの子は幼い頃の私たちだ。夢が破られる前のね」
「幼い頃の私たちね・・・・。そりゃ、守らなきゃね」
二人して暫く沈黙する。
サーシャは昔を思い出しているのだろうか、目をとじたまま眉間に皺を寄せていた。
「院長先生。アロマ先生が大きなイノシシを仕留めてきたよーっ」
年長の子が院長室に飛び込んで来た。
その子に続いて庭に出ると、大イノシシを前に今年17歳になるアロマが大笑いしていた。
私と眼が合うと「今日の訓練相手」と発声せずに唇だけ動かした。私とサーシャは黙って頷き返す。
彼女は暗殺者として訓練中である。
この孤児院での暗殺者の養成は彼女で終わりにしたい。
子どもたちが闇の仕事などすることなく普通に暮らし、幸せを見つけることができればいい。
闇の依頼など来ない方がいい。
その願いももうすぐ叶うだろう。
私は、禍つ人と呼ばれている少女が次々と希望を語る姿を思い出してくすりと笑った。
サーシャさんが、骨抜きにされた宰相の息子を見るのも間近でしょう。




